もうすっかり日も落ちて辺りは暗闇に染まっていた。
木々のざわめく音と獣達の鳴き声。
決して安全とは言えぬ、山道。
「ねぇ、休まない?」
「…」
「ねぇってば!」
草木を掻き分けるかの様にひたすら進む男に少女は手裏剣を投げた。
見かけによらず腕が良いのか、見事男の後頭部に命中した。
「おろ〜?」
男は目をぐるぐる回し、よろよろと倒れてしまった。
後頭部からは噴出すように血が飛び出している。
「もうっ、シカトすんな!こんな夜中に進むこと無いじゃない」
怪訝そうに少女は顔を歪める。
「こんな危ない山の中で寝る方が危険でござるよ?」
後頭部を撫でながら男は苦笑いを浮かべて答えた。
桃色の健康そうな頬をプクっと膨らまし、少女は仕方なく男の後を付いて重い脚を進める。
男の容姿は単身痩躯で、一見女性の様にも見える。
だが、その外見とは裏腹に、剣術の嗜みがかなりあるようだ。
今現在も少女に気を使ってか、歩く速度を抑え、何層も生い茂る草木を掻き分けてくれる。
そう言えば今日は十分な食事も取っていなかった、そう思うと少女の疲れは一気に脚に来た。
「ねぇー、緋村ぁ。あたしもう限界だよ。ちょっと休もうよ」
そう言い放った刹那、男の脚が急に止まる。
「何?どうしたの?」
「こんな山の中で寝る事は無いでござるよ」
柔らかな笑みを浮かべる男の顔から少し目線を外すと、そこには古びた蔵が建っていた。
「へぇー、こんなトコに蔵があるなんてね。外で寝るのと比べる少しはましね」
「それにしても汚い蔵でござるなぁ」
蔵の中は埃ぽく、何年も人が住んでいない事が目にとって分かった。
あちこちには蜘蛛の巣が張り巡らされ、より一層不気味さを引き立てる。
だが、男は全く気にならないという素振りで冷えた床に腰を降ろした。
ご丁寧にも寝れそうな布団が無造作に置かれている。
冷え切った硬い床の上に寝るよりかは、汚くても布団の上で寝る方が幾分かましであろう。
「なんか出てきそうでござるな…幽霊とか」
男は蔵の中を見回すと少女をからかうように呟いた。
「馬鹿!変なこと言わないでよ!」
二人ではやけに広く感じる古藏。
天井の隙間から僅かに射す月明かりだけが唯一の灯りだった。
その時、静寂を破るかのように突然藏の奥で何かが蠢くような物音がした。
ガタガタと不気味な音が静寂と暗闇で一層不気味さを増す。
少女はたまらず大きな悲鳴を上げ、男に縋るように抱き着いた。
「操殿…風でござるよ。隙間風が風化した床板に当たって音を出してるだけでござるよ」
「わ、分かってるわよ!」
頬を赤らめ強がりを言う少女。
「………操殿…」
強がりを言ったものの、少女は一向に男から離れようとしなかった。
男も困った表情を見せ、苦笑いを浮かべる。
「あの〜…操殿…早く寝ないと明日キツイでござるよ?」
「……の…」
「え?」
「……怖いの…一緒に寝て…」
「は?操殿?」
少女の口から出た言葉に驚いたのか目を見開き驚く男。
今、腕の中にいる少女は少し震えていた。
先程までの勝気な少女は何処に行ったのだろうか。
腕の中で微かに震える少女は仄かに女の香りを放つ。
天井から差し込む灯りに少女の晒し出された白い太腿が蒼白く光っていた。
「操殿…何処か悪いでござるか?何かいつもの操殿とちょっと違う気が……」
どうにかこの空気から奪しようと精一杯の会話を試みる。
このままだと黒い欲望に押し殺されそうになる自分が分かった。
「…違うの…あたし…こういうの駄目なんだ…怖くて…一人じゃ・……駄目…」
途切れ途切れに聴こえる透き通るような声。
「それなら最初から言えばいいのに…」
「だって…外で寝るなんて…獣に食い殺されちゃうよ……」
潤んだ唇が一瞬、男を誘っているかのように見受けられた。
怯えるその瞳も、月に照らされ、硝子玉のように美しい。
ただ一緒に眠るだけだというのに、要らぬ事を考えてしまうのは男の性なのか。
小柄な男よりも、更に華奢な少女の身体はまだ未発達と言ってもいいぐらいだった。
子供と言っても過言では無い。
「お願い…抱いて」
刹那、男の中で何かが外れた。
その甘い声がまるで誘惑してるかのように聞こえ、
昼間とは全く違う腕の中のこの少女を、否、女を抱きたいと思った。
それは本能なのか、其れとも最初から少女を一人の女として見ていたのか。
少女が放った言葉に特に意味は無いのかも知れない。
ただ単に怖いから一緒に寝て、抱きしめてという甘える子供のような考えなのかも知れない。
だが、それももう遅い。
誘ったのは君の方なのだから。
「ん…っ…ふ……」
男は少女の唇を覆い尽くすよう、貪るような口付けをした。
柔らかな下唇を己の唇で挟み、吸い上げる。
硬く閉じている上唇と下唇の間を割るように舌を差し入れた。
熱い吐息が漏れる。
舌を絡めれば、どちらのとも分からない唾液が少女の口から垂れ出た。
それは、白い首筋を伝って流れ落ちる。
いよいよ、呼吸が苦しくなって男は少女の唇から己の唇を離した。
「………緋村?」
少女は荒い呼吸をし、拒絶する事も無く、不思議そうな顔で男を見た。
「……すまぬ…どうかしていた」
呼吸が整い始めた頃、男は我に帰ったのか申し訳なさそうな顔をして謝った。
後ろめたいのか、一切少女と目を合わそうとしない。
お互いの髪が触れるぐらい近くにいるのに何故か遠くにいるような奇妙な感覚。
「………意外に乱暴なんだね」
薄暗い古蔵だが、差し込む月灯りと目が慣れて来たのか、少女の表情がはっきりと分かる。
少し笑っているように見えた。
やはり、誘っているのか。
再び、男の中から黒い靄が湧き出る。
そっと少女の頬に触れると、少し冷たかった。
もう一度唇を交わすと、今度はすんなりと男の舌を受け入れた。
そのまま、舌を首筋に這わす。
少女の白い首筋にてらてらと唾液の後が光って見えた。
絹の様な美しい肌に酔い痴れる。
片手で少女の鎖骨や胸元を触り、ゆっくりと襟を開いた。
まだ膨らみきっていないのかと思わせる二つの小さな胸。
少女は恥ずかしがって両手で隠そうとしたが男はその手を軽く払い退けた。
手で触れると壊れてしまいそうな程柔らかい。
男は弄ぶ様に胸を揉みしだき、その頂点にある桃色の頂きに口付ける。
「ぁ…っ…ん……」
甘い声が少女の口から漏れる。
舌で転がすように刺激すると少女はより一層声を高く上げた。
このままで良いんだろうか。
行為を続けるも男は少し戸惑った。
少女の反応は明らかに生娘だと分かる。
むしろ、この少女が生娘でないわけがない。
まだ出逢って何日しか経っていないのに、この少女に自分の欲望を吐き出して良いのだろうか。
「んっ…?緋村?」
男の動きが止まり、組み敷かれていた少女は男を見上げた。
「……やっぱり止めよう。こんなのは良く無いでござる」
少女は肌蹴た胸元を隠すように両手で覆い、そっと腰を上げた。
「……優しいんだね……でも私、緋村が思ってるような女の子じゃないよ」
「…?」
「…私ね、蒼紫様を捜す為ならどんな事だってしたの。汚い事もいっぱい」
少女が突如言い放った言葉に理解出来ないのか、男は目を見開き驚く。
「そんな驚いた顔しないでよ。でもね、いっぱい騙されたわ。それでも蒼紫様の事思うと……」
少女は泪を流す事はしなかったが悲しそうな目をして小さな口を開く。
「……操殿……」
「最初は蒼紫様がいいなんて思ってたけど…もう私汚れてるからきっと抱いてくれないね…」
その外見からは想像出来なかった少女の心の闇。
男は驚きを隠せないでいた。
「…でも緋村は好きだからいいよ…蒼紫様の次にね」
儚げな笑顔で少女は男に頬笑みかけた。
きっと苦しくて辛かっただろう。
男は何も言わず、きつく少女を抱きしめた。
「……やはり…止めよう」
長い沈黙の後、男は囁くような声で言った。
「どうして?私が穢れてるから?穢れてる女を抱くのは嫌?」
「違うでござるよ」
嘘を付いてるような口振りでは無かった。
只、本当に少女を思っての気持ち。
その思いが少女にも少なからず伝わったのだが。
「……緋村…あんたって本当優しいんだね。…でもその優しさが人を傷つける時だってあるんだよ」
「あ…」
少女は袴の上から男の物を撫でるように細い指で触った。
「身体はそうは言って無いけど?」
ゆっくりと指を滑らせ、男を刺激する。
もう十分に硬くなり出しているのが分かった。
「操殿…駄目でござる…」
男の言葉も聞かずに少女は慣れた手付きで腰紐を解いて行く。
あっという間に袴は脱がされ、男のそそり立った自身が少女のすぐ目の前に晒しだされた。
「私の話し聞いて同情でもした?本当は抱きたいくせに」
「……違う…」
少女の小さな口が自身をそっと咥える。
柔らかな感触が痛いほど伝わった。
そのまま舌で丁寧に舐め、時に吸い上げた。
先走りの汁と少女の唾液が混ざり合い、卑猥な水音だけが耳に響く。
「ねぇ……お願い……」
紅い舌をちらつかせ、おねだりでもするような甘い声。
少し舌を離すと混ざり合った体液が銀の糸を引き、美しく光った。
その刹那、心の片隅で残っていた男の理性は曇に掻き消されるよう吹き飛んでしまった。
男は乱暴に華奢な少女を組み敷いた。
少女の背中に鈍い痛みが走る。
纏っている着物を素早く脱がすと、隠れていた下腹部があっという間に晒しだされた。
何人もの男に抱かれている筈の身体は、穢れなど一つも無い美しい彫刻のようだ。
体毛の薄い繁みを通り、更に下へ手を伸べると、もう十分と言って良い程濡れている少女の秘所。
その愛液を指で軽く絡め取り、入れ易いよう馴染ませると捻じ込むように体内へ差し込んだ。
「ぁっ…あぁ…!もっと…優しく……してよ…!」
顔を歪ませる少女の言葉も無視し、指を増やし更に奥深くまで捻じ込む。
もう十分に慣れて来たのを見計らい、男はそそり立った自身をその小さな秘所にあてがう。
一気に奥まで貫いた。
悲鳴にも似た声が少女の口から漏れる。
何度男に抱かれてもこの痛みに慣れる事は無かった。
幼い少女の身体では当然だろう。
子宮まで届くのかと思われる、容赦無い貫き。
男は貪るように少女を抱き、腰を打ち付ける。
肌と肌がぶつかり合う音、粘膜が擦れる音、二人の吐息が五月蝿いぐらいに響き渡る。
「ぁっ…あぁん…ん…ふ…あぁ…っ…」
やがて慣れて来たのか少女の口から艶かしい喘ぎ声が漏れる。
鼻に掛かった甘い声は男の性欲を更に駆り立てた。
少女の両脚を肩に担ぎ、更に腰を激しく打ち付ける。
真っ白な胸や、首筋に舌を這わせ、紅い斑点を付けてやった。
そして、何度も唇を交わす。
唾液と汗と体液はどちらのとも分からず、埃臭い布団を濡らした。
「ん…っ…あぁぁあ…!」
「…操…殿」
少女が限界を迎えようとする刹那、男も軽く腰を痙攣させ、少女の体内深く白濁を吐き出した。
翌朝、目覚めると隣に寝ていた筈の少女の姿が無かった。
何も身に纏っていない自分の姿を見、昨夜の事を思い出す。
男は慌てて着物を纏い、起き上がった。
差し込む太陽の光がうざったくて、目を眩ませながら戸を開くとそこに少女の姿があった。
「操殿……」
「遅ーい!何時だと思ってるの?早く出発しないと日暮れちゃうわよ」
昨夜の事など無かったかのようにいつもの溌剌とした少女。
男はあっけに取られ、間抜けに口を開いた。
「何変な顔してんのよ」
「あ……操殿…昨夜の」
「うん。あたしね、もうあんな事止めるわ。昨日で最後!」
後ろめたい男の言葉を遮るようにさらりと放たれる言葉。
「……そう…でござるか……」
男は少し驚いた表情を見せたが、柔らかく微笑むと少女の頭をぽんぽんと撫でた。
「もう!子供扱いしないでよ!その変わり絶対蒼紫様の事聞き出してやるんだから!」
いつもと変わらぬ勝気で明るい少女。
昨夜垣間見た妖艶な少女はもういなかった。
幻であったのだろうかと思うほどに。
その後、京都までの長い道のりが続いたが二人は二度と身体を交わす事は無かった。
【終】