「剣心…その、着替えるから後ろ向いてて」
京都までの旅の途中、突然の土砂降りと夜が更けた事もあり、
二人は近くの茶屋に泊まる事になった。
ずぶ濡れになった為、剣心の後ろでは薫が着替えに帯を解いている。
剣心に至っては、着物も袴も一着しか無いので下帯一丁。
それでは余りに配慮がないと、剣心は、貸してくれた薫の着替えを肩に羽織っている。
あらぬ妄想を抱かぬよう、剣心は努めて平静を装っているが、
いかんせん「アレ」だけは思うようになってはくれない。
そう、ここは茶屋は茶屋だが、実は出会い茶屋であった。
つまり男女が○○する場所だ。
こんな場所に居れば、意識してしまうというものである。
そして着物から香る、鼻先をくすぐる甘い香り。
(薫殿の気持ちは知っているとはいえ、薫殿はまだ生娘。
大体その前に、大事な道中で至らぬ事があってはならぬ)
と、剣心は下腹の中心を熱くさせながらも、平然とした振りをしていた。
「ああ。もういいでござるか?」
しゅるしゅるという布擦れの音がやけに耳に大きい。
「待って…うん、いいよ。こっち向いて大丈夫」
「そうか。では灯りを消すでござるよ」
少し朱い薄灯りに照らされた薫は、いつもの溌剌とした幼さを隠して、
どこかなまめかしささえある。
(いくら拙者といえど、好いた女子の下着も同然の姿を見ながら
これ以上我慢するのは、結構こたえるでござるな)
だが薫は、そんな剣心の気持ちを弄ぶかのようにこう言った。
「あっ、待って。…消さないで……お願い」
(危ないな、まるで誘っているみたいに聞こえるでござる)
「おろ?しかしもう寝るんでござろう?」
薫殿はこくっと頷いた後、何故か俯いて頬を染めている。
(そ、そんな顔をされると…拙者、期待してしまうでござるが…)
だが、それは剣心の期待外れに終わるのだった。
「でもそのっ、笑わないでね。ほら外があれでしょ?消したら…その、怖いし」
「………もしや神鳴りの事でござるか」
(はは、気が抜けた)
しかし可愛いらしい所もあるものだと思わず剣心が苦笑いしたその時、
ピカッ!ガッシャー-ン!!
「きゃあっ!」
何と薫が剣心の胸に飛び込んできた。
(む、胸の膨らみが…ゴクッ。いかん、ここで堪えなくては)
「だ、大丈夫でござるよ。音は遠い」
「でもっ…駄目なの私、実はあれだけは苦手で…だから…あの……
邪魔にならないようにするから、隣に居てもいい…かな…?」
無意識に上目遣いになる薫。
(く、こりゃ拷問でござるな…)
しかし男ならここで駄目とは言えないだろう。第一、薫を傷付けてしまう恐れがある。
「ああ勿論。落ち着くまで傍にいるでござるよ」
気力を絞ってポンと肩を抱く剣心。
「…うん、有難う」
薫は、照れをごまかすかの様に矢継ぎ早に話しかけた。
「ほら、人肌って安心するじゃない?昔はこんな風に、父に抱きしめて貰ったっけ……
まぁ…私独りになってからは、そんな事も無くなったけど」
最後の方も平気そうに話してはいるが、実際は孤独が辛かったのだろう。
薫は思わず呟いていた。
「薫殿…」
(もしかしてこんな時、今迄ひとり声を殺し、部屋で耐えていたのだろうか…
迂闊にも気が付かなかった)
そう剣心は良からぬ事ばかり考えていた自分を責めた。
「ごめん、ちょっと甘えてる」
ふふっと笑って、それからどれ位経っただろうか。
隣の肩から規則正しい寝息が聞こえてきた。
「人の気も知らずに呑気なもんでござる。」
苦笑し、ズレた布団をそっと肩まで掛け直してあげると、
満足そうに拙者の腕に抱き着いてきた薫殿。
この幸せな笑顔を守ってあげたい…と、思っていたのだが。
「ん…剣し…、アレ…欲しいの…お願い………きて」
(なな、なんて夢を見てるんでござるか、薫殿っ!)
そんな甘えるような声で拙者を誘わないでくれ。
今迄の苦労が…ああ駄目だ、もう!
「薫殿っ」
思わず抱きしめると、柔らかなその身体。更に剣心は、
花弁に誘われた蝶のように、薫の唇に顔を落とした。
(甘い……しかしこれ以上やると露見してしまうでござるな)
そんな事を冷静に考えて、剣心は懸命に自身を抑えて身体を起こそうとした。
しかし、ふと薫の顔を見ると「もっと」と誘っているかのように、
少し開いた唇から朱く濡れた舌が覗いている。
(吸いたい)
その途端、剣心はまるで阿片に取り憑かれた患者のようにふらふらと近づき、
もう一度薫の唇を貪った。
「ん〜〜……何……けっ剣心!?待っ…むぐ、ンっ!」
(しまった)
だがもう言い訳はきかない。舌を絡めとり、クチュクチュと口内を犯す。
「ンン〜〜!」
鼻に抜けた薫殿の声。感じているのだろう、薫殿は顔を紅潮させ、眉を寄せている。
そして眦にはうっすらと涙が…。
(いかん、このままでは問答無用になってしまうでござる。名残惜しいが…)
剣心はそっ…と、唇と腕を放した。
「薫殿…突然すまない。こんなはずではなかったんでござるが…」
ハッと薫は顔を上げた。
「こんなはずでは…ってじゃあ今のは…嘘なの?
ただの気まぐれで接吻なんて…そんなの」
酷い、と薫は悲しげに瞳を潤ませて顔を背けた。
(か、薫殿、何を言って!)
「それは違う!誤解でござるよ」
「じゃあどういう事?」
間髪入れず問い詰める薫。
(…仕方ない、順番が変わったが)
剣心は薫の誤解を解くために話す事にした。
「ああ。本当はこの旅が終わってから話すつもりだったんでござるが」
(いや、元はと云えばこれも身から出た錆。
欲に負けて寝込みを襲うなど…修行が足らんでござるな)
と尤もな事を思い、剣心は言葉を続けた。
「…京都に誘ったのは、巴の墓参りだとは言ったでござるな?」
「うん。あれから一段落着いて、私も巴さんに会いに行きたかったし。
操ちゃん達にも。それが?」
「もう別れを告げてもいい頃だと思って」
そう剣心は端的に呟いた。
(あ、いや、これだけではまずいでござるな)
案の定、薫の顔には(別れの接吻だったの?)と、
ショックを隠しきれない様子が浮かんでいた。
「いやあのっ!…巴に伝えたかったんでござるよ。今まで、有難うと…
そして薫殿を……幸せにしたいと」
(そう…あれから見る事の無かった巴の笑顔を、
あの時…見る事が出来た。
そして自分がどうすべきかわかったんだ)
スッ…と顔を上げて、剣心は真剣な眼差しで暫く薫を見つめ、
そしてシッカリとした口調で言った。
「一緒に生きていこう、薫」
その途端、薫はぼろぼろと涙を零し、顔を真っ赤にした。
鳴咽で喉を詰まらせながらも、一生懸命言葉を紡いで笑顔で答えた。
「は…い」
剣心は幾分ホッとした様子で、薫の涙を人差し指で拭ってあげ、
そしてもう一度、やさしく口づけを落としたのだった。
「じゃあ、今度こそ寝ようか」
剣心は大仕事を終えたつもりでそう言ったが、ここで思わぬ逆襲にあった。
「え、どうして?」
「どうしてって」
(予定外になったとはいえ、気掛かりだった事も終わらせて
余裕も出てきた事だし、明日に備えて
休ませた方がいいだろうと思っていたのでござるが)
「だって私達、夫婦になったんだもの。
私、幾らなんでも…そういう時何をするか位知ってるわ」
「なななな、何って!」
薫の口からそういう言葉を聞くとは、露ほども思って無かった剣心である。
ドモる剣心を横目に、薫は勇気を出して言った。
「だから…その……何ったらアレよ」
カァーッと茹蛸のように赤くなって女から誘っているというのに、当の剣心は、
「いやしかし、婚儀も未だ済ませておらぬのに」
と、先程の勢いは何処へ?という不甲斐ない有り様である。
だが薫は強かった。
「何よ!そんなのもうとっくに済ませちゃったわよ。…今さっき、誓った時に…」
「薫殿…」
「約束なんか要らない。『必ず帰ってきてね』ってげんまんした父様だって、
私を先に置いて行っちゃったもの!
剣心だって…。……ただ、ずっとこうして一緒に居たいだけなのに…」
「薫殿」
その時々の事を思い出し、涙する薫を見て、もう一度剣心は呼び掛けた。
「薫殿、拙者は薫を置いて行くつもりは毛頭ござらん。もう二度と」
(先に置いて逝かれる辛さも二度も味わった。
もしその時が来たら…いや、そんな不吉な事、今考えるのはよそう)
「逆に薫殿に聞きたい。拙者なんかよりも甲斐性のある男に出会える機会を、
拙者は潰してしまったかもしれないんでござるよ?
後から言われても、拙者にはもう引き返せない。それでも本当にいいのか…?」
「当たり前じゃない!他の男の人なんて知らない。剣心だから…好き、なンンっ」
遮り、口づけを交わす。
もう二度と止まる事は剣心には出来なかった。
こんなに人を好きになったのは初めてだった。
薫を想う、愛しい愛しい気持ちで心が一杯になり、溢れたものが頬を伝ったのも。
「好きだ…!」
「ああっ」
薫はビリッと電流が通ったように震え、たまらず剣心の首筋に腕を回した。
剣心は浮いた薫の腰を左腕で支え、空いた手で器用に腰紐を解いていく。
着物がハラリと脱げ、白く均整のとれた薫の美しい肢体があらわになった。
「け、剣心…」
誘うような事を言ったが、やっぱり恥ずかしいから見ないで、というように
身体を震わせながらしがみつく薫を、剣心はわざと離す。
「綺麗でござるよ」
「嘘…だって腕なんか女の子じゃないみたいに筋肉付いてるし、傷痕だってあるし」
薫は顔を背けて、実はちょっとコンプレックスだった事を吐露した。
道場を担う師範代とはいえ、そこはやはり年頃の女の子である。
「それが何でござるか。気にする事はない。
あ、いや、薫殿が気にしていたのなら謝る。すまない…。
だがこの傷は、力及ばず薫殿を守れなかった拙者の傷でござる…
拙者を責めるならばともかく、自分を卑下する事はないでござるよ」
そんな事を言われて嬉しい薫なのだが、
何だか剣心お得意の口の旨さにやり込められたような気がする。
「べ、別に剣心のせいだとは思ってないわ。それじゃあこの筋肉は?」
「ん?この二の腕でござるか?それとも、この胸の事でござるかな」
剣心は半ばからかうように、二の腕の内側や乳房の先端を啄む。
「あっ、やんっ」
「うーん、凄く柔らかいでござるが?」
とうそぶく剣心。
「馬鹿ッ」
「おろ、怒ったでござるか?…本当に綺麗だよ、薫」
「ア…、その呼び方…もっと云って…」
剣心はくすり、と微笑んで、もう一度優しく呼んだ。
「薫」
「もう一度…」
「薫…愛してる」
そして五度目の接吻をしながら、張り詰めた乳房に手を這わす。
ゆっくり揉みしだくと、淡くつややかな桃色の乳首はピンと固く勃ちあがり、
剣心を呼び寄せた。
「は、あぁ…あっ、ンっ」
剣心は乳首を歯と歯でやわく挟みながら、クリュッ、チュクッと舌で丹念に舐めねぶる。
「や…んっ…はぁん」
あまりに吸い付いていると、薫は脚を何度も擦り寄せてモジモジし始めた。
それに気付く剣心。
「薫殿、脚を退けて…」
剣心は待ち構えているだろう薫の最奥を愛撫しようと、恥ずかしがってピッチリ
と閉じた太腿を強引に開いた。
「やっ、ダメ!…あっ!」
見るとソコは胸だけの刺激でしとどに濡れそぼっていた。
「凄い…ビショビショでござる」
「やあぁぁぁ〜〜言わないで…っ」
両手で顔を覆い隠す薫。
それを好機とばかりに、剣心は薫の蜜壷にヌヌーッとゆっくり中指を挿入した。
「つっ!アァ〜〜ッッ」
(濡れてても狭いな)
グチュッ、ニュチュッ、グチュッ
卑猥な音を鳴らしながら、何度も出し挿れて中を慣らす剣心。
「ンッ!ン〜〜!ンンッ!」
周りに声が洩れないよう、必死で口を覆い、声を殺そうとする薫。
そんな薫をチラリと見るも、どうしようも出来ない剣心は、
ただ薫を苦しめないように、丹念に愛撫するだけである。
「ンンンンン〜〜!!」
「痛くないでござるか?」
痛いようでいて何故か気持ち良い。
何かを我慢してふるふると首を振る薫。
剣心は、刺激でぷっくり腫れた陰核を、舌で優しくチロチロと舐めては唇を使ってはみ、
指を二本に増やして根元まで挿れた。
ジュブッ
するとソコはまるで逃すまいというように、挿入に合わせてますます指を締め付けた。
(もうトロトロだ。そろそろ…)
「挿れるでござるよ。痛かったら掴まってくれ」
熱くたぎったモノをソコに宛てがうが、先走りと愛液でヌルヌル滑る。
急いた剣心は手を添えて一気にズブッと挿れた。
「ア・ア・アアアアアッ!!!」
「くぅッ!」
(あれだけ慣らせたが凄い締め付けだ)
処女との、それも感情のある相手とのSEXは初めてだった剣心は、
この痛みを嬉しく感じた。
「〜〜い、痛…いっ……くうっ、んっ」
「すまない薫殿。だが拙者も…で、ござるよ」
「け…剣心…もっ?」
薫は痛みを堪え、知らなかった、という顔で剣心を見た。
「ああ。っ…だからもう少し力を抜いてくれぬか」
「って、言われても…」
(勝手が分からないか)
そう思った剣心はおもむろに手を乳房へ遣り、
人差し指だけでコリコリと先端を擦りながら、乳房をやわく揉み出した。
「ん…あぁ…やぁぁ」
薫が息を吐くと、締め付けが丁度良くなってくる。
「もっと感じて…」
気を良くした剣心は、更に耳や首筋に舌を這わせながら前後に腰を動かす。
グチュ、チュポ、グチョ…
「は…ぅン!あ…あ…何かヘン…!イ…ヤァッ」
「気持ち良くなって来たでござるか?」
「わ、分かんっ、ない……でも…奥が熱いの…っンン!」
感じてきた薫に、暫くゆっくりと腰を動かし続けていた剣心は、
その絡み付くヒダの余りの心地良さに我を忘れ、何度も何度も腰を打ち付け始めた。
パンッ!パンッ、パンッ、パンッ!
「きゃっ!やっ、早…ンッ、ンン!」
ズッ!ヌチュッ、ズチュッ、グリュッッ!
「あうッ!待って、厭ぁあっソコ駄目ぇっっ」
(ココか)
そんなに感じて、待てと言われて待つ男はいない。
すぐさま、先程薫が感じた所をピンポイントで突き上げた。
グリュリュッ!
「あーーーーーーー!」
薫は剣心の肩にギュウッとしがみつき、ビクビクッと身体を震わせて極まった。
その締め付ける動きに剣心も最後のスパートをかける。
(くっ!駄目だ、出る!)
パン!パン!パン!パン!パン!!
「っっ!薫っ、薫!」
「〜〜〜〜ンンッ!」
ドクッ!ドクッドクッ、ドクッッ…
胎内に熱いものが拡がる。
薫はふわりと意識を手放した。
「…おる、薫!」
薫は剣心の声を遠くに聴きながら、ぼや〜っと霞んだ目をしていた。
剣心は何故かこちらを心配そうに覗きこんでいる。
「薫、大丈夫かっ?」
(ああそうか、私…剣心と…)
どうも一時気をやっていたようだ。
頭には冷たい手ぬぐいが置かれ、情事の後始末も済んでいた。
布団に朱く染まったシミを見て薫はボッと顔を赤くする。
「済まない、堪えきれず、つい……ん?顔が赤いな。
気分は?大丈夫かっ?」
おろおろと落ち着きがない剣心。何だか初めての事ばかりだ。
「大丈夫でござるよ、剣心」
「おろ」
「ほら、言葉遣い」
(クスッ、あの時と同じね)
剣心も思い出したようだ。
「はは」
「クスクスッ」
「ああ………ははっ、これで薫殿は刃衛に言われた通り、
正真正銘、『拙者の女』でござるよ」
『人斬りは所詮人斬り』
剣心はそう言った刃衛の言葉も思い出し、暫く俯いたが、すぐに思い直した。
(守ると決めた。幸せにすると決めた。
薫殿の、そして出会った人々の笑顔を見る為に。
それが拙者の思い上がりだとしても、それが皆の、そして
薫殿の幸せになるのならば拙者は…)
そんな剣心を少し心配そうに見つめた後、からかうように薫は問うた。
「……じゃあ剣心も私のもの?」
言うまでもない事を聞かれた拍子に、剣心は思い出したくない事まで思い出してしまった。
---刃衛が与えた心の疵は忘れて。
「…当たり前でござろう。
だからこれからは、あまり他の男に愛想よくしてはならぬよ?」
逆に言われた薫は嬉し顔だ。
「もしかして妬き餅?」
「悪いでござるか。今までどんなに妬きもきしていたか…
剣術はいいが、小町は廃業でござる」
腕を組んで、拗ねる剣心がおかしくて、薫はぷっと笑った。
「じゃあこれからは剣心が養ってくれなきゃね」
そう、うそぶく薫。
「おろ〜」
これには剣心も一本取られたのだった。
「じゃあ、帰ったらまずは買い出し『お願い』ね。いつもの〜…」
何かにハッと気付く剣心。
(まさか!)
「か、薫殿。もしやゆうべの夢は…」
《ん…剣し…、アレ…欲しいの…お願い…》
恐る恐る尋ねる剣心。
「え、夢?どんな何だったかしら……
ああそうそう、思い出した。今言おうとしてた事じゃない」
(やはり)
『−−お味噌とお醤油!』
…ハモってしまった。
「解ってるじゃない。よろしくねっ!」
(………とほほ〜)
−終−