縁はひどく神経質なたちだ。
少しでも耳に音が入ると目がさえて眠れない。
その日もそうだった。
ミチッ・・・・ミチッ・・・。
遠くで体重が重い人がゆったりと歩いているようなそんな音を耳にしていた。
つとめて何にも気にしないようにする。
もちろんそれで気にならなくなるわけではない。
何の音か縁もうすうす感づいている。けどそれは確認したくなかった。
縁はそこで気づいた。「姉さんは悪くない。
悪いのはあの髪の長い素浪人だ。あいつに一言言えばいい。
うるさくて眠れない。もうちょっと静かにしてくれ。と。」
秋の夜中は冷え冷えとして、縁は上着を羽織ってなお寒かった。
巴の部屋に向かう縁の足取りは極めて遅い。
それで自分を叱咤する。
(俺は姉に欲情してるわけじゃない、・・・・・・。
・・・人のをのぞきたいわけでもない・・・・。
ただ一言言うだけだ・・・。)
巴の部屋に近づくにつれ、拍手のような音が聞こえ始める。
巴の声が響く。
男のほうは荒い息遣いだけで声は漏らさない。
巴のほうは、すごい。
事情を知らずその現場だけを見れば男が無理矢理しているかのような、
そんな高い声で、男を拒否していた。
しかし、弟の縁からみるとその声には淫靡な嬉しさが混じるのがわかる。
そして弟には絶対に聞かせない・・・。
「んっ…はっ…ふ…んああああっ!」
股を開き、男を求めて腰を振る巴。
それを見て縁は少年ながら股間が疼いた。
(ちくしょう、俺も大人だったら…)
気がつくと縁は巴を見ながら自制している
自分に気がついた。
あの場に入れない自分が悔しい。
「はあっ…あ――…」
巴と男の行為はなおも続く
ひなげしの花、寒さに強く降り積もる雪にもびくともせず、儚げな白い花は
冬の人里離れた隠れ家に、赤い女の華を咲かせていた。剣心の熱情に
押し拡げられてやさしさにも包まれ昇り詰め堕ちながら、雪のように蒼白の素肌に
淡い桜を狂い咲かせる。
押し寄せる波に抗いつつも、こらえ切れずについ薄くひらかれるくちびるからは、
とても熱い巴のおんなの吐息とともに白い花びらがこぼれ落ちた。そして閉じられた
眦からは、悦びの涙とおんなの存念とが烈しく絡み合って躰がゆらいでいた。
巴の長い黒髪が雪の素肌を覆い隠し、それを剣心の手が愛しみながら髪を
愛撫しながら、女の細い肩をそっと抱き締める。
剣心の自分と同じような華奢な躰におんなのすべてをゆだね、命を抱き締められる
歓喜が巴の口からほとばしる。
「いや、いや、いやあああっ……!」
「どうしたでござるか、巴殿」
「なっ、なにも言わないで、つよく、つよく抱き締めてください……」
脇の下から手を差し伸べて爪を立てて巴は剣心の背に赤い爪痕を残す。
手にしていたはずのしあわせの花が散ったあのときの闇がたゆたうとする。
胡坐を掻いている剣心に腰を沈めて、白く細い脚を曲げて拡げていた巴の躰
は波に揺れ始める。
「あ、あぁあああっ、ああ……」
白い咽喉を仰け反らせて巴は官能に喚き、乳房を顫わせていた。
その閨声に耳を澄まし襖の隙間から覗く暗い瞳の縁は憎悪と姉の躰に
欲情した錯乱とから血の涙を流す。