るろうに剣心  

白く光る――朝。  
淡い陽光が差し込み部屋を照らしている。  
雀が空で囀っていた。  
眩しい中でゆっくりと目を開けると、そこに剣心の姿は無かった。  
「剣心?」  
体を起こすと鈍い痛みが下腹部にはしった。  
「いっ…」  
(ああ…そっか…)  
昨夜の出来事がありありと思い出された。  
昨日の事とはいえ、やはり少し恥ずかしかった。  
しかし、それ以上に嬉しかった。  
剣心を探そうと立とうとするとひやりとした。  
下を見ると、布団にも破瓜の血が滲んでいた。  
そして白く濁った液が太股を伝っていた。  
寝巻き急いで着て部屋から出ようとすると、剣心が  
向こうから歩いてきた。  
「おはよう、薫殿。」  
いつものように剣心が挨拶をした。  
だが薫は、恥ずかしさと緊張で固まってしまった。  
顔じゅうが火照っていくのがわかった。  
「…おはよう」  
声が裏返ってしまった。剣心がにっこり笑いかけた。  
「風呂を沸かしておいたから入るといいでござるよ。  
 上がったら朝食にしよう。」  
そう言うとどのまま台所の方に歩いていった。  

風呂場には湯気が立ち込めていた。  
湯に手を入れてみた。温度は熱くもなく、ぬるくも無く、  
丁度いい湯加減だった。  
桶を手にして、昨夜の剣心の跡をゆっくりお湯で注いだ。  
鏡にはいつもと同じ自分が映っていた。しかしこの体が  
剣心に抱かれたのだと思うと自分の体がとても愛しく思えた。  
ふと薫は首筋から肩、胸にかけて赤い斑点が浮かんでいるのに気がついた。  
愛する人の跡。できることなら、この跡が一生残って欲しいとおもった。  
湯船につかると、昨日の出来事がまた頭を駆け巡った。  
私といると幸せだと言ってくれた剣心。その人が私と一つになった…  
朝の日の光のもとで自然と笑みがこぼれた。  
広間には朝食が二人分用意されていた。  
すでに座っていた剣心は相変わらず済ました顔をしていた。  
「さ、食べよう。」  
「うん…」  
昨日までは二人きりの朝食に寂しさを感じていた薫も、  
今日ばかりは充実感で満たされていた。  
「今日は弥彦が午後から来るが、体は大丈夫でござるか?」  
「平気よ。」  
正直かなり辛いが、あまり気を使わせるのも悪い。  
「今日は拙者が面倒みるでござる。薫殿は今日は休んだ方がいい…」  
剣心が微笑みながら言った。  
心を読まれたような気がしたが、その心遣いが嬉しかった。  

 

「薫、どうしたってんだ?」  
稽古に来た弥彦が聞いてきた。  
「いつも健康だけが取り柄だったってのに。」  
いつも自分で稽古をつけていたからか、剣心に稽古を  
かわってもらう薫が不思議でならないようだ。  
「なっ何とも無いわよ。ただ――」  
――ただ私は昨夜剣心と昨日結ばれたの。  
そう言うわけにもいかない。  
「頭痛が朝から酷いだけよ。」  
弥彦はまだ疑るような目で見ていた。  
本当のことを言わないと納得しそうに無い。  
「首に怪我してるぜ。」  
「これは、その…」  
どう言っていいかわからない。  
かといって相手は十歳。言うのは良くない。  
「遅れてすまん。稽古をするとしよう。」  
剣心が道場に入ってきた。  
「剣心、薫はなんか隠してるみたいだぜ。」  
「そうか…」  
剣心も事情が飲み込めたらしい。  
「どうしてそう思ったでござる?」  
「いや…なんかいつもの薫と違ってる感じがして」  
「気のせいでござろう。さあ、稽古を。」  
二人の稽古が始まった。  
薫は思いがけない弥彦の言葉に少し戸惑っていた。  
―――私のどこが変わったの?  

 

「――薫殿。薫殿」  
剣心に揺り起こされた。どうやら稽古を始めてから  
かなりの時間眠っていたようだ。  
剣心の顔が覗き込んでいる。  
「風邪ひくでござるよ。」  
厚い雲の隙間からわずかに赤い光が漏れていた。  
この季節にしてはやけに暗い。  
何だか周りが静かだ。  
「弥彦は?」  
「もう帰ったでござるよ。これから赤べこの手伝い  
 があるとかで半刻ほど前に。」  
「そう…」  
(そっか…何が変わったのかって聞こうと思ったのに。)  
「どうしたでござるか?」  
「ううん…何でもない。」  
(気にしたって仕方ないか。)  
その日は少々遅い夕食となった。  
夕食を終えて片付ける頃には月が陰って辺りは  
深い闇に覆われていた。  

広間から出ると、そこはもう黒一色だった。  
足元も見えない。  
「真っ暗だね。」  
「ああ、本当に…」  
薫は剣心の着物の袖をそっとつかんだ。  
「連れてって…」  
剣心も答えた。  
「ああ。足もとに気をつけるでござる。」  
空が暗くてよかったかもしれない。顔中血が昇っているのがわかる。  
きっと今は顔が夕日のように赤いだろう。  
剣心が立ち止まった。  
どうやら部屋に着いたらしい。  
障子戸を開ける音。  
何気ない音のはずが、やけに大きく聞こえた。  
そっと足を踏み入れた。  
心地よい畳の匂い。私は昨日この匂いの中で抱かれたのだ。  
「戸を閉めて…」  
剣心の声が聞こえた。  
ゆっくり戸を閉めると、薫は大きく息を吸った。  

暗い闇が辺りを包んでいる。  
何も見えない。辛うじて剣心の気配を感じる程度だ。  
何かが肩に触れた。  
剣心の手だ。  
肩から段々とのぼってくる。  
頬に触れると剣心の熱が伝わってきた。  
そして口付けをされた。  
舌を入れられ中をまさぐられると、それだけで下半身が  
熱くなるのがわかった。  
薫も剣心の肩に手を回した。  
じっくりと二人は舌を絡めあった。  
――ああ、また長い夜が始まる。  
剣心は薫の帯をほどき、そっと布団の上へ押し倒した。  
二人の顔が離れた。  
暗がりの中手探りで薫の体に指を這わせた。  
首裏から首筋、そして項から背中へ…。  
熱い鼓動が耳まで響く。  
自分のか、それとも剣心のか…。  
剣心は着物が絡みついた肌に唇を落とした。  

体が、熱い。  
胸元に触れた唇が、肌を吸っているのがわかる  
肌に何度も何度も唇を落とされた。  
熱い吐息を感じる。  
くすぐったくて、気持ちいい。  
甘くて、穏やかな時間。  
それでも体は、更なる刺激を求めて局部を濡らしていく。  
背中に留まっていた腕が、薫のリボンを外した。  
さらりとほどけた髪が剣心の指先を覆った。  
腕はそのまま胸へと移り、右胸を揉み始めた。そして左胸へ。  
温かいものが右胸の芯を覆った。  
そのまま舌でこねられると、甘い快感が突き抜けた。  
「んあっ…」  
自然と声がもれる。  
今度はカリリと噛まれた。  
「…っつ」  
痛みと快感が同時に襲ってくる。  
鼓動の音が耳をかすめた。  
それは自分のか、それとも剣心の鼓動なのか…。  
心の奥で声が聞こえた。  
『モット欲シイ…モット欲シイ……』  
剣心の一つ一つの動作の度に声が体に響いた。  
(如何しちゃったんだろう?)  
肌に張り付いた着物がすべて取られた。  
体が熱いせいか、触れた空気が妙に冷たい。   
剣心の熱だけが肌を焼いていく。  
(剣心…)  
心の声が鳴り止まない。  
薫も剣心の髪をほどいた。  
腹に髪が触れ、くすぐったかった。  
(ああ…早く触れて。私の蕾に…)  
薫は剣心の着物に手をふれ、肩からずり下げた。  
剣心は薫から離れ、膝に手をかけた。  
足が、開いていく。  
(――来て)  
剣心の舌が、秘部を這った。  
「あっ…あ!」  
堪えきれない快感。  
剣心の頭にしがみ付き、小さく悲鳴をあげた。  
「―やっ…汚いよ…」  
消え入るようなか細い声しかでない。  
それでも止まらない。  

舐められている。剣心に。恥ずかしいはずなのに、  
体は喜んでまた蜜を出し始める。  
何度も何度も、剣心が舌で掬い取っても、  
蜜は枯れることなく溢れていく。  
指より刺激は少ないものの、密着していて  
快感はかえって濃厚だ。  
舌が、押し込まれた。  
「ああ――…」  
もうほとんど何も考えられない。  
あるのは本能と快楽への欲求。  
昨日とは明らかに違う。  
もう痛みは無い。恥ずかしさも薄れた。  
ただ剣心が欲しい。それだけだ。  
「剣心…」  
「何でござる?」  
局部に熱い吐息がかかった。  
剣心の息も自分と同じくらい荒かった。  
「もっと貴方を…私にください…」  
この言葉には自分自身さすがに熱くなった。  
娼婦のような言葉。一度結ばれただけで、  
何故私はこんな事が言えるようになったのだろう?  
剣心からの返事が聞こえた。  
「ああ…いくらでもあげるよ…何度でも…。」  
その時、ざあっという風の音と共に、十六夜の月が空に現れた。  
部屋が明るく照らし出された。  

剣心が、薫の股に顔を埋めている。  
顔が離れた。剣心が頭を上げると剣心の  
口から薫の蜜が滴って光った。  
剣心の瞳にも、光が宿った。  
初めての時に魅入られたあの瞳…。  
近づいてくる。目が離せない。  
(早く来て。私の中に。早く頂戴――…)  
剣心が薫を抱き締めた。  
薫も剣心の首に手を回した。  
熱くて堅いものが薫を一気に貫いた。  
「んああっ!」  
昨日の痛みは全く無い。  
ただただ甘く痺れて、快感の渦が押し寄せてくる。  
喘ぐ声が、止まらない。  
「あっ……んあっ…んんっ!」  
もっと欲しくて…指にも力が入る。  
その時部屋の端で、何かが光った。  

――鏡だ。  
その鏡に、剣心と自分が映っている。  
いや、これは自分なのだろうか?  
鏡に映っているのは、剣心にしがみ付き、髪を乱して、  
瞳を潤ませながら喘ぐ『女』の姿。  
――ああそうか、変わったってこのことだったのか。  
私は変わった。『女』になった。  
ひたすらに愛する人を求める女に――…  
剣心の体が汗ばんでいく。  
動きが激しくなっていく。  
(もっと突いて、もっと激しく、もっと強く…)  
髪に熱い吐息が絡まる。  
剣心の赤い髪が振り乱れていく。  
たまらず薫は剣心の背中に爪を立てた。  
「…っつ」  
剣心からも声が漏れた。  
幸せな時間が過ぎていく…  

体がのぼせて、何も考えられない。  
「あーっ、ああっ!」  
痛いくらいに激しくて、痺れる。  
もう堪きれない。  
薫は絶頂を迎えた。  
その時無意識に剣心を締め上げ、剣心も  
薫のなかで熱い欲望を放った。  
――終わった。  
疲れて、息を荒立てている中で  
薫は剣心に口付けをした。  

――この人に抱かれる度に、変わっていく、『女』になっていく。  
そんな自分の体が剣心と同じくらい愛しい。  
これからも、変わっていこう。この人と一緒に――  
「何をそんなに微笑っているのでござるか?」  
剣心が聞いた。  
「ふふっ…内緒」  
そう言ってまた唇を重ねた。  
空には幾万の星が輝いていた。  
――幸せな夜が更けていく―――…  

 
 
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