昼寝の済んだ直後のひと時は、カール・T・ドランジにとって最も憂鬱で最も幸せな時間だ。
一人用の狭いベッドの上。軽い脱力に心地よくまどろんでいると、
腕の中の柔らかい体が身じろぐ。
彼女は部屋が暗くなるのを嫌がる。
おそらく艦被害で封鎖された部屋を連想するせいだろう。
手を緩め薄目を開けると、天井から真っ直ぐ飛び込む光に滲んだ視界の中
しなやかな身体が起き上がり、伸びをする。
白い肌は光に馴染んで眩しい。
風の妖精だ。
光の海だ。
白熱灯と安物ベッドのシーツの海の中で、何を言っているのだろう、と思いとどまる理性は残っていた。
そんな事を考えているうちに、ぬくもりが手の内から逃げ離れていく。
艦内は適温に保たれているはずなのに、肌に冷たい風が触れる。
思わずその腕に手を伸ばし、捕まえていた。
黒い髪が揺れ彼女が振り返る。
「なぁに?ドランジ」
「……、いや」
自分がした事ながら、咄嗟の事に返事がすぐに出なかった。
言葉を濁していると彼女は不思議そうにまた髪を揺らし、ベッドへ手をついて自分の顔を覗き込んでくる。
「まだ、出港まで10時間もあるだろう」
「うん。だからまだ、ゆっくり寝てていいよ?最近、休めてないでしょ。…それにほら、いつも終わった後、眠そうにしてるし」
くすくすとからかい半分に笑って、子供にするように、寝転がったままの自分の髪を崩し撫でる。
部下を萎縮させる事も多いこの顔が、彼女にはそう扱うように足る風に見えているらしい。
…実際疲れているのは確かだ。連日の激戦で右舷配備の人間には仮眠を取る暇も無い。
迂闊に倒れでもすれば、敵艦と出くわす時には必ず先陣を切る彼女を危険に晒す事となる。
彼女から貰ったマッサージロボを酷使しながら必死で身体を保たせている毎日だった。
それでも。
互いの仕事が終わるのを待って艦橋から急ぎ出た時の事。
水槽の前で一人佇み、小さく呟いていた彼女の姿が、脳裏によぎって消えて行った。
あと21。
捕まえたままの腕を支え、左手でその肩を引き寄せる。
細い身体はあっけなくバランスを崩し、己の腕の中へ戻ってきた。
驚いて小さい声を上げたが、それは無視して、すぐ目の前へ来た額へ口づける。それからこめかみへ、耳の端へ、首筋へ、鎖骨へ。
「ちょ…ダメだってば。私、後で会えたらって、ミズキと……、っ」
背を反らして逃げようとしているのを感じ取れば、
背中に添わせた指で背筋を腰の辺りまでさっとなぞる。反応は顕著だ。
そのまま腰をしっかりとホールドして、唇と舌とを小ぶりな胸の突起に這わせる。
色の変わる境目から全て覆うように、柔らかく口に含み舌の腹でこすり上げると、
上の方から甘く息を飲む音が聞こえた
「も……我慢の利かないコーコーセイじゃないんだから、……ん」
軽く前歯で甘噛みし刺激を与える。
よく分からない抗議には答えない。所詮宇宙軍人、言葉で引き止めるよりも動作で語った方が早いらしい。
頭上から、しょうがないなあ、と苦笑の滲んだ小さな声が聞こえた。
髪の上から額に口付けられた、温かな感触。
彼女の手がこちらの脇腹を撫ぜ、下へと辿っていく。
軽く吸い上げたのち口を離し、身体をずらすと、
早くも再び起き上がり始めている自身へ細指が絡みつき、柔らかく揉みこんでくる。
指の腹が裏側の筋をゆっくりとなぞり上げる。
最初はやわやわと、次第に激しく与えられる快楽に、そのまま身を任せてもいたかったが。
己も歯を噛み締めて堪え、改めて彼女の手首を掴み止めた。
太腿の上に跨っていた体を、引き倒し、入れ替わりにベッドへ仰向けに寝かせる。
「駄目だ」
瞬きし問いかけるように見上げてくる視線に、口の端を上げた。
「今日は外に出さないから、覚悟してくれ」