マイは一人で紅茶を飲んでいた。  
スイトピーは自室で休むと言って少し前に出て行った。  
マイは少し気持ちを落ち着けてから部屋を出ることにした。  
ニヤニヤしながら歩いてたら気持ち悪いだろう。  
(今日は良い日だ。  
ヤガミが助けに来てくれて、  
ヤガミがだっこしてくれて、  
ヤガミのジャケットを着れた。)  
いくら飲んでもにやけ顔はおさまらない。  
足りなくなってスイトピーの残した紅茶も飲んだ。  
 
マイはテーブルに頬を付け、火照りを冷やす。  
目を閉じ、ヤガミを想う。  
息 が詰まる。  
 
(ああ・・・!)  
マイは無性にヤガミの顔が見たくなった。  
今の時間なら自室で寝ているだろう。寝顔でもいいから見たい。  
マイは立ち上がるとヤガミの自室に向かった。  
 
 
マイの予想に反してヤガミはベットにはいなかった。  
(まさか艦橋・・・?  
どこまで仕事すれば気が済むのよ、あのバカ。)  
マイはすぐに顔が見たかったのに、期待を外されて腹が立った。  
(しょっちゅう倒れてるくせに。休むときは休みなさいよ。もう。)  
マイは小走りで部屋を出て行く。  
どうしても、今すぐに顔がみたかった。  
 
部屋を出てエレベータに向かおうと進路を曲げようとした時、  
目の端にちらりと黄色が映り振り返った。  
 
ヤ ガ ミ だ !  
 
思わず笑みがこぼれる。どんな時でもヤガミの姿を見ると嬉しくなる。  
ヤガミは前方から中央に向かって歩いて来ていた。  
トイレだったのだろうか。  
マイの姿を認めて立ち止まる。  
マイは満面の笑みで駆け寄った。  
「ヤガミ!」  
 
ヤガミはマイの呼びかけには答えない。口を硬く結んでマイを見ていた。  
ヤガミが素っ気ないのはいつものことだ。マイは全く気にならない。  
「ヤガミ。助けに来てくれてありがとう。  
連れ帰ってくれてありがとう。とっても嬉しかった。」  
マイはヤガミの様子は気にしないで想いの丈をぶつけた。  
とちらないように気をつけて気持ちを込めた。  
 
ヤガミは相変わらず無言だ。さすがに少しおかしいとマイは思った。  
いつもなら素っ気なくても相槌くらいは打ってくれていた。  
ヤガミの顔を覗き込む。視線は強く、睨んでるといってもよかった。  
(え・・・怒ってる・・・?)  
マイは戸惑った。二人の感情の温度差にやっと気づく。  
(もめ事起こしたから怒ってるのかな?)  
ヤガミの視界に入ることは嬉しかったが、睨まれるのは嫌だ。  
機嫌を直してもらいたかった。  
 
「あのね、不可抗力だったのよ?」  
こういうときは下手ないいわけをしない方がよいのだが、  
マイはそこまで気が回らない。ヤガミは未だ無言だ。  
「ほら、怪我も大したことなかったし。」  
ヤガミの視線が更に強くなる。マイは気圧されて縮こまった。  
「それはMAKIに直させたからだ。実際は酷いものだった。」  
ヤガミが口を開いた。声音は厳しい。  
「お前は逃げ続けるべきだった。」  
マイは泣きたくなった。さっきまでの幸福感が一気に逆転して辛くなった。  
 
「でも、スイトピーが・・・」  
「お前になにができた?」  
語尾にかぶせてヤガミが言う。それは核心を突いた一言だった。マイは黙る。  
「他者を守る力がないのなら逃げるべきだ。  
被害を最小限に抑えなくてはならない。」  
マイは顔を跳ね上げた。  
「そんなこと出来ないっ!」  
マイの勢いにもヤガミは全く動じない。むしろ目は厳しさを増す。  
「お前は何の為にここにきたんだ?」  
「自由を守るためよ!」  
マイは即答した。先程までの怯えた表情はない。毅然とヤガミを見詰めていた。  
 
「・・・たった一人の為に他の何億を犠牲にするのか?」  
「犠牲にはしないわ。」  
ヤガミはマイに押されるように態度を軟化させていた。  
「結果的にそうなるだろう?」  
「私はそうは思わない。だって結果的にヤガミが助けてくれたじゃない。」  
マイは見詰めたまま少し笑った。ヤガミは目を伏せて視線を外した。  
 
「気をつけるんだ・・・。再起はないぞ。」  
マイはヤガミの見続けていた。口元を 指先を 肩を 瞳を 全身を注意深く観察する。  
この素直でない男は常に何かを隠している。  
優しさの中に冷酷さを、怒りの中に悲しみを、  
偽の感情のベールで本心を隠す。  
それを見抜けないととってもつきあえない。そんな男。  
そして理解する。彼は悲しんでいた。  
 
(心配してくれたの・・・?だったら素直にそう言えばいいのに!)  
なんて解り辛い、なんてややこしい、なんてひねくれた・・・!  
でもたまらなく愛おしい。  
 
マイは込み上げてきた感情を抑えない。  
ヤガミの首に飛びつき引き寄せる。  
唇を奪う。  
 
唇を話して目を開く。見開かれた濃い灰色の瞳がそこにあった。  
愛おしさに微笑む。  
「私は死なないわ。」  
再び口付ける。優しく・・・優しく・・・  
「私はあなたに夜明けを見せるのよ。  
あなたは望むのでしょう?  
私の全てをあなたに賭けるわ。  
誰の意思でもない、私が選んだのよ。  
100年の平和をあなたに誓うわ。」  
一言ごとに唇を重ねる。口付けごとに抱きついた首の強張りが溶けていく。  
「すきよ・・・ヤガミ・・・すきよ・・」  
 
突如、マイは抱き寄せられた。爪先が床を離れる。  
唇が強く重なる。  
マイは驚いて目を見開き、口内へ入ってくる感触に硬く目を瞑った。  
思考が停止する。  
ただ、唇と舌の感覚のみに囚われる。  
 
どれほどそうしていたかわからない。  
ヤガミは唇を離し、マイを見詰めた。  
マイは放心したように見詰め返す。  
「部屋に・・・行こう・・・」  
マイは黙って頷く。濃厚な口付けは彼女の意識を痺れさせていた。  
 
 
マイは導かれるままに部屋の中を進んだ。  
ベットの傍でキスをした。  
温かな感触に意識が眩む。マイは自ら口を開き彼に応じる。  
ヤガミは片手を腰に回し、片手で器用に上着を脱がせていった。  
「あ・・・」  
マイは素肌に触れる指の感触に我に返った。  
気づけば上半身はブラジャーだけだった。  
それもするりと外されてしまう。  
そしてヤガミはスカートに手を伸ばす。  
 
「あ・・・まって、えっと・・・ヤガミも・・・」  
自分だけ裸なのは恥ずかしい。  
マイは慌ててヤガミのジャケットを脱がそうとした。  
しかし指先に力が入らず、なかなかうまく出来ない。  
もたもたしているマイを待たずに  
ヤガミはさっさとスカートの留め具を外してしまった。  
スカートが落ちる。  
 
これ以上脱がされたらほとんど素っ裸である。  
マイは全力でジャケットを開いた。  
袖を抜くためにヤガミは腰から手を離した。  
マイがホッとしたのもつかの間、再び腰に手が回される。  
「い、い、いっぺんに脱がすの禁止っ」  
なんともムードのないセリフではあるが、マイは必死だった。  
少しでも全裸になるのを引き延ばしたかった。  
ヤガミは口の端を持ち上げて笑った。  
「わかってる。」  
 
タイツだけを引き下げる。  
途中まで降ろしたところでヤガミはしゃがんだ。  
足を抜くには立ったままでは難しい。靴も脱がせなくてはならない。  
マイはヤガミを追って視線を下げる。  
 
「!」  
マイは太股に走る赤い爪痕に硬直した。  
気を失っていたマイに暴行の記憶はない。  
しかし、その痕跡は自らの身に刻まれていた。  
借り物の身体に傷つけられたことは大して気にならないが、  
それをヤガミに見られるのは嫌だった。  
 
「あ・・!」  
ヤガミが太股に口付けた。赤い傷跡の上に舌を這わせる。  
「ちょ・・・っと!順序がちがぁーう!!」  
マイは声を張り上げた。  
いきなりそんなきわどいところにキスするなんて間違ってる。  
ヤガミはニヤリと笑うとタイツと靴を脱がした。  
 
その笑みでマイは理解する。ヤガミは全部解ってた。  
マイが何に囚われたか、どうすればその呪縛から解放できるか  
承知の上の行動だった。  
 
マイは悔しくなった。掌の上でいいように転がされているみたいだ。  
少しふてくされてヤガミのシャツを引っ張る。  
「ほらっ、ヤガミも脱ぐのっ。」  
「よせよ。伸びるだろ。」  
ヤガミはまだ笑ってる。  
マイはますます恥ずかしくなってぐいぐい引っ張った。  
「いいから。早くっ。ばんざいして。」  
「色気ないな・・・」  
ヤガミは苦笑しながらメガネを外した。シャツを脱ぐ時に引っかかるのだ。  
マイは動揺した。メガネを外すという動作にもう後戻りができないと感じた。  
目眩に襲われ視界が暗くなる。  
意識を保つ為に深呼吸してからシャツを脱がした。  
ヤガミの引き締まった上半身が視界を支配する。  
 
マイは服を脱がせたことを激しく後悔した。  
激しい目眩にぶっ倒れそうだった。まともにヤガミを見られない。  
きっと顔は真っ赤だ。おそらくヤガミは笑ってる。  
「ほら、立って。」  
マイはヤガミを見ないようにして言った。  
ヤガミは無言で立ち上がる。  
マイはなるべく上半身が視界に入らないようにベルトに手を伸ばした。  
バックルに触れようとした手が止まる。  
その下の膨らみに目が釘付けになった。  
 
マイは逃げ出したい衝動を必死で押さえてバックルを外す。  
指がおかしいくらいに震えて何度か失敗した。  
なんとかズボンの留め具を外し、足を抜こうと屈みかけたが、  
ヤガミは踵を引っかけ、自分で靴もズボンも脱いでしまった。  
瞬間、ベットに押し倒される。  
ヤガミはマイの腰を持ち上げて最後の砦も脱がせてしまった。  
 
「ちょっ・・・!」  
「遅い。」  
強引な展開に抗議しようとしたマイに一言告げると、ヤガミは口を塞いだ。  
ヤガミはかなり焦らされていた。  
マイは意識してやったわけではない。  
いやむしろ全速力でがんばっていたのだが、  
ヤガミは逸る気持ちを弄ばれているかと感じた。  
 
マイの口を強引にこじ開け、舌を差し込む。  
彼女のものを絡め取り吸い上げる。  
「んぐ・・・んん・・・」  
マイが呻く。息苦しさのためか、快楽のためかわからない。  
どちらでも良かった。ヤガミは彼女の舌の柔らかさを楽しむ。  
何度も複雑に舌を絡ませた。  
彼女の唾液を吸い、自らのものも送り込む。  
 
「・・・ん・・ん・・・・」  
マイの声が甘みを帯びてくる。  
強張っていた舌も腕も柔らかくヤガミに絡んでいた。  
ヤガミは唇を離し息継ぎをする。さすがに苦しくなってきた。  
マイの唇はヤガミを追う。  
ヤガミは笑った。彼女を捉えたと実感する。  
 
マイにはヤガミの笑みの理由が解らない。  
不思議そうに物欲しそうにヤガミを見る。顎を軽く上げて口付けを誘う。  
ヤガミは彼女の望みには答えずに耳朶に舌を這わす。  
「!」  
マイは息を強く吸った。ひゅっと呼気の音がする。  
全身を強張らせて刺激に耐えていた。背中に回された手に力がこもる。  
ヤガミの舌は徐々に下に移る。  
白く細いうなじを何度も往復し、華奢な鎖骨をなぞる。  
マイは吐息が音を持たないように慎重に吐き出していた。  
 
舌は柔らかな丘陵を登り始める。  
「あ・・・まって・・・ヤガミ・・・」  
マイが腕に力を込めてヤガミを引き上げる。  
ヤガミは疑問の視線を向けた。  
「ここに・・・いて。顔を・・・みていたい・・・。」  
そういって、ぴったりと身体をくっつけた。  
柔らかな肢体の感触がヤガミの腰に疼きを与える。  
「これじゃ、なにもできないぞ。」  
ヤガミは苦笑した。焦らさないでくれと願う。  
しかし、マイは駆け引きでも何でもなく、純粋に顔を見たいと思っただけだったのだ。  
メガネを外したヤガミも優しいヤガミもマイにとっては貴重だった。  
まあ、照れていないかと言えば嘘になるのだが。  
「キスは・・・できるよ?」  
そういって唇を重ねる。ヤガミもそれに応じた。  
 
 
マイからのキスは良かったが、それでは足りない。  
もっと、もっと強い刺激が欲しかった。  
ヤガミは覆い被さっていた身体を横に倒す。  
上半身は彼女がしがみついていたのでそのままついてきたが、  
腰から下は無防備に晒される。  
慌てて後を追おうとする彼女より先に、ヤガミは柔らかな茂みに手を滑らせる。  
「んん!」  
突然の刺激にマイは顎を跳ね上げた。  
口をしっかり結んで嬌声が漏れないようにしていた。  
ヤガミの指先は温かな湿り気を感じていた。  
指を奥に滑らせる。そちらの方が更に潤っていた。  
「んー・・・・」  
指の動きに合わせてマイが身を捩る。  
ヤガミは背に何かが這い上がる感覚に唾を飲み込む。  
彼女の反応はたまらなく官能的だった。  
 
ヤガミの指は彼女の形を探索するように滑っていく。  
柔らかな膨らみを、その膨らみの間にあるたっぷりと潤った谷間を。  
マイはその動きに合わせて背を張り、身を捩った。  
そしてますますヤガミにしがみついてきた。  
 
ついに指は硬くなった小さな突起にたどり着く。  
「んー!」  
マイは一際大きな声を上げると、大きく仰け反った。  
下唇を噛みしめ、嬌声を堪える。  
指は彼女の体液をすくうと突起に塗りつけた。  
「んん・・・ん・・」  
彼女は強く唇を咬み、身を捩る。  
ヤガミは彼女の唇が傷つかないかと思った。  
舌で彼女の唇をなぞり、キスを促す。指の動きも緩める。  
マイは口付けに応じるため、口を開いた。震える吐息がヤガミの頬にかかる。  
 
熱い呼気がヤガミに獰猛な衝動を呼び起こす。  
彼女を狂わせたい。  
ヤガミは舌を差し入れ、同時に指の動きも再開する。  
いや、更に激しく動かした。  
「んー!!んん!」  
マイは激しく仰け反り唇が離れかけるが、背に回したヤガミの腕がそれを許さない。  
ヤガミは舌を入れたまま徐々に唇だけを離していく。  
 
「んぁっ・・・はぅんん・・くぅ・・」  
唇の隙間から嬌声が漏れる。  
マイは声を漏らすまいと口を閉じようとしたが、  
彼の舌に自らの歯が当たりそれが叶わないと気づく。  
ならば唇を合わせようとするも、彼が身を引くのでそれも出来ない。  
マイは羞恥と快楽で意識が眩んだ。  
 
ヤガミの身体は痺れるような興奮に囚われていた。  
彼女の甘い声、ますます潤いを増す秘部。  
挿入の衝動をわずかに残った理性で押しとどめる。  
まだ彼女には羞恥が残っている。  
彼女に求めさせたかった。  
ヤガミは指を離した。マイは身体の緊張を緩め、息をつく。  
 
舌を引き抜き彼女を見た。  
マイは夢見るような目で視線に答える。荒くなった息を整えていた。  
ヤガミが優しく笑う。マイはつられて笑った。  
笑いかけてもらうのはいつでも嬉しい。  
次の瞬間、マイの中に指が差し込まれた。  
 
「あうっ!」  
なんの気構えもしていなかったマイは大きく喘いだ。  
指は激しく複雑に彼女の中を探っていく。別の指が彼女の突起を刺激する。  
「あっ・・・!ああ!」  
一端ゆるんだ気持ちは直ぐには戻らない。  
マイは為す術もなく快楽に悶えた。責め立てる指から逃れようと身を捩る。  
ヤガミは腰に腕を回し彼女の動きを制する。  
マイはヤガミの肩を押して身を離そうとした。  
どうして逃がしてくれないのか。マイは泣きそうだった。  
彼女の動作は結果として大きく胸を張ることになる。  
ヤガミの前に薄紅に染まった乳房が差し出された。  
当然のようにヤガミはそれを口に含む。  
マイの声が上擦った。  
もう何も考えられない。  
 
ヤガミは硬くなった乳首を舌で転がしながら、彼女の陥落を確信した。  
押し返す力は弱く、導くままに足を開いた。  
もう彼を抑制するものは何もなかった。  
思うままに乳房を貪り、秘部を弄ぶ。  
彼女もまた抑えることなく身を躍らせた。  
手の甲を滴がつたう。  
 
 
マイの動きが鈍くなっていた。声は掠れ、呼吸は途切れがちだった。  
ヤガミは指が小刻みに締め付けられるのを感じていた。  
マイはヤガミの肩に額を押しつけ、しがみついた。  
次の瞬間、全身を強く張り、震えた。指への締め付けが一際強くなる。  
彼女はしばらく息を止めたまま震えていた。  
そして糸が切れたように弛緩する。  
 
ヤガミは指を引き抜いて彼女の様子を伺った。  
マイは浅く短い呼吸を繰り返し、空の一点を見ていた。  
ヤガミが覗き込むと焦点を合わせ、照れ笑いを浮かべる。  
ヤガミの二の腕に顔を押し当て、片目だけで見上げた。  
「・・・・いっちゃった・・・・」  
そう言った後、なおさら照れて顔を押しつけてくる。  
 
ヤガミは衝動に駈られてマイをきつく抱きしめる。  
「ど、どうしたの?」  
正直でない男にはとても言えない。愛おしく思ったとは絶対に言えなかった。  
ヤガミは腕に力を込めて挿入の欲求に耐えた。  
己のそれは張り過ぎるほど張っていて、  
絶頂を迎え敏感になっている彼女の中に挿れるのは躊躇われた。  
少し間をおかなければならない。  
 
マイが身動ぎする。きつく締め過ぎたかとヤガミは力を弛めた。  
彼女の手がヤガミの下着に触れた。ヤガミは驚いてマイを見詰める。  
マイは照れながら、しかし目は逸らさずに言った。  
「しよっ・・・か・・・?」  
ヤガミは昂ぶりの為に声を出せなかった。喉が引きつる。  
マイは下着を脱がす。  
反り返ったそれに引っかかり少し手間取り、マイは照れた。  
そして何も纏うものがなくなったヤガミをみて更に照れた。  
 
「えっと、どうしよっか・・・?」  
マイは脱がすために上半身を起こしていた。  
ヤガミもそれに習って身を起こしている。  
自分から切り出したものの、自ら上にまたがったり、  
足を開くことは出来なかった。出来ればヤガミに誘導して欲しい。  
ヤガミは無言でマイの両肩をつかむと横になるように促した。  
顔が少しこわい。マイは緊張した。  
ヤガミは足の間を割って身を置く。  
マイはヤガミから視線を逸らさない。もったいなくて逸らせなかった。  
真剣な表情。でもいつものものとは全然違う。初めて見る顔だった。  
ずっと見ていたいと願う。  
しかし願いは叶わない。  
マイは仰け反り、きつく目を閉じた。  
 
彼女の中は予想以上に狭かった。  
ヤガミはマイの負担にならないようにゆっくりと腰を沈めた。  
動きに合わせてマイが甘い吐息を漏らす。  
ヤガミは激しく突き上げようとする衝動を必死で堪えていた。  
ゆっくりと優しく身を動かす。  
切ない吐息。時折混じる嬌声。艶めかしい表情。  
ヤガミは試練に耐える。  
マイが首に腕を絡め、口づけを求める。  
彼女から舌を差し入れ、絡めてきた。  
とろけるような感触にヤガミは自制が効かなくなる。  
 
「・・・!っ・・っ・・・・っ・・!!」  
あまりの激しさに吐息は声にならない、いや息すらはけなかった。  
ヤガミにしがみつくこともできない。  
身体のどこを弛めてどこを張ればいいのかもわからなかった。  
これが快楽なのか苦痛なのかもわからない。  
手足をピンと突っ張り、大きく仰け反る。  
激しい突き上げの為か、無意識に身体が逃げようとするのか  
マイの身体は上へ上へとずり上がっていった。  
 
ヤガミは身体を離し、マイの太腿をつかみ固定する。  
更に深い部分までヤガミが到達し、マイは音にならない悲鳴を上げた。  
片手は目を覆い、片手はベットに爪を立てる。  
ヤガミは泣いてるのかと思い動作を止める。己の暴走を恥じた。  
手をどけてマイを覗き込む。マイは虚ろな瞳であらぬ方向を見ていた。  
泣いてはいなかったが、ヤガミは心配になって呼びかける。  
「マイ・・・。」  
マイはヤガミを見た。焦点が合うまで少し時間がかかった。  
笑顔を作ろうとするも叶わない。身体が気怠い。  
 
ヤガミはマイの頬に 額に 瞼に 唇に優しく口づける。  
マイに少しずつ表情が戻ってきた。  
「大丈夫か・・・?」  
マイは黙ってにっこり笑い、ヤガミの問いに答えた。  
「すまない・・・少し、その・・・」  
ヤガミが詫を述べようとして口ごもる。マイはそれを制するように唇を重ねた。  
「もっと・・・しよ・・・ヤガミ・・・」  
ヤガミの手を握る。両方の掌をしっかりと合わせた。  
 
 
ヤガミの動作に答えるようにマイも身を揺らしている。  
互いが互いに優しくし合う。  
指で 唇で その身体の全てで。  
マイは時々目を開ける。  
濃い灰色の瞳がマイを見ていた。  
これ以上がない幸せ。  
全てが満たされる。  
ゆっくりと穏やかに極みに向かう。  
 
マイが震える。強く収縮し内なる高まりをヤガミに伝える。  
彼女は彼を深く捉え、更に内側へと引き込もうと波打つ。  
ヤガミはそれに抗することができない。  
また、その必要がないことも感じていた。  
彼女は達した。ならばこの抑えがたい内圧を解き放ってしまおう。  
ヤガミは身を突き立て、奥深くに放出する。  
数度大きく脈打つ。更に深くに届くように押し込む。  
マイはヤガミを強く抱き、それを受け止めた。  
 
ヤガミは長く深いため息をついた。猛烈な倦怠感が身を襲う。  
マイは半身になり、彼が横になれる場所を作った。  
そこへヤガミは倒れ込んだ。  
息をついてマイを見る。彼女はヤガミを見詰めていた。  
目が合うと微笑んだ。あまりに無垢な笑顔にヤガミは戸惑う。  
己の行いが悪事のように感じてしまう。  
「なんだ?」  
ヤガミは彼女の微笑みをそのまま受け取ることができない。  
間を持たせるために口を開いた。マイは包み込むように笑う。  
「すきよ、ヤガミ。」  
今の彼女には羞恥も虚栄もない。心を無防備に晒す。  
ヤガミは困惑した。どう対応すればいいかわからなかった。  
マイは彼の戸惑いなど気にしないで身を寄せた。頭をヤガミの胸に乗せる。  
「すき・・・すきよ・・・だいすき・・・」  
軽く目を伏せて囁き続けた。  
ヤガミは気の利いた言葉をかける事が出来ず、黙ってマイの髪を梳いた。  
囁きは次第に不鮮明になっていき、やがて寝息へと変わった。  
 
ヤガミは困った。身動きが出来なくなってしまった。  
動かせる手と足を使って衣類を引き寄せ、マイと自分に掛けた。  
彼女に動きが伝わらないように努める。  
「ん・・・」  
マイが身動ぎした。ヤガミは起こしてしまったかと様子を伺う。  
マイは寝たまま手足を絡めてきた。ますます身動きができなくなる。  
ヤガミは苦笑した。自由の効く腕を伸ばして彼女を抱く。  
彼女に顔をなるべく近づけて囁いた。  
「好きだ・・・」  
 
「マイ、起きてくれ。マイ」  
ヤガミに揺すぶられてマイは覚醒した。  
目は開けたものの、状況が把握出来ない。ぼんやりとヤガミを見た。  
「出航だ。作戦会議にいく。」  
ヤガミはマイの下から腕を引き抜くと起きあがった。  
痺れに顔を歪めながら服を身につける。  
マイはヤガミにつられるようにして身を起こした。  
身体に掛けられた服が滑り落ちる。マイはゆっくりと服に目を向けた。  
それは黄色のジャケットだった。  
 
ヤガミは麻痺した半身に苦労しながら服を着た。  
最後に上着を身につけようと服を探す。  
「な、何してる?」  
服はマイが着ていた。しかも前をしっかりと留めている。  
ジャケットの裾からほっそりとした足が覗いていた。  
その眺めはとても良いものだったが、今は急がねばならない。  
「おい、冗談はよせよ。」  
マイはいたずらっぽく笑うと、ヤガミの腕を逃れてベットから飛び降りた。  
「マイ!」  
ヤガミは語気を荒げた。今はふざけている暇はない。  
マイは少しふてくされてジャケットをつまんだ。  
「せっかく着れたのに・・・」  
名残惜しそうに服を離すと、ヤガミに正面を向け腕を広げて立った。  
十字架のようなシルエットになる。  
「はい。」  
ヤガミはその行動が理解できない。疑問の視線を投げかける。  
「必要なんでしょ?どうぞ。」  
マイは胸を突き出した。欲しかったら自分で剥げということらしい。  
 
先程とは立場が逆転していた。  
脱がされるほうは堂々としていて、脱がすほうが照れている。  
ヤガミは服を取り戻すと、彼女になるべく目を向けないようにして身につけた。  
見たら色々と気になってしまう。  
そんなヤガミを試すかのようにマイが抱きついてきた。  
踵を上げて顔を近づける。キスを交わした。  
「・・・お前も早く服を着ろ。」  
マイの瞳はいたずらっぽく笑ってる。  
「会議が終わったら第二種になるぞ。」  
「残念でした。私、しばらく民間人だもの。すること、ないもの。」  
マイは動揺しているヤガミが珍しくて楽しい。  
 
「いいから着ろ。」  
ヤガミは勝手に動こうとする手を制して彼女を押し返した。  
マイはすねたように身を翻すとベットへと向かう。  
ヤガミは未練を残しながらも部屋を出て行こうとした。  
「ヤガミ。」  
振り返るとマイがベットのある物陰から顔を覗かせていた。  
「いってらっしゃい。」  
にっこり笑って手を振った。ヤガミは目を伏せる。  
かわいい と思う。だがそれを面に出すことは出来ない。  
「ああ。」  
仏頂面で短く答えた。マイは彼が照れていることを承知している。  
愛しい背中を見送った。  
 

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