Ves Note 〜 ベスの航海日誌
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海賊に成り下がったら、もう後はない、か。
自分で言った言葉だけど。
どうやらグラムは生きているらしい。
私も…死んではいない。
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今日はキュベルネスに「ログをつけろ」とこのノートをもらった。
データににすると自分に読まれる恐れがあって嫌だろう、とか。
何を考えている…?
奴はまた私を抱いた。
毎晩というわけではない。
気の、向いたときだけ。
そういうことがどうでも良くなってきている。
この広い船には人間二人。
ロボットの副長を入れても三人。
頭がおかしくなりそうだ。
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私は(…グラム、と書いて上から消してある、その他は判別不能)
私はこの船に慣れた。
昨夜は奴が私を抱いた。
もうどうでもいい。
疲れて眠ろうとした私は体にこもった熱を追い払おうと寝返りを打った。
その先には先ほどまで私を抱いていた男の手があった。
冷たかった。
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いつも行為の後、私はすぐに眠っていた。
が、今回は少しの間だけ目をあけていた。
奴は腕の剣をだしてみたりしている。
作動チェックだろうか。
さっきまで私をあんなに…(以下判別不能の文字と上書き)
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また、少しだけ目をあけていた時。
奴は、暗い部屋の中でぼんやりとしている。
どこかここではない所を見ているような、そんな目をしていた。
どこかへ消えてしまいそうだ。
一人で海賊をやるには色々大変らしい。
まず最初に忍耐力だ。
この広い船に一人きり。
話し相手はロボット副長のみ。
私だったら耐えられるだろうか?
(小さな字で「弱気になっちゃだめよ、ベステモーナ」と書いてある)
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あの夜から時々奴の様子を見ていると頭の上の方を見て、
ぼんやりしていることが多い気がした。
最近はRBの操作などには付き合ってくれるが夜はこない。
…寂しい。
私は情が移ったのだろうか。
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ここには相談できる友もいない。
もっとも私はこの性格だから友は少ないが。
グラム…
私は変わってしまった。
生きている以上人が変わらないなどあり得ない。
だが…
私は生きている。
日々変化している。
私はこの状況を受け入れようと思う。
私は、たぶん…
私は…
グラムが好きだ。人に渡したくないほどに。
誰かに殺されるくらいなら、自分の手で送ってやりたい。
その、筈なのに。
私の意志は揺れている。
私はどうするべき…いや違う、どうしたい?
これが海賊のやり方。
やりたい事を考え、その為にあらゆる手を打つ。
私のやりたい事?
グラムを倒す準備は整いつつある。
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さっきまで奴はこの部屋にいた。
明日は出撃らしい。
それを知らせるとあっさりと出ていこうとする。
この男は明日の戦いで死んでしまうかもしれない。
そう思ったら体が勝手に動いていた。
「休むことは大事だ」と。
私は…私は、眠れそうにない。
明日はここを出られるかもしれない、出られないかもしれない。
…私は出たいのか?わからない。
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『早く行け』そういって微笑んでいた。
私にはそう見えた。
なぜあの男は最期の時に笑ってなどいられるのだ。
私は…!
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グラムに抱きしめられた。
キスも。家族のキス。
でもそれだけ。
それ以上はなかった。
グラムは私が生きていたこと、ここに、グラムの隣に在ることを喜んでくれているのだ。
嬉しい。
だが、私の居たいところは。
やりたい事は。
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『海賊船004号、海賊キュベルネス。 RBマーメイド、共に消息不明。
ただし海賊船夜明けの船との戦闘における予測被害値は危険領域を示しており、98%以上の確率で…』
MAKIの数値では絶望的。
でも、それでも1%の可能性があるのなら私は信じたい。
私のやりたい事。
明日、グラムに話そう。
海賊船、夜明けの船。
いい船だ。
でも私には、ここは優しすぎるのかもしれない。
夜明けの船のクルーにという話も断った。
居候は早く出ていかなければ。
私は今日旅に出る。
ただの海賊、ベスとして。
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終