目が覚めると、たいてい傍らに大治郎がいた。  
特段、言葉を交わすでもない。  
「……大治郎……さま……」  
うわ言の様に名前を呼ぶと、大治郎が身を乗り出して三冬に何か言いかけるのだが、  
すぐ三冬の意識は遠のいていってしまうのだった。  
三冬は二〜三日の間、こんな状態で眠り続けた。  
 
燃え盛るお匙屋敷から大治郎に助け出された三冬は、大治郎の父、秋山小兵衛隠宅に運ばれ、手厚い介抱を受けた。  
だが、傍にあった大きな水がめの水が干上がるほどの高温の地下蔵に、閉じ込められていたのだ。  
半死半生、体の渇きも相当なものだった。  
口移しで何度も水を与え、昼夜を徹してかたときも三冬から目を離さぬように看病にあたった。  
女とはいえ、もともと鍛え抜かれた体は常人とは違う。  
なんとか四日目の朝には意識がはっきりとし、おはるの作ったおもゆを少し啜ることができるようになった。  
 
大治郎は自分の道場での稽古を再開していて、それが終わると隠宅にやってくる。  
小兵衛と夕食を共にしながら、お匙屋敷事件の後のことについて話をする訳なのだが、それだけではもちろんない。  
三冬のことが気になるからであった。  
三冬の意識が戻った後は、むやみに寝間に入ってくることはなかったが、必ず三冬の顔を見、言葉を二〜三掛けてから、道場へ帰っていく。  
 
「三冬どの、具合はどうですか」  
「……き、今日は、おはるどのが体を拭いてくださり……さっぱりいたしました」  
「そうですか」  
「日に日に体が軽くなっていくようで……もう明日には床払いしてもよいと宗哲先生が申されました」  
「それは何より。三冬どの、よう、辛抱されました」  
じっとしているのがつらい、と三冬がこぼしているのを、大治郎はおはるから聞いていた。  
それを聞いた三冬は、顔を赤らめてそっぽをむいてしまった。  
「そ、それでは、私はこれで……御免」  
 
三冬の様子に、とまどった大治郎はそそくさと隠宅を後にした。  
大治郎は、三冬の様子がお匙屋敷の件の前と違うのに気づいていた。  
いや、それまでも少しずつ変化があったのは、いかな大治郎でも薄々わかっていた。  
しかし、体が元の通りになるにつれ、三冬が大治郎を避けるような素振りを見せはじめた。  
それが大治郎を戸惑わせており、何ゆえか、いっこうにわからぬことであった。  
 
六日目の午後に大治郎が隠宅にやってくると、小兵衛が居間で手招きしていた。  
「おお、大治郎。こっちへ来て、まず一杯やれ」  
小兵衛に言われるがまま、居間に上がると、ちょうどおはるが酒を運んできたところだった。  
「母上、お邪魔します……」  
「ああ、若先生、大先生がお待ちかねだよう」  
「あ、あの、母上……」  
「今、鴨の鍋が煮えたところだからねえ」  
「母上、みふ……」  
「三冬さんなら、今日の昼に帰ったよ」  
「え……?」  
「今日の昼、わしらにこれ以上迷惑をかけられない、とな。案ずるな。弥七の付き添いで駕籠で帰した」  
「それで、三冬どのは……」  
「もう、身の回りのことはできるほどなんだもの。昨日はちゃんと風呂にも入ったしねえ」  
「はあ……」  
あきらかに落胆の色が顔に出ている。  
小兵衛とおはるは顔を見合わせて、おもわず吹き出しそうになった。  
「ふっふふ。大丈夫だよう。若せんせ、さ、座って座って」  
「まったく正直な奴じゃな。とにかく大治郎。突っ立てないで、まあ、飲め」  
「……はい」  
     
***  
 
三冬は自宅である根岸の寮に戻っていた。  
三冬の帰宅に涙を流して喜んだ老僕の嘉助は、いつにも増して甲斐甲斐しく世話をしてくれている。  
小兵衛は弥七を通じて嘉助に三冬の様子を知らせていた。  
それに、三冬が担ぎ込まれた時に、嘉助は小兵衛宅まで駆けつけてもいた。  
「お嬢様のことが心配で心配で。お嬢様にもしものことがあれば……わたくしはどうしたら……」  
泣き出した嘉助を落ち着かせるのには手を焼くほどだったと、おはるが苦笑していたものだ。  
嘉助は小兵衛の前で、泣きながら三冬のことを頼み、しぶしぶ寮で三冬の帰宅を待つことにしたのだった。  
「お嬢様、風呂をたてましょうか。それともなにか召し上がりますか。淡雪煎餅がございますよ。それとも…」  
「ありがとう、爺や。なにもいらぬ。いらぬが、床を延べてくれぬか……。ちと、疲れた」  
「それは、いけません! ただいまいたしますので、しばらくお待ちください」  
 
延べられた床に横になり、三冬は己の体を抱きしめるように丸くなった。  
あちこち痛んだ体は、今ではかなり良くなっている。  
『若先生とあたしで、三冬さんに口移しでお水を飲ませたんだよう』  
昨日のおはるの言葉がよみがえってきた。  
おはるにそれを聞かされて、その晩の大治郎の顔を見ることができなくなってしまった。  
やっとのことで言葉を交わせたが、これ以上隠宅にいられない気がして、大治郎の帰宅後に小兵衛に願い出て、  
急に今日、寮に戻って来たのだった。  
顔に血が上り、胸の鼓動が寝間中に響いてしまうのでは……と思えるほど大きく聞こえてきだした。  
「……ああ」  
 
お匙屋敷に単身乗り込み、自分を探し出し救ってくれた大治郎に、今まで以上に思いが募るばかりだ。  
しかし――。  
あの屋敷で責めを受け気を失った自分が、大治郎に発見された時、どのような醜態を晒していたのか……。  
意識が戻ってからは、そのことで不安になり、大治郎を思う度、息苦しくなるのだった。  
辱めを受けた痕跡は無い、と自分でもわかってはいる。  
 
捕らえられて後は、袴を脱がされたのみで、柱に括りつけられて痛めつけられたところまでは覚えている。  
その後に何をされて、衣服をどうされたのか。  
自分はどのような姿で、大治郎の目に映ったのか。  
「はあ……」  
ため息と同時に、目頭が熱くなった。  
「……大治郎、さま」  
今までどんな激しくつらい稽古にも、耐えてきた。  
けれど、こんな苦しいことは初めてかもしれない。  
「大治郎さま……会いたい」  
三冬は唇に指でそっと触れた。  
大治郎の感触を思い出せるような気がして、何度もなぞった。  
 
それから五日ほど、何事もなく過ぎていった。  
三冬はめきめきと回復していき、すでに自宅で木大刀を振り、稽古を始めたそうだ。  
大治郎は、田沼屋敷への出稽古と道場での稽古に明け暮れる毎日を送っていた。  
ただ、明らかに二人ともにいまひとつ気力が漲らぬ、そう小兵衛がおはるに漏らした。  
大治郎はむろんのことだが、三冬のところへも行き、小兵衛はその様子を直に見てきていた。  
この間、二人は会うことも便りを交わすこともなかった。  
大治郎はあれから何故か毎夕、隠宅に顔を出している。  
事件の後の事も片付いており、特段打ち合わせることもない。  
息子が父親の家に来ることはめずらしくもないことだが、そもそもあしげく通ってくるような大治郎ではない。  
それだけに、なんとなく大治郎の落ち着きの無さ伝わってきていたのだった。  
        
「朴念仁め。あのふたり、なんとしてくれようかな」  
秋も深まったある日の夕暮れ、腕を組んで思案にくれる小兵衛のところにおはるが夕餉の膳を運んできた。  
「あれ、先生またなにか考えごとしていなさるね……若先生のことかい?」  
小兵衛の前に夕餉を整え、酌をしながらおはるがたずねてきた。  
おはるも気持ちは同じである。  
「そのこと、そのことよ。あのふたり、もどかしゅうて見ておられぬわ」  
柿のなますを肴に酒を一口あおると、また憮然とした顔つきになった。  
 
「ほんとにねえ。先生、そんなに考え込んで、なにか妙案でもあるのかね?」  
「む……ないでもないが。おはる、おまえ、少し骨を折ってくれぬかえ」  
「若先生と三冬さんのためなら、お安い御用ですよう」  
大根飯に熱い汁をかけた飯碗を小兵衛に差し出したおはるは、さもうれしげに微笑んだ。  
「こんばんは……父上―――」  
庭のほうで今夜も大治郎の声がする。  
「そら、朴念仁がきたよ」  
小兵衛とおはるは目を見合わせてくすりと笑った。  
 
 
***  
 
「おはると日光のほうへ行ってくるから、しばらく留守にする」  
そう言って、昨日から小兵衛とおはるが日光見物に出かけてしまった。  
お匙屋敷の一件から、半月ほど過ぎた頃である。  
淡々と日々を送っているが、父という気を紛らわす相手もいなくなり、稽古につい入れ込み過ぎてしまう。  
今日の田沼屋敷での出稽古に三冬が顔を見せるのではないか、という淡い期待もはずれた。  
もう、十日以上顔を見ていない。  
あれほど、日を置かず顔を合わせていたのに、だ。  
「はあ……」  
ひとり台所に立ち、道場近くに住む唖の百姓の女房が作ってくれた根深汁と漬物で、質素な夕餉を整えた。  
出るのは、何故かため息ばかりだ。  
 
秋の陽はあっという間に暮れていく。  
昼間のわずかな温もりを飲み込んで、外は寒々とした薄闇に沈んでいこうとしていた。  
台所を上がった小間で夕飯を、と思っていた時だ。  
外に人の気配を感じた。  
大治郎はそろり、台所の戸の前に立ち、一気に戸を引き開けた。  
「あ!」  
思わず短く声を上げた大治郎は、戸の外に立っていた人影を見て、言葉が出てこなかった。  
三冬がそこに立っていたのだ。  
 
「こ、こんな時分に、失礼とは存じましたが……」  
返す言葉も無く口をあけたまま、大治郎は三冬を驚きの目で見ていた。  
三冬は女装をして――いや、男装をしていないのだ。  
髪は結い上げずに後ろへ束ねて垂らしているが、可憐な柄の小袖を着、その上に羽織をはおっていた。  
持っていた包みの一方を差し出して、  
「これ……あの、おはるどのがこしらえてくださったのですが。夕餉に間に合いましたでしょうか」  
と、なんだか言葉遣いまでいつもと違う。  
「えっ、ええ。ちょうど今からのところ……そうだ、おあがりください……!」  
突っ立っていた大治郎は、しどろもどろになりながら、三冬を道場へ案内した。  
 
「先生とおはるどのは、明日からお出かけになられるそうです」                           
「父上たちは、昨日から日光へ行くと申しておりましたが、私をたばかっていたようだ」  
大治郎が憮然として、色よく煮上げられた里芋に箸を伸ばした。  
「……まあ、そのようなおっしゃりよう。大治郎さまらしゅうないことで」  
どうしたことか、今日の三冬は突然に女になってしまったようで、大治郎は落ち着かなかった。  
それに、小兵衛たちは日光などへは行かずに、こうして隠宅にいておはるの手製の料理を三冬に持たせてよこしたのだ。  
父の考えていることが一向にわからない。  
 
「小兵衛先生のところへ参るように言われていまして、今日、先生宅へ参りましたところ、おはるどのに  
このような物を着るように言われて、それで――」  
三冬は療養中の時のように、あまり目をあわそうとしなかったが、明らかにその時とは違い、落ち着いて見えた。  
とはいえ、三冬にしても、いつにも増してぺらぺらとしゃべっている。  
「私のために、あつらえてくださったそうです。それまでは、いつもの羽織袴でおりましたのに着替えるようにと……」  
よどみない三冬の声が、耳にくすぐったく聞こえる。  
「おはるどのが大治郎さまの夕餉の心配をしておられて……私にこれを  
三冬がやって来た時よりも、幾分か胸の動機はおさまってはいたが、向かい合わせで座っているのが気恥ずかしくてならない。  
 
上の空での夕食を終えて、大治郎ははたと気づいた。  
「それでは、私はこれにて失礼いたします」  
三冬が帰りの支度をし始めた。  
三冬はこれから帰ろうというのだ。  
すでに夜の帳が下りて、女ひとりが帰るような時刻ではない。  
「帰るとは、どこへ?」  
大治郎が慌ててたずねると、三冬は怒ったような顔つきになりぶっきらぼうに返事をした。  
 
「根岸へ」  
「根岸へ、ですと?」  
「……本当は、今晩小兵衛先生のお宅に泊めていただくはずだったのです。それが何ゆえかこのような…」  
「でしたら、ここへ泊まっていかれればよい。私は道場で休みますから、心配なく……」  
「いいえ。わたしはこれで失礼いたしますゆえ、お気遣い無く」  
「何を意地になっているのです? それとも三冬どの、私が付き添いましょう」  
意地になっていると大治郎に言われて、おもしろくない。  
「付き添いなどと……私は子供ではありませぬ。結構。一人で充分でござる」  
いつもの言葉遣いにもどり、三冬は勇ましく身を翻した。  
「三冬どの、待ちなさい」  
三冬は道場の戸に手をかけ、肩越しに大治郎に軽く一礼した。  
「これにて」  
戸を開けようとした時――。  
その手首をがっしりと掴まれていた。  
 
「私の言うことを聞き分けなさい」  
抗えぬ力の強さで、両の手首を掴まれ、向き直させられた。  
先ほどまでとは違い、大治郎は落ち着きはらい、むしろ有無を言わせぬ力がこもっている。  
「お放しください、大治郎どの……」  
「いや、放さぬ」  
大治郎の目も、三冬の目をしっかりと捉えて放さない。  
 
三冬の化粧気のない童顔はきりっと緊迫し、白い頬が赤く上気して、女の色が漂っている。  
後れ毛がその頬にかかり、たえきれず目を伏せた三冬がいつにも増して美しく見えた。  
おもわず大治郎は三冬を抱きすくめていた。  
「あ……!」  
「帰さぬ……」  
大治郎の匂い、何度も夢に見たぬくもりに、三冬はめまいがした。  
ふっと、体から力が抜けて、三冬はくたくたと崩れていった。  
大治郎が支えるようにして、ふたりしてその場に座り込んでいた。  
         
大きな体に包み込まれるように抱きしめられて、三冬は身動きが取れぬほどであった。  
体を捩ると、また大治郎の腕の力が強くなる。  
なんとか腕を広い背中にまわして、三冬も腕に力をこめた。  
「大治郎さま……」  
「……はい」  
震える声で、三冬はきっぱりと大治郎に告げた。  
「帰りませぬ」  
「…………」  
「今夜は、大治郎さまと一緒……」  
「……」  
三冬の声は次第に小さくなっていく。  
剣を取れば、大の男でも敵わぬような女武芸者が、今は大治郎の腕の中でか細い声で言い募った。  
「三冬は、三冬は……大治郎さまと……」  
「三冬どの」  
 
「は…い」  
「よろしいのか」  
「……はい」  
蚊の鳴くような声で三冬が返事すると、大治郎は三冬を引き離した。  
怒ったような顔つきで立ち上がり、振り向きもせず寝間のほうへずんずんと歩んで行った。  
床の用意をし、戻ってきた大治郎は「御免」と声をかけ、三冬の体を抱え上げた。  
ふわりと体が宙に浮いて、不安定になった三冬は大治郎にしがみついた。  
 
 
***  
 
有明行灯の頼りなげな灯りが、ぼんやりと互いの顔を浮かび上がらせる。  
延べられた床におろされて大治郎を見上げた三冬に、吸い寄せられるように大治郎は方膝をついた。  
三冬のすがるような瞳が潤んで、ゆらゆらと揺れているようだ。  
向かい合い、どちらからともなく間合いを詰めていく。  
大治郎はゆっくりと、今度はできるだけ加減して三冬を抱きしめた。  
その襟元に顔をうずめ、三冬の香りを吸い込み、体温を直に唇で感じる。  
そうしていると、三冬のため息が聞こえてきた。  
唇で、しっとりとした肌を食むようにすると、びくりと三冬は体を震わせた。  
唇と鼻先をもっと奥へともぐりこませながら、背中にまわした手で、ぎこちなく帯を解き始める。  
部屋の中には、二人の吐息と荒い息、着物を解いていく音がするのみだ。  
稽古の時もさほど息を乱すことの無い二人の、はあはあと喘ぐ息が苦しげに響く。  
 
大治郎の唇が何度も三冬の首筋をなぞり、胸のふくらみの方へと滑っていくと、瞬間、三冬はお匙屋敷で大治郎に発見された時の、自分の姿が頭に浮かんだのだった。  
咄嗟に大治郎から傷を隠すように身を捩った。  
「お待ちくだ…………ああっ」  
しかし大治郎は易々と三冬を押し倒し、胸元をくつろげて、その傷にそっと舌先で触れた。  
「は……う……」  
三冬がわずかに声を漏らすと、大治郎はゆっくり傷に舌を這わせ始めた。  
「だいじろ…さ…ま……あ…んん」  
三冬の口から漏れる声が、驚くほど甘い。  
           
大治郎は顔を少し上げて、三冬の顔を見つめた。  
乱れた襦袢の襟の向こうに、三冬が夜具に頬を押し付けるようにして、何かを堪えるように顔をしかめている。  
「……みふゆ……どの」  
大治郎がかすれた声で呼びかけると、三冬はひそめた眉をわずかに開いた。  
「傷痕はきっと目立たぬようになる。大丈夫」  
三冬は、ハッと目をあけた。  
「……この傷は誰にも見せぬよう……私だけが知っていればよい」  
「大治郎さま……」  
大治郎は照れたように、三冬の顔を覗き込んだ。  
三冬の目からみるみる涙があふれ出てきて、零れ落ちていった。  
大治郎は無骨な指でそれを拭うと、吸い寄せられるように顔を近づけていき、三冬の唇に自分の唇を押し当てた。  
 
唇と唇はすぐ離れ、またぴたりと合わさり……幾度かそれを繰り返した。  
柔らかな感触に我を忘れそうになる。  
さらに大治郎は三冬の唇を軽く食むようにし、顔を交差して深く口を吸った。  
「ん…………ん……」  
三冬が鼻にかかった声を漏らしはじめると、大治郎は唇を離し、再び白く滑らかな胸のふくらみを目指した。  
三冬は懸命に声を抑えているが、時折漏れる喘ぎが驚くほどが艶かしい。  
「あ……あ…だいじろ…さま……」  
息も絶え絶えに喘ぐ三冬が、大治郎の唇や指先のわずかな蠢きに時折ぴくりぴくりと体を震わせる。  
それとともに大治郎の呼吸は荒くなり、鼓動が大きくなっていく。  
襟元から覗く乳房は思いのほか豊かで、驚くほど柔らかい。  
理性など、とうに吹き飛んでいる。  
それでも荒々しくしてしまいたい衝動をどうにか抑え、片方のふくらみの柔らかな丸みに沿って、唇を滑らせた。  
 
「はんん………あ……だい……ッ」  
着物に手をかけこれをするりと脱がし、とうとう三冬を一糸纏わぬ姿にしてしまった。  
三冬は心もとなくなって、思わず弱く抵抗を試みる。  
鍛えぬかれ、引き締まった体。  
しかし、思いがけず色白でほっそりとした手足、くびれた腰からふっくらと張りのある太腿。  
男装の下に、こんなに艶かしく美しい女の体が隠れていようとは、日ごろの三冬からは想像もできぬ。  
形の良い豊かな乳房に息づく蕾が、誘うように揺れた。  
 
「ああ!」  
鋭い叫び声を上げた三冬の乳房の片方を大治郎の大きな手が包み込み、不器用に揉みしだき始める。  
「み…ふゆ……どの……」  
もう片方のふくらみに大治郎は顔を押し付けてみる。  
唇で舌で乳房の柔らかさを堪能すると、次にその頂を口に含んでみた。  
「はあっ……あ……あ……ん」  
びくんと三冬の体が跳ねて、仰け反った白い喉が大きく動いているのが見えた。  
普段の三冬とは別人のような声が、三冬の口から漏れ出てくる。  
片方の頂は親指と中指に擦られ、もう片方と一緒に硬く尖りはじめた。  
「あん……ああ……は……あ……」  
大治郎は夢中で硬くしこったそれをなぶり続けた。  
         
大治郎に身を委ねると決心したものの、三冬は生まれてはじめての感覚に戸惑っていた。  
同じく着衣を脱ぎ捨てた大治郎の素肌が、己の素肌と触れ合い、ジンと痺れをもたらす。  
時折漏れる大治郎の熱い吐息を肌に感じると、ぞくぞくと何かが体を走り抜けていく。  
まるで自分が自分ではないようで、恐ろしくもあった。  
それは大治郎とて同じで、己の奥深くからこみ上げる欲望を抑えきれないでいるようだった。  
初めはおそるおそるだった乳房への愛撫は、次第に無遠慮になっていき、  
いつしか三冬のほうもむしゃぶりついてくる大治郎の頭を押し付けるように抱え込んでいた。  
「だいじろ……さま……あ…大治郎さまっ」  
切迫した声で名を呼ばれた大治郎が、顔を三冬の顔に近づけると、三冬はぱっと大治郎の唇に吸い付いてきた。  
腕を首に巻きつけるように抱きしめて、三冬は息苦しいほど大治郎の唇を吸う。  
 
三冬からの行為に驚いた大治郎だが、懸命に唇を求めてくる健気な三冬に、愛おしさがこみ上げてくる。  
「うむ…ん……んん!」  
三冬の唇のわずかな隙を割って、今度は大治郎から舌を差し入れてきた。  
「んん――あふ……ふ……む……」  
大治郎の温かな舌が口内を蠢き、かき回す。  
大治郎の頬に手を添えて、はしたない……と思いつつも、おずおずと舌を伸ばし絡ませる。  
ぬちゃ、くちゅ……舌が絡みあうごとに起こる淫猥な音が部屋に響いた。  
大治郎が貪るように、三冬の口を舌を吸う。  
みだらがましい……いつだったか、男女がこのようにすることを三冬はそう思っていた。  
しかし、そのようなことにこんなに夢中になってしまうとは想像もつかぬことだった。  
唾液が口の端しからこぼれ落ちていくのもかまわず、三冬も大治郎を求め続けていた。  
 
大治郎は、三冬の口を吸いながら、己がどうしようもなく昂ぶっていくのを抑えられなくなっていた。  
肩から脇、腰……と三冬の肌を撫で、柔らかな感触を確かめながら、自然に下肢へと手が滑っていく。  
太腿を撫で回した後、無骨な掌は下腹へ移動し、余裕なくその下の繁みへと伸びていった。  
「んあ……い、やあっ」  
性急に内股へもぐりこんできた大治郎の指に、三冬が抵抗する。  
大治郎はそれを上回る力をもって三冬を押さえ込み、さらに繁みの奥へと手指をもぐらせる。  
ぐちゅ……と音がした気がした。  
「ああ……やめ…………!」  
 
先ほどから感じていた、女の秘所の疼きとトロリとしたぬめり。  
自分とても信じられぬことだった。  
それを今大治郎が探り当てたのだ。  
「みふゆ…………」  
大治郎は指を抜き出し、ほのかな灯明にかざした。  
太い中指と薬指がぬめぬめと光っている。  
「おやめに……大治郎さま!」  
三冬は悲鳴に近い声で叫んでいた。  
羞恥でどうにかなってしまいそうだ。  
 
大治郎は三冬の顔を覗き込み、窺うようにじっとその眼を見つめた。  
「い、嫌……いやいや!」  
三冬は激しく首をふり、両手で顔を覆ってしまった。  
それにかまわず三冬の耳元へ口を寄せ、大治郎がなにかささやいた。  
耳元に熱い息がかかり、三冬の背中に鈍い痺れが走っていく。  
大治郎は大きな体をずらし、仰向けの三冬の、白くほっそりした足を掴んで両の膝を立たせた。  
暴れた足に絡まった襦袢を解きながら、露になっていく太腿に唇を落としていく。  
三冬の返事などもとより聞くつもりは無いのかもしれぬ。  
「力を緩めて……」  
抵抗して、力をこめて閉じた膝頭を大治郎は、易々と開いていく。  
        
大治郎の愛撫に夢中で応え、快感によってそこを濡らしてしまっている自分を恥じた。  
濡れそぼったそこを大治郎に見られるのが、どうしようもなく恥ずかしいのだ。  
「いや……」  
大治郎の視線を恥ずかしい所に感じると同時に、感嘆の吐息が漏れるのを感じた。  
「もう、もう……お許しを……」  
三冬が呻くように言うことを、聞き入れる様子はない。  
それどころか、三冬は自分の秘所に、熱く柔らかい塊が押し当てられるのを感じ、腰を浮かせた。  
「大治郎さま! 嫌!」  
手も足も大治郎に押さえ込まれて、大治郎との力の差を思い知らされる。  
「ああ……ああ!」  
大治郎は泉のようなそこに、思わず口を付けていたのだった。  
 
舌がゆっくり秘裂に沿って上下していく。  
甘い蜜を舐めすすり、蜜の溢れるそこへそっと舌を差し入れられた。  
「あ……そのようなっ……だい……あ! んん……や、あ……」  
咄嗟に大治郎の手を振り切り、夜具の端を思い切り掴む。  
すると、秘所に指が触れて、次に秘裂を押し広げられた。  
大治郎は、花弁のようなそこを広げ、じっと注視している。  
「みないで……くださ……」  
か細い声で懇願するも、またも三冬の願いは聞き届けられぬ。  
 
大治郎は剥き出しにした花芽を指で捏ねるように撫で始めた。  
強い刺激が体を駆け抜けていく。  
「い、痛い!」  
あまりの鋭い感覚に、三冬が顔をしかめると、すぐに動きが止まった。  
「す、すまぬ」  
大治郎は慌てたように言ったが、指の動きはまたすぐごく弱いものに変わって再開された。  
「あ、あう……」  
じんじんとした痛みのような感覚がやがて、痺れるような快感になって、三冬の理性を剥ぎ取っていく。  
「は……くっ、あっああ……や……やあっ」  
はしたないこと……そうわかっていても、喘ぎを抑えることが出来ない。  
そんな三冬の花芽に、大治郎の舌がぬるり…と触れてきた。  
「ひ……ああ!」  
舌先でおそるおそる花芽を弾くようにされて、三冬はびくびくと体を震わせた。  
 
大治郎の両手は三冬の下腹部から上へと這い上がっていき、汗ばむ乳房を捉えた。  
「……あ…………っ」  
不器用な手つきで揉みしだき、乳首を弾いたり摘んだりして捏ね回す。  
秘所は舐め上げられ、秘裂に舌がもぐりこんで蠢いている。  
花芽は舌先で捏ね回され、時折ちゅ…と吸い付かれた。  
「も……だいじろ……あんっあん……嫌あ…………」  
快感に何度も腰が浮く。  
 
己の股間に埋められた大治郎の総髪をかき混ぜるように撫でながら、とろけきったそこを大治郎へと擦り付けてしまいたい、とさえ思った。  
鼻にかかった喘ぎ声が一際艶を増し、切迫さを伴って泣き声のようになっていく。  
腰を無意識に大治郎の動きに合わせ、揺らし始めた。  
「ああん……ああん!……も、もう……三冬は……はあん……やあんっ」  
大治郎も三冬の声を聞きながら、いつしか我を忘れていた。  
「は…あっ………気がふれてしまっ…い…や、嫌あ……っ、ああっ、あああ!」  
「三冬…………!」  
三冬は体を仰け反らせ、背中を浮かして弓なりになったかと思うと、ふっ、と力が抜けていった。  
            
一時気を失ったかと思ったが、三冬は、はあはあと大きく息を乱している。  
ほっとした大治郎は体を起こし、三冬の口を吸った。  
抑制のきかぬ己に慄きつつ、しかし大治郎は、かつてない快楽に溺れていこうとしていた。  
汗で張り付いた髪を撫で上げると、三冬が切なげな表情で見つめ返してきた。  
「……恥ずかしゅうて……」  
消え入りそうな声を漏らしてすぐ眼を逸らし、真っ赤な顔を夜具に埋める。  
そんな三冬を愛おしいと思うと、大治郎の体を甘い痺れが突き抜けていった。  
体の中心に血が集まってくる。  
 
大治郎は、性急に三冬の両足を抱え上げた。  
「………!!」  
三冬が抗うそぶりを見せたが、それにはお構いなしに三冬を仰向けにし、再び大きく開いた。  
先ほどまで弄っていた秘所に、熱く猛る己を押し付ける。  
と、ぬちゃり…と音がして、先がするりと滑っていった。  
「あ……大治郎さま……」  
ぐっと腰をすすめると、思いがけず三冬は頑なだ。  
手を添えて、なんとか自身を秘口にもぐらせていく。  
「い…っ……」  
三冬の顔が苦痛に歪んでいく。  
必死で耐えているのだ。  
それはわかっても、大治郎は己の欲望を抑えることができなくなっていた。  
恐ろしいほどの快感に、ぶるり、と大きな体が震えた。  
戸惑いつつも、余裕無くずぶずぶと、欲の塊を三冬の中に埋めていく。  
 
おもわず三冬は双腕で大治郎の首へしがみついた。  
「大治郎…さま!」  
鋭い叫び声を上げたかと思うと、傍にあった肌着の端を夢中で口に咥え、大治郎の広い背中にしがみつくように、腕をまわした。  
めりめりと裂けるような痛みが、大治郎と繋がったところから体中に走っていく。  
「くう………う……」  
くぐもった呻き声を漏らす三冬の目から涙が零れていった。  
「み……ふゆどの……辛いのならば……」  
大治郎は動きを止め、三冬を気遣った。  
しかし、三冬は首を横に何度も振り、濡れた瞳で大治郎を促すのだった。  
今は羞恥など頭に無く、ただ大治郎とつながりたい、その思いのみが三冬を支配していた。  
「三冬どの……っ」  
とうとう大治郎は三冬を腕に抱きしめて、ぐっ、と最奥まで貫いた。  
 
少しでも馴染むようにとしばらく留まり、三冬の乳房に手を伸ばす。  
じっと堪えるのは、むろん大治郎にとっても辛いことだ。  
硬く尖りきった蕾を指で弾きながら、ふくらみを弄ぶ。  
すると、三冬の肉壁がきゅっとすぼまり、大治郎を締め付けてきた。  
布を噛み締めたままの三冬の呻き声が甘く漏れ出てきて、大治郎を再び昂ぶらせる。  
「……抑えずとも……よい……」  
咥えた肌着の端を三冬の口から外し、すぐさま唇を己の唇で覆って深く吸った。  
 
ゆっくりだが、力強く大治郎は律動を始めた。  
たちまち三冬が背中を浮かして、仰け反る。  
まわした三冬の腕に力が加わり、大治郎の背を強く掴んだ。  
 
「大治郎さま……あっあう……はう……っ」  
苦しげに声をあげると、大治郎の動きが一層力強くなっていく。  
「すまぬ……三冬……っ」  
腰を大きく前後させながら、さらに三冬に圧し掛かって、深く突きこんだ。  
「ああっはあっ、だ、だいじろ……やぁぁ……」  
大治郎は三冬の耳元に顔をつけ、夢中で腰を打ちつける。  
弾む息が三冬の耳にかかる。  
「はっんん…大治郎っ………やっ……あんっあああ……!」  
三冬の声に、快楽の響きが混じっているのを聞きながら、とうとう大治郎は果てたのだった。  
 
***  
 
「今頃、若先生はどうしてるだろうねえ?」  
「ん――? ああ、そうじゃな……」  
おはるが頬を赤らめて、小兵衛の方に向きをかえた。  
それに構わず、煙管をしまって小兵衛は布団にもぐりこむ。  
「もう、先生ったら……」  
おはるのむくれた声が聞こえる。  
「大変だったんだよう。小袖を仕立ててもらうのも、手直しするのも日にちが無かったんだもの」  
「おお、そうだそうだ。おはる、おかげで首尾よくいったわえ。ありがとうよ」  
返事の変わりにおはるは、布団の中で向きを換え、小兵衛に背を向けた。  
 
「首尾よく……かね。もう、先生は……」  
不機嫌な声でおはるは続けた。  
「いいねえ、若いもんは。……三冬さんはどうしただろう……衣を替えたら、なんだかしおらしくなって……」  
おはると三冬は同い年なのだ。  
「若いんだから、やることは決まっておるだろう」  
「何言ってんだよう、もう……!」  
今度は照れた声が聞こえてきた。  
「……先生だって、若いよう……」  
おはるの声は消え入りそうになっている。  
 
小兵衛はおはるに向き直った。  
「よしよし、しょうの無いやつじゃのう。どれ、今晩は可愛がってやるかのう」  
ぱっと、半身を起こし、おはるが小兵衛の床に入ってきた。  
「うれしいよう……先生……」  
おはるが四十も年の差のある老夫、小兵衛の頭を胸に優しく抱きしめる。  
小兵衛はおはるの襟をくつろげて、張りのある乳房に顔を埋めると、深く息を吸い込んだ。  
おはるは「ああ……」と吐息を漏らして、小兵衛の顔に乳房を押し付けるようにする。  
「まだ、若い者には負けぬかのう……おはる?」  
まるで母親が乳飲み子を抱くように小兵衛を胸に閉じ込めて、おはるは、うんうん……と嬉しげに頷いた。  
冷えた寝間の中に、すぐに熱い喘ぎ声があがり始めた。  
 
 
===終===  
 

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