舞台の裏側。  
 
 
 和式便器とはいまどき珍しい。  
 しかし、もちろんフレイアには、洋式でなくては嫌だとか、そんなこだわりは別段ない。  
 第一そんな事を気にしてる場合でもない。  
「…………」  
 尿意を異常に感じるのだ。  
 ここに来るまでの間にも何度、情けなくもみっともなく、内股になりそうになったかわからない。  
 緊張……してるのか?  
 殊更ゆっくりとトイレのドアを閉める。  
 キサラたちの前ではその素振りすら見せないが、やはり、これだけの大きな裏の試合だ、いくらか気負いがあるのかもしれない。  
 などと考えながらも、フレイアは素早くスパッツに手を掛け、パンツごと――急いで降ろす。  
 もうそこまで尿意はきていた。  
 身体が一瞬だけぶるりと震えて、ふっと、張っていた力が自然と抜ける。  
 そしてそれに合わせるかのように、  
 ガチャッ  
「!?」  
 確かに施錠したはずのドアが、無遠慮に、そして何の躊躇も迷いもなく開けられた。  
 反射的に身体が竦む。  
 だがそれは、一人の武道家としてなどではなく、まだオトコを知らない無垢なままの、初心な乙女の羞恥による防衛本能からだった。  
 はっとなって振り向くとそこには、  
「ああ、いいからいいから、気にせずに続けて続けて」  
 ひどく下卑た顔。  
 年齢はおそらく四十台後半から、五十台の前半といったところか。  
 身に着けているものは一見しただけで、あまりそういったものに興味のないフレイアでも、高価なブランド品だというのがわかる。  
 しかしこのオトコには、それがまったく似合ってない。  
 にやにやと厭らしく歪んでいる顔が、すべてを台無しにしていた。  
「……なん……だ……貴様は……」  
 睨みつける。  
 視線で人が殺せるのなら、それだけで殺せそうな鋭い眼光を、フレイアはにやけてるオトコに叩きつけた。  
「ふふん」  
 だがオトコは視線を浴びても、毛ほどすらもひるむ様子はない。  
 それもそのはずで、  
「さっきの試合は俺も見てたから、きみが強いのは大層知ってるけども、お尻丸出しで凄まれても、そりゃさすがに怖くはないなぁ」  
「…………」  
 言われたその通りだった。  
 
 手で必死になってお尻を隠してる姿に、びびるようは間抜けな奴はまずいない。  
 勿論オトコは、  
「オシッコ、したくてしたくて堪らないでしょ?」  
 恐々とびびるどころか、馴れ馴れしい軽い口調で話しかけると、あろう事か、後ろ手にドアを閉めて入ってくる。  
 錠を落とすときのガチャッという音が、フレイアの耳には、随分とはっきり聴こえた。  
 身体が刹那ぴくりと震える。  
 フレイアは唇を血が出そうなほど強く噛んだ。  
 許せん。  
 ただのオンナとして、目の前のオトコに、ほんの少しとはいえ、本能的に恐怖した自分が許せなかった。  
「身体もぽかぽかして熱くない? 薬っていうのも味気ないとは思ったんだけどさ」  
 じろじろとオトコの目が褐色の肌を這っている。  
 薬?  
 言われてみれば身体が熱かった。  
 ぽかぽかしてる。  
 戦いの興奮が残っているだけというのでは、じっとりと、お尻に汗まで掻いてるこの熱さは、とてもじゃないが説明が付かない。  
 意識してみればわかる。  
 呼吸もいつの間にか荒くなっていた。  
「ベタだけど飲み物の中に入れさせてもらったよ。まあ、こっちもそこそこお金払っちゃてるから、しっかりときみを愉しみたいんでね」  
 オトコはぺろりと唇を舐めると、手をゆっくりとお尻へ伸ばしてくる。  
 身体が動かない。  
 避けようと思えば避けられる。けれど身体がぴくりとも動いてはくれない。  
「……やめ………ろ、……触ったら………こ、殺す……ぞ」  
 そう言うのが精一杯だった。  
 効果のほどはオトコの気味の悪い笑みを、ただよりいっそう深くしただけである。  
「だ〜〜め」  
 遂にオトコの手がフレイアのお尻に触れた。  
「はぅッ!?」  
 ぞくりとしたものが走る。  
 その手は火照ってているお尻には、異常なほどひんやりと冷たく、真一文字に結んでいた口から、思わず情けない声が洩れてしまった。  
 ぴちょん……。  
 それは微かではあるが、否が応でも、喚起を促さずにはいられない水音。  
 にやりとオトコは嘲笑う。  
 追いかけるかのように、二滴、三滴と、静かなトイレに、オシッコの黄色い雫が零れていた。  
「うぅううっ」  
 歯を食い縛って括約筋を締める。  
 本来ならば放出してしまえば止められないものを、肛門をひくひくさせて止める様子は、オトコの手だけでなく目も愉しませた。  
 
 そんなつもりはフレイアには無論ない。  
 けれど右に左にと、ゆらゆら揺れている褐色のお尻は、オトコをはしたなく誘っているかのようだ。  
「くっくっくっくっ……」  
 それに少しずつ少しずつ傾き、土下座するみたいな前屈みになってる。  
 意外と毛が薄い。  
 まだ誰にも見せた事はないだろう。  
 子供みたいに未完成な形の、ヴァージンピンクの秘裂は、肉に切れ目を入れたように、わずかだが綻び、ぬらぬらとぬるみ潤んでいた。  
 トイレの水を叩く音はすでに、オシッコだけではなくなっている。  
「おいおい。ちょいとやらしすぎるぞ、きみ」  
 ぐいっ。  
「うぁあっ!?」  
 両手でパンを捏ねるみたいにして、お尻を熱心に撫で回していた十本の指先が、谷間をいきなり左右へと割り開いた。  
 そして間髪入れずに肛門に、ぐねぐねとした生温かい舌を伸ばす。  
 顔ごと突っ込んでは舌先を捻じ込み、あるいはチュチュウと吸い付くようにして、一心不乱に不浄の穴にむしゃぶりついていた。  
「ンあぁッ……はぅッ……んンッ……ぅああッ!!」  
 逃げる身体を強引に引き寄せる。  
 そのたびに舌をさらに奥へ奥へと挿し込み、腸内に感触を思う存分味わい、のたうつオンナの姿を盗み見て、オトコは悦に浸っていた。  
「ひぅッ……ううッ………ひッ……あ、ンぁッ……はぁ……んぁッ…………ひぁッ!!」  
 フレイアの嬌声が一段と高くなる。  
 腰を捉まえている手はするすると前に移動して、指先で秘裂を軽く撫で上げると、ぐちゅりと音をさせて沈み込ませた。  
 金隠しを抱えるようにして、オンナは顔を床にと押し付けてる。  
「ん…んンッ…んぁッ……んふ…………はぁッ………」  
 くいくいっと、オトコの顔に舌を求めるみたいにお尻を持ち上げてる、そのぴんっと張ったふくらはぎが、何ともいやらしかった。  
 包皮を被ってる秘芯を剥き、指の腹できつめに転がすと、  
「ひゃうッ!!」  
 身体をびくんっと強く短く震わせ、靴の中で足の指を、キュッとするのがオトコにはわかる。  
 反応が面白くて何度も何度も、油断したときを見計らって繰り返す。  
 すると、  
「はひッ!?……んくぅッ……あ、………ひッ……ぅああッ!!」  
 フレイアは何度も何度も同じようにして、敏感になりすぎてる身体を跳ねさせ、牡なら誰しも持つ残酷な獣性を無意識に煽っていた。  
 身体からはむっとするような、牝の匂いが立ち上っている。  
 涎を垂らしているだらしのない顔も、ぞくりとするほど艶かしく色っぽい。  
「若い娘ってのは、やはりいいねぇ」  
 オトコはそう言いながら、ぬちゃりという音とともに、舌に粘度の高い糸を纏わせ、濡れ光ってる唇を舐めて顔を上げた。  
 同時にフレイアの膝がガクリと落ちる。  
「うぁッ……は……ん……くぅ……ふぁ…………ああ……………」  
 そしてその声がどこかしら、物足りない、というように聴こえたのは、にやついてるオトコだけではあるまい。  
 
 まるで催促するみたいにお尻をくねらせてる。  
「…………」  
 ごくり。  
 喉仏を大きく上下させて、オトコが生唾を飲み込んだ。  
 カチャカチャと慌しくベルトを外すと、それは偶然の一致ではあるが、フレイアと同じように、ズボンとパンツをまとめて引き下ろす。  
 口調こそ余裕ぶってはいるが、そんなものはオトコにもとっくにありはしない  
 具合を確かめるみたいに擦ってる逸物は、エグいくらいに笠が張っており、太い血管が浮き出て酷くグロテスクだった。  
 縦割れの唇から漏れてる先走りが、その印象をさらに深めている。  
「くくくっ……。今度はこれを使って、悦ばせてやるからね」  
 オトコを待ってるみたいに高々と上げているお尻を、なでなでと撫でてから、左の指先で秘唇の襞に触れ、牝の粘膜を外気にと晒した。  
 赤黒くなってる勃起を宛がい愛液を塗す。  
「……ん」  
 のろのろとした緩慢な動きで、フレイアが後ろを振り向いた。  
 見下ろしてるオトコと目が合う。  
 それがあらかじめ示し合わせていた合図だったかのように、醜悪な勃起がゆっくりと、フレイアの粘膜の奥へとめり込んできた。  
「!? うぁああッ!!」  
 相反する二つの感情に同時に襲われる。  
 嫌悪と歓喜。  
「んンッ……ぐぅああ……うう…………かはぁッ!!」  
 そして次の瞬間には自分の身体の最奥を、強引に支配しようとする肉の存在によって、オンナなのだという事を思い知らされた。  
 純潔を無残に穢された証が、太腿をぬるりと滑り落ちる  
 ぴちょん……。  
 トイレにまた一滴の、新しい水音が加わった。  
「何となくそうだそうだとは思っていたが、……くくくっ……嬉しいよ。きみみたいなオンナの子の、初めてを奪ったオトコになれて」  
 嘲笑う声。  
 処女を失ったばかりの身体に、得意気にオトコは覆い被さると、その横顔を舐め回すように見つめる。  
 流れてはいない。  
 けれどいまにも零れそうな涙が、瞳にはいっぱいに、自然と湧き上がる、少女としての悔しさで盛り上がっていた。  
 その涙を、  
「痛いのは最初だけだからね。泣かなくてもいい。すぐに気持ち良くしてあげる」  
 オトコは揶揄するように、瞳の上からぺろりと舐める。  
 フレイアの身体の全ては自分のものだと、この褐色の身体の全てを奪ってみせると、それは宣言するかのような行為だった。  
 だからこれも、  
 むにゅ……。  
「くぅんッ」  
 自分のものだというように、シャツに手を入れ、ブラをずり上げて、スタイルを壊さない豊かな乳房を、蠢く十本の指で独占する。  
 粘膜の温かさを堪能していたが、ぐちゅぐちゅと音をさせて、腰もリズミカルに動き始めていた。  
 
 好き放題に揉まれる柔らかな乳房。  
「あひッ!?」  
 じんわりじんわりと、焦らすかのように中心に快感信号を送られると、触れられてもいないのに、硬く起立していた乳首を捻られる。  
 それをしつこいほど続けられ、いつしか痛みなど忘れていた。  
「ンッ、ンッ……ふぅッ……はぁ……んぁッ……あ………あ!?……ああッ………ふぁッ!!」  
 雁首が抜けるぎりぎりまで肉の槍を後退させ、勢いをつけて強く、オトコはフレイアのお尻に腰を叩きつけてくる。  
 わかるのは悦楽の感触だけだった。  
 その性の暴力になすがまま、蹂躙されねじ伏せられる姿は、荒ぶる牡の征服欲を確実に満たしていく。  
 チュ〜〜。  
 首筋に強く吸い付いてキスマークを残すと、  
「まだまだ愉しみたいし愉しませてあげたいけど、おじさんはさすがにそろそろ限界だ。若いってのは羨ましいよ本当に」  
 オトコは上体を起こした。  
 腰を両手で掴むと、早く強く、抉り込むみたいに腰を打ち付けてくる。  
「はひッ…ひッ……あッ……はぁッ……ン……ふぁッ……ひッ……ぁッ……あ、ンぁッ……はぁ…………ふぅ……んぁッ……ひぁッ!!」  
 知識はなくとも本能で悟ったのかもしれない。  
 フレイアの口唇からは、艶のある甲高くも扇情的な声が、次から次へ数珠繋ぎに溢れてくる。  
「とりあえず……出すからね」  
「ひぅッ!?」  
 オトコは自分の限界を告げると、最後のトドメとばかりに、ぱくぱくさせてる肛門へと、親指を根元までずぶりと突き刺した。  
 目の裏でフラッシュがいくつも眩く輝く。  
「ンあぁッ……はぅッ……んンッ………あぁんッ……ふぅッ……ふぁッ……ひッ……うぁああ〜〜〜〜ッ!!」  
 あ、熱い。  
 身体の内側で欲望の塊をぶちまけられて、フレイアは成す術もなく、薄れ往く意識の中、それだけを考えて白い闇に呑み込まれた。  
「う、うぅううッ」  
 オトコはその間も滑稽なほどに、醜くぶるぶると腰を震わせ、己の精を最後の一滴残さず注ぎ込もうとしてる。  
「ふぅ〜〜」  
 それでも肉の槍をずるりと抜いたときには、ごぼりと音をさせて、膣口から、二人の体液が混ざり合ったものが勢いよく溢れ出した。  
 フレイアの下着の上にもたくさん溜まっている。  
 年齢相応に萎えかけたオトコのものが、それをじっと見ているだけで、十代の若者みたいに、急激に再び硬くなっていた。  
 しかしオトコはそこでチッと、子供っぽく舌打ちする。  
「残念だけど、ここで時間切れだ」  
 フレイアにパンツとスパッツを一緒に掴むと、ぐいっと、体液の水溜りを気にした風もなく、そのまま一気にに腰まで引き上げた。  
 ぐじゅっ  
「ひゃぅッ!?」  
 夢うつつではあるが、不快な感触に跳ねるオンナの身体。  
 濡れたまま履いてる靴下みたいな音がして、外から見てもスパッツに、うっすらとお漏らしのような染みができてる。  
「それじゃまた、試合の後でね」  
 オトコは自分の汚れたものは綺麗にティッシュで拭き取ると、フレイアをトイレに残して悠々と、焦った様子もなく出て行こうとした。  
 だが最後に思い出したように後ろを振り返る。  
「ああ、でも、あの猫ッ毛のオンナの子も気になるし、次の次になっちゃうかも、ごめんね」  
 意識のないフレイアに、そう一言謝ると、今度こそ去っていた。  
 
 
 終わり。  
 

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