「帽子女」(上)  
 
「ふー危ない…。  
思ったよりできるんで、手加減しそこねてしまいましたわ。  
足を入れなかったら死んでますわ…。」  
 
キサラ隊vs美羽・兼一、電車ガード下決戦は、  
キサラの敗北をもって事実上の終結をむかえた。  
武田・宇喜田の救出は見事に成功。  
これで「牛乳(ウシチチ)女」と罵倒された美羽の気持ちも収まった。  
兼一は友を助けることができたことに、ただひたすら感動した。  
新島はひとりの兵も失うことなく、完全勝利を収めた事実に満足した。  
キサラ隊は、新白連合軍団の到着をまえに、敗走を余儀なくされた。  
そして若者たちはそれぞれ勝利と敗北を噛みしめながら、家路についた。  
例外はただひとり。  
敗走の混乱の中、置き去りにされた南條キサラである。  
 
キサラ隊vs美羽・兼一「鉄道ガード下決戦」から数日後。  
ここは、あの鉄道ガードの横にある安アパート。  
そのいちばん線路際にある部屋の住人が帰ってきた。  
ガチャガチャとドアの鍵をあけるのは、マスク姿の巨漢。  
いわずと知れたマスクの先生である。  
 
「ああ今日も疲れた…。」とため息をもらすマスクマン。  
それもそのはず。  
今回の仕事は債権回収にからむ「人さらい」。  
丸一日かかりの重労働であった。  
たいへんな緊張と疲労をともなう仕事であるが、実入りは意外と少ない。  
「先生」とおだてられている割に、マスクマンの所得はわずかなものであった。  
これも極道界の最近の趨勢をみれば、いたしかたあるまい。  
現代極道に求められる三種の神器は「金融・IT・法律知識」。  
暴力の専門家などは、もっぱら「アウトソーシング」に頼っているのが現状だ。  
要するに組におけるマスク先生は、いわばパート扱い。  
固定したシノギは与えられず、ときたま与えられる「小遣い」もタバコ銭程度。  
給与は日払いで10kをわずかに超えるほどにすぎない。  
その日払い仕事にしても、けっして毎日あるわけではない。  
好物のチョコパすら、好きなだけ食べることすらできない貧乏暮らしである。  
 
低賃金・長時間肉体労働の疲れを癒す住処といえば、線路脇の薄汚い安アパート。  
日本人の住人はマスクマンただ一人のみ。  
隣は南米系の「芸能人」女性で、階下の部屋はどれもアジア系不法就労者でギュウギュウだ。  
マスクマンが扉を開けると、そこは六畳一間バス・トイレ付の狭くて汚い部屋。  
壁はボロボロ、畳は染みだらけ。  
排水口から染み出る得体のしれない悪臭が鼻につく。  
涙がでてくるような惨めな生活環境だが、マスクマンにはコレで精一杯だ。  
帰宅するたびに、自然とため息がでてくるが、もうどうにもならない。  
「ふう…人生うまくいかない時もあるさ…」  
部屋のすぐ横を走る電車の轟音(五分間隔)が、そんなグチすらかき消していく。  
 
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーッ  
 
電車が過ぎ去ると、落ち込む気持ちを振り払うように、マスクマンは首をふった。  
「いやいや、生きていればいいこともあるさ。  
来月こそ、新しいマスクを買おう。さすれば運も開けるにちがいない。」  
さすがはマスクマン。  
単純だけあって、気持ちの切り替えが上手である。  
「…それに今は、<帽子女>がいる。」  
気を取り直して向かった先は、バスルーム。  
マスクマンは、カビだらけのバスタブをうれしそうに覗き込んだ。  
バスタブのなかの<帽子女>は、身体を逆エビに縛られて寝かされていた。  
 
「どうだ<帽子女>?元気してたか?」  
 
ギャグボールをはずされるやいなや、<帽子女>は半泣きで「さえずり」はじめた。  
「お…おねがいだ…これを・・・このプラグをとってくれ…  
こ…これ以上我慢できない…んだ…  
うんちを…うんちを…させてくれ…お願いだ…お願いだよぉ…」  
 
目を血ばしらせながら、息も絶え絶えに懇願する<帽子女>。  
もはや説明の必要もあるまい。  
敗走の混乱の中で置き去りにされた南條キサラである。  
昏倒したキサラがマスクマンに拾われてからもう一週間。  
その間中、哀れな格闘美少女はただひたすら、責めなぶられ続けていたのである。  
 
その日マスクマンがキサラに下剤を仕込んだのは、出勤前の早朝のこと。  
帰宅は深夜だからキサラは、丸一日近くも荒れ狂う便意に耐えていたことになる。  
長時間におよぶ耐便の苦痛は、吹き出る汗と苦悶の表情をみれば、一目瞭然。  
あのプライドのカタマリのようなキサラが、涙を流して排便を懇願しているのだ。  
耐便の苦痛には、想像を絶するものがあるのだろう。  
だが他人の事情に無頓着なのがマスクマン。  
おそらくは鈍感なのだろう。  
耐便地獄に苦悶するキサラをヨソに、一方的な会話を始めてしまうのであった。  
 
「そうかウンコしたいか?  
ならば安心しろ。ここは風呂場だ。  
掃除はカンタンだから、いつでも好きなだけブチまけていいぞ。  
どうだ?私もなかなか気が利いているだろう?」  
 
からかっているのでもなければ、弄っているのでもない。  
苦痛を意図的に長引かせているのですらもない。  
自慢げに話しているトコロからみても分るように、マスクマンはいたって真面目だ。  
アナルプラグを抜かなければ排便出来ないというコトが、  
いつの間にか、スッポリと頭から抜け落ちているに過ぎないのである。  
 
「イヤ…だから…プラグを…肛門のプラグを抜いてくれ…  
そうすれば…うんちができる…うんちができるんだ…  
お願いだ…何でもする…苦しいんだ…うんちしたくって死にそうなんだ!  
オ…オチンポだってシャブるし…ケツマンコもする…何でもするよぉ…  
だから、うんちさせてくれぇ…頼む…お願いだ!…お願いだよぉーっ!」  
 
汗と涙で可愛い顔をグシャグシャにしながら排便を哀願するキサラ。  
そんなキサラの切なる声を、電車の轟音がかき消していく。  
 
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーッ。  
 
あの誇り高い格闘美少女が、排便したいと涙ながらに訴えているのである。  
普通のSMマニアやサディストなら、泣いて喜ぶような光景だろう。  
この哀願をダシに、責めを始めるハズだ、普通の人間ならば。  
しかしさすがはマスクマン。  
こんな心躍る光景には、まるで無関心。  
彼のみているのは、キサラの尿道に差し込まれた導尿管と尿パック。  
なにか子供時代にトラウマでもあったのだろうか。  
管が女性の陰部に差し込まれている情景に、ひどくご執心だった。  
 
「おや、小便袋が一杯になっているな。  
 さぞ辛かっただろう。すぐに楽にしてやるからな」  
 
マスクマンはしゃがみこんで、キサラの股間に差し込まれた導尿管をいじり始めた。  
しかしマスクの先生は生来の不器用者。どうにも手つきが雑で危なっかしい。  
尿道の粘膜がはぎとられるような痛みに、キサラは苦しみ悶えた。  
「ソッチはまだガマンできる…痛ッ!…だからオシッコは…ンアッ…  
待って…ちょっと待てくれ…ウッ・・・た…頼む…頼むから…人のハナシを聞いてくれ…アアッ…」  
「ン?今なにか言ったか?」  
と言いながらも、マスクの先生はサッパリ手を休めない。  
涼しい顔をしながら尿道菅をいじりまわす。  
 
「オォォォォ…そ…そんなに…力を込めるな…アアッ!…  
痛いんだ!すごぉーく痛むんだ…アヒィ!…。  
あ、ダメ・・・ダメだ・・・お願いだから、そーと、そーとやってくれ…ンアッ!…」  
「うむ、そうしよう。」  
そう言いながら、マスクマンは満身の力を込めて導尿管を引き抜いた。  
「ぐぎゃあああああああああああああーっ」  
キサラの絶叫が風呂場に響き、たまりにたまった小便が、噴水のように吹き上がっていった。  
そして電車は定刻どおりにアパートの真横を通過する。  
 
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーッ。  
 

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