風林寺家の女子教育
―梁山泊。
そこは、スポーツ化した武術や、技を極めてしまった達人たちが集う場所―
…そしてどこかワケアリな男女が集う場所でもある。
そんな梁山泊で、聞いてはイケナイ質問を連発するのが白浜兼一。
今風の若者らしく、繊細な割には、他人へのデリカシーというものがどこかしら欠けている。
「美羽の両親」、「武田の過去」など数々の「前歴」があるのは羞恥のとおりである。
その日も、馬剣星が「ケンちゃん、ダメよ〜!!!」と制止するのも聞かずに、ぶしつけな質問をぶつけていた。
今日の質問は、美羽への質問。
「なぜ美羽さんは(エロい) 全 身 ス パ ッ ツ を着ているのですか?」
なかなか微妙な質問ではあったものの、美羽の回答は実にアッサリとしたものだった。
「すばやく身動きができるからですわ。
伸縮自在の素材でできますから、どんな姿勢でもとれますのよ。
それにスカートのようにめくれるトコロがございません。
ですから、なんの心配なく動けますのよ。」
「ああ、そうですか。美羽らしくていいですね!」
これまたアッサリと信じてしまう兼一。
こんな重大な質問(?)に、美羽がまともに答えるワケがないはずなのだが、
額面どおりに受け止めてしまうあたりは、いかにも今風の馬鹿者らしいところであろう。
とはいえこれで単純に納得するところが、兼一の魅力でもあり、また美羽が兼一を気に入った理由なのであろうが…。
さて美羽の答だが、これは全くの大ウソであった。
美羽は聡明にして準備周到。
全身スパッツについて、いつなんどき、「教えて君」の兼一から尋ねられるか分らない。
だからそのときになっても慌てないように、あらかじめ表向きの答が準備してあったのだ。
表向きの答えがあるということは、裏の答があるということだ。
そしてこの裏の答こそ、本当の答であり、美羽の隠された本心である。
「体を殿方に見て頂くのは、女性としてのたしなみですわ。
見ていただくと、とっても気持ちが良いのですのよ。
でも兼一さん、いちばん兼一さんにご覧になって頂きたいのですわ。
兼一さんに御覧になって頂いてるときだけは、ふだんと違いますの。
そのときばかりは、何だかとても切ないキモチになりますのですわ。」
もし兼一がこんな美羽の心情を知ったら、きっと天にも昇る気持ちになるだろう。
いやいや。そんなものでは済まないかもしれない。
兼一のことだから、きっとその場で美羽のムチ乳やプリ尻にむしゃぶりついてくるに違いない。
だが世の中はそう兼一に甘くできていない。
おそらくスレ住人諸氏もお分かりになるだろう。
古風でたおやかな美羽としては、こんな本音は、死んでも口に出来ない、と。
全身スパッツを着用する本当の理由を、美羽本人が兼一に告げることは、おそらく一生あるまい。
(もし美羽がそんなことを話すとすれば、それはもはや我等の愛する美羽ではない。)
ともあれ美羽の性格は、古風なたおやかなぶりと、エロエロぶりの両面を兼ね備えているのである。
男性にとってはまことにオイシイ性格といえよう。
ではなぜ美羽はかくもオイシイ性格になったのであろうか?
話は、美羽の幼少期にさかのぼる。
当時の長老は、武道によって美羽を厳しく躾け、けっして甘やかさなかった。
これは美羽の将来を慮ってことである。
だが長老の厳しい教育方針にも穴があった。
男の長老は父親の役はできても、母親の役はこなせないのである。
母親がいれば自然と身につくはずの「女らしさ」をどうやって美羽に教えるのか?
美羽が成長するにつれ、こうした教育の必要性は増していくはず。
しかし女性固有の思考法や物腰の教育は、さすがの長老にも手に余るものがあった。
ある日、長老は考え込んでいた。
「フム、難しいのう…女らしさというシロモノは。」
そこに幸か不幸かくとおりかかったのが、甲越寺秋雨。
「おお、甲越寺君ちょうど良いところにきてくれた。すまんが「女らしさ」がどんなものか、教えてくれんか?
ワシはどうもコッチのほうは苦手でのう。」
「私などが長老に教えるなど僭越で、とてもとても・・・」
と一応は固辞する姿勢をみせる甲越寺秋雨。
しかし持ち前の「教える君」気質は止めようがなく、その後三時間にわたって甲越寺式女性論の講義が続くこところとなった。
「…と言う訳で、美羽に教えるべき女性らしさとは、これ即ち「長老の理想の女性像」なのです。」
秋雨の主張の当否はさておくとして、ともあれ長老はこの結論に満足した。
「なるほど。甲越寺君の話はいつもタメになるわい。」
秋雨がその場を辞した後、長老は早速自分の「理想の女性像」について考え始めた。
「ワシの理想の女性像は…と…。」
長老はゆっくりと考えを進めた。
「まずエロくなければ女ではない。
セックスアピールが強くて、男好きで、エッチが大好きじゃないとイカンのう。
まあミニスカや、胸がムチっと強調される服を、常時身に着けているような女じゃの。」
だがそのような女とは、いったいどんな女性だろうか?
長老は再び考えいった。
「そういえば、この前に行ったイメクラ"セクハラ女子大"の"香奈"ちゃんは、良かったのう。
上半身は素人っぽくって、いかにも清楚なお嬢様女子大生といった風情じゃったな。
でも下半身は股下ゼロセンチのミニスカとスケスケのヒモパンだけ…。
グフフフ、ありゃ良いの。ウム、良い。
やはり素人っぽさ、清楚さが全く無いとコレはコレでつまらんからな。
イヤ、"香奈ちゃん"は、モノホンの素人か。確か本業は普通のOLとか言っておったな。
これはワシとしたことが…フォフォフォフォ。」
もう何年間も素人女性と縁が無い長老。
知らず知らずのうちに、「理想の女性像」のイメージに、当時ご執心だった風俗嬢のイメージを重ねてしまっていたのである。
なお当時、有名ホストにいれあげていた“香奈”嬢の出店日は週5日。
実に仕事熱心なプロフェッショナルであった。
「しかしヤリマン女、エロ女の類をワシは好かん。
エッチは愛する男とだけヤルものじゃ。
例えばキャバクラ"プリティ"の"えみりちゃん"。
美羽も"えみり"ちゃんのように一途で貞淑じゃなければダメじゃのう。
しかしまあ、ワシ以外とはエッチしたくないとは、"えみりちゃん"も一途で可愛いのう。
まだ指名三回目だというのに…グフフフフ。」
付け加えておくが、結局のところ長老が"えみり"嬢と体をあわせることはなかった。
長老と店外デートを重ねること十数回。
それでもなお身体を許さなかった"えみり"嬢もまた、その道の達人であった。
「あと…やはり女なら、親切で、気配り上手のヤリクリ上手でなければ、イカンのう。」
長老はふと昨晩訪れたソープランド"百万石御殿"の"華蓮"嬢を思い出していた。
"百万石御殿"は長老にとって、久しぶりの高級店。
清貧生活の中で少しずつ貯めた資金を無駄にしないため、念入りに情報誌を吟味したうえで指名したのは、和服姿も床しい"華蓮"嬢。
かくして長老は、"華蓮"嬢の評判にたぐわぬご奉仕に、すっかりトロかされてしまったのであった。
長老の「理想の女性像」への知的接近はさらに続く。
「そう…例えば…湯加減から力の入れ加減まで、男への行き届いた気配りがあって…。
三つ指ついて男を迎え、また送り出すような、丁寧で古風な物腰があって…。
そうそう"華蓮"ちゃんは、料理上手の遣り繰り上手という話じゃったな…。
何でも売れない小説家の彼氏を支える為にソープで働いてる、とのことじゃったが、アレは美談じゃったな…。
さすがのワシも、思わずサービス料に心づけを加えて渡してしまったわい。
まったくもって"華蓮"ちゃんは偉い女じゃ…。」
どうやら長老は、今時珍しい泡姫の「泣き落とし」に引っかかったらしい。
孤高の武人の常として、長老もまた世間にうとかったということなのだろう。
しかし"華蓮"嬢は、泡の「技」でも並外れた感銘を与えたらしく、長老は実にご満悦であった。
再び昨晩の感銘を思い出したのか、突然長老の股間がムクムクと盛り上がってきた。
「フフフフ、ワシもまだまだ若いわ。血気盛んじゃ。
しかしずっとこのまま立ちっぱなのも不味いのう。
おーい、しぐれやぁー。しぐれはおらんかぁー?ちょっと来てくれぇー。」
じじいのエロ話はともかく、このような思索の結果出来上がったのが、風林寺家の女子教育方針であった。
それはトコトン男性にとって都合のよい女性を目指すもので、美羽が同性から嫌われるようになるのも、当然の帰結であったといえよう。
深夜の梁山泊。
誰もが寝静まったこの時間、たった一人起きているのは美羽である。
掃除、選択、炊事に雑多な家事一切。
これらに加えて家計管理までこなす美羽の一日は長く、ときに仕事は深夜まで続く。
「ふぅ〜今月もまた苦しいですわ…。」
どうやら今夜は家計簿をつけていたらしい
「…ただい…ま・・・」
そこに帰ってきたのは、例の「行き先不明」な外出をしていたしぐれである。
重労働からの帰りらしく、今回もすっかり憔悴しきってのご帰還だ。
「しぐれさん。お帰りなさい。疲れ様でした。」
「美羽…これ…いつもの…」
「あら、いつもすみません。今月は馬さんの鍼灸治療院が不振で苦しいんですのよ。
でも、これで今月もしのげますわ。しぐれさん、本当にありがとうごまいます。」
「…ボクは…接客態度が…悪いから…振替のフリー客ばかり…。
それでも…チェンジされて…ぜんぜん…稼げてない…。」
「そんな事ないですわ、しぐれさん。
しぐれさんは、梁山泊の稼ぎ頭ですのよ!まさしくナンバーワンですのよ!」
やさしく慰める美羽だったが、しぐれは納得していない様子。
「ボクも…業界デビュー…した頃は…こうじゃ…無かった…。
ナンバーワンに…なったことも…あった。性格も…こうじゃ…無かった…し…。」
いつものようにダウナー全開になったしぐれ。
こうなると、さすがの美羽もなかなか口を挟みにくい。
「ボクは…もう…ちょんの間…にでも…流れていくしか…ないの…かな…。」
「ダメです!しぐれさん!そこまでやってはいけませんですわ!
もともと、しぐれさんだけ働くのがいけないのですわよ。
私も働きますわ!」
「…気に…するな…。
ボク…のことは・・・いい…。大丈夫…だ…。
…それに…美羽は…未成年だから…まだ…無理…だ…。まだ…。」
とはいえ、風林寺家女子教育の真価が泡技の世界で試されるのも、そう遠い未来ではあるまい。
梁山泊の財政状況をかんがみれば、それはもはや時間の問題と言えよう。
そして美羽が働ける年齢になったら、ナンバーワンの座も夢ではない。
そうなった暁には、私(注・筆者)としては是非とも即尺即ベッドでお願いしたいところである。
おそまつ。