二人はいつもより添い歩く  
たとえ悲しみが襲っても  
きっと二人で乗り越えられる・・・  
 
まだ彼女は海の上に浮かんでいる気がしていた。  
まどろむ意識の中でふと気付く。  
「あぁ、夢か」  
彼女は柴田純、警視庁捜査一課弐係長である。  
 
そうだ、私たちは生きてあの島を出たんだ・・・・  
 
柴田は8年前のとある事件現場にいた。  
あの島を出て、警視庁に戻ってきてからもう2ヶ月も経っていた。  
その間に、ありとあらゆる未解決事件を解きまくっていた。  
失くした者たちの穴を埋めるような作業、そして自らの欲求から。  
 
「あ、いた」  
 
聞き覚えのある声がする  
この声は・・・  
「真山さん」  
「ったく、いつまで寝てんだよ。ゴミかと思った」  
吐き捨てる言葉とは逆に温かみを含んでいる。  
「あれ?今何時ですか」  
「7時だよ。7時!」  
「夜の・・・?」  
「おまえさ、昨日の昼からここにいなかった?」  
「あー。そうかもしれません」  
バシッ  
「それより、真山さんどうしてここへ?」  
「最近おまえ張り切りすぎてるから、そろそろ過労死するかもって」  
「心配してくれたんですか」  
「まーな」  
最近の真山はどことなく優しい。今まで以上に。  
柴田はそんなことを考えながら  
少しだけほっとした。  
「柴田」  
「はい?」  
「・・・お前くせぇ」  
「そうですか?」  
すっとぼけたように柴田が答える。  
「死ぬほど臭い、とっとと帰って風呂入れ」  
真山はそう言いながら柴田の背中を押して帰るように促した。  
 
 
帰宅した真山は驚愕した。  
玄関をかけた先にさっきまでの現場に佇んだゴミのようなものを見た。  
柴田だ。  
「あ、真山さん。お帰りなさい」  
柴田は資料を散らかしながら言った。  
「お前不法侵入って言葉知ってる?犯罪。犯罪だよ!!」  
「その昔頂いた鍵で入っちゃいました」  
すかさず真山の手首が振れる。  
「洒落になんねーよ!家帰れよ!!風呂・・・まさか」  
「はい。お借りしようかなーと。あの現場から比較的近いので、またすぐ行けちゃいます」  
柴田は笑顔で言う。  
真山は、はー、となんだかよくわからない溜息を吐き捨て  
ネクタイを緩めながら風呂場へ消えていった。  
そして10分後戻ってきて  
無言のまま、捜査資料と戯れる柴田を急に横抱きにした。  
「え、あっ、ま真山さん?」  
柴田の呼びかけに応答しないまま柴田を抱き抱え歩く。  
「真山さーん!聞こえてますかー?これ・・お姫様だっこ・・・ですよね」  
ちょっと憧れていたんです。と柴田が言うと同時に、真山は柴田を浴槽に入れた。  
それも服を着たまま。  
真山は激しくムカついていた。  
こんな無茶苦茶をやるこの女と、それを受け入れてしまう自分に。  
「あの真山さんって服を着たままお風呂に入るんですか」  
「うるせー。服のまま入るのはお前だろ。あの島で、お前服着たままだったじゃん  
変なのはお前なんだよ」  
「あの時は海の塩分を洗いたくて」  
「どっちにしろ変だよお前は。俺なんかになついてんじゃねーよ」  
そう言いながら湯船のお湯を柴田の顔にかけながら頬を手の甲で撫でた。  
柴田は気持ちよさそうに目を瞑る。  
「お前さ、働きすぎ。少しは休め。体待たねーだろ」  
「はい」  
そうしてずぶ濡れになった彼女を抱き寄せ  
驚くほど優しく瞼にキスをした。  
 
                          終わる  
 
 

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