「しーばたぁー?」  
 
 
弐係の薄暗いオフィスで真山が柴田を呼ぶ。返事はない。  
溜め息をひとつ漏らし、またか。と小声でつぶやいた真山が、煙草をふかしながら調書が並ぶ棚を奥へと進んだ。  
そこにしゃがみ込む柴田の姿が見える。  
「おい柴田ー?」  
もう一度呼ぶ。しかしまたも返事はない。  
顔をしかめた真山は少し苛立ちの交った声で更に呼ぶ。  
「柴田ー。」  
「あ、真山さん。どうしたんですか?」  
ようやく気付いた柴田は何食わぬ顔で真山を見上げた。  
「どうしたんですかじゃないよ。お前さ、わかってんの?ねぇ。」  
明らかにわかっていない柴田の顔を見た真山は、煙草を消して顔をしかめた。  
「お前さー、今何時だと思ってんの?」  
真山の問い掛けに腕時計を見た柴田は、呆気らかんとして答えた。  
「12時ですが…何か問題でもあるんでしょうか。」  
そんな柴田の態度に、真山は苛立ちを隠せなかったが、どうせこうなると、どこかでわかっていた自分がいた…そう考えると力が抜け、苦笑いがこぼれ落ちる。  
しかしながら、譲れないことがひとつあった。  
「お前さ、昨日もここで調書読み明かしたろ。」  
「なんでわかったんですかー?真山さんすごいですー。」  
いつも通りの柴田の答えに幾分落ち着いて来た真山だったが、冷静な口調で言い放った。  
「たぶんおとといも。その前も?わかるよ。だって服3日くらい変わってないし?そんで、頭臭いし。」  
「だって、調書読んでたらいつの間にか朝なんですよー。」  
バシッ。  
いつものように柴田の頭を叩く。「お前女としての自覚あんの!?なぁ。どうせ今日もここに泊まるんだろ。だったらお前さ、今すぐ署内のシャワー室借りてシャワーだけでも浴びて来い!」  
そう言ってまた柴田の頭を叩く。  
 
「いたっ!真山さん痛いですよー。」  
「わかったから早く行けよ!」  
「もー…」  
少し膨れた様子で頭を抑えぶつぶつ言いながら、柴田は弐係を出て行く。  
出て行く柴田の背中を見つめながら自分のデスクに腰かけ、煙草をふかしながら真山は考え込んだ。  
今日は柴田が目を付けた継続事件の捜査に遅くまで付き合わされた。帰ろうと思えば帰れたのに結局最後まで付き合ってしまった。終電には間に合わない。どこかでこうなることがわかってたはずだ。あの柴田だぞ?  
そう考えながら2本目の煙草に火をつけた。あの女が隣にいることが最近じゃ当たり前だ。それに少なからず安らぎめいたものを感じてる自分…。真山は煙草を加えたまま小さく笑った。何かが吹っ切れたみたいだった。  
 
「真山さぁーん。シャワーしてきましたー。」  
柴田が弐係に戻って来る。  
 
「そういえば真山さん、帰らないんですか?」  
柴田が髪を掻き交ぜながら聞いた。真山は立ち上がり煙草を消した。少し歩くと調書の棚によっ掛かる。  
「お前がさー、捜査に付き合わせるから終電逃したんだけど。」  
「あ!そういえばもうこんな時間でしたね。」  
笑いながら言う柴田に、真山は冷静に言い放った。  
「責任取ってもらわないとなー。どうしてくれんだよ。」  
「あ、じゃあご飯おごりますよー!」と言って柴田はポケットを探る。手の平には100円玉が3つ。「あれー。」  
おどけた様子で真山を見上げる。真山は片方の眉を上げ、柴田を睨む。  
「だって、私あんまりお金持ち歩かないんですよ。そんなに怒らないで下さいよ真山さーん。明日から3日ご飯おごります!」  
「だめ。許さない。無理。」  
 
「じゃぁどうすればいいんですかー!」  
また少し膨れた柴田を睨みながら真山がゆっくりと近づく。  
「わかんないの?」  
「わかりませんよ。」  
きっぱりと言い放つ柴田。  
そんな柴田に近づき、壁に追い詰めた。  
「頭の…悪い、女だねぇ」  
柴田の瞳をしっかりと捕えてそう言った真山は、ゆっくりと柴田に唇を重ねた。  
触れるだけの軽い行為。驚いた柴田は瞬きも忘れ、真っ直ぐに真山を見上げていた。  
「何してるんですか。」  
相変わらず瞬きひとつしない。真山は少し笑った。  
「柴田、お前さ、なんで今まで事あるごとに俺を守ろうとした?自分が撃たれてまでさー。ねぇ。なんで?普通する?そこまでさ」  
意外な質問に、柴田はようやく瞬きをする。  
「なんでと聞かれましても…」  
そう言いながら真山から目をそらし、頬を赤らめた。  
そんな柴田を見て、真山は優しく微笑んだ。  
「それでいいよ。もうわかった。俺もお前と同じ気持ちだ。」  
そう言うと、柴田を抱えてソファーにゆっくり寝かす。  
今度は深く、柴田と唇を交わす。ゆっくりと舌を絡めながら真山は柴田のブラウスに手をかけた。  
「柴田、ちょっと背中上げて。」  
「…こうですか。」  
少しできたソファーとの隙間。真山は起用にブラのホックを外す。「ひゃっ」と悲鳴に近い声をあげる柴田。  
真山は間をあけずに柴田の胸の突起を口に含み舌で転がした。もう片方の手でゆっくりと体のラインをなぞった。次第に柴田の口から甘い声が漏れ出す。  
「真山さん…」  
「なに。」  
「なんか…なんか、変な感じです…」  
「それでいいの。その変な感じが気持ちいいってことなの、な。わかる?」  
「あ…はい…。なるほど…」  
真山は苦笑いをこぼし、行為を続けた。段々と熱くなる柴田の身体。重そうな長いスカートをめくり上げ赤いパンティを躊躇なく脱がした。  
「そんなに見ないでくださぃー…」  
柴田は恥ずかしそうに顔を背けた。  
「見えねぇよ。ほら、暗いから。な。」  
 
くちゅっと卑猥な音をたてながら真山の中指が柴田の中にゆっくりと入れられた。  
慣らすように優しく出し入れすると、苦悶に満ちた柴田の表情が変わり始める。同時に親指では膨らんだ蕾をこねる。  
一層甘い声を漏らす柴田。ドクドクと溢れ出す甘い液体を指で感じながら真山はYシャツを脱ぎ捨てた。  
そして柴田の入り口に自身を宛てがう。  
「柴田ー、力抜け」  
「無理です」  
真山は少し笑って小さく溜め息をついた。  
「柴田、お前さー、よく未来の旦那様…とか言うけど、どんな人がいいの。」  
「…真山さんがいいです。」  
意外と真剣な答えに、呆気にとられた真山は、動揺を隠すように続ける。  
「俺はお前みたいな頭の臭い女は御免だね。毎日風呂に入るって約束しろ、だったら結婚してやってもいいよ。」  
「毎日か…せめて一日おきに…」  
とか色々ぶつぶつ言いながらすっかりリラックスしている柴田を真山は見逃さない。隙をついて一気に自身を沈めた。  
「あっ・・!真山さ・・」  
あまりの衝撃に驚いた柴田に、「いいから。大丈夫だから力抜け。な」  
真山はそう答える。  
柴田は素直に身体の力を抜き  
「・・はい。」  
と返事を返した。  
 
そして真山はゆっくりと動き出した。苦しそうにしていた柴田が次第に甘い声を漏らす。  
それを見計らった真山が段々と動きを早めた。  
「ぁ・・あっ・・ん…真山さ・・真山さん……」  
何度も、何度も自分の名前を呼ぶこの女。  
「…柴田…」  
無意識に、自分も柴田の名前を呼んでいた。  
柴田が一層高く甘い声を漏らす。そして柴田の締め付けが一層強くなった。  
それを合図に真山も低い呻きを上げ、同時に達した。  
 
ハァハァと息を切らしながらふと柴田をみると、達するのと同時に意識を手放したのが見て取れた。  
 
真山は片方の眉を吊り上げて少し笑い、柴田にそっと毛布をかけた。  
そして煙草に手を伸ばすのだった…  
 
 

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