クーラーの効いたコンビニのガラスの自動扉から一歩足を踏み出した途端、
日が暮れてもまだたっぷり熱を含んだアスファルトから伝わってくる不快な熱気に襲われ
真山は顔を顰めた。
「この時間になってもまだ暑いですねぇ」
そう涼しい顔で呟く女は、汗を吸い取らなさそうな化繊のブラウスに重たい色の厚手のスカート、
ご丁寧に刺繍を施したサマーウールのカーディガンまで着こんでいる。
「お前を見てるとさらに気温が上がったように感じるよ。」
季節感のない柴田を爪先まで遠慮なく見下ろし、気休め程度にネクタイを緩めた。
「真山さん、私もう1軒行きたいんですけど。」
「柴田さん、俺もう風呂入って寝たいんですけど。」
「え、まだ20時ですよ。」
「あのね、定時って知ってる?」
駅のほうへと足が向いている柴田の襟を掴んで引きずるように帰路についた真山は
ふと斜め下から立ち上る慣れ親しんだ臭いに深い溜息をついた。
「なあお前、最後に風呂入ったのいつ?」
「やだ、真山さん。公衆の面前でそんなこと・・・」
「何想像してんだよ。エロ女。頭臭いんだよ。昨日風呂入ってないだろ。」
柴田の笑顔がひきつる。
「昨日はちょっと・・・気づいたら弐係で寝ちゃってて」
「一昨日は?」
「・・・。」
ばしっ
「痛っ」
頭を叩いた後の手のひらに残る油っぽさに顔をしかめた真山は、それを柴田のカーディガンで拭い去ると
そのまま柴田の腕を掴んで足を早めた。
自分の部屋に入るなり、脱いだスーツをハンガーに掛け
全裸のままYシャツと靴下と下着を洗濯機に押し込んだ真山は、風呂場の中から柴田を呼ぶ。
「これはまさか」と玄関先で立ち尽くしていた柴田は
段々と不機嫌さを増していく真山の声に、慌てて部屋に上がった。
「あの、私一人で・・・」
「早く脱げよ。」
柴田の躊躇う声は、遠慮も思いやりもない真山の言葉に掻き消された。
何故一緒に入るんだろう、と疑問を抱きながらも身に纏っていたものをおざなりに畳んで床に置き
恐る恐るユニットバスの中に足を踏み入れた。
そこがいつもよりも明るいと錯覚するのは羞恥心のせいだろう。
ところどころ黄ばんで見えるくすんだベージュのシャワーカーテンに手をかけた柴田は
鼓動が早くなっている自分の裸の胸に手を当て、緊張を軽くしようとゆっくりと息を吐いた。
幾度か真山とともに夜を過ごしていたものの、
一糸まとわぬ姿を見せるのは常に真山のベッドの中でのことだ。
電気を消した上で布団を被ったままでの行為を柴田が譲らないため
明るいところで何も身につけていない姿を見られたことはない。
きゅっと蛇口を捻る音がしてシャワーが止まった。
躊躇ったまま開けることができなかったシャワーカーテンが動き、真山が顔を見せた。
ぽたぽたと真山の濡れた髪から零れ落ちる水滴に見とれていると
見つめあっていた真山の視線が下へ下へと落ちていくのがわかった。
隠そうと胸の前で組んだ腕を掴まれ、バスタブの中へ入るように促された。
蛍光灯に晒された胸と下半身を隠そうと前屈みになりながら
バスタブの縁を跨ぐと、濡れた床に足を捕られ滑りそうになった。
抱きつくような姿勢になって、真山の硬い腕を意識してしまい
慌てて身体を離した。
「今更何やってんの。」
「見ないで下さい。お嫁に行かれなくなります。」
「今更何言ってんの。」
初めてはっきりと目にした柴田の病的とも言える真白い肌と、
華奢な身体に似合わぬふくよかな乳房、隠そうとする腕の隙間から覗く赤い膨らみに
思わず反応しかけた真山だったが
誤魔化すようにシャワーヘッドを持ち上げて蛇口を捻った。
「ひゃっ」
突然頭上からシャワーの水を掛けられ、柴田は慌てて目を瞑った。
メンズ用のシャンプーのミントの香りが鼻を擽る。
スースーする冷たい感覚と、少し荒っぽく髪をかき混ぜる真山の指の心地よさに
柴田はいつのまにかうっとりしていた。
「真山さん、上手ですね。」
「ガキの頃、飼ってた犬を洗うのは俺の役目だったからね。」
普通の女が聞いたら気分を害しそうな発言にも柴田は気にも留めず
たっぷり水気を含んだ髪を絞ると、真山のほうへ振り向いた。
石鹸を泡立てたスポンジで身体を擦っていた真山が、柴田にそれを投げてきた。
真山の不躾な視線から逃げるように
おざなりに身体に擦りつけ、洗い流そうとすると泡のついた手で頭を叩かれた。
「お前、そんな洗い方してるから臭えんだよ。ほら、貸せよ。」
引っ手繰るようにしてスポンジを奪い取った真山は、
柴田の腕を取り、丁寧に洗っていく。
ごわごわしたスポンジは肌理の細かい柴田の肌には刺激が強く、擦ったところが赤くなった。
眉を顰めた真山は直接素手で石鹸を泡立て、撫で擦るように柴田の肌を洗い上げていく。
それは普段ベッドの中でされている愛撫と然したる差はなく
柴田は唇を噛んで羞恥に耐えるのだった。
「どこもかしこも細っせーな。」
観察するような視線と真山の冷めた声に、
柴田はいやらしい想像をしているのは自分だけだと顔を赤らめた。
真山に抱きしめられるように引き寄せられ、背中を滑る真山の手が柔らかい臀部を掴んでも
反応をしたら変に思われる、と真山の胸元に顔を埋めて遣り過した。
柴田をバスタブの縁に腰掛けさせ、爪先からくるくると弧を描くように石鹸を撫でつけていく。
真山の指が内腿あたりで躊躇うように彷徨い、驚く柴田の表情を確かめるようにじっと見つめながら
無防備な下腹部へと下りていった。
薄い陰毛に撫でつけた石鹸が泡立ち、それを擦りつけるように襞をめくる。
熱を持ち、ぷっくりと腫れてきた肉壁の奥からとろりと粘性を持った愛液が溢れ出た。
泉の奥へと指を差し込むとようやく、柴田が真山の腕を強く掴んだ。
睨むように見上げてくる柴田の眼光は弱く、目の縁を赤く染めて眼球は潤んでいる。
「・・・指、抜いてください。」
それを無視して第二関節まで埋めた中指をゆっくり出し入れすると、
柴田の粘膜がねっとりと吸いつくように絡みついてくる。
ぴんと尖って主張している乳首を口に咥えて舌で転がすと、甘い体臭に混ざって石鹸の味がした。
籠った湯気のせいか、全身を愛撫されたせいか、柴田の肌は薄い桜色に染まって熱を帯びていた。
今まで暗闇の中で組み敷いていた柴田の肉体がこんなにも煽情的だったとは、何だか損をしていた気分になった。
薄い陰毛の奥を分け入って真山の指が動いている。
まだ経験が少ないからか、きれいなピンク色をした柴田の中はぎしぎしと軋むほどに狭く
それでいてひくひくと痙攣して真山を誘っている。
そこから絶えず溢れてくる蜜を指で絡み取り、めくり上げ顔を見せた突起に擦り付けた。
狭い浴室の中に卑猥な水音と柴田の喘ぐ声が響く。
じっと自分の中を見つめる真山の視線に柴田は気が狂いそうだった。
それも愛撫の一部なのだと、初めて知った。
「・・・見ないで」
柴田の必死な懇願にも、真山は意地悪く口角を上げるだけだ。
「なあ、知ってた?お前のここ、すげー腫れて大きくなってるぞ。」
羞恥で赤く染まった柴田の耳朶に痛みを感じるくらいの力で歯を立て、耳元で煽るように囁いた。
「それは、真山さんも一緒じゃないですか。」
顔を真っ赤にして言い返しながらも、それを直視できない柴田に苦笑する。
「そりゃ、やりたくなってるからね。」
と動じずに答えると、柴田は照れたような困ったような顔を見せた。
「触ってみる?」
柴田の手を取りそこまで導くと、柴田はさらに困った顔をしながらも
こくん、と頷いた。
「こんなふうになってたんですね。わ、また大きくなった」
恥ずかしさを誤魔化すようにわざと明るく振る舞うが、
目が合った真山に全て見透かされてると気づいたのか唇を噛んで黙った。
手のひらで包み込み、ぎこちない仕草で撫で擦ると真山は思わず腰を引いた。
「すみません。痛かったですか?」
「いや。」
慣れない手つきが快感を煽るのか、焦った表情の真山が腕を掴んで
腰かけたままだった柴田を引っ張りあげると
強引に唇を割って舌を捻じ込んだ。
それまでは消極的だった柴田も真山の首筋に腕をまわし
自ら舌を絡め、真山の舌に吸いついた。
「やるぞ」
小さく呟いた真山の声に動きを止め目を瞬かせた柴田の腕を掴んで後ろを向かせ
濡れたタイルの壁に手をつかせた。
腰を掴んで前屈みにさせたところで、ようやく事態を飲み込み焦った柴田が真山を制止しようとした。
「ね、真山さん。ベッド行きましょ」
「このままでいい。」
「ダメです・・・あっ」
真山の一部が蜜が溢れ出る柴田の割れ目にあてがわれた。
すでに太腿までもぐっしょり濡らしていた柴田は
多少の軋みを伴いながらも容易く真山のそれを飲み込んだ。
ぐいっと奥まで押し込まれ、首筋に吸いつかれた柴田は熱い吐息とともに小さく悲鳴を上げた。
こんな姿勢で真山に抱かれるなんてこれまでになかったことだ。
真山は後ろから覆い被さるようにして柴田の腰を掴んで激しく突き上げながら
痛みを感じるギリギリの強さで胸を揉み、抓んだ乳首をこりこりと捏ねた。
途端、柴田の中がぎゅっと狭くなり、収縮を繰り返した。
面白がって動きを止めると、柴田が無意識に腰を揺らした。
そのまま前に手をまわし、ぐちょぐちょに濡らして卑猥な音を出している泉の中に指を突っ込み
大きく膨らんだクリトリスを弄りながら、奥を抉るようにゆっくりと出し入れを繰り返した。
「あ、は、あぁあ、ん……真山さ…ん」
声が響くのを嫌って唇を噛んで耐えていた柴田も
これには抑えることができず、途切れ途切れのか細い声で幾度も真山を呼び
そのままびくびくと身体を震わせた。
初めて目の当たりにした柴田の官能的な肢体や表情に真山の箍が外れたというのか
膝を震わせて崩れ落ちそうな柴田を許さず、一度身体を離し柴田を振り向かせ
抱き合う形で再度挿入すると、さらに荒っぽく激しく腰を打ちつけた。
すでに絶頂を迎えすっかり力が抜けている柴田を自分に抱きつかせたまま壁に押しつけ
片足をバスタブの縁に乗せて脚を開かせ、下からすくい上げるように突くと
柴田は嗚咽を漏らし首を大きく横に振り
意識が朦朧としてきているのか呟くように「いい」と「だめ」を繰り返した。
果てては引き戻され、人が変わったような強い力で蹂躙され
恐怖すら感じていた柴田は必死に真山の名前を呼んで耐えた。
快感が背筋から脳天に突き抜けるような感覚に襲われ、真山は限界を迎えた。
涙混じりに自分の名を呼ぶ柴田の声にうっすら残った理性が働き、慌てて身体を離すと
白濁した熱い迸りが柴田の腹部から太腿のあたりにかけて飛び散った。
力を失ってぐったりしている柴田を抱きかかえて風呂場から運び出し
ベッドに寝かせると恨めしそうに睨んでくる柴田と目が合った。
悪い、暴走した。と口に出したらひどく間抜けに聞こえるような気がして
真山はベッドに腰掛けながらちらちらと柴田に視線を送ることしかできなかった。
ベッドに突っ伏したままの柴田はいまだに目に涙を溜めて
赤く染まった胸を上下させている。
慣れない体にはさぞや辛かっただろう。
「殺す気ですか…」
「セックスじゃ人は死なないよ」
「腹上死ってあるじゃないですか。激しい運動による心不全です。」
「エリート刑事さんが部下の貧乏刑事とヤッてる最中に腹上死となったらすげースキャンダルだな。
お偉いさんたちは何が何でも殉職扱いにするだろ。なんなら試してみる?」
「おじさんのくせに頑張りますね。」
「若い彼女の体力についていこうと必死なんだよこれでも。」
「……」
「冗談だよ。」
「わかってますよ。」
言い合いができるくらいには回復した柴田に安心して隣に転がると
柴田が甘えたように胸に頬を擦りよせてきた。
湿った髪が張り付いて気持ち悪かったが、
先ほどの自分の暴挙を思って我慢することにした。
「ね、布団取ってください。」
「自分でやれよ」
「じゃ、こっち見ないで下さい。」
「何を今更。お前の見てないとこなんてないよ。」
「あ…もしかしてその為に一緒にお風呂入ろうと…?」
「何言ってんの?汚い犬を洗ってやったんだよ」
「心臓早くなってますよ」
「うるせえよ。腹上死させるよ」
真山は悪態を吐きながら柴田の湿った髪に鼻を埋めた。
「汗くせー」
「誰のせいですか。」
おわり。