「くせぇ」
「え?」
「だから、頭臭いんだよ。分かる?」
「…ぅ」
日常に戻ってからというものの柴田と真山はいつもとなんら変わりない生活を送っていた。
がらんとした弐係のオフィスに惜しげもなく資料を広げてブツブツと朗読している柴田の背後にはヒマそうにタバコをふかしながらも彼女を待つ真山。
柴田の肩に顎を乗せて資料を覗く真山は真っ先にそう呟いた。
「…真山さんだってタバコ臭いです」
「俺はいいの、歯だって毎日磨いてるし?ましてや風呂だって入るしシャンプーリンスぐらいするし」
「………ぅ」
「それに比べてうちの係長は最近余計に“継続事件”に対して余計に張り切りのめり込み、家に帰らず何日目ですか」
「たかが一週間ですが」
「た・か・が?くせぇんだよ」
「痛っ!」
真山は思わず柴田の後頭部をひっぱたいた。
「な、何するんですかーっ!」
「バカ、なぁバカだろ?バーカ、バーカ!」
「そんな耳元で言わなくたっていいじゃないですかー!!」
いつものノリに見えていた、周りからすれば。
事件に集中し過ぎて周りの見えないボケ柴田とそれに対して激しくツッコミをかます真山。
しかし………
「…お前、仕事し過ぎ。」
「…、……。」
あの“島”から帰ってきた二人にとって現在の自分達はとても不自然だった。
特に、柴田は。
しかしそれも仕方の無い事だろう。
厄神島から脱出、偶然通りかかった船に救出されて警視庁に戻ってきてやっと知った事実はあまりにも残酷だったのだから。
…親友のような存在だった、彩。
…色々と助けてくれた、壷坂。
朝倉の“呪い”に殺された二人の存在は柴田の心に傷を作った。
それを忘れる為なのか柴田は余計に仕事に打ち込むようになったのだ。
「…犯人…、もう少しでわかりそうなんです……」
「へぇー?すごい検挙率ですね係長」
「ありがとうございます」
「褒めてない」
「ぁっ…」
びたん、とまたひっぱたかれると柴田はバランスを崩したのかまるでドミノのように前のめりにぶっ倒れた。
「へ?柴田ぁー?」
なんか「お尻臭い虫」になった、エラーで「もちつけ」言われたorz
………
……
柴田は夢の中で彷徨っていた、美しい海岸を歩いて探し物をしていた。
わすれないって、どうしたらいいんですか?
わからないんです。
だから、もう一回……もう…一回…
赤い霧が張る中を、ひたすら泣きながら歩く柴田は誰かを探していた。
ただ、何も無い海を足掻きながら…。
「おとうさーん…、麻衣子ー…、彩さーん…、壷坂さーん…っ…。……あ…」
そして、霧の向こうに影が見える。
たくさんの影は手招きをしているように見えた。
…呼んでる、そう思った柴田はその霧の向こうへゆっくり歩き出した。
「今…行きます…、だから…ちょっと待ってくださーい…」
ゆっくり、ゆっくりと進んで近づこうとがんばった。
しかし暫くすると耳元を何かが掠めた。
「……?」
何か、掠めた物は“声”だった。
ボソボソと耳に聞こえる低い声…、柴田は思わず立ち止まり目の前を見た。
「え…?」
手招きをしているように見えていた影は柴田を追い返すように“あっちに行け”という動きをしていた。
来たら、アカン。柴田はまだ、生きていて。
「でも、でも……っ…」
しーばーたーっ。
「あ…、彩さん…?」
真山さんくれてやってん、あの人置いてきたら私が承知せんで?
「……ぁ…っ…」
一瞬、ぼんやりとしか見えなかった影がハッキリと“会いたい人達”に見えた気がした…が、刹那。
柴田はひっぱられるような感覚に襲われ海の中へ吸い込まれた。
「彩さん…っ!…あれ?」
「うぉ?」
慌てて飛び起きると、柴田は柔らかい布団のぬくもりに違和感を感じて辺りを見回した。
何度か入った事のある殺風景な部屋は金魚の水槽が端っこにあって見慣れたスーツがフローリングに脱ぎ散らかされている。
「…、あれ…」
「やっと目が覚めましたか、弐係長?」
「真山さん…?」
「魘されてたぞ、お前。」
ベッドの下にはスウェット姿の真山が背中を向けながら座っていた。
声をかけられ、魘されてたと言われ柴田は思わずぱちくりしながら頬に触れると涙の粒で指が濡れた。
…そうか、自分は泣いていたのか。
そう気づかされた柴田は先程までの夢を思い出して俯くと暫く沈黙した。
「…お前、アホでしょ?」
「……」
「たく…、せめて寝て飯食えよ。そんなんじゃお前死ぬよ?過労死、ダサいよ?」
「…すみません。」
真山のいつものツッコミに素直に謝る柴田。
その間も真山はこちらに見向きもしないで金魚をずっと見つめていた。
真っ暗な部屋で水槽の真っ青な照明だけが二人の形を照らしている…。
「……柴田」
「……はい」
「お前、さ。」
「……」
「そんなんじゃ木戸も他の奴らも、逝くにいけねーだろ」
「……っ」
真山の口から出た言葉は、柴田にとってとても意外だった。
一言告げられ、部屋は沈黙に包まれた。
柴田にはどう言葉を発すればいいかわからなかった。
何を言えばこの人を困らせないで済むかずっと考えていた。
柴田は、真山に心配させない為にひきずってる自分を見せないように捜査に没頭していた。
それがかえって自分の過労によって彼に迷惑をかけて、更に…。
「柴田ぁー、答えろー」
「…すみません」
「謝罪はいいから」
「……、…」
「………柴田」
「…っ」
俯くと急に自分の視界に真山の顔がずいっと割り込んできた。
鋭い真山の2つの眼球が柴田を捉える、なんだか全てを見透かされたような気持ちになって柴田は震えた。
「真山さ…ん…?」
「柴田ぁー…たく、お前は」
「なん…、…っ…」
その時、言葉を封じるように唇を唇で乱暴に塞がれた。
そのまま乱暴に押し倒され、両手で柴田の頬を覆われ、長く長く。
柴田は驚いてパッチリ目を見開いたままキスを受けていた、すると一回唇が離れて額にばちんと一発食らう。
「痛っ!」
「目ぐらい閉じろ」
「でもっ、ん…っ!」
そしてまた噛みつくような真山の接吻に驚いてしまうも長くそれが続くごとに強張った柴田の体の緊張は抜けていった。
瞼はとろんと下がっていき唇の力は緩み、その全てを真山に委ねる。
すると真山の舌が隙をついて柴田の咥内に侵入して舌を絡めあった。
長く濃厚な接吻は何分続いただろうか、やっと舌が離れると唇と唇を唾液の糸が伝っているのがわかった。
柴田から見た真山は暗くて表示が見えない、逆に真山からはだらしなくとろけた柴田の表情がうっすらと青白い照明で見えていた。
それでも、互いに解る。
荒く間隔の狭い息づかいと、いつの間にか繋いでいた掌と掌で。
「ん…ぁ…っ」
「…、柴田…」
「な…なんでしょうか…?」
「…今から犯すぞ」
「はい…、えっ!?」
「今更驚くな」
「いたっ。」
せっかくのムードをぶっ潰すかのように驚く柴田の額をまたぶったたくと真山は柴田の耳元に唇を寄せながら衣服に手をかけた。
「やっ、ま…っ、真山さ…っ」
「うるせー…」
耳たぶを軽く噛みながら器用に真山はカーディガンとブラウスのボタンを外していきあっという間に柴田の下着が露わになった。
病的に真っ白で痩せた肌に小ぶりだがしっかりした胸と…恐らくベージュの色気もないブラジャー。
(なんでパンツが赤のレースなのに上下お揃いじゃねーんだよ…、俺を萎えさせる気が?そうなんですかこの弐係長は?)
心の中でツッコミを入れながら見てられないブラジャーは要らんと言わんばかりにさっさとずらして直に片手で露わになった乳房を弄び始めた。
最初は優しく撫でるように撫で、次第に自分も“柴田なんかで”興奮してるのか強く揉みしだくようにしたり乳首を摘んだりと自分の欲望のままに刺激をし始める…、すると柴田も面白いように艶を帯びた声を漏らして握ってない片手を真山の頭ね延ばしてぎゅっと抱きしめが…。
「こら、柴田ぁ〜…」
「な…んですか…っ…?」
「それじゃ乳首舐めれない」
「ぇ…っ?―――…っ!!」
真山に促され抱きしめた腕を緩めるとそのまま貪るように指で弄っているのとは反対の乳房に食らいついた。
乳首を座れながら舌を転がされ、驚きと刺激で柴田は声にならない声を漏らして悶えた。
しかし暫く乳房を弄っていると知識豊富(?)な柴田から意外な言葉が発せられた。
「ま…やまさぁん…っ、んぁ…っ…!」
「んー…、…」
「ぉ…っぱい…っ、ばっか…っ…」
「…っ。お、下も寂しくなった?」
聞いてすぐはその意外さにぱちくりとまばたきをしたがすぐにいつものニヤリとした笑みを零して弄っていた手を離しゆっくりと柴田のスカートをずらして秘部を隠す赤のレースに指の腹で触れた。
「…なんだ、下着までビショビショじゃん」
「…ま、真山さんのせいですっ!」
まぁ考えて見れば柴田だっていい歳の女だし自慰ぐらいするだろう、コイツもしっかりした“女”なんだと確認してなんだかホッとするとそのまま下着を器用に脱がして秘部の奥に指を押し挿れた。
「ァ…っ!」
「でもキツそうだな…」
このまま柴田の中に入って自らの欲望を満たしたいとは思うのだが、万が一柴田が処女だった時を考えて(まぁ確実処女だろうが)気を使って指でねちっこくソコを刺激していくと柴田のナカがきゅうと指をしめつけてきた。
しかし蜜はそれ反して手首に伝う程に溢れてきてグチャグチャと音を立て…。
「や、ぁっ、真山さぁん…」
「んー…?」
「も…ぅ、いいんじゃないで…すか…?きっと…大丈夫…です…っ…」
すると突然柴田から真山に促し始めた、自分からゆっくりと足を開き真山を誘うようにスカートをたくしあげる。
…しかし真山にはわかったいた、柴田が俺を気遣って促してくれてると。
証拠にカラダがガクガクと震えている、涙も溢れて顔をだらしなく汚していた。
「…あのね、子供はそうやって強がんないの」
「子供じゃない…です…っ、柴田で…す…っ…」
「はいはい…」
でも、そんな柴田すら本当は真山には愛しいものだった。
天才の癖に普段はバカな柴田。
オシャレに関心が無くて臭い。
天然の割に実は弱い柴田。
共に捜査して、共に生き延びた柴田。
こんな奴、愛してねーと抱けねーよ。
真山は片手で自らの下半身を露わにすると熱く反りたった自らを花弁に押し当てた。
「…柴田」
「はぃ…っ…」
「……愛してる」
言葉と共に、ズルッとナカに真山が侵入していった。
「―――…っ!!!!!!」
「柴田…っ、力…抜け…っ…」
声にならない悲鳴が柴田から発せられ、ナカがぎゅうっと締め付けられた。
やはり初めてだったのだろう、ギチギチのソコは真山をちぎるかのようだった。
しかし真山もその快感を抑えきれないらしく痛みに悶える柴田をきつく抱きしめながら腰を揺らしていた。
「…はっ、ま…やまっ…さぁん…っ!」
「柴田…ッ、…」
「わ…たし…ッ、私ぃ…っ…!」
次第に柴田の喘ぎ声が快感の悲鳴に変わっていき、響く蜜の音と共に彼女は男の腕の何かを訴えよう何かを言い始めた。
「なんだ…っ?」
「私…っ、私こんなに…ッ…、しあわせでいいんでしょうか…ぁ…ッ…?」
「…っ…、バカな奴……だな…っ」
「ぇ…ッ?…ぁんっ…!だ、めぇッ!飛んじゃいますぅう…ッ!!!!」
「いいぞ、イけ…ッ…!」
「ぁ…ッ!―――――!!!!!!」
………
……
情事の後、二人は暫く疲れ果てベッドに横たわりながらもずっと手と手をしっかり繋いで抱き合っていた。
互いにもう離さないように、そう想いながら。
「…真山さぁん……」
「ん…?」
「さっきの返事…、聞かせてくださーい…」
「…ああ、アレね。」
いつもなら誤魔化したりからかったりして柴田をいじめるだろう。
しかし今回だけは真山も素直に口にした。
「お前が幸せじゃねーと俺が困る、それでいいじゃねーか」
「……真山さぁん…」
「だから、お前は俺の為に生きろ、笑え。あと飯食って風呂入れ。」
俺の幸せとお前の幸せはアイツらがくれた幸せなのだから、そう心の中で言い聞かせてまた真山は柴田の額にキスをした。
「ぁ…、……私も…愛してます…」
「ん………」
そして真山は照れ隠しにまた一言呟く。
「頭、くせぇ。」