「今日はそんな気分じゃないんです。」  
 
柴田は申し訳なさそうに顔を背けた。  
首筋を這い回っていた真山の唇がぽかんと開き、覗き込むように柴田に視線を遣る。  
「生理だっけ?」  
「・・・違いますけど。」  
視線すら合わせない柴田の頑なな態度に  
真山はすっぱり諦めたかのように柴田の胸元から手を離した。  
「あ、そ。じゃやめとくか。」  
そっけない真山の声と、離れていった手の寂しさに  
急に罪悪感と不安に襲われた柴田は  
煙草に手を伸ばした真山のYシャツの袖を掴んだ。  
「・・・怒ってますか?」  
「怒ってないよ。」  
真山は滅多に感情を顔に出さない。  
いや、何もしていなくても不機嫌に見えるタイプだ。  
「ほら、怒ってる。」  
不安げに見つめてくる柴田を安心させるかのように柴田の髪をかき混ぜた真山は  
大きく開いたままになっていたブラウスの前を合わせてやった。  
「怒ってないって。」  
いつになく真山に気を遣われてることに腹を立てた柴田はどんどん語気が荒くなる。  
「男の人ってやめろって言われて、はいそうですかってやめられるものなんですか。」  
「自分からやめろって言ったのに随分突っかかるね。」  
「はぐらかさないでくださいよ。」  
「はいはい。まあ、できるよ。今もヤリたかったってより惰性で始めたみたいなもんだし。」  
「酷い・・・。真山さん、ホントはしたくなかったんだ。」  
「んなこと言ってねーだろ。」  
「私が下手だからですか?私じゃ満足できませんか?」  
「あのな、柴田。」  
宥める為に抱きとめようとした真山の腕をすり抜けた柴田は  
散乱している荷物をトートバッグに放り込み始めた。  
数箇所ボタンが留まっているだけで下着が丸見えになっているブラウスの上に  
毛玉だらけのカーディガンを着込み、真山に向き直った。  
 
「ちょっと、私行ってきます。」  
「どこにだよ。」  
「ちょっと練習してきます。」  
「練習?」  
「彩さんが言ってました。歌舞伎町には男の人を喜ばせるお店がいっぱいあるって。」  
「何それ。」  
「女性がナースや女子高生の格好をして、男性と架空のシチュエーションを楽しむお店とか。」  
「あー、イメクラ?」  
「あと、男の人がお風呂に入って、マットでマッサージしてもらうと気持ちいいそうです。」  
「お前、それソープじゃ・・・」  
「ちょっと教えてもらってきます。」  
 
この女、どうやら本気らしい。  
 
「待て。あのな、イメクラっていうのはな、ただ病院ごっこやおままごとするわけじゃない。」  
「そうなんですか?」  
「その後女が男をイかせるんだよ。口とか手を使って。」  
「え!」  
「ソープもな、ただ一緒に風呂入ってマッサージするだけじゃねえよ。」  
「違うんですか?」  
「店によっては本番までOKだったりするからな。」  
「本番?」  
「本当に客とセックスするんだよ。」  
「ええっ!そ、それって売春じゃないですか!」  
「そうそう。だから俺らのお仲間が摘発するわけよ。」  
教えを仰ぐ学生のように真山の話に聞き入っている柴田は大きな瞳で瞬きを繰り返す。  
「結局風俗ってのは全部一緒。最後は抜いてもらうのが目的なんだから。」  
「抜く?」  
「あー、男を気持ちよーくするのがそいつらのお仕事ってわけ。」  
「そうなんですか。知りませんでした。それにしても真山さん、随分詳しいんですね。」  
嫌味ではなく本当に感心している柴田の尊敬の眼差しに、後ろめたさいっぱいの真山は目を背けた。  
「え?・・・・・・あ、あのな、もしお前みたいな世間知らずのお嬢ちゃんがそんな店に見学に行ってみろ。  
研修だなんて言って経営者に好き放題ヤラれちゃって、一日何人も客取らされて  
本番やらされて、変な病気貰って・・・警察クビだよ、クビ。」  
「それは困ります。」  
「わかったら変なこと考えるな。・・・な?」  
諭すような真山の口調に柴田は小さく頷いた。  
「じゃあ私も手とか口でします。」  
導き出した柴田の答えは常人には理解できないものだった。  
「何でそうなるんだよ。お前はしなくていいの。そういうのはお金貰ってるプロのおねえさんのすることだから。」  
「え、でも本には「レッツトライ!」って書いてありましたよ。」  
「何でもかんでもマニュアル本鵜呑みにするな。」  
「でも真山さんはプロのお兄さんじゃないのにわたしのあそこ舐めるじゃないですか。」  
「・・・お前ね。」  
女の恥じらいを説くべきか思案に暮れる真山をよそに、柴田はさらに畳み掛ける。  
「真山さんばっかりずるいですよ。私にもやらせてください。  
真山さんがダメって言うなら、他の人で練習しちゃいますよ。」  
「・・・わかったよ。好きにしろ。」  
諦めの交じった真山のなげやりな言葉に、柴田はぱっと満面の笑みを浮かべた。  
 
 
ベッドに浅く腰掛けた真山の足元に座り込んだ柴田は、  
昔読んだHOW TO本に書いてあったことを必死に思い出していた。  
「大体、その気になれないって言ってた女が何で積極的に舐めようとしてんだよ。」  
「さ、脱いでください。」  
「ムードも何もあったもんじゃねえな。」  
「真山さんもそういうの気にするんですね。」  
「お前、すげーむかつくんだけど。」  
水槽の青白い光だけの真山の部屋は薄暗く、ぼんやりと浮かぶ真山のシルエットが動いた。  
腰の下まで落しただけのスエットに、真山の抵抗が伺える。  
「で、どうすればいいんですかね。」  
「わからないならやるな。」  
「もー。怒らないでくださいよ。じゃ、失礼します。」  
柴田の手が恐る恐る真山の股間に触れる。指先の冷たさに真山は思わず腰を引いた。  
「お前、手冷たいよ。」  
「すいません。えーと、ソフトクリームみたいに舐め上げるって書いてあったな。あれ、どっちが上だ?」  
「うっわ」  
いきなり柴田の舌が真山の先端に触れた。根元に舌を這わせるとそのまま先端まで舐め上げた。  
少しだけざらついた暖かい感触に真山は思わず声を上げてしまった。  
「あれ?何か違いますか?」  
本のみで得た知識に加え、経験豊富な男からのアドバイスが何一つない状況で  
自分の行為に自信が持てない柴田は、真山の些細な反応にもいちいち手を止める。  
「いや、おかしくないよ。」  
「良かった。」  
歯を立てないように、と言い聞かせながら奥まで咥え込み、  
唇で撫でるように上下にスライドすると真山が息を呑む気配がした。  
ビクビクと動いた真山の先端が柴田の上顎にこすりつけられ、柔らかい頬の肉が吸いつくように真山のものを包む。  
先端の窪みに舌を這わせると真山のものを伝って唾液がこぼれ落ちそうになり、柴田が慌てたように指で拭う。  
その刺激に喉の奥から呻くような声を漏らした真山を上目遣いで見つめ、根元を親指と中指で扱いた。  
空いているもう一方の手で真山の内腿を撫で擦ると、口の中のものがさらに大きくなった。  
先走りの苦味に驚いた柴田が思わず唇を抜くと、苦笑いの真山と目が合った。  
 
「気持ちいいですか?」  
「うん。」  
嬉しそうに微笑んで唇を咬んだ柴田が正座を崩して、再び真山の脚の間に顔を埋めた。  
柴田の顔に掛かる長い髪の毛をかきあげて耳にかけてやると、  
いつもは白く透き通るような肌が火照って汗ばんでいることを知った。  
そのまま首筋を伝い、いい加減にボタンが留められたままだったブラウスの中に真山の指が侵入する。  
ブラジャー越しに柴田の胸のふくらみを確かめ、隙間から差し込んだ指で尖った胸の頂を弾いた。  
捏ね回すように擦ると柴田が短くため息を吐いた。  
「何で触るんですかぁ」  
「ん?気持ちいいから。」  
困ったような表情を浮かべた柴田の濡れた唇に魅入った真山は、  
床に座っていた柴田を抱き上げ、抱き合って跨ぐ様に膝の上に座らせた。  
「まだ・・・最後までさせて下さい」  
「もういいよ。」  
「やっぱり下手でしたか?」  
表情を曇らせた柴田に唇を重ね、舌を捻じ込むと  
柴田が応えるように細い腕を真山の首に巻きつけてきた。  
口内を愛撫するように刺激しながらすっかりそそり立っている自身を衣類越しに柴田に押し付けると  
驚いたように目を見開いた。  
「いれたい。」  
耳朶を甘咬みされ、耳元で囁かれ、柴田は腰がぴりぴりする感覚に襲われた。  
真山は柴田のブラウスをブラジャーごと剥ぎ取り、完全に露になった白い乳房に唇を寄せた。  
「硬くなってる。」  
尖って主張しているピンク色の小さな乳首をきゅっと摘み、爪でひっかくと柴田が身を捩った。  
口に含んで舐めまわし、舌先で突き、歯で挟んで引っ張るように刺激を繰り返すと  
柴田は我慢できないとばかりに胸元に埋めていた真山の頭を掻き抱いた。  
膝上まで捲くれ上がったスカートの中に手を突っ込んだ真山は  
レースの下着の脇から指を滑り込ませ、柴田の下腹部を撫でた。  
「ひゃっ」  
指先で襞を掻き分けると、柴田がいやいやをするように真山の肩に顔を埋めた。  
「まだ触ってないのに、すげー濡れてるよ」  
蜜で溢れた中心に指を埋めると、柴田の熱い肉壁がねっとりと絡みついてきた。  
「ほら。」  
埋めた指を動かすと蜜が指に纏わりついて、くちゅくちゅと音を立てた。  
合わさった胸と胸の間で柴田の柔らかいふくらみがつぶれている。  
抱き返すと硬くなった胸の先端が擦れたのか、柴田が体を震わせた。  
「まだしたくない?」  
緩く曲げた指で円を描くように柴田の中を擦り、煽るように耳元で囁いた。  
わざと音を立てるように大きく指を出し挿れすると、  
息を漏らすように喘いでいた柴田が小さく声を上げた。  
「したい・・・」  
眉根を切なげに寄せて鼻にかかったような声で求めてくる姿は、  
いつもの野暮な柴田からは考えられない。欲情してる女そのものだ。  
柴田を抱きかかえたまま履いていたスエットを器用に脱ぎ捨てた真山は  
重いウールのスカートを脱がせ、湿った下着を引き下ろし、  
柴田を腿のあたりに乗せたままベッドに寝転がった。  
 
「このまま挿れてみ」  
促すように脇腹を撫で擦ると柴田が困ったように真山を見下ろす。  
「この体勢でするんですか?」  
頷いた真山に急かされ、柴田は仕方なく腰の位置を合わせた。  
先ほどよりもさらに大きくなっている真山のものにそっと手を添えると  
弄りつくされて熱く腫れあがっている襞の奥にあてがった。  
恐る恐る腰を落とした柴田の内部が、真山を絡めとった。  
「重くないですか?」  
「身体預けろよ。」  
「でも・・・」  
何を遠慮しているのか腰を浮かせ気味にしている柴田の両膝を掴み、そのまま持ち上げた。  
腰が沈み、身体の芯を深く突き刺されるような感覚に柴田はひっと息を呑んだ。  
「何か、いつもより奥まで・・・」  
「痛い?」  
柴田はううん、と唸るような声で返事をして首を横に振った。  
身体を下から揺すられて、繋がっている部分が疼く。  
柴田は自分の腰が勝手に揺れていることに気づいて思わず赤面した。  
 
「いい?」  
羞恥心からか快楽に浸りきれない柴田を諌めるように目を細めた真山は  
弾んでいる二つのふくらみを下から持ち上げるように揉みしだき、  
桜色の頂点に吸いついて緩く歯を立てた。  
前のめりになったせいで、柴田の膨らみきった蕾が真山の硬い肌に触れ  
悲鳴のような嬌声をあげた。  
「ああっ・・・ひっ・・・ん・・・」  
目を閉じて切ない声を漏らし、我を忘れたように腰をくねらせ  
快楽を貪る柴田はいつになく色香を纏っている。  
腰が上下に動く度に繋がっている部分から蜜が溢れ、互いの太股までべっとりと汚した。  
出し入れを繰り返す度に  
ぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てているところへ手を伸ばし  
濡れそぼった突起を指の腹で捏ねると、柴田の中がきゅうっと締まり、真山を苦しめた。  
 
「まや・・・ああ・・・真山さ・・・いっちゃ・・・いそうなんですけど・・・」  
もはや大きく息を吸い込んだだけでも達してしまいそうな柴田は  
小さく息を吐くように懇願し、手をぎゅっと握り締めて指を絡ませてくる。  
「いけよ」  
両手で柴田の腰を支えると、下から激しく突き上げた。  
「んぅ・・・あぁっ!」  
絶頂の波に翻弄されきゅうきゅうと締めつけてくる柴田に  
真山も堪えきれず限界を迎えた。  
2,3度大きく突き上げると、そのままびくびくと痙攣しながらたっぷりと精液を注ぎ込んだ。  
細かく身体を震わせていた柴田が絶頂の余韻に浸るように大きくため息を吐き  
そのまま真山の胸に倒れこんだ。  
 
肩に頭を預け、はぁはぁと苦しそうに荒い呼吸を繰り返している柴田の唇を  
咥えるように口づけると、舌が探す間もなく絡みついてきた。  
まともに息が出来ずに頭がぼうっとしながらも  
ねちっこい真山のキスにうっとりした様子の柴田は  
火照りのおさまらない頬を真山の胸にこすりつけた。  
「なんか・・・腰がガクガクしてます」  
絶頂の名残で感じやすくなっているのか  
汗ばんだ柴田の肌を楽しむように滑る真山の指が柴田の脇腹を辿っただけでも身体が震えた。  
 
柴田の中の真山が急速に力を失っていき、抜け落ちそうになっても  
二人は折り重なったまま動かなかった。  
 

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