今夜開催される合コンの人数合わせの為に、柴田を誘いに弐係にやってきた木戸が
勢いよくアルミの扉を開けた瞬間、聞こえてきた柴田の甘えた声に思わず足を止めた。
「やっ・・・怖い・・・」
薄暗い弐係奥の書庫から、柴田の震え気味の声と衣擦れの音が響き
常にない空気を感じた木戸は息を呑んだ。
こ、これはまさか・・・。
大胆やなぁ。さすがのあたしでも会社でエッチしたことはないで。
「怖くねえだろ。」
「ま、真山さん。やっぱやめます。」
「何でだよ。ここまできたんだからやるぞ」
「ひっ・・・乱暴にしないでくださいよ」
真山さんってやっぱ強引なんやなー。
ま、ちょっと乱暴にされたほうが燃えるときもあるけどな。
「届かない・・・この体勢きついです」
「脚、上げてみろよ。」
「やだ・・・入らない・・・」
そっか。柴田は処女やもんな。
しかし真山さん、初体験がこんなところって容赦ないなぁ。
「入れるところ、ちゃんと見ろよ。」
「きつい・・・。本当にここに入るんですか?」
「そこしかないだろ。押し込んでみろよ。」
「え、だって汚いんですもん。」
「お前が汚いとか言うな。」
「だって昨日はちゃんとお風呂入りましたよ。」
「いいから早くしろよ」
衛生面気にするならこんなところですんなっちゅうねん。
「だって、揺れちゃうんですもん。ちゃんと支えててください。」
「腰支えてんだろ。いいから早くしろよ。」
「これ真山さんがやったほうが早くないですか?」
「このくらい自分でやれよ。」
しかしこの男は優しさっちゅうもんがないんかい。
どんな非道な男でさえエッチの最中は優しくなるやろ、普通。
「あー。もういつまでやってんだよ」
「真山さん、動かないでくださいよ。やだ、ギシギシいってる。」
「お前こそ動くなって。危な・・・」
「やっ、怖い」
「バカ、暴れんなよ」
「あっ、あっ、あっ・・・きゃー!」
「バカバカバカ」
焦ったような二人の声と、ドーンという大きな物音に物陰に潜んで様子を伺っていた木戸が飛び出した。
「な、何してんねん!激しすぎやろ、あんたらー!」
書庫の奥には大きな脚立が転がっていて、
派手に散乱している調書の中に困り顔で立ちすくむ柴田と、不機嫌そうにため息をついている真山がいた。
「あれ?服着てる?」
「服?」
「あ、いや。ハハ、何でもない。」
真山の鋭い眼光に、木戸は作り笑いで誤魔化す。
「彩さーん。真山さんが全然手伝ってくれないから書庫の片付け進まないんですよー」
「お前が脚立の上で暴れるからこういうことになるんだろ!」
「いてて」
数発柴田の頭に鉄拳をお見舞いした真山は、通路を塞いでる調書の山を足で押しのけた。
「さ、あとは木戸に任せて帰るぞ。柴田」
柴田の腕を取ってすり抜けようとした真山の腕を掴んだ。
「はあ?何でアタシがあんたらの尻拭いせなあかんのよ。」
「フーン。何を想像してたんですかね?木戸さんは。柴田に教えてやれよ」
真山がニタニタ笑っている。
「・・・ああ、そやな。後はアタシに任せて。気をつけて帰り〜」
「え?あ、はい。じゃあ、彩さん。おつかれさまですー」
倒れた脚立を起こし、散らばった調書をかき集めていると虚しさに襲われた。
「くっそー。欲求不満なんかな・・・。」
空調の落とされた弐係には木戸の呟きが響いていた。