夕方になり、橙に染まる秋の空の下、バランスの悪い二人が歩いていた。  
「π屋」と書かれたピンク色の小さな旗が目立ち、周囲の目をひきつけていた。  
それでもパイは売れない。  
片方は女、小柄な体に小さな美しい顔、ネクタイと制服を身につけている。  
もう片方は白い服を身につけ、パイを入れた首にかける籠を持っており、同じ  
宣伝文句を言い続けていた。  
 
半分キレかけていたパイ屋のエンシュウだったが、港の近くにある大きな建物の  
近くに来ると笑みを浮かべ、少女に「頑張って」と言った。  
少女は右手で敬礼をすると急いで建物へと走っていった。  
 
少女、いや銭形零は会場へと走った。  
入り口に立っていたマスコミたちが零を発見すると、たちまち近くに近づき  
マイクを向けた。  
「あ、あなたが発明した発明品というのはどういうものなのですか?」  
記者は少し動揺していた、なんせ15歳の女子にインタビューするのだから。  
「あの、発明っていっても、暇つぶししてたらできちゃった物なんですけど・・・・」  
零は少し謙虚に、そして嫌がりながら答え、インタビュー会場に入っていった。  
すぐそこに、姉の愛、泪、舞を見つけた零は笑顔を浮かべ話しかけた。  
 
「久しぶり。」  
「久しぶりね、零」  
九州地方で活躍していた零は他地方で活躍する姉妹と会うのはひさしぶりだった。  
最初に口を開いたのは泪だ。零同様、嬉しそうに笑っている。  
その後も4人で会話を楽しんだが、そう長くは続かない。  
 
忙しそうに関係者が走ってきて、準備するようにといった。  
 
インタビューの席が目前へと近づいてきた4人の携帯が急に同時に鳴った。  
ほぼ同時に4人が携帯を開いた。  
「警視庁から入電中!警視庁から入電中!」  
いつもの呼び出しだ。  
こんな時に、と思った4人だったが、内容を聞くと急いでインタビュー会場から飛び出した。  
 
銭形姉妹が作った、寝ているときに夢を見れる発明品が何者かに盗まれた。  
犯人からの要望は銭形姉妹だけで、「指定した廃墟のビルに来い」というものだ。  
 
「ここ・・・なの?」  
泪は廃墟を見ると唖然した。  
高く聳え立つものの、鉄は錆び、中でともっているはずの光はほとんどが  
壊れ、窓のガラスは不気味に地面に飛び散っている。  
 
次の瞬間、舞の携帯がなった。  
「まず最初は舞君だ。」  
低い声が携帯から聞こえてくる、その声は犯人のものに間違いなかった。  
電話が切れるとほぼ同時に舞の背後にバタッ という音が聞こえた。  
「え?」  
舞が振り向くとそこには倒れている愛、泪、零の姿があった。  
「ちょっと皆どうしたの?零、お姉ちゃま?」  
体をさすっても、喋りかけても、何の反応も無い。  
「大事なのは、君が前に進むという事だ」  
今度は携帯からではなく舞の耳に直接聞こえた。  
「だ、誰なの?お姉ちゃま達は?」  
「今教える事は出来ない。とにかく前に進むのだ。」  
 
 
 

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