小夜が池のほとりに腰を下ろして、  
つま先で水を跳ね上げるのを俺は見ていた。  
木漏れ日に反射して、きらきらきらきら、  
飛び散る雫を俺はじっと見ていた。  
ふと、小夜が振り返っていたことに俺は気づく。  
頬が熱くなるのがわかった。  
俺は・・・赤くなっているのかもしれない。  
小夜が恥ずかしそうに俯いた。  
だから俺は、腰まで水に浸ったまま  
岸辺にいる小夜のところまで歩いていったんだ。  
見上げる小夜の顔に、水面の光が反射して瞳が輝いた。  
・・・笑うなよ、小夜。  
・・・そんなふうに笑ったら・・・。  
 
水に浸していた腕が自分でも知らぬうちに動いていた。  
胸の中に小夜がいる。  
小夜の髪が俺の腕にかかった。  
俺の肩に触れているのは小夜のやわらかい頬。唇。  
髪の間からのぞく白い首筋。  
どうしてそうしたのかわからない。  
小夜を抱きしめてそして、俺は小夜の唇を吸った。  
俺の腕の中で小さな体が強張る。  
池に引き込んでしまったのか、濡れた袖がたゆとうのが分かった。  
硬く強張った体が、いつしか俺の胸によりそっている。  
小夜・・・。小夜・・・・・!  
腕にこめた力が、小夜を苦しくしたのか、息がつまったのか  
腕の中で小夜はもがいていた。  
だけど・・・だけど俺は!  
俺は・・・離したくなかったんだ。  
小夜が俺から離れようと、激しく水を叩いた。  
ふいに耳に入ってきた水音にはっとして、俺は腕をゆるめた。  
つかんでいた小夜の手首が、赤く・・・。  
小夜は泪をためて、頬を染めて、俺を見つめた。  
頬に一筋泪が伝った。  
 
「・・・小夜」  
水面が凪いでいく。  
俺達は大きな波紋の真ん中にいる。  
木漏れ日にきらめいた泪がまっすぐに池に落ちて、俺はまばたきもできずに小夜を見つめていた。  
小夜が俺の手をとって、自分の袂に導いたからだ。  
冷たく冷えた指先に、ほのかなふくらみが触れる。  
小夜の髪から、雫が落ちた。  
「・・・小夜」  
また名前を呼ぶ。  
応えるように、小夜の目からは泪が流れ落ちる。  
「・・・なんで泣くんだよ」  
取り戻そうとする俺の腕を、小さな両手が必死につかんで胸のふくらみを与え続ける。  
ふくらみに手でつかんでも、逃げない。  
「・・・小夜」  
呼べば、目を伏せてまた、泪をこぼす。  
「小夜」  
開いた襟元からのぞく乳房の線。  
「・・・なんで泣くんだよ・・・」  
それは、俺が自分に言った言葉。小夜の言葉。  
じっと俺の目をみつめて頬を染めて小夜は静かに泪を流した。  
俺の腕をぎゅっと握り締めて。  
 
何で泣くのか、俺はきっと、知っていたんだ。  
江戸にいくから。俺は。  
俺は。土方さんの、小姓だから。  
だから俺は・・・・・。  
 
俺は空いていた左の手で小夜の頬の泪をぬぐった。  
でも、手が濡れてしまっていたから、あまり変わりはしなかった。  
相変わらず間抜けな自分にちょっと笑って、小夜から目をそらした。  
「・・・小夜、上がろ?濡れちゃったよ」  
 
小夜の顔が見れない。  
右手の中にある熱い鼓動は俺自身のものなのか、小夜のものなのかがわからない。  
俺の右手を押さえていた小夜の手から、力がぬけた。  
俺はそっと、小夜の袂から手をひきぬいた。  
その手を小夜の小さな肩において、小夜を促す。  
「・・・小夜?」  
小夜はうなだれるようにして俯いて、水の中に立っていた。  
どのくらいふたりでそうして、水の中で向き合っていたのだろう。  
ゆらゆらと小夜の帯が水に揺れていたのを覚えている。  
 
その帯の先が水を叩いたから、俺ははっと目をやった。  
気がつくと小夜は自分の背中に手をまわし、帯をほどこうとしていたんだ。  
水を含んでしまった結び目は固く重かったのか、ゆっくりと、  
少しづつ帯が水にひきこまれていく。  
俺は動くこともできずにそれを見つめていた。  
小夜の着物の前が開いて、襦袢の色が視界を掠めた。  
小夜の肩から着物が落ちる。  
襦袢の色が、ひらひらと動く。  
そして小夜は、一糸まとわぬ姿になってまっすぐに俺を見た。  
水に映る光が、小夜の白い肌の上で踊っていた。  
 
ぴしゃん・・・。  
水音がしたと思った。  
次の瞬間、小夜の顔が俺の胸に押しつけられていたんだ。  
心臓が早鐘のようにうつ。  
体の中心で熱くなっている俺自身に小夜の脚があたるのがわかった。  
とっさに肩を抱きとめて逃げようとした。  
小夜に、俺のよこしまな気持ちを知られてしまうのがこわかった。  
小夜は上気した頬で俺を見上げて、いやいやをするように頭をふった。  
そしていきなりだった。  
 
「っなっ・・・!」  
水の中で熱くなっていた俺のそれを、小夜の両手がふいに握ったんだ。  
「なにすっ・・・」  
驚きと甘い痺れが心臓を貫いた。  
反射的に俺は小夜の肩を激しくつかんでいた。  
小夜の髪がはずみで大きく揺れた。  
でも、小夜は俺を一生懸命握ったままだった。  
頬を赤く染めて、その手は震えていたけれど、唇をきゅっと結んで  
見つめる目は真剣だった。  
「小夜っ!」  
誰かに見られてたら、俺はさぞかし滑稽なことだったろう。  
大事なものを好きな子に握られてうろたえている。  
小夜はいよいよ頬を染めて必死の顔をして、何度も何度もかぶりをふった。  
目から泪が零れ落ちる。  
 
「・・・だめだっ、小夜っ、俺・・・」  
情けない声。  
肩をつかんだままで、小夜を引き離すことができない。  
小夜に握られた俺自身が、熱く脈打っているのがわかっていた。  
どくどく、と心臓がすごい速さで打ち続ける。  
息が荒くなっていくのが自分で分かった。  
「・・・俺っ、・・・俺はいかなきゃなんないんだぞ。  
・・・きっとすげえ辛くなる・・・から」  
何言ってんだ、俺。  
分かってるなら小夜の手を今振り解いて、小夜を遠ざければいいのに。  
何言ってんだ・・・。  
だけど、とめられない。  
どうして俺はいつも、こんなふうなんだ。  
 
ぴちゃん・・・。  
小夜の右手が水の中から静かに引き上げられ、雫をこぼしながら俺の頬に伸ばされた。  
俺の熱い頬にひんやりした白い手。  
俺が小夜の顔を見ることができるまでに、どれくらい時間がかかったか、自分でもよくわからない。  
やっと見た小夜の顔。  
小夜はじっと俺を見ていたみたいだ。  
頬にいく筋も泪のあとをつけて、それでもじっと俺を見つめていた。  
そして頷く。何度も、頷く。  
頬に触れた手に導かれるように、ゆっくりと唇をあわせた。  
「っ・・・」  
小夜の唇から息がもれて、小夜の手の中で俺の屹立したそれはびくりと動く。  
やわらかくて、小さな唇。  
 
俺の頭の中で何かがはじけた。  
小夜の舌が俺の唇をつつき、小さな唇が俺の舌を吸った。  
俺が舌先で小夜の唇をなぞると、それをつかまえようとするかのように  
小さく唇が開いて小夜の舌先が触れた。  
肩に置いた手を小夜の背中に回した。  
滑り降りた先に、尻のくぼみがあった。  
そこに触れると、小夜の体はびくりと揺れた。  
俺はそうして、折れそうな小さな体をぎゅっと抱きしめていたんだ。  
「小夜っ」  
小夜は俺に抱きしめられて、やっとその手から俺のものを解放した。  
そのまま俺の頬に頬を寄せる。  
小夜の瞳からこぼれた泪が俺の頬を伝う。  
俺の髪を小夜の手がかき乱して、俺達はきつく抱きしめあっていた。  
 
俺は小夜を抱いたまま身をかがめ、小夜の両膝を持ち上げた。  
ふいに抱き上げられて、小夜ははっと短く息をついた。  
ゆっくりとそのまま池から出ると、俺はほとりに脱ぎ捨てた自分の着物の上に小夜を横たえた。  
木漏れ日が白い小夜の体の上に伝う雫に、きらきらと反射する。  
陽だまりの中の小夜の裸身はまぶしいほど白くて、黒い髪はつやつやと光を放った。  
小夜は体を少しよじるようにして身を縮ませたけれど、どこも隠そうとはしなかった。  
俺は小夜の隣に腰を下ろし、小夜の裸身を見つめていた。  
覚えておきたかった。  
桃色に染まった頬も、小さな唇も、激しく上下する小さな胸も、その頂にある  
薄紅の蕾も、細い腰も、へその窪みも、きつく閉じられた脚の中心も。  
すんなりと伸びた脚も、握り締めた拳も。  
 
小夜は、地面についた俺の腕に手を伸ばし、俺の手首をそっとにぎった。  
目を見ると、恥ずかしそうに目を伏せる。そしてわずかに唇を開いた。  
どうしてほしいのか、もう俺にもわかっていた。  
俺は小夜に身を寄せて、唇をつかまえた。  
熱い息が小夜の唇からこぼれてくる。  
小夜の髪を撫でると、びくりと体が揺れる。耳に手をずらすと、息もまた乱れる。  
どこにどう触れても感じるのか。  
俺の息も、平静ではいられない。  
首筋をなぞり、俺は・・・小夜のふくらみに手をあてた。  
びくり、と小夜の体がゆれる。  
俺の手の中にすっぽりと入ってしまう小さなふくらみ。  
先端の蕾が手のひらの中で固くとがった。  
荒い息の中で目じりに泪がにじんでいる。恥ずかしいのだろうか。  
「小夜」  
口付けをすると、子供が乳を飲むかのように舌を吸うから、俺もまたそれに応えるように小夜の舌を探す。  
手の中の小夜の乳房は柔らかくてすべすべしていて、俺に何か切ないものを思い起こさせる。  
ずっと触れていたい。小夜の全てに触れていたい。  
 
俺は唇を離すと、体をずらして小夜の胸に顔を寄せた。  
包んでいた手を開くと、ぽつりと立つ薄紅の蕾。迷わず口に入れた。  
「・・・っ」  
小夜の体が震える。  
強く押すと逃げていきそうなほど小さな蕾。  
舌先で転がすようにして、吸って取り戻して、また転がす。  
小夜の腕が俺の両腕にしがみついてくる。  
「・・・っ、・・・っ・・・」  
小夜の激しい息づかいが俺をたかぶらせた。  
壊さないように、痛くないようにするのが難しい。  
全部触りたい。全部、もみくちゃにしたい。  
俺の指と俺の手のひらが恥ずかしいところを刺激するのか、  
その度に小夜の体は大きく揺れた。  
・・・たまんない。  
こうしたかったんだ。  
俺、本当は・・・。・・・ずっと。  
俺は、小夜のへその窪みを掘り返すように舌で舐めあげながら  
その脚をなぞっていた。  
その先へ行こうとして、俺の肩を強く握り締めて震える力に気がついた。  
やっとで自制して、顔をあげる。  
胸のふくらみの先に、頬を高潮させて泪をためた小夜の顔が見えた。  
 
「・・・小夜、」  
髪を撫でると、びくりとして小夜は震えた。  
それを見て俺は、少し寂しい気がしたけれど、だけど言った。  
ここまで俺に許すだけで、小夜はどれだけ恥ずかしかったのだろう。  
愛しい気持ちが、自制を容易にしていた。  
小夜が欲しい。  
だけど、・・・俺は小夜が笑っているのがいい。  
「・・・、もうやめよ?」  
小夜は泪を浮かべたまま頭をふって、上半身を起こした。  
俺の指に指を絡ませる。  
俺の喉が、思いもよらずごくりと鳴った。  
俺は言った。  
「・・・恥ずかしいんだろ?」  
はっと小夜の頬が染まり、小夜の目から泪が伝った。  
絡ませた指が、ぎゅっと俺の手を握る。  
「俺・・・」  
言いかけた俺の言葉をさえぎるように、小夜は俺の手を自分の胸にあてた。  
そして、荒い息で大きく肩を上下させながら俺から目をそらした。  
「さ・・・」  
俺は息をのんだ。  
俺の目の前で立てひざできつく閉じられていた脚が、少しづつ、開いていったんだ。  
開いた脚の間から、小夜の胸の薄紅が見える。  
その先に、小夜の顔が見える。  
泪をこぼしながら、小夜は恥ずかしそうにして微笑む。  
嗚咽のような響きが、小夜の喉の奥、乱れた息の間から聞こえる。  
握り締めた俺の手を、ぎゅっと握って、ゆする。  
そしてまた泪をこぼした。  
脚を開いて息を荒く乱し、熱い泪をこぼしながら小夜は笑った。  
俺を安心させようとするかのように、自分は大丈夫だと言う様に、小夜は笑った。  
それを見ていた俺の目からも、何か熱いものがこぼれたんだ。  
 
「・・・ばかだな。小夜・・・」  
荒い息をついて、俺の手を握って、小夜は涙顔でねだる。  
俺は開いた小夜の脚を抑えると、顔を寄せた。  
紅く膨らんで、小さく開いたそこには熱いしたたりが光っていた。  
膨らんだ小さな突起にすいつくと、小夜の体が激しく揺れた。  
「っっ!」  
びくり、と脚が震えた。  
舌先で襞をひろげながら、俺は夢中でそこを舐め続けた。  
「・・・っ!っ・・・っ!・・・」  
小夜の熱いうめきが、声にならない息になって激しく吐き出される。  
小夜の中から湧き出してくるしたたりは熱く、震える突起すら滑らせる。  
突起に吸い付いたままで俺は小夜の名前を呼んだ。  
「小夜・・・小夜、好きだ」  
呼べば息遣いと唇の動きが小夜を揺らす。  
好きだ。  
 
そして俺は、いよいよ我慢できなくなっていた。  
小夜の開かれたそこに、どうしても入りたい。  
俺は体を起こして、小夜の耳元に顔を戻した。  
小夜の開いた脚の間には俺の大きくなったものを押し当てている。  
小夜のぬかるみの感触が、俺の屹立にそれにじかに伝わる。  
体を横にずらすと、小夜の突起のこりっとした感触がそこにあった。  
「小夜・・・」  
恥ずかしさと興奮で乱れた小夜の目に、わずかなおびえが走る。  
押し当てた俺の先端が、小夜のぬかるみのすぐそばにある。  
「ごめん・・・。俺・・・、もう・・・、我慢できないんだ・・・」  
小夜は、泪顔で微笑んだ。  
おびえた目をしたことを俺に悟られまいとしている。  
小夜と俺の間には、どくどくと脈打つ小夜のぬかるみと俺自身。  
「小夜を・・・くれる?」  
小夜の目から、また一筋泪が伝って、小夜は笑った。そして頷いた。  
 
小夜の手は俺の肩にまわされ俺にだきつくようにしてしがみついた。  
押し当てていた俺のそれは、小夜のぬかるみにすべりおち、  
ゆっくりと俺は沈んでいった。小夜の中に。  
「・・っ」  
肩にしがみついた小夜の指に強く力がこめられ、小夜の体が強張る。  
「小夜、・・・痛いか?」  
小夜は頭をふる。  
そのしぐさがいじらしくて、俺も涙声で笑う。  
「うそつくな」  
小夜はまた頭をふって、証明しようとするかのように  
右手を俺の肩に残したまま、左手を俺の腰にまわした。  
「・・・うん・・・、やめないよ・・・」  
俺は小夜の聞きたい言葉をその耳に囁いて、ゆっくりと、少しづつ進んでいく。  
小夜の中は温かくて、狭くて、俺をぎゅっと握り締める。  
さっき小夜に握られた手の感触が戻ってくるみたいだ。  
俺の肩と腰にしがみついた小夜の手に力がこもる。  
そして俺は根元まで小夜に沈み込むと、小夜を抱きしめたんだ。  
 
小夜はぎゅっと俺にしがみついて、激しい息をつく。  
何度も口付けながら、俺は少しづつ動き始める。  
俺の口付けを受け止めて、俺の動きにつれて小夜はあえぐ。  
「・・・っ、・・・っ・・・っ・・・」  
しがみついた手が、俺の肩にくいこむ。  
その鈍い痛みは小夜の痛みだ。  
俺たちの高ぶりは、もう最後のところまで上り詰めていた。  
俺は小夜を見つめた。  
視界がぼやけて、小夜の顔がよく見えない。  
「小夜・・・俺、・・・っもう」  
小夜が頷いて、俺はそして、力いっぱい小夜を抱きしめた。  
解き放たれた俺の全てが、小夜の中に飲み込まれて飛び散っていった。  
そして俺は離れたくなくて、小夜を離したくなくて、  
木漏れ日の中俺達はそうして、きつく抱きしめあっていた。  
木々を抜ける風の中に、俺と小夜の笑顔が揺れる。  
俺達が一緒にいた日々が、逝ってしまった人たちの姿が過ぎていく。  
小夜の胸に流れる俺の涙を、きっと小夜は知っていた。  
 
 

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