その日、翔(カケル)の中学校は創立記念日で休みだった。
自宅の居間、翔はPS3の鉄拳6BRで、ミタさんにリベンジ戦を挑んでいた。
「あぁーっ!また負けたッ」
ミタさんが操るアリサのギガトンハンマーが、翔のラースを直撃して勝負が決まる。
リベンジするつもりが1勝4敗と、結果は散々だった。
「やっぱミタさん強ぇーなあ」
「…」
ガリガリと、不機嫌そうに頭を掻く翔とは対象的に、家政婦は無言のまま涼しい顔をしている。
「いいや。今日はもうゲーム止める。もっと強くなってから、再戦するからな」
「…はい」
ミタさんはコントローラーをテーブルに置き、立ち上がる。
「昼食を作らせて頂きます」
「あ…、うん」
キッチンに向かう彼女の後ろ姿をみて、翔は、
(脚、なげー。この人いつ見ても、スタイルいいよな)
などと思うのだった。
彼は弱冠14歳ながら、筋金入りの熟女好きである。
密かに購入した裏モノDVDやエロ雑誌は、全て人妻か熟女系に限られていた。
その傾向は母親が亡くなってからより顕著になっていた。
それは、彼が割とイケメンなのにも関わらず、一向に彼女が出来ない理由でもある。
「何かご用でしょうか」
ミタさんは、キッチンで料理をしながら、振り返りもせず翔に尋ねた。
「えっ!?あ、いや…何でもない」
「…」
「…」
今日は、誰もいない。
兄弟達は学校に幼稚園だし、父親は就職先の用事があって遅くなると言っていた。
…そう。
今日は、邪魔が入らない。
「…み、ミタさん」
翔は、上ずった声を上げる。
「はい」
まな板の上の野菜を鮮やかな包丁さばきで千切りにしながら、ミタさんは応えた。
少年はゴクリと唾を飲み込んだ後、
「いつかの続き…やってみせてよ」
と、恐る恐る言うのだった。
ミタさんの手が止まる。
「…」
無言のまま、彼女は振り向いた。
「いつかの続き、とは」
いつも通り無表情で、無機質な声で尋ねてくる。
「いや…、だから」
翔はしどろもどろになりながら、必死に何と言うべきか頭を巡らせているうちに、ふと気付いた。
「あれ…?ミタさん…今、笑った?」
微かに、ミタさんの口の端が持ち上がって見えたのだ。
しかし、それはほんの一瞬の事だった。
「笑ってません」
そう答えるミタさんの表情からは、確かに笑みが消えている。
「え、だって…さっき」
「笑ってません」
「そ、そっか」
そう言われてみれば、彼女が笑うはずはない。
あれは何かの錯覚だったのだろうか?
「それよりも」
「えっ」
何時の間にか、ミタさんは翔のすぐ目の前まで近付いている。
「先日の続きでしたら、私は服を脱ぎましょうか。それとも、キスをしましょうか」
一歩、彼女は翔の方に歩み寄る。
「あの時は、確か翔さんにも『やめろ』と言われたはずですが」
その言い知れぬ迫力に、自分が申し出た事にも関わらず、少年は思わず後ずさっていた。
そして、確かに見た。
「それとも、口で慰めて差し上げればよろしいですか?」
正面から向き合った家政婦の口元が緩む、その表情を。
「あ…」
やはり、笑っている。
翔は再びそれを指摘するため、声を上げようとしたが、出来なかった。
それよりも早く、ミタさんの唇が翔の声を塞いでしまったからだ。
続く