「――――うむ・・・っ!!!」
はっきりと頷くか頷かないかの内であったが、雨水の行動は早かった。
再び重なる唇と唇・・・だが、今度のは先程の比では無い。
ぬちゅりとした水音と呻きにも似た吐息が口内より漏れ、果林の身体がもどかしそうに動く。
・・・だがそれも数秒の事。
「う・・・ふっ・・・む・・・ん、くぅ・・・ぴちゅっ、くちゅっ。」
息苦しさと共に、脱力を覚えたのか、やがてその身体をくったりと雨水に預け。
顔は火傷したみたいに真っ赤にしつつ、潤んだ瞳で彼に応える様に舌を絡める。
頬を伝う水は止め処なく、けれどもそれは決して恐怖や悲しみから来るものではない。
――――ただ、熱かった。
彼の熱が直に伝わって来て、ただでさえ熱暴走気味の頭に更なる温度が重なる。
だけど・・・。
「(気持ち・・・いい・・・)」
彼の唇を吸う度、舌をきゅっと撫でる度、唾液を飲み下す度、感じてしまって歯止めがどんどん利かなくなって行く。
羞恥とも気恥ずかしさとも違う桃色の気分が彼女の脳を塗りたくり、一つの事しか考えられなくなるように思考を狭めてしまう。
「う――――んっ・・・!」
初めの羞恥はどこへやら、欲望のままに雨水の頭へ手を回し、思う存分その口内を貪る。
息苦しさは蚊帳の外に追い遣り、今は、彼の熱と味を感じていたかった。
「(おい・・・し・・・い・・・)」
無味無臭の筈の唾液が、ここに来て彼女に最高の甘露を味あわせていた。
気づけば、愛撫の場所がいつの間にやら果林の口内から雨水のソレへと移り変わり・・・。
「うぐ・・・っ」
今度は健太が、少々息苦しさを感じ始める。
それも無理は無い、これ程までに積極的な果林を見るのは恐らく殆どと言っていいくらいに無かったのだから。
未だ雨水健太の身体は、真紅果林を求めている。
それは、嘘偽り無き自分の正直な気持ち・・・なのだが。
かつて果林の両親は言った。
果林に供血された者は自分の心の奥底に眠る欲求を開放してしまう、と。
それを知った当初は、「その事」がどんな事なのか、自らの母に起こった出来事で何となくは解ったつもりだった。
先程初めて果林に供血された時も、ただ身体が熱くなって気分が高揚するだけだと、そんな風に思っていた・・・
だけれども現実はどうか、果林を押し倒して唇を奪って、更なるコトに及ぼうとする自分がここに居た。
自分はこんな獣じみた欲求を持っていたのか・・・
罪悪感で押しつぶされそうになってしまう。
頭では止めろとストッパーを掛けているのにも関わらず、言う事を聞かない身体に、健太は心の底から自分を嫌悪する。
正直な話、押し倒した瞬間彼女に突き飛ばされ、拒絶されるのだと思った。
無理やり事に及ぼうとする自分に対し、冷めた視線を浴びせられる物と覚悟していた。
・・・だが、彼女はそのどれにも及ばなかった。
決して自分を拒絶せず、逆に彼女はこんな自分の行動を、受け入れてくれている。
――――この気持ちは、一体何だろう?
酸欠気味の頭で考えられる事等本当に些細な物しか無い。
・・・けれど。
「――――ンッ!?」
果林の身体が若干跳ねる。
健太の掌が、果林の胸を撫ぜ始めたからだ。
思えば、自分の記憶の中の真紅果林は泣いていたり、焦っていたり、怒っていたりで・・・果林の笑顔を見たのはそんなに無い。
ましてや、今こうして真っ赤になった表情など見た事も無い。
そんな顔をもっと見たい、気持ちいいのなら・・・もっとそうさせてやりたい。
ソレは紛れも無い、雨水健太の本心であった・・・