彼氏彼女の事情  

彼女は2時間前から変化のないパソコン画面の前で  
何度目か分からないため息をついた。  
「あーーなんもうかばないっつの…」  
彼女の名前はあや。女子高生でありながら新進気鋭の作家である。  
デビューから発表した作品はどれも好評で、  
今では連載もかかえている。まさに順風満帆だった。  
が、今の彼女にはその風がぴたりと止んでいる。  
新作の構想がさっぱり浮かばないのだ。  
〆切はあと1週間。まずい。やばい。がけっぷちだ。  
が、そう焦ると余計浮かぶ物も浮かばない。  
用意されたページはいまだほぼ真っ白だ。  
彼女は煮詰まっていた。  

肩までの髪をむちゃくちゃにかきあげて  
低くうなってみても、さっぱり気持ちは晴れない。  
つい引き出しにしのばせたタバコを取りだしそうになったが、  
こういうとき思い出すのは友人の恐ろしい形相だ。  
なんせ頬をはたかれたから、いまだトラウマになっている。  
「うう…」  
引き出しをそっとしめ直して、彼女は机につっぷした。  
「も…もうだめぽ…」  
目の前が真っ暗になりそうになっているその時、  
玄関からインターホンの軽やかな音がした。  
ああそうだ、今日はうち、誰もいないんだっけ。  
もそもそと机から起きて、自分には強すぎる光に目を細めつつ、  
窓をあけて門のほうをみてみると、  
真っ白いワンピースにうすい水色のカーディガンをはおった  
幼馴染みがいた。  
「りかじゃん」  
二階の窓から身を乗り出しているあやに気付いたりかが、  
白い長方形の箱を見せつけるようにあげて、笑った。  
「あや、陣中見舞いにきたよー」  
その様子にしばらく忘れていた笑顔をあやもまた浮かべた。  

 

箱をあけるとイチゴの甘い匂いが部屋にふわりと舞った。  
「うわぁーおいしそー」  
きれいにイチゴが並んだタルトをりかは皿に切りわける。  
「はい、あや。今日のは自信作だよ。」  
「ありがと。いつも悪いねぇ」  
学校が春休みに入ってから、毎日ではなくなったけど、  
りかは陣中見まいと言ってよくあやの家に顔を見せた。  
もちろん手土産にお得意の手作りお菓子を持って。  
「あまったら、また親御さんにも食べてもらっていいからね。」  
「へいへい。兄貴にちゃんと渡しとくよ」  
「えっ、…つ、う…うん…」  
急に思い人の名前を出されてりかは顔を赤くした。  

遠まわしに言わなくても、あやはすべてお見通しである。  
本当は、りかが片思いしている兄に会いたくて、  
彼女が甲斐甲斐しくうちに通っていることに。  
まぁ、根っからとても清らかな気持ちの持ち主のりかだ。  
親友の陣中見まいという理由も、嘘ではないんだろう。  

「でも残念だったねー、せっかく会いにきたのに兄貴、  
最近仕事帰り遅くってさ。」  
タルトを用意されたフォークを使わずに手にのせて食べている  
あやは、からかうように言った。  
「もう、きょうは純粋にあやの陣中見まいだってば!」  
「そういうことにしとこうかねぇ。」  
けけけ、と笑ってあやはタルトにかぶりつく。  

「すぐからかうんだから…」  
自分より長いりかの柔らかそうな髪が肩から落ちる様を  
あやはぼんやり見惚れながら、りかの入れてくれたコーヒーを  
くちにする。  
「あんたからかい甲斐あるんだもん…」  
幼い頃から知っているりかは、いつも困った表情をしていて、  
Sっ気のあるあやにとっては恰好のおもちゃだった。  
いじめて困らせて、時には泣かせたこともある。  
けどそれでも自分を慕ってくれるりか。  
いつからか、調子に乗りすぎた自分を諌めてくれる、よき親友になっていた。  
「そういうとこ、可愛いって、兄貴もゆってたよ〜」  
「あーや、もういいでしょうお兄さんの話はぁっ」  
また頬を赤くして、りかはあやの腕を押す。  
笑いながら、あやの胸は複雑に揺れていた。  
今まで自分の後しかついてこなかったりかが、  
いつのまにか自分以外のものを見ていた。  
いつかは、自分よりもその人を、優先していくのかもしれない。  
それは、自分のぬいぐるみを誰かに取られるような  
幼い気持ちと一緒なのかもしれないけれど。  

 

「あや?」  
手が止まっているあやに気がついて、  
りかは声をかけた。  
「…っ、あ、何?」  
想いに耽っていたあやは現実に引き戻されて、なんだか  
間抜けな声をだしてしまった。  
「話聞いてないでしょー?そんなので原稿大丈夫ですかぁ?  
先生?」  
りかは苦笑しながら、そんな風にふざけて聞いた。  
「原稿ー…は…」  
その響きで思い出した.自分はそんなセンチメンタリズムに  
浸っている場合ではなかったのだ。  
さっきまでりかのおかげで換気された空気が、また急に重くなる。  
「いかん…こんなお花畑な会話してる場合じゃなかったよ」  
どんよりとした空気に気がついて、りかは慌てた。  
「ご、ごめん、悪いこときいちゃったね、せっかくの休憩だったのに」  
ごめん、って、りかはあやまることひとつもないのに。  
あやはくすり、と笑った。  
「わ、わたし帰ったほうがいいよね?邪魔でしょ?」  
そそくさと席を立とうとするりかを、あやは手で制す。  

「いや、まだ、…居てよ。」  

「ん…?うん、いいけど・・・。あや、前に  
人がいると気が散って原稿書けないって言ってたよ?」  
「えー、言ったっけ、そんなこと。」  
「言ったよぉ」  
あやの隣にりかは座り直すと、あやは  
りかの肩にこてん、と頭を寄せた。  
「あや?」  
「疲れてるからねー、甘えてみようってねー、先生は  
想ったんですよー。」  
「なぁに、それ」  
りかはくすくす笑うと、手が届く距離で食器を片付けていく。  
「あやらしくないなぁ。なんか企んでるの?」  
「あんたの中のあたしはいつもそんな悪人なんかい…」  
「悪人じゃあないけど、意地悪だよね」  
間近で見るりかは、肌も白くて、柔らかそうで、  
まるでお人形のような横顔である。  
いつもは地味で、そんなに男にモテるようなタイプじゃないけど。  
りかは可愛い。あやはいつも想っていた。  
あやにとっては女の子らしいりかは憧れなのだ。  

なんか…変だなぁあたし。  
あやのなかで何か今まで抑制していたモノが動きはじめた。  
「じゃあ、悪人は悪人らしく、ワルイコトなことしなくちゃねぇ-…」  
ぼそ、っとつぶやいて、あやはりかの耳に唇をよせた。  
「ええ?」と、りかが返す前に、あやはりかの耳に舌を這わせた。  

〆切に、追われてて。あたし、どうかしたんだろうなぁ。  

そんなことをぼんやり理由づけて、りかの肩を掴むと、  
あやはりかの桜色の唇に口付けた。  

「ァ…あや…??」  
触れるだけのキスが終わると、りかは  
吃驚した様子であやの顔を見つめた。  
吃驚したのは、りかだけではない。  
「おお…何してんだ、あたし」  
した本人もそう漏らした。  
「ごめんごめん、あたしったらなんかぼおっとしてて、  
あはは、欲求不満かなぁ〜」  
と、きまづい空気を破るような大きな声で笑った。  
「ごめん、今の事故!ふざけてた、ごめん!」  
大げさに手を合わせてりかに頭をさげる。あやは  
りかが笑いとばすか叱るかを、ただ待った。  

でも。いっこうにりかは何も言ってくれなかった。  
あやは、不思議に思って顔をそろーっとあげると、  
そこには、真っ赤になって目に涙を浮かべるりかがいた。  

「・・・り、りか、ごめ…」  
げぇ。シャレになってない。りかは本気で怒らせると怖い。  
あやは真剣に謝ろうとした、そのとき。  
「…いま、すごく、一瞬だったけど、悩んだんだよ、  
私、あやのこと大好きだから、あやが、そういう人で、  
私のこと好きで、そうなりたいなら、私どうしよう、って、  
今すごく、真剣に考えたんだよ…?」  
ぐすぐす、と、鼻声で、りかはワンピースのスカートを  
ぎゅ、っと握って抗議しつづける。  
「ファーストキス…だったのに…」  

そんなりかの様子を見ながら、あやは  
反省するでもなく、ただひたすらに、  

この、可憐な乙女を…い・・・・・・いじめたい・・・・・・!  

と、欲望にかきたてられるのであった。 

「きゃ」  
次の瞬間、あやはりかの身体をカーペットの上に押し倒した。  
「あああっ、あや?!」  
突然のことに、ほろほろ落ちていた涙も止まったりかは、  
どもりつつただ見下ろしてくるあやを見つめ返した。  
「…考えて、答えは出たの?」  
腕を取られて、りかは抵抗できずにいた。  
あやの表情から、今までのおふざけムードがなくなっている。  
「…あ、や…、わ、わたし…」  
あやはりかの白いワンピースの上から、りかの小さな胸に触れた。  
それくらいは、いつもふざけながらやってたけど。  
柔かな感触を、胸のまわりを円をかくように強く揉まれ、じん、と  
甘い感覚が奥で響く。  
「っぁ////」  
「りか、今だけあたしに付き合ってよ」  
加減をしらないあやの手に胸を揉みしだかれながら、  
りかはみあげる彼女の意地悪な笑みを、拒むことができなかった。  

 

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