彼氏彼女の事情  

 私とあなたは、つりあった存在かしら?  

 私はいまだあなたに何も見せぬまま、あなたと結ばれようとしている。  

 あなたの部屋は整理されている。きっと、あなたの心も整理されていて、あなたの心は誰でも閲覧できて、みんな、その正しさ、あるいはそれ以外の何かに圧倒されてしまうのでしょう。  
 私とは、大違いだ。  
私の心には、一つの押入しかない。一見整理されているようでも、扉を開けると、中からあらゆる汚らしさ、嫌らしさ、それらが雑然として一つの私の「本性」として、開けた人を押しつぶす。  
 今、私はあなたと口づけを。  

 あなたは制服の上着を脱いで、ベッドに置いた。そして私を見て  
 「向こう…行ってて」  
 なんて言う。  
 いまさら、何を…。  
 でも、膨らんだ押入を押さえながら私は「ええ」と言う。  
 私は、彼と結ばれたい。  
 その、自分の欲望のために、私は、まだ、あなたに押入を開けさせない。  
 しばらく外にいると、あなたは、 「いいよ」  
 と控えめに言う。  
 私は、  
 「私はどうするの?」と聞く。  
 「こっちに…来て。…僕が、脱がすから」  
 整理された部屋の、ほんの少しの埃。  
 それすら私は少しいとおしい。  

 あなたは、下半身だけ、タオルを巻いたまま、私をこちらに呼び寄せた。  
 何も言わず、私の制服を一枚ずつ脱がせてゆく。  
 じきに私は、下着だけの姿になった。  

 あなたは、私のブラジャーのホックに手をかける。はずす。  
 私の乳房が外気に触れる。  
 あなたは少しそれを見つめながら、それにキスした。  
 次に、パンティを下にずらして、あなたは、おそらく初めて、女性の局部を目にした。  

 顔が赤い。  

 あなたは、目で私の目を見据えて、急に口づけをしたかと思うと、右手で、私の下半身をもてあそび始めた。  

 手慣れていないのが、わかる。  
 ぎこちない手つきで、私を悦ばせようとしている。  
 じきに、効いてくる。  
 「んっ」  
 私が声を漏らしたとき、あなたは、少しうれしそうな顔をした。  
 そして、幾度と無く声を漏らし、私のあそこが十分濡れて来たのを見計らって、あなたは、私をベッドの上に寝かせた。  
 夕方。  
 電気を消しても、窓から橙色の光が差し込んでくる。カーテンを閉めても、光は、幾分柔らかくなるだけ。  
 というわけで、私は、あなたを直接見ることができた。  

 ──大きい。  
 主観的な感想だ。でもそれで十分だ。  

 あなたは、また、私にキスをした。  
 そしてそれを終えてすぐ、私の中に入ってきた。  

 痛い。  

 あなたはただ、動く。理知的なあなたはどこへ。  

 あなたは快楽を得ている。私も得ようとしている。  
 「んうっ、っあ、いやっ」  
 快楽の残滓が、振動となって空気を泳ぐ。  
 私は高まってゆく。  
 どこへ?  
 どこかへ。  

 「あん、あ、いやっ、んん、いやあああっ!」  

 

 …あなたは、所在なさげに服を着た。私も着た。  

 外は暗くなっていた。  

 「送るよ」  

 私はそれを受け入れた。  
 夜の街に出たとき、私は、あなたに抱きついてみた。  
 あなたは、ただ、にっこりと笑っただけだった。  
 もしかしたらあなたにも、押入があるのかもしれない。  
 その中身、私、見たい。  
 私も見せるから。だめ?  

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