「いやっ……!」
執拗な前戯のせいか、しとどに濡れてはいたが、やはり生娘のそれである。銀平の自身を半分も飲み込まぬうちに、二子は
悲鳴を上げた。
「いやぁっ!!ぎんぺい、にいさま……!!」
「力を抜け、二子。裂けてしまうぞ」
馬鹿げた脅迫だったが、二子はたちまち色を失った。これだから、初めての女は扱いやすい。銀平は小さく笑い、
二子の小さな耳朶に囁いた。
「二子。辛いなら、目を閉じていろ」
「え……?」
「好きな男のことを考えるんだ。ゆっくり呼吸をして、顔を思い浮かべてみろ。少しは楽になる」
二子は素直に、ゆっくりと瞼を下ろした。恐慌状態にある人間は、外からの指示に従いやすい。銀行強盗対策のマニュアル本に
書いてあったことだが、どうやら本当のようだ。
「ん……っは……」
ほんの少し弛緩した二子の中で、ゆるゆると前後する。浅い挿入になれたらしく、ようやく表情の和らいだ二子の、
折れそうに細い腰を、銀平は両の掌で掴んだ。
「動くぞ」
「……?」
意味が分からず、うっすらと目を開けた二子を、銀平は無慈悲に貫いた。
「あぁっ!!」
哀れな悲鳴に構わず、妹の上身に重なり、更に奥へと踏み入る。禁忌の重さを指し示すように、二子の中は固く閉ざされ、
銀平を締め出そうと収縮する。それがますます銀平の欲情をそそるとも知らずに。
「二子……二子……」
泣きべそをかく妹の首筋に、銀平は口付けを降らせた。そのとき、
「四々彦、さん……」
二子が小さく呟いた名を、銀平は聞き逃さなかった。二子ははっと口を塞いだが、漏らした言葉は最早返らない。
「ヨシヒコ。その男にこうしてほしいのか、二子」
「ち、ちが……」
深々と女陰を穿たれ、二子は言葉を続けることさえできなかった。
「珍しい名ではないが、お前と釣り合いの取れる年なら、そう何人もいないだろう。社の名簿を洗えば、すぐに分かる」
「あの人は、何も……」
「そう、何もしなかったんだろうな。お前を大切にしてくれたんだろう?実の兄に喜んで抱かれるような、いやらしい女だとも知らずに」
「やめてっ!」
二子は寝台に押さえつけられた手を渾身の力で振り上げたが、銀平の掌の下ではびくとも動かない。
「あの人に、いい加減なことを言わないで」
「さぁね。お前次第だ。馬鹿げた夢を忘れて、この家の娘として義務を果たすなら、考えてもいい」
二子は愛らしい相貌に憤怒の表情を浮かべたが、銀平に犯されるうち、やがて無気力に身体を投げ出した。
普段の明るさからはかけ離れた、廃人のような様子は、銀平の心に僅かな痛痒をもたらしたが、それきりだった。
生まれた日から共に捕らわれていたこの獄舎を、一人で逃れようとした裏切り者。それを鎖で引き摺り下ろしてやっただけだ。
銀平は暗い悦びで自身に熱を漲らせた。
「可愛い二子。僕はお前が大好きだよ」
見開かれた二子の瞳が、愛憎で引き裂かれる。
吐精の瞬間、銀平は二子の身体を固く抱き締めた。この娘が二度と逃れられぬように。呪われた子種を、一滴残らず注ぎ込んでやるために。
「お優しいのね」
泣き疲れて眠ってしまった二子の髪を撫でていると、思わぬ人物がそこに立っていた。艶やかなベージュの夜着に、黒々と豊かな髪。
高須相子である。
「二子の部屋の鍵まで持っているのか、あなたは」
「当然でしょう?大事なお嬢様を守るのは、執事の役目だわ」
艶然と笑い、相子は寝台の脇へと回り込んだ。
「感謝しなくてはね。二子さんの強情さには辟易してましたのよ。これで、素直になってくれるでしょう」
「……聞いていたのか」
「ええ。ついでに、これも」
ぽん、と枕元に置かれた器物を見て、銀平は苦々しげに顔をしかめた。掌程度のカメラレンズが、いやらしく黒光りしながら
こちらを見上げている。
「強請りの種にするなら、動かぬ証拠を押さえなくてはね」
「こんなもの、どこから」
「お父様がお好きなのよ。寝室で、色んなお写真を撮るの。お母様のもあってよ。ご覧になる?」
銀平は吐き気をこらえて顔を背けた。くすくすと、相子が笑う。
「あなたには恥じらいがないのか」
「あら。妹を抱いた口で、おっしゃること」
歌うような口調で、相子は寝台から腰を上げた。やっと出ていってくれるのかと安堵した矢先、思わぬ力で肩を引き寄せられる。
父の愛人に間近に迫られ、銀平は息を詰めた。
「嬉しいわ。あなた、お父様にそっくり。鉄平さんと違って、間違いなく万俵大介の息子ね」
「何……?」
「あなたのためなら私、いつでも力になってさしあげてよ」
指先で顎を撫でられて、毒気を抜かれる。相子が立ち去り、部屋の扉が閉まって初めて、銀平は枕元を振り返った。
妹との閨を収められたカメラは、もはや影もなかった。
銀平は頭を抱えた。醜い、醜い。何故こんな家に生まれた。何故抗えない。何故―――妹だけでも逃がしてやれなかった?
「ん……」
小さく寝返りを打った二子に、銀平はうっすらと涙ぐんだ瞳を向けた。
「……ひこ、さん……ごめんなさい……」
儚い声で呟くと、二子は再び深い眠りに落ちた。姿勢を変えた拍子に肌蹴た布団を掛け直してやりながら、銀平は思う。
この家が憎い、妹が愛しい―――それでも、二子が再び自由を求める強さを取り戻したとき、自分はどんな手を
使ってでもそれを阻むだろう。たとえ、あの女の手を借りることになっても。
いっこうに明けぬ深い夜闇が、広大な邸宅ごと、この弱き青年を包み込んでいた。
<終>