人の出入りが途絶えて久しいその館は、扉を開けると埃のにおいがした。
「へぇ〜、思ったより荒れてなかったな。俺がギイに連れて来られた時から、2……、いや3年にはなるんだが」
「私も何年も帰ってなかったから。本当に久しぶり……」
鳴海とエレオノールがキュベロンの館を訪れる気になったのは、彼らが不死人である事を誰にも悟られず
ゆっくりと羽を休められる場所、旅の合間毎に帰れる家が必要だったからだ。
それには東京の鳴海の生家は論外だし、今は彼らの理解者がいる黒賀村も、代が替わればどうなるか分からない。
あまり愉快な思い出は無いが、結局のところ、長年「しろがね」の活動拠点として機能してきたこの地こそが
他者の好奇の目を避けるのに最適の場所なのだった。
彼らが手始めにした事は、館の中の検分だった。
玄関から向かって右側の方は、以前自動人形の攻撃により手酷く壊され、屋根に大穴が開いてしまっている。
「雨やら風やら吹き込んで、部屋の中がめちゃくちゃだ。やれやれ、アルレッキーノの奴のお陰で半分の部屋は使えねぇな。
ただでさえ薄気味悪い屋敷だってぇのに、これじゃ幽霊屋敷だぜ」
「元々、地元の人達はここを恐れて近付かなかったけど、これなら益々、人がやって来る心配はないわね」
「とりあえず建物のこっち側に通じる廊下を塞いで、屋根の修理は追々やるとするか……」
次に各部屋を見て回ったが、調度品は全てそのまま残っていて、生活をするのに支障はなさそうだった。
かつてのクローグ村の惨劇は、形を変えつつも現代まで言い伝えられ、迷信深い地元の人々は、誰も恐れて近寄らない。
曰く、「悪魔に呪われた村」だの、「夜な夜な、村人達の亡霊がさ迷い歩く」だのと。
現に鳴海達もここに来る途中、あんなおっかない所に何しに行くんだと言われた。
しかし、そのお陰で盗みに入る不心得者も無く、館の中が荒らされる事はなかった。
「電気や水道は使えるのか?」
「地下の発電機はちゃんと動くし、貯水タンクも備え付けられてるから、それは大丈夫。
キッチンの焜炉だけは、町へ出てプロパンガスを調達してこなくては駄目ね」
2人は町まで出掛け、1週間分の食料と必要な品々を買い込んで来て、それから大掃除に取り掛かった。
窓を開けて空気を入れ替え、サロンや食堂、寝室に使う部屋の埃を取り払い、忙しく立ち働いた。
「おーいエレオノール、洗濯物はこっちでいいのかー?」
「一緒にベッドのシーツも洗うから、下のリネン室へ行って、換えを持って来てちょうだい」
「子供達にもらった手紙や絵は、何処に置いときゃいいんだ?」
「あっちの図書室に、仕舞っておける棚でも無いかしら?」
粗方片付いてから食事を取り、サロンのソファに腰を落ち着けた頃には、日がとっぷりと暮れていた。
「こんな風にのんびりできるのは久しぶりだな」
「この1年、休む間も無く、あっちこっち飛び回っていたものね」
「だけど皆の喜ぶ顔が見られたし、世界が順調に復興していってる様子も見られたし」
「ええ、とても遣り甲斐があったわ」
2人は並んで座り、肩を寄せ合って旅の思い出を語り合った。
周囲に何も無い荒地の一軒屋は、裏の海岸から微かに波の音が聞こえてくるだけで、他に何の音もしない。
しんと静まり返った夜の闇の中、どちらともなく顔を寄せ、2人はそっと唇を重ね合わせた。
最初は軽く戯れるように、徐々に深く、官能を高め合うように。
鳴海はエレオノールの口腔を舌で弄りながら、ワンピースの裾に片手を滑り込ませ、太ももをゆっくりと愛撫する。
エレオノールはされるがままになっていたが、悪戯な指が中心を探り当て、下着越しに擦り始めると
ビクンと体を震えさせた。
「ん……、んん……」
塞がれた唇の間から、次々と甘い吐息が漏れる。
鳴海はその声に誘われるように、更に強くエレオノールを抱き寄せ、ショーツの中に手を潜り込ませた。
そして、しっとりと潤った花弁を指で広げながら、その中の芽を捕らえ、擦り上げる。
「あぁ……、あふ……」
エレオノールは堪えきれず、なまめかしい声を上げた。
しかし、ここが煌々と明かりのついたサロンであり、そんな場所であられもない声を出す事に恥じらいを覚え
鳴海を押し止めようとする。
「ね、ねえ……ナルミ、こ、こんなところでなんて……嫌。お願い、寝室へ……」
「いいじゃないか。どうせ誰も見てやしねえんだから」
「だって……あんっ!」
耳たぶを甘噛みされて、エレオノールは思わず甲高い声を上げた。
「もう、ナルミったら……」
「恥ずかしがる事ないだろ? ここには俺達2人しかいないんだぜ。誰にも気兼ねしなくていいいんだ」
「それはそうなんだけれど……」
鳴海の指がショーツに掛かり、強引に引き摺り下ろそうとする。
「あっ……待って」
「何だよ」
「自分で脱ぐわ。だから……焦らないで」
エレオノールは諭すように言って、肩に回された腕をほどき、立ち上がった。
本人に自覚はないだろう、妖艶な小悪魔の微笑みを浮かべながら。
エレオノールは鳴海の目の前に立ち、ワンピースの裾を捲って、すらりと伸びた長い脚を見せつけながら、
気を持たせるように、ゆっくりとショーツを下ろしていく。
それを床の上に落とすと、エレオノールはソファに膝を着いて、鳴海の首に両手を回した。
「あなたの言う通り、今日からここは私達の家。誰にも邪魔されない、2人だけの場所なんだったわね」
「ああ、そうさ。ここでなら、いつでも思う存分、お前を抱ける」
エレオノールは鳴海の目の前に薔薇色の唇を寄せ、耳に心地よいアルトで、そっと囁く。
「Je T'aime Mon Amour あなたの望むように……」
エレオノールは鳴海と向かい合い、その膝の上に座った。
その銀色の瞳は、これから始まる至福のひと時への期待に、熱く潤んでいる。
だが鳴海が口にしたのは、思わぬ言葉だった。
「今日は、自分で入れてみるか?」
「え……」
エレオノールは一瞬、戸惑った表情をしたが、すぐにコクンと頷いた。
自らの言葉通り、ここにいる間は、鳴海のどんな求めにも応じようと決めたのだ。
そして、女としての悦びを知ってから、日ごと強くなるばかりの欲望に、正直に振舞ってみようと。
「……どうやればいいの?」
「まずチャックを下ろして、お前の手で、外に引っ張り出してくれ」
「はい……」
エレオノールは手を伸ばし、ズボンのチャックをスーッと下ろす。
それから恐る恐る指を差し入れ、トランクスの上から、中のものにそっと触れてみた。
鳴海のそれは既に熱く昂ぶり、存在を主張するかのように、下着の布を押し上げている。
しばらくそれを撫でていたエレオノールは、思い切ってトランクスの中に指を潜り込ませ、外に引き出した。
初めて手にした男性器を、エレオノールは不思議な物を見るように、まじまじと見詰める。
これまでのエレオノールは、ただ愛撫を受け入れるだけで、行為の間には何も考える余裕はなかった。
その為、勃起した状態の男性器を、こんな風にじっくりと観察するのは初めてだった。
「こんなにも大きなものが、いつも私の中に……」
それが侵入してくる時の感触を思い起こし、エレオノールの体が妖しくざわめく。
「……それから? どうするの?」
「手で擦ってくれ。お前の中にしっかり入るように」
エレオノールは言われるまま、細く白い指を絡め、ゆっくりと擦り始めた。
マリオネットの糸を操る、優美でしなやかな手で、慈しむ様に優しく。
片方の手は竿の部分を上下に擦り、もう一方の手は、先端をくすぐる様に撫で回す。
その繊細な指の動きに、鳴海のものはどんどん硬く張り詰めていった。
「ナルミ、これでいいの? 気持ち良い?」
「ああ、いいぜ……。お前の手って、すげぇ柔らかくって……、最高だ」
鳴海は息を詰め、押し寄せる快楽を必死で耐える。
その様子を見守るエレオノールは、今までになく心が高揚するのを感じていた。
自分の手で、愛する人を喜ばせる事が出来る。
その歓喜に胸を打ち震わせながら、エレオノールは奉仕を続けた。
これ以上はもう堪えきれないと判断した鳴海は、エレオノールにその先の行為を促す。
「……もういい、エレオノール。さあ、来いよ」
「ええ。私も、あなたが欲しい……」
自分から攻めるという初めての体験に、かつてないほどの興奮を覚えたエレオノールは、もう十分に濡れていて
受け入れるばかりになっている。
エレオノールは両手で鳴海にしがみつき、腰を浮かせて、男性器に自らの中心をあてがう。
そして体重をかけながら、ゆっくりと腰を落としていった。
「あぅっ! ああぁ……」
開き切った花弁は、まるでそれ自体に意思があるかのように、猛り立ったものを捕え、その身にくわえ込む。
エレオノールのほっそりとした体は、脚を伝い落ちるほどに、たっぷりと溢れ出した愛液を潤滑油に
体格に比例して、人並み以上のサイズの鳴海のものを、難無く飲み込んでいった。
生き物のようにうねる肉の襞が妖しく蠢き、奥に突き当たるまで誘い入れると、エレオノールは待ち焦がれたように
腰を激しく揺さ振り始めた。
鳴海は、自分の膝の上で踊るしなやかな体を、両手でしっかりと支える。
「ああっ! ああ、ナルミ……、もっと……。もっと奥まで来て!」
全身を貫かれる感覚に、エレオノールは艶かしくよがり、鳴海もまた、自身を激しく絞り上げられる感触に喘ぐ。
「ああ、ナルミ……。なんだか……いつもと違うの。いつもよりずっと、あなたを感じてる……」
「くっ、う……、エレオノール……。おまえも……、いつもよりギュッと締まって……」
エレオノールは、今や完全に我を忘れ、一心不乱に腰を動かし続ける。
激しい動きの所為で、ワンピースの裾が太ももの上まで捲くれ上がり、愛液で濡れて光る銀色の茂みも
ピチャピチャと淫らな音を立てて、男性器を貪る秘所も、全て露わになった。
「ふ……ぅ、あ……、ああぁん……、ナルミ、ナルミィ! 愛してるっ!!」
「ああ、エレオノール! 俺も、お前だけを……」
縋り付くエレオノールの体を、鳴海は両の腕に力を込め、しっかりと抱き締める。
「あっ、あうっ! ナ、ナルミ、いくぅ……、あああああぁぁ――!!」
断末摩の様な悲鳴を上げて、エレオノールは絶頂を迎え、それに伴い収縮する膣に、激しく締め付けられ
鳴海も堪らずに解き放った。
2人は固く抱き合いながら、共に昇りつめた。
嵐の様な時間が過ぎ去り、エレオノールは荒い息をつきながら、鳴海の胸にぐったりと体を預けていた。
その瞳はぼんやりと宙を見詰め、鳴海を咥えたままの花弁は、まだヒクヒクと名残惜しげに蠢いている。
鳴海はエレオノールの髪を撫でながら、優しく囁いた。
「すげえ良かった。それに、感じてる時のお前って、最高に色っぽくて可愛いよ」
「……頭が真っ白になって、あのまま、死んでしまうかと思った。こんなの初めて……」
鳴海はいきなりエレオノールの体を起こし、その膣内から自身を引き抜いた。
「あんっ……」
まだ埋み火の残る体を刺激されて、エレオノールは小さく喘ぐ。
鳴海はソファから立ち上がり、エレオノールの体を抱き上げた。
「さあ、今度はベッドでたっぷり愛してやるよ。一晩中、時間をかけて、隅から隅まで全部……な」
エレオノールは再び淫欲の火が点るのを感じ、はにかみながら頷いた。
「ええ、さっきみたいに乱れさせて……。他の事など何も考えられなくなるぐらい。
今夜だけじゃなく、ここにいる間は、ずうっと……」
END