A long long time ago ─────  
むかしむかし、あるところにナルミという若者が住んでいました。  
ナルミは血のつながらないお父さんと2人のお兄さんの4人で暮らしています。  
本当のお父さんは小さい時に死んでしまい、その後再婚したお母さんも死んでしまったからです。  
新しいお父さんのナカマチシノブは良い人でしたが、お兄さんのノリとヒロはナルミを毎日いじめていました。  
「おい、ナルミ! 買い物行って来い」  
「やだね」  
「おい、ナルミ! 部屋の掃除しろ」  
「知るかよ。テメーでやんな」  
2人の兄は何かと用事を押し付け、ナルミを働かせていたのです。  
「誰が働いてるっつーんだー! あいつ、全然言う事きかねーじゃねーかよ!」  
「カワイクねー! ほんとにカワイクねぇぇぇー!!」  
何やら2人が騒いでますが、それはひとまず置いといて・・・。  
ある日の事、お父さんが言いました。  
「今晩、王女の18歳の誕生日を祝って舞踏会が開かれるそうだ。国中の若い男は皆、招かれるんだと」  
「えー! おやっさん。あの美人で評判のエレオノール姫の!」  
「馬鹿やろう。この話ではお父さんと呼べ! それでだな、誕生パーティとは表向きで  
実際は婿さん選びが目的らしい」  
 
「ほんとっすか!? おやっ・・・お父さん」  
「やったぁ! 上手く姫のハートを射止めれば逆玉だぜー」  
ノリとヒロは大騒ぎです。  
早速、舞踏会へ行くための仕度を始めました。  
しかし、ナルミだけは平然としています。  
「団長・・・じゃねぇ、お父さん。俺は遠慮しとくわ」  
「どうしてだ? もしかしたら王女と結婚できるかもしれないんだぞ」  
「俺、そんなもん別に興味ねぇし。それに夜はアテネの実況、見るからさ」  
「そうか。じゃあ仕方ないな」  
後ろではノリとヒロが憎まれ口を叩いています。  
「へへーん、お前なんか来なくていーよ」  
「俺が姫と結婚しても、吠え面かくなよなー」  
 
皆が出掛けてしまった後、1人残ったナルミは清々とした顔で言いました。  
「さーて、うるさい兄貴達もいないことだし、これでゆっくりテレビが見られるぜ。  
今日は1番楽しみにしてた男子100キロ級だからな」  
そこへ、コンコンコンと、玄関の扉を叩く音がしました。  
「誰だよ、今頃。こんな時間に訪ねて来る奴ぁ」  
めんどくさそうにナルミが扉を開けると、そこには見知った顔の男が立っていました。  
「やあ、久しぶりだ、チョンマゲマン。相変わらず間の抜けた顔をしているな」  
「げ・・・、何しに来やがった、ギイ」  
ナルミは思いっきり嫌そうな顔をしました。  
 
その男はギイといって、ナルミが以前大怪我をした時に手術をしたお医者さんです。  
でも性格が歪んでいてマザコンなので、ナルミはとても嫌っていました。  
「・・・悪かったな、マザコンで。失敬なナレーターだ。  
それよりナルミ、今日はキュベロン城で舞踏会なのだぞ。すぐに出掛ける用意をしろ」  
「俺は行く気はねーんだよ。オリンピック見るんだからな」  
「さぁ、グズグズしてたら始まってしまう。さっさと仕度をしないか。まったくのろまな奴だ。  
ここまで僕が世話を焼いてやらねばならんとは」  
「人の話を聞けー! 俺は行かねぇって言ってるだろーが!」  
「何故だ? お前のようなド平民の猿が王女と接近できるチャンスなんだぞ」  
「王女も舞踏会も興味ねーっての。だいたい何でそこまで俺を舞踏会に行かせたがるんだよ」  
そこでギイは胸元からロケットペンダントを取り出しました。  
「ママン〜。恩知らずなチョンマゲマンがいるよ〜。僕に命を救われておいて、言う事を聞いてくれないんだよ〜」  
「・・・分かったよ。行けばいいんだろ、行けばよぉ! 着替えて来るから待ってろ」  
仕方なくナルミは一張羅の服を引っ張り出して、着替えました。  
バキッ!!  
ギイが思いっきりナルミの頭をど突きました。  
「誰が武闘会に行くと言ったかね? 舞踏会だぞ、舞踏会。このイノシシマンが!」  
 
ギイが怒るのも無理はありません。  
ナルミが着て来たのは、戦闘用のカンフー服でした。  
「そんなこと言ったってよぅ・・・。俺はこんなのしか持ってねぇし」  
「まったくもう・・・、こんなこともあろうかと思ってレンタル衣装を借りて来ている。  
城へ行く為の乗り物も用意してあるから、さっさと着替えて来い」  
ぶつくさ言いながらもナルミはギイの用意したスワローテールに着替え、家の外に出ました。  
するとそこにあったのはカボチャの馬車・・・ではなく大きなカボチャの人形でした。  
横にはお仕着せを来た子供と、小さな自動人形が立っています。  
「僕が御者のマサルでーす」  
「グリュポンでーす」  
子供と自動人形が朗らかに挨拶しました。  
「さあ、ナルミ。これに乗れ」  
「あ、あのなぁ・・・普通は馬車だろうがよぉ!」  
「贅沢を言うな。城まで行くにはこれが1番速いんだ。最高速で空をひとっ飛びだぞ」  
渋々、ナルミはカボチャ人形、ジャック・オー・ランターンに歩み寄ります。  
「ち、しょうがねぇなぁ・・・。じゃあ頼むぜ、マサル」  
「はーい。それじゃあ、お兄ちゃんはジャコの後ろの箒にまたがってね」  
マサルは巨大なカボチャの頭部に乗っかり、操縦用の糸を引っ張りました。  
「行きまーす。しっかりつかまっててよ、お兄ちゃん」  
「イヒヒヒヒ」  
奇妙な声を上げると、ジャック・オー・ランターンは夜空に飛び上がりました。  
 
お城ではすでに舞踏会が始まっていました。  
広間の中央では大勢の男女が踊っています。  
「何だ。ナルミはまだ来ていないのか。いったい何をしているんだ?」  
既にお城に到着していたギイは、イライラしながら言いました。  
そこに先代女王のルシールがやって来ました。  
「これはこれは、陛下。御機嫌麗しゅう」  
「どうだえ、ギイ。孫の婿に丁度いい男は見つかったのかい?」  
「はぁ、それが・・・。見つけることは見つけたのですが、まだ到着していないようで・・・」  
女系一族のベルヌイユ王朝では、王女は年頃になると自分でお婿さんを見つけて来るのが決まりです。  
しかし前女王の娘婿、エレオノール姫の父親ショウジは超の付く過保護で  
「エレオノールは嫁にやらん。一生側に置いておくんだ」などと言っていました。  
お陰で王女はすっかり世間知らずに育ってしまったのです。  
それでルシール元女王は城の主治医のギイに命じて、王女のお婿さん候補を探させていたのでした。  
「まったく、うちの娘婿は人がいいだけで、間が抜けていて頼りにならないからねぇ。  
サダヨシなんていう得体の知れ無い胡散臭い男を信用して付き合ったりして・・・。  
アンジェリーナときたら、本当に男を見る目が無いよ。  
何とかエレオノールには、しっかりとした頼りがいのある夫を見つけてやらないと」  
ギイは恭しく頭を下げて、答えました。  
「もちろんです。陛下のイビリに耐え得る・・・いえ、誉れ高い王家の一族たるに相応しい  
たくましい男を選りすぐってまいりましたとも」  
 
その頃、ナルミを乗せたジャック・オー・ランターンは、ようやく城の前庭に到着していました。  
「ずいぶんと遅れちまったな」  
「そりゃ、ゆっくり飛ばないと、あんたが箒から落っこちそうになるからだろー」  
グリュポンが呆れたように言います。  
「○リー・ポッターじゃあるまいし、こんな棒っきれに座ってられっかよ!」  
「お兄ちゃん、僕達はここで待ってるよ。帰りも送って行くからね」  
「そりゃあ助かるが・・・。だけど遅くなっちまうぜ。子供はもう寝る時間だぞ」  
「大丈夫。僕、1時間しか寝なくても平気だから」  
「・・・・・」  
広間の中に入って行ったナルミは、ギイの姿を見つけ近寄りました。  
「遅いぞ、ナルミ。僕はオリンピアでとっくに着いていたというのに。何をもたもたしていたんだ」  
「うるせぇな。こっちはテレビ見てぇのに来てやったんだ。用事が済んだらすぐに帰るからな」  
「ナルミ、控えろ。先王ルシール陛下の御前だ」  
「ギイ、これがお前の選んできた男かえ?」  
元女王は興味深げにナルミを観察しました。  
「へ? この皺くちゃのバーさんが前の女王様・・・グハッ!!」  
元女王の踵落しが、ナルミの頭の天辺に炸裂しました。  
その素早い動きは、とても年寄りとは思えません。  
「・・・痛ってーな! 何すんだよ、このババァ!」  
「なかなかいい根性してるね。でもまあ、男はこれぐらい図太い方がいいさ」  
ルシール元女王は満足気です。  
 
「ナルミ、陛下はお前を認められたようだ。それではエレオノール姫と顔を合わせて来い。  
お前が気に入られるかどうか、試さねばならないからな」  
「はあ? なんで俺がお姫さんと?」  
「この舞踏会は姫のお見合いパーティなのだ。とりあえず1曲踊ってくれば、今晩はもう帰ってもいいぞ」  
「ちっ、分かったよ。1曲だけお姫さんのお相手すりゃ帰ってもいいんだな?」  
早く帰ってアテネを見たい一心のナルミは、勢い込んで歩いて行きました。  
 
広間の一角では、大勢の若者が王女を取り囲んでいます。  
「エレオノール姫。あなたの気持ちは分かってるんだよ。俺の事が好きなんでしょう?」  
「エレオノール姫。僕の妻として、甲子園に応援に来てくれないか?」  
「エレオノール姫。俺の心の穴を埋めて欲しいんだ」  
皆、王女の気を引こうと一生懸命です。  
しかし王女は憂鬱な気持ちで一杯でした。  
まだ恋をした事の無い王女には、男の人と話をするのが退屈で仕方がないのです。  
(ギイ先生、お見合いパーティなんて無理です。私には恋とはどういう物か分からないのだから・・・)  
そこへ、ツカツカと自分に向かって来るナルミの姿が王女の目に入りました。  
気迫に満ちたその形相は、とてもダンスを申し込むのが目的とは思えません。  
その姿を見た途端、王女は雷に打たれたような衝撃を受けました。  
「あ・・・、あの人は・・・?」  
なんと、王女はナルミに一目惚れをしてしまったのです。  
随分とご都合主義な展開ですが、お伽噺なんてまあこんな物です。  
 
王女はポーとなって、近付いて来るナルミの顔を見詰めました。  
そんな王女の様子を不審に思った若者達が色々話しかけますが、まったく上の空です。  
ナルミは王女の前に立つと、スッと手を差し出しました。  
「エレオノール姫。俺と1曲踊ってくれませんか?」  
「は・・・はい」  
王女は頬を赤く染めながら、その手を取りました。  
「な、なんだよ、お前! 後から来たくせに図々しいぞ!」  
若者達が抗議の声を上げます。  
町一番の金持ちの息子のリシャールが、ナルミの前に立ち塞がりました。  
「姫は今、俺と大事な話をしているんだ。遠慮してもらおうか・・・う、うわぁ!」  
ナルミの鋭い一睨みで、リシャールはあっさり腰を抜かしてしまいました。  
ヘタレです。  
構わずナルミは王女をエスコートして、ダンスをしている人々の群れに加わりました。  
ワルツのステップなどろくに知らないナルミは、見よう見まねで何とか足を動かします。  
初めての恋に夢見心地の王女はナルミに尋ねました。  
「あなたの御名前は?」  
「ナルミってーんだ」  
王女目当てで来ていた若者達は、歯軋りをしながら2人を目で追います。  
「あっ、あいつ! ナルミの奴じゃねーか?」  
「まさか・・・。ナルミがこんなとこ来るわけがないだろ?」  
「でもよぉ、あんなでかい図体の奴が、そうそういるもんかよ」  
ノリとヒロも悔しそうに2人の様子を見ていました。  
 
その時です。広間の時計が11時の鐘を打ちました。  
「やべっ! 遅くなっちまった。まだ決勝には間に合うかもしんねぇ」  
ナルミは王女から体を離し、スワローテールのすそを翻して走り出しました。  
「あっ・・・。ま、待って下さい! 何処へ行くんですか!」  
王女の呼び掛けに振り返りもせず、ナルミは広間を出て行きました。  
「い、行かせない。1人でなんか行かせないんだから!」  
ナルミはマサルの待っている場所に向かって、城の正面の階段を駆け下ります。  
「あるるかぁぁぁん!」  
掛け声と共に何者かが、ナルミの前に現れました。  
「な、何なんだ、こいつは?」  
それは王女の操る、黒い衣装を着た左腕の無い巨大な操り人形でした。  
その操り人形はあるるかんといって、王家に代々伝えられる戦闘用マリオネットです。  
「ナルミ、何処へも行かないで。私にはあなたが必要なの」  
そう言って王女は、あるるかんの右腕をナルミに向かって振り下ろしました。  
手っ取り早く殴り倒して、ナルミを引き止めるつもりです。  
さすがにルシール元女王の孫娘。過激です。  
ナルミは間一髪で避けながら叫びました。  
「お、お前なぁー! 何考えてんだよ!」  
「だって、あなたが逃げようとするから・・・。大人しく私の話を聞いて下さい」  
なおも王女は攻撃を仕掛けます。  
「ちっ、こうなりゃ仕方ねえ。聖ジョルジュの剣!」  
 
ナルミの左腕から大きな刃が飛び出し、あるるかんの攻撃をがっちりと受け止めました。  
「そ、それはあるるかんの左腕! 何故、あなたがそれを・・・」  
あるるかんの左腕はずっと以前に折れたまま、行方知れずになっていたのです。  
それがナルミの体に取り付けられていたので、王女はとても驚きました。  
「こいつは昔、俺が大怪我をした時、ギイって藪医者が勝手に付けやがったんだ」  
「ギ、ギイ先生が・・・?」  
王女が呆然としている隙に、ナルミはその場を離れました。  
ようやくナルミがたどり着くと、マサルは腕立て伏せをしている最中でした。  
「・・・78、・・・79、・・・80」  
「マスター、がんばれー」  
グリュポンが横で声援を送っています。  
どうやら待っている間、マサルは筋トレをしていたようです。  
「マサル、待たせたな。すぐに帰るぞ」  
「あっ、お兄ちゃん、お帰り〜。じゃあまたジャコの後ろに乗って」  
ナルミは箒にまたがりました。  
「よーし。行くよ、グリポン君」  
「了解! マスター」  
王女が追い掛けて来た時には、もうジャコは飛び去った後でした。  
「あるるかんのもう片一方の腕を持つ人・・・。国中を回ってでも、絶対に捜し出してやるわ」  
あるるかんの左腕の欠けた肩を見上げ、王女は固く誓いました。  
 
翌日、スポーツ新聞を見ながら、ナルミはがっくりとうなだれていました。  
その横でノリとヒロが怒っています。  
「まったく、テメーって奴は要領がいいな」  
「興味無いって言ったくせに、ちゃっかりエレオノール姫に取り入りやがってよ」  
ガシャ―――ン!!  
突然、窓ガラスを打ち破り、何者かが家の中に乱入して来ました。  
「うわぁぁぁ! なんだなんだなんだ、こいつはー!」  
ノリとヒロが悲鳴を上げます。  
それは昨夜のあるるかんでした。  
もちろん、操っているのは王女です。  
「コラン!!」  
王女の掛け声と共に、あるるかんの上体がぐるぐると回り出し、うろたえるノリとヒロの体を  
跳ね飛ばしました。  
ナルミも慌てて左腕の聖ジョルジュの剣を引き出し身構えます。  
「何のつもりだ、エレオノール姫!」  
なおも暴れるあるるかんに、ナルミは切り掛かりました。  
あるるかんの右腕の聖ジョージの剣と、ナルミの聖ジョルジュの剣が打ち合わされます。  
「見つけた! あるるかんのもう片方の腕」  
王女は叫びました。  
 
「見つけたって・・・?」  
「今朝からずっと国中を回り、あなたを捜しました。そしてやっと見つけたのです」  
王女はあるるかんの片腕を持っていないかどうか確かめる為、若い男に手当たり次第  
攻撃を仕掛けたのです。  
ほとんど通り魔です。  
「あ、あんた・・・やる事ムチャクチャ過ぎ」  
心底脱力して、ナルミは言いました。  
「さあ、ナルミ。一緒にお城へ行きましょう。私のお婿さんになるのです」  
「なって下さい、だろ? 普通はよー。少しは人の話を聞けー!!」  
「問答無用。あるるかぁん!」  
王女が操り糸を引くと、あるるかんはナルミの体をしっかりと捕まえ、抱え上げました。  
「帰ったらすぐに結婚式を挙げましょう。御婆様も大層お喜びになるわ。御婆様はナルミを  
とても気に入ったとおっしゃっていて、あなたを連れて来るのを今か今かと待ち構えているんですから」  
「って、おい! ちょっと待て─────」  
王女はあるるかんの肩の上に乗り、意気揚々とキュベロン城に帰って行きました。  
 
こうして王女に拉致・・・もとい見染められたナルミは結婚して、いつまでもいつまでも  
幸せに暮らしたということです。  
 
                  〜Fin〜  
 
 

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