セシル:ストラットフォード・アポンエイボンに住んでいた真面目な村の青年だったが、10年前に自動人形に恋人を殺され、“しろがね”となる。 
    性格故、ルシール達の教えを忠実に守り、今では“しろがね”の中でも特に冷徹な人形破壊者である。 
    しろがね年齢は22歳。ロンドン在住。使用する操り人形は「ハーレキン」。 
セリア:フランシーヌの手で作られた、女性型自動人形。人間の「或る感情」を探る為人間社会に溶け込んで生活している。異常な怪力である 
    点を除いて、特に攻撃手段は持っていない。容姿は20歳過ぎの大人しそうな女性。 
カトリーヌ:7歳。自動人形に殺されかけた処をセシルに救われ、セリアに懐く。 
セリス:殺されたセシルの恋人。戯曲が好き。口癖は「シェイクスピア曰く…」  
シルヴィオ:身の丈3mの自動人形。部下を何百体も従えている。 
      武器は、凄まじい振動で触れた物を粉々にする両手と、 
      背中に格納された2本の腕。この時点では最新型の自動人形。  
 
 
 
「さぁさ、皆様。これより御目に掛けますは、人形破壊者と人形、 
決して相容れぬ者達の愛の宴でございます。 
果たして、結末はどうなるのやら…それは誰にも判りませぬ。 
処は1960年、ロンドン。 
この禁断の愛の演目、一瞬足りともお見逃しの無き様、鷹揚の御見物を…」 
 
 
 
 昼過ぎのロンドン。セシル登場。大通りの交差点脇をスーツケースを転がしながら歩いている。 
 乗用車、右折しようとする折り、前方不注意のトラックが突っ込んで来る。 
 それを見てセシル、無表情に。 
セシル「人間同士で殺し合って……馬鹿みたいだな」 
 セリア登場。乗用車とトラックの間に割って入り、トラックを片手で持ち上げる。 
 セリア、持ち上げたトラックを降ろし、乗用車に乗っている家族に微笑みかける。 
セリア「危ない処でしたね。お怪我は在りませんか?」 
ドライバーの女性「ば、化け物!来ないで!!」 
 家族、車を乗り捨て逃げ出す。周囲の人間もセシルを残してその場から退場。 
 
 セシル、ハーレキンを取り出し、大声で問う。 
セシル「自動人形(オートマータ)め!人を殺める自動人形が何故こんな事をしている!?答えろ!」 
セリア「私は、人間の感情を探る為、この社会に送り込まれました。人を殺める様には造られておりません」 
セシル「ハッ!良く言うぜ。その馬鹿力を使えば、簡単に人間は殺せるだろう?依って私はこれより貴様を破壊する」 
セリア「そんな…私は只……」 
セシル「言い逃れをするな。今迄そうやって命乞いをする自動人形は、例外無く邪だったのだ。 
    ハーレキン!!Art of Fighting!!聖ジョージの剣!コラン!」 
 それを見て、悲しそうにセリア。 
セリア「しかたが無いですね……」 
 ハーレキン、上半身を回転させつつ両腕の刃でセリアに襲い掛かる。 
 抵抗せず、腰から擬似体液を噴出させ、両断されるセリア。 
 驚くセシル。 
セシル「何故だ!?何故抵抗しない!?お前はもっと人を殺したいのだろう!?しろがねは憎むべき敵なのだろう!?答えろ!」 
セリア「私…は、どの様な物に対しても…危害を加えて…はならぬ様、プログ…ラムされておりま…す故」 
 
 民間人の通報を受け、スコットランド・ヤード登場。セシルに問い掛ける 
警官「大丈夫ですか?お怪我は?」 
セシル「“しろがね”だ。問題無い。調書には『Shirogane』とだけ書いておけ。もう事は済んだ」 
 スコットランド・ヤード、驚いた顔をしつつも退散。 
 セシルセリアの千切れた体を集め、呟く。 
セシル「こんなに胸糞が悪くなる仕事は初めてだ……」 
 場面転換。  
 
 セシルの家、地下室。 
 壊れたセリアを直すセシル。 
セリア「何故、私を直して下さるのですか?」 
セシル「私は納得出来ない事が許せない質(たち)だ。貴様が造られた理由を聞く迄は、処分する気になれぬ」 
セリア「そうですか……では、お話ししましょう」 
 場面転換。 
 
 真夜中のサーカステント内。 
 フランシーヌ、椅子に座っているセリアを見守る。 
フランシーヌ「セリア、目を開けて御覧なさい。私(わたくし)が見えますか?」 
 セリア、ゆっくりと目を開き、首を持ち上げる。 
セリア「はい…御主人様」 
フランシーヌ「セリア、勘違いしないで。貴女は私の為に造られた自動人形では在りますが、私の僕では在りません。 
       貴女は特別な自動人形なのです」 
セリア「では、私の役目とは、何でしょうか?」 
フランシーヌ「私が調べた処、人間は他者の喜ぶ事をしてあげると、自らも嬉しくなり、笑う事が出来る様なのです。 
       ですから、貴女にはその感情を調べて貰いたい。そして、それが判った暁には是非、私に『友人』として、 
       その話を聞かせて下さい。貴女は私に仕える必要は在りません。全ての人々の喜ぶ事をなさい」 
 場面転換。 
 
 再びセシルの家、地下室。 
セリア「そう言った次第で、私は人を助けながら、今迄存在して来ました。納得して戴けましたか?」 
セシル「フン…作り話なぞ、幾等でも出来る。貴様は暫く私の傍で、観察させて貰う」 
セリア「では、私は貴方が“しろがね”として人々を助ける様子を見、学ぶ事に致しましょう」 
セシル「勝手にしろ。だがな、私は人としての心を持たぬ“しろがね”。私を見た処で、貴様の疑問が解ける事は無いと思うぞ」 
セリア「あ、私の修理、済んだ様ですね。お疲れ様でした。有難うございます」 
セシル「壊されておいて、『有難う』も何も無いだろうが…」 
セリア「何か?お茶でもお入れしましょうか?」 
セシル「勝手にしろ!」  
 場面転換。 
 
 ロンドン市内、路地裏。 
 脅える母娘、凄む自動人形数体登場。 
自動人形A「ちょっと血が足りねえんだ。一人は見逃してやるから、血を吸わせな」 
母「では…では、この子は見逃してやって下さい!!」 
自動人形B「あ、悪い。俺も血ィ欲しいから、やっぱ駄目」 
自動人形C「…と言う事らしいぜ。残念だったな」 
母「うあああぁぁぁぁぁ!!!!」 
 母、自動人形の一体に殴り掛るも、拳を受け止められ、握り潰されてしまう。 
 自動人形、その侭母の首筋に噛み付く。 
母「ギャアァァ!!…あぁぁぁ…ぁ」 
娘「ママ!」 
自動人形D「余計な抵抗するから、痛い目見るんだぜ。大人しく餌になってりゃ楽に死ねたのによ」 
セシル「ハーレキン!!」 
 セシル、ハーレキン、セリア上空から登場。 
自動人形E「おぉっと、“しろがね”様のお出ましだ!ずらかるぞ…ん?」 
 自動人形、セリアに気付く。 
自動人形E「確かあんたは……何で“しろがね”と一緒に行動してんだ?」 
セリア「私は私の研究をしているだけです。貴方達に危害は加えません」 
自動人形A「ぐわっ!!」 
セシル「ハーレキン!Art of Fighting!!Flame Spear!!」 
 次々とハーレキンに薙ぎ倒されて行く自動人形。 
 傍観するセリア。 
 全ての人形が倒れ、セシル、擬似体液に塗れた顔で、母娘を見やる。 
セシル「フン…母親は死んだか。娘、残念だったな」 
 娘、セリアの服の袖を掴み、セリアの腕に抱き付く。 
セリア「あ…」 
セシル「お前は本当に手を出さないんだな。ほらな…人助けをしても、こんな物だ。俺が今、嬉しいと思うか? 
    ま、元より礼なぞ望んでいないが。シェイクスピア曰く、『人から熱心に礼を言われると、困惑する物だ』」 
 セリア、暗い表情で答える。 
セリア「…しかし、この子はどうしましょう?」 
 場面転換。  
 
 市役所内。セシル、市役所職員登場。 
 セシル、困惑しながら叫ぶ。 
セシル「血縁者が誰も居ないだと!?」 
職員「はぁ…ここ最近、ロンドン市内で謎の失血死事件が続いておりまして……」 
セシル「じゃ、この子はどうなるんだ?」 
職員「孤児院を紹介します……えぇと、この『ストロベリー・フィールズ』には空きが…」 
セリア、カトリーナ登場。 
セリア「待って下さい!」 
セシル「貴様、まさか……」 
 セリアセシルを無視し、 
セリア「この子は『私達』が育てても宜しいでしょうか?」 
セシル「ばっ馬鹿!勝手に決める……」 
 セシル、カトリーナにズボンの裾を引っ張られている事に気付く。 
セシル「チッ!そう言う事だ。書類には『しろがね』と書いておけ。手続きはそれで済む筈だ。」 
 場面転換。 
 
 セシルの家、居間。 
 セシルセリア登場。 
 セシルセリアを殴り飛ばす。 
セシル「馬鹿野郎!!何で俺迄お前の我侭に付き合う羽目になるんだ!?」 
 セリア、鼻から流れた擬似体液を拭い、無表情で。 
セリア「私は、その様にプログラムされましたので……それに、これが最良の方法に思えました。 
    あの子にとっても、私にとっても……それから、貴方にとっても。 
    貴方風に言うと、シェイクスピア曰く、『何事も楽しみながら学ばねばならない』でしょ?」 
 セリア、そこ迄言って微笑む。 
セシル「余計な言葉覚えやがって…言っとくが、俺は何もしないからな」 
 カトリーヌ、ドアを開けて登場。 
カトリーヌ「ママは…ママはまだ帰って来ないの?」 
 セリア、カトリーヌを抱き締める。 
セリア「あのね、ママは……悲しいけれど、もう帰って来ないの。これからは、私達が新しいパパとママよ。 
     前のママ負けない位、貴女を愛してあげる。それに、ずっと一緒よ。だから、元気出してね」 
 カトリーヌ、泣き出し、セリアを抱き締め返す。 
 セシル、何も言えず立ち尽くす。 
 場面転換。  
 
 セシルの家、ダイニングキッチン。セリアセシル、カトリーヌ登場。 
 セシル、カトリーヌ、テーブルに着き、セリアの料理を待っている。 
 セリア、皿を差し出す。 
セリア「はい…出来…ました…グッ!ガアァッ!オォオォオォオォ…」 
 セリア、皿を落とし、突然胸を掻き毟って悶え苦しむ。 
セリア「アァアァ…オォォ…グッ…ハァア!!」 
カトリーヌ「ママ!どうしたの!?」 
 セリア、全身の穴から擬似体液を噴出させ、床を転げまわる。 
セリア「血…血が…チが欲シい!アァァア!!コわレてしまウ」 
セシル「血…か…さて、セリア、どうするんだ?私かこの娘の血を吸うのか?お前の本性が知れるな」 
セリア「わ、ワたしはッ…他者ニ、危ガいは加えマせン……アァァ…血が欲シイ!!」 
 カトリーヌ、セリアの元に駆け寄る。 
カトリーヌ「ママ、血が在れば助かるのね!?私の血、飲んで良いよ!!」 
 セリア、カトリーヌを突き飛ばす。 
セリア「駄目ッ!!ママ、大丈夫ダカら…」 
 カトリーヌ、再びセリアに近寄り、腕を差し出す。 
カトリーヌ「私、新しいパパとママの御陰で生きてる…だから、今度は私がママを助けたいの!」 
 セシル、カトリーヌの背後から腕を差し出す。 
セシル「見るに堪えん。さっさと私の血を吸え。私は“しろがね”だ。御前が満足する迄血を吸おうとも、死にはしないだろう」 
 セリア、その腕を見詰める。 
セリア「だ、駄目…私には、そんな事…」 
セシル「煩い!」 
 セシル、強制的に腕をセリアの歯に刺す。 
セシル「グッ…ウゥゥ…総血液量の半分位なら、失血しても問題無いだろう」 
セリア「あぁ……済みません。済みません…何だか、変な気持…貴方の記憶が流れ込んで来る…」 
 場面転換。 
 
 セシルの家、寝室。セシルセリア登場。 
 セリア、ベッドの上に横たわっている。 
セリア「本当に有難う。助かったわ」 
セシル「御前、今迄吸血はどうしていたんだ?」 
セリア「大学の研究ということで、屠殺場のおじさんの手伝いをして、豚さんの血を…」 
セシル「戯け!!全く、シェイク…」 
セリア「シェイクスピア曰く、『馬鹿に付ける薬は無し』でしょ?本当に御免なさい。でも、貴方の御陰でもう、吸血は要らないみたい」 
セシル「チッ…俺の記憶を持って、面倒な事になったな。性格迄変わったんじゃ無いのか?」 
セリア「貴方が喜ぶかと思って貴方の中のセリスさんの性格を真似てみようと思ったの…」 
 セシルセリアに背を向ける。 
セシル「その名を二度と口にするな。そんな下らん事を続けるなら、あの餓鬼を連れて出て行け」 
 セシル、乱暴にドアを閉め、出て行く。 
セリア「何で…何で喜んでくれないの…『神よ、隣人同士が手を繋ぐ事はどんなに難しいのでしょう』」 
 場面転換。  
 
 セシルの家、居間。セシル、カトリーヌ登場。 
 カトリーヌ、落ち着かぬ様子。 
カトリーヌ「ママは大丈夫だった?」 
セシル「あぁ、そうだな」 
カトリーヌ「私、ママの看病しても良い?」 
セシル「あぁ、そうだな」 
カトリーヌ「パパ!聞いてるの!?どうせ、ママと喧嘩したんでしょ!?」 
セシル「あぁ、そうだな」 
カトリーヌ「ママはあんなに優しいのに、何で苛めるの?本当はママも私も、パパが優しい人だって知ってるんだからね!」 
セシル「あぁ…あぁ?」 
カトリーヌ「強がったって駄目!本当はパパだってママが居て嬉しい癖に!」 
 セリア、寝室のドアを開けて登場。 
カトリーヌ「ママ!大丈夫なの!?」 
セリア「えぇ、大丈夫。もう大丈夫よ。セシル、本当に御免なさい。でも、今の貴方は無理をしている様に見えたから… 
    私、少しでも貴方を楽にしてあげたい」 
セシル「シェイクスピア曰く『好意を天秤に掛けるな』。 
    この意味が解った時、御前の目的が達せられるだろう。私に言えるのは、それだけだ」 
場面転換。  
 
 真夜中、エセックス州郊外。シルヴィオ、数百体の自動人形を引き連れて登場。 
 ロッケンフィールド登場。 
 ロッケンフィールド、シルヴィオの傍らに倒れている。 
シルヴィオ「もう此処にゃ目ぼしい人間は残っちゃいねえな。美食家の俺は、若い女にしか用はねえ…そして、俺にはそれを手にする“力”が在る!」 
 部下の自動人形、喚声を上げる。 
シルヴィオ「“しろがね”共も情け無えしよぉ。同胞よ!ロンドンの先発隊に追い付くぞ!!」 
 ロッケンフィールド、シルヴィオの足首を掴む。 
ロッケンフィールド「行かせぬぞ…貴様の思い通りになどさせるものか!!」 
 シルヴィオ、ロッケンフィールドの手を踏み潰し、睨み付ける。 
シルヴィオ「マリオネットも無しに、これ以上やんのかよ?俺は強えぜ。5分前に俺に一撃も加えられずに、返り討ちに遭ったのは誰だ? 
      だが、その根性だけは認めてやらあ…“しろがね”の血は不味いし、見逃してやるぜ」 
ロッケンフィールド「フッ…私が駄目でも、貴様を破壊する者は沢山居る。貴様の望みは…グワッ!」 
 シルヴィオ、ロッケンフィールドを蹴り飛ばす。 
シルヴィオ「ぶつぶつ言ってんなよ。大人しく寝てるんだな。行くぞ!」 
 シルヴィオ、部下の自動人形退場。 
 ロッケンフィールド、ペンタゴナノッカーに内臓された“ヘルメス”を取り出す。 
ロッケンフィールド「連絡を…ロンドンに連絡を取らねば…。しかし、奴の強さは……“しろがね”では勝てない」 
場面転換。 
 
 セシルの家、寝室。セシルセリア、カトリーヌ登場。 
 セシルセリア、カトリーヌを挟んで寝ている。 
 セシル、“ヘルメス”の受信に気付き、目覚める。 
セシル「ロッケンフィールドか。どうした?」 
ロッケンフィールド(声)「そちらに恐ろしい強さを持った自動人形の集団が向かっている。“しろがね”10人で迎え撃ったが、生き残ったのは私一人だ。 
            すぐにロンドン中の全ての“しろがね”を集めてくれ」 
セシル「解った。君は大丈夫なのか?」 
ロッケンフィールド「あぁ、私など、相手にすらされなかった様だ。兎に角、今迄の自動人形では無い。“しろがね”では勝てぬかも……」 
セシル「心配するな。人形共め…土に還してやる」 
 セシル、トランクを持って退場。 
 場面転換。  
 
 ロンドンとエセックスとの境の高速道路。セシル他、“しろがね”20人登場。 
セシル「まだ来てはいない様だな。最近のロンドンの事件は、奴の先発隊の仕業か…」 
しろがねA「あっ!それらしいのが向こうから走って来るわ!」 
しろがねB「皆、備えろ!準備は良いか!?」 
しろがね「おう!!」 
 シルヴィオ他自動人形、凄まじい速度でしろがね達の目前迄迫る。 
シルヴィオ「邪魔だぁ!!」 
 シルヴィオ、しろがねAの頭を掴む。 
 しろがねA、シルヴィオに掴まれた頭を破裂させ、倒れこむ。 
 セシル、無表情でそれを見る。 
 しろがねB、驚いてしろがねAの死体に駆け寄る。 
しろがねB「サリー!貴様、何をした!?」 
シルヴィオ「あっちゃあ。間抜けの“しろがね”には見えなかったのかなぁ…俺のこの掌の“振動”が。 
      こいつが人間に触れりゃ、ほらよ!」 
 シルヴィオ、しろがねBのマリオネットの腹部に触れ、穴を開ける。 
シルヴィオ「判ったか?最新型の自動人形は、“しろがね”なんざ歯牙にも掛けねえんだよ!」 
しろがねB「あ…ぁ…」 
セシル「恐れるな!心を閉ざせ!!私達は“しろがね”だろう!」 
 “しろがね”達、一斉にシルヴィオに襲い掛かる。 
シルヴィオ「遅えな…欠伸が出るぜ」 
 シルヴィオの背中から、2本の腕が伸び、4本の腕で“しろがね”達を吹き飛ばす。 
 “しろがね”達、血塗れで横たわる。 
 シルヴィオ、“しろがね”達に順番に止めを刺し、セシルに近付く。 
セシル「…シェイクスピア曰く『どん底だと思った時は、どん底では無い』か……セリ……」 
 シルヴィオ、セシルに手を掛けようとするが、高速道路の下へ吹き飛ばされる。 
シルヴィオ「グォッ!何で御前が…」 
 部下の自動人形、吹き飛んだシルヴィオを追う。 
 セリアセシルの背後より登場。 
セシルセリア!」 
セリア「貴方の言っていた事が解ったの。今の私は只、貴方を助けたい。それだけよ」 
セシル「だが…君が何故こんな事を!?」 
セリア「貴方の血を貰った私は、もう何にも縛られないわ。私は私…セリスさんの代わりでは無く、 
    貴方とカトリーヌを大事にしている一人の女。私も貴方と娘を護る為、私の生活を護る為に戦いたい」 
 セリア、シルヴィオを追う。 
 場面転換。 
 
 高速道路の下、荒地。シルヴィオと部下、セリア登場。 
 シルヴィオ、セリア対峙する。 
シルヴィオ「貴様確か…虫すらも殺せねえ、旧式の人形だったな」 
セリア「私は人間よ。私には大事な人達が居る。私はその人の血を受けて生きている。 
    貴方達は、人を傷付けて……それでフランシーヌ様が笑える方法が本当に見付かると思っているの!?」 
 シルヴィオとその部下、嘲笑する。 
シルヴィオ「馬鹿みてえだな。俺達ゃ工房で造られた。フランシーヌに造られた訳じゃねえ。俺は自分に具合が良けりゃ、 
      それが一番なのよ。おら、御前等、やっちまいな!」 
 部下の自動人形、セリアに襲い掛かる。 
 セリア、迎撃し、数十体を破壊するも、次第に劣勢になっていく。 
シルヴィオ「どうだ?御前、中々に速いが、俺達も速えだろぉ!?御前が壊れるのも、時間の問題だなぁ」 
セリア「私は負けない!私が負けた結果を見たくないから!!」 
 場面転換。 
 
 高速道路上。セシル、数人の“しろがね”登場。 
 セシル、倒れている“しろがね”の一人に駆け寄る。 
セシル「大丈夫か!?」 
しろがねC「あぁ。だが、常に冷徹な御前が『大丈夫か』だと……変わったな」 
 しろがねD、起き上がり、セシルに近付く。 
しろがねD「さっきの娘は?それに、早くあの自動人形を追わねば!」 
セシル「そうだな。セリアを助けねば……フッ…私もあいつの所為で変わってしまったのかも知れぬ」 
 “しろがね”達、退場。 
 場面転換。  
 
 再び高速道路下の荒地。セリア、シルヴィオとその部下登場。 
 セリア、衣服が引き裂かれ、所々から擬似体液を流している。 
シルヴィオ「へへ…粋がっても所詮プロトタイプ。俺達に敵う筈も無えのよ。あばよ!」 
 自動人形達、セリアに襲い掛かろうとするが、急に動きが鈍る。 
 セリア、それを受けて、数体の自動人形達を纏めて破壊する。 
シルヴィオ「どうした御前等ァ!?……ん?そう言や、俺も動きが遅く…」 
 セシル、他しろがね数名上空から登場。 
セシル「ハーレキン!」 
 ハーレキン、部下の自動人形の集団の一部を薙ぎ払う。 
セリアセシル!」 
 セリアセシルに駆け寄る。 
セシル「済まん、待たせたな。……ボロボロじゃないか」 
セリア「いいえ!いいえ!私今、とっても嬉しいの!こんな怪我、どうって事無いわ」 
セシル「そうか…私もだ。シルヴィオ、御前等自動人形は、“観客”の前では素早く動けぬのだろう?御前の望みもここで潰えるな」 
シルヴィオ「さっき御前等は鈍い俺に為す術も無かったじゃ無えか!それに、こっちは数で勝る!俺は負けねえ!」 
セシル「フッ…『数の上では劣る我等、だが、幸せでは勝る我等』ってな。 
    皆、来るぞ!セリア、私が奴等の前に立ち、動きを鈍らせる。御前はそこを攻撃してくれ!」 
セリア「カトリーヌの為にも…必ず、生き残りましょうね」 
 場面転換。 
 
 高速道路下の荒地。“しろがね”達と部下が倒れている。 
 セシルセリア、シルヴィオ登場。 
セシル「止めだシルヴィオ!ハーレキン!コラン!」 
セリア「やぁぁぁ!」 
 セリアとハーレキン、前後からシルヴィオに襲い掛かる。 
シルヴィオ「只じゃ逝かねえ!御前も死ねぇ!!」 
 シルヴィオ、セシルの腹に手を触れ、大きな穴を開ける。 
セシル「ぐぅぅ…セリア、やれえぇっ!」 
セリア「はい!」 
 セリア、シルヴィオの頭を吹き飛ばす。 
 場面転換。 
 
 満月の下。セシルセリア登場。 
 セシル、仰向けに倒れこみ、体が徐々に石化して行く。 
 セリアセシルの体を抱き起こす。 
セリアセシルセシル!!」 
セシル「気にするな…私は満足したのだ。御前を喜ばせる事が、私にとっての一番の目的になっていたのかも知れぬ。 
    人形を壊す事よりも大事な、な。半年足らずだったが、御前との生活は、私に新しい風を吹き込んでくれた。有難う。」 
セリア「そんな!死なないで!カトリーヌはどうするの!?」 
セシル「死なないさ…セリア、頼みが在る。私の血を、残らず…吸ってくれ。そうすれば…私は御前の中で生きられる。セリア…ずっと一緒だぞ」 
セリア「はい、貴方。有難う。そして、これからも宜しくね」 
 セリアセシルの首筋に口を付け、セシルの血を吸う。 
 セシル、完全に石化し、崩れる。 
セリア「お帰りなさい、貴方。これからも愛しているわ。フランシーヌ様、何時か見(まみ)える事が在れば、その時に、私が見付けた答を…」 
 場面転換。 
 
 朝方、セシルの家、玄関。 
 セリア、ドアを開けて登場。 
セリア「只今。あら、もう起きてるのかしら?」 
 カトリーヌ、登場。セリアの方に向かって走って来る。 
カトリーヌ「ママ、お帰り!どこ行ってたの?それにパパは?」 
セリア「パパはね……ママの中に居るわ。今は笑ってるみたい。 
    貴女が元気で良かったってね」 
閉幕。 
 
セリス「シェイクスピア曰く『恋は目で見るのでは無く、心で見る物』よ。お帰りセシル!ずっと逢いたかった」  

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