仲町サーカスの中には、個人の空間など無きに等しい。  
金銭的に余裕のある大手なら、それぞれキャンピングカーでも与えてもらえるだろうが  
仲町サーカスには数台のトラックしか無い。  
興行先によっては公民館を貸してもらえたり、安宿に泊まる時もあるが  
殆どの場合、団員達はテントの中や、狭いトラックの中で雑魚寝である。  
当然、個人のプライバシーなど望むべくも無い。  
プライバシーの確保、それは熱愛中の恋人達にとって、最大の重要課題であり   
鳴海とエレオノールにとっても悩みの種だった。  
サーカスの中は常に人の目が有り、2人だけになれる事は殆ど無い。  
例えば昼間、他愛も無い会話をしている時、ふと良い雰囲気になったりする。  
どちらからともなく手を伸ばし、体を寄せ合い、唇を触れ合わせようとすると、大抵  
誰かが通り掛かる。  
しかも彼らの仲を快く思わない連中が若干名いて、2人でいるところに割り込んで来て  
意図的に邪魔をする。  
夜は夜で、いくら公認の仲とはいえ、これから一番やってきますとばかりに  
2人で堂々と人気の無い所へ行く程、神経が太くはない。  
皆が寝付いた頃に、そっと寝床を抜け出し、つかの間の甘い一時を得る。  
そんな風に、平和ではあるが不自由な日々を送っていた。  
 
 
春の初めのある日の事、鳴海は団長の仲町に呼び出された。  
「この前、話が出てた次の興行先がな、正式に決まったんだ。あちらから連絡が来て  
観光シーズンの目玉の一つって事で、来月にな」  
「ああ、温泉で有名な町でしたっけね。・・・それで?」  
「今回の先乗りを、お前に任せようと思ってな」  
先乗りとは、事前に興行地へ赴き、地元の商工会や顔役への挨拶回り、場所代の交渉など  
様々な打ち合わせを行う事だ。  
「えっ・・・、俺だけでですか? そりゃあ、いつも団長か法安さんにくっついてって  
段取りは分かってるっすけど・・・。俺みたいな若造だけでもいいんすか?」  
「まぁ、お前さんも随分慣れてきたようだし、そろそろ1人でも大丈夫だろ。  
それと、しろがねも一緒に連れてってやれ」  
「はぁ?」  
「家事やら何やら、ほとんどあいつに任せっきりで、ろくに休む事も出来ねぇし。  
たまには周りの世話なんか忘れて、ゆっくり羽を伸ばしてこいってな」  
何でも完璧にこなせるだけに、仕事から日常の雑事まで、周りの者がつい頼ってしまい  
自分の時間など殆どないエレオノールの事を、団長もそれなりに気にしていたようだった。  
「それに・・・俺の女房も良い女でな。狙ってた野郎が多くて、随分邪魔されたもんだぜ。  
おかげで若い頃は、デートもろくに出来なかったよ」  
団長の死んだ妻がエレオノールに似ていたと、以前、鳴海は聞いた事があった。  
その為、自分達の若い頃の姿を、2人に重ね合わせているらしい。  
「・・・あー、すいません。なんか気ぃ使わせちまって」  
「いいってことよ。しかし、お前も苦労するなぁ。ははは」  
 
 
翌日、鳴海はバイクの後ろにエレオノールを乗せ、目的地へ向かった。  
昼食を取る為に立ち寄った高速道路のサービスエリアで、観光雑誌を買い入れる。  
「ねえ見て、ナルミ。このお祭り、興行場所のすぐ近くだわ。4月の中頃にやるの。  
からくり人形が見られるんですって」  
「ああ、聞いた事あるぜ。からくり人形を乗せた山車が出るんだってな。来月か。  
勝達を連れて行ってみるか」  
「あちこちに桜の名所があって、樹齢が1500年になる樹もあるんですって。興行の合間に  
皆でお花見に行けたらいいわね。一杯、お弁当を作って・・・」  
エレオノールはページを捲りながら、声を弾ませる。  
やはり2人だけの旅行が嬉しいのだろう、今日の彼女は珍しく饒舌だった。  
鳴海もまた、無邪気に喜ぶ彼女の姿を見ていると、心が浮き立ってくる。  
以前と比べると、エレオノールはかなり社交的になった。  
だが他人行儀とも言える程、他の団員達に対しての丁寧な言葉使いと礼儀正しい態度は  
未だに変わってはいない。  
常に一定の距離を保っていて、いつも感情を抑制しているようだった。  
口喧嘩をしたり、すねて見せたり、無防備に有りの儘の感情をさらけ出す相手は  
鳴海だけであり、エレオノールにとって彼は唯一、甘える事の出来る男であったのだ。  
他の男には決して見せない彼女のあどけない表情に、鳴海の顔もつい緩んでしまう。  
「どうかした? ナルミ。顔が少し赤いわ」  
「な、何でもねーよ」  
くるっとした大きな銀色の瞳に見つめ返され、鳴海は慌てて視線を逸らした。  
 
 
着いた先は、風光明媚な山間の地方都市だった。  
全国的に知名度の高い観光地なだけに、町の中心を流れる川の両岸に、数多くのホテルや旅館が立ち並んでいる。  
その川に架かる橋の近くにバイクを止め、鳴海は地図を広げた。  
「とりあえず宿を決めちまおう。えーと・・・、駅に案内所があるってよ。そこに行って  
ホテルを探そうぜ」  
「見て。あんなところで皆、お風呂に入ってる」  
エレオノールが指した方を見ると、川岸の岩場に温泉が湧いていて、数人の男女の  
姿が見えた。  
男性達は湯の中に浸かり、旅館の浴衣を着た女性達は足だけを浸して談笑している。  
「へ〜、さすが温泉街だ。あんなとこにも露天風呂がある。まぁ、俺には用は無いけどな」  
「あ・・・」  
彼の言葉に、エレオノールの表情が曇る。  
鳴海は作り物の手足を気にするつもりはないが、不躾な視線でジロジロと見られれば  
やはり愉快な気持ちはしない。  
他人の好奇の目が煩わしく、普段は体を洗うのも洗面器に張った湯で、タオルで拭いて  
済ませたり、銭湯を使う時も人気の少ない時間を選んで行ったりしていた。  
エレオノールはしゅんとして、黙り込んでしまった。  
露天風呂の話題などを口にした、自分の迂闊さを責めるているようだ。  
「ばーか、そんな事いちいち気にしてるんじゃねーよ。それにせっかく来たんだ。  
俺はいいからお前は湯巡りでもしてこいよ」  
鳴海は明るく笑いながら言ったが、エレオノールは頭を振った。  
「ううん、いいの。あなたと一緒じゃなければつまらないから」  
 
宿泊先を決める為に、2人は観光案内所に向かった。  
そこでエレオノールは壁一面に張られたポスターに、ふと目を留めた。  
しばらく見入っていた彼女は、隣で電話帳を捲っていた鳴海に声をかける  
「ねえ、ナルミ。一日だけ贅沢してはいけないかしら?」  
「はぁ? 何だって?」  
「今日だけね、この旅館に泊まってみたいの」  
彼女が指し示したポスターの写真には、趣のある建物が写っている。  
「おいおい、いくらすると思ってんだ? そういうとこは高ぇんだぞ」  
「だから一日だけだったら。明日からはビジネスホテルにすればいいでしょう?」  
鳴海との付き合いで身に付けた、おねだりする時のコケティッシュな上目遣いで  
エレオノールは可愛らしく彼を見上げる。  
さしもの鳴海もこの攻撃に抗うのは難しく、渋々ポスターに目を通した。  
そして、その宣伝内容を読み、彼女の意図に気付いた。  
(ああ、そういう事か・・・)  
財布には、ある程度の持ち合わせはある。  
最近は順調に興行依頼が入るようになり、仲町サーカスは経営が成り立つようになった。  
お陰で、わずかとはいえ給料と言える物も出るようになった。  
遊ぶ事に興味の無い鳴海には特に使い道も無いので、それなりに貯まっている。  
「そうだな。たまには贅沢してもいいよな」  
経済的に問題は無いし、何より先程落ち込ませてしまった彼女の心を晴らしてやれるなら。  
鳴海はそう考えた。  
 
シーズンオフの所為か、幸い部屋は空いていて、予約無しでも泊まる事が出来た。  
鳴海は差し出された宿帳に、「加藤鳴海、エレオノール」と書き込む。  
「ご夫婦でいらっしゃいますか? お部屋は一つでよろしいですね?」  
「はっ、はい、お願いします」  
愛想の良いフロント係に、面映い気分で鳴海は答えた。  
「夫婦」と言われて、エレオノールも顔を赤らめる。  
仕事に取り掛かるのは明日からなので、今日は1日、町の散策に出掛ける事にした。  
野外博物館の古民家を見物したり、土産物屋を覘いたり、久しぶりに誰にも邪魔されない  
2人だけの時間を満喫した。  
「誰の目も気にしないでいいってのは、気楽だよなぁ」  
「そうね。サーカスの皆と一緒にいるのも楽しいけれど。でも、あなたとこうして  
いられる時間が一番好き・・・」  
誰にも見られていないどころか、彼らは今、注目の的であった。  
内外からの観光客が多く訪れるこの地では、外国人など特に珍しくもなんともないが  
エレオノールの美貌は、人々の視線を引き寄せた。  
そして鳴海の方も白皙の美青年と言うには程遠いが、なかなかの男前であったし  
何よりも日本人離れした身長と鍛え抜かれた肉体は周囲を圧倒した。  
絶世の美女と堂々たる風貌の青年。  
自分達がいかに人目を引く存在であるのか、彼らはまるで分かっていない。  
旅の恥は掻き捨てといおうか、顔見知りの者が誰もいない場所での気楽さの所為か  
鳴海は少し大胆な気分になり、エレオノールの手を取り、握り締める。  
エレオノールは恥じらいに頬を染めながらも、彼のその手をぎゅっと握り返した。  
 
旅館に戻り、夕食を済ませると、床が延べられた。  
仲居さん達は、てきぱきと仕事を終えると、一礼して部屋を出て行った。  
和室の中央に、きちんと並べられた二組の布団。  
それは妙に生々しさを感じさせて、2人は気恥ずかしさに言葉も交わせず、押し黙ったまま  
布団の横で向かい合っていた。  
「・・・・・・・・・・」  
既に幾度も肌を重ねた仲であるというのに、まるで初夜を迎える新婚夫婦のようだ。  
「えーと、その・・・何時までもこうしてても仕方ねぇし、そろそろ風呂にでも入るか?」  
「えっ、ええ、そうね」  
照れ隠しに鳴海が明るい調子で切り出すと、エレオノールも救われた様な顔で同意した。  
鳴海は立ち上がり、テラスの方に向かって歩いて行く。  
外に出るガラス戸を開けと、そこは四畳ばかりの板張りのスペースになっていて  
檜作りの浴槽が設置されていた。  
目の前には夜景が広がり、下には街の灯を水面に映した川が滔滔と流れている。  
「凄ぇ。いい眺めだ。やっぱ、こういう所の景色って風情が有って良いよな」  
「ねっ。ここに泊まって良かったでしょう?」  
エレオノールも彼の背後から覗き込む。  
「あなたに誰にも気兼ねしないで、ゆっくり休んでほしかったから」  
この旅館の客室は全室、露天風呂が付いている。  
彼女が珍しく我が儘を言い出したのはこの為だった。  
 
鳴海は服を脱ぎ、先に湯に浸かった。  
心遣いの細やかなエレオノールは、彼の服を畳み、着替えの仕度をしている。  
今は他人の目を気にする必要も無く、鳴海は湯船の中で思いっきり体を伸ばした。  
温泉の湯はやはり格別で、全身の緊張が解けていくようだった。  
まだひんやりとした3月の風も、火照った体に心地良い。  
ガラス戸の向こうから、エレオノールが声を掛けた。  
「ナルミ、お湯加減はどう?」  
「ああ、最高だ」  
すっかりくつろいで、ぼんやりと景色を眺めながら鳴海は答える。  
ガラリと引き戸を開け、体の前をバスタオルで軽く押さえただけの一糸纏わぬ姿で  
エレオノールが入って来た。  
宵闇の中、街の灯とテラスの薄灯りに照らし出され、彼女の体の曲線が浮かび上がる。  
全て見せられるより、わずかに隠されていた方がより扇情的で、その姿に鳴海は思わず  
見蕩れてしまった。  
エレオノールはバスタオルを手摺りに掛け、その裸身を彼の前に晒し出した。  
張りのある豊かな胸、円やかな腰のライン、しなやかで白い手足。  
十分に見慣れているはずなのに、今日は尚更艶めかしく感じる。  
エレオノールは湯船に入り、ゆっくりと体を沈めていった。  
「本当、良い気持ち・・・」  
肩まで浸かりながら、彼女はホゥッと吐息を漏らす。  
 
透き通る様な彼女の白い肌が、みるみる桜色に染まっていく。  
頬にもほんのりと赤みが差して、薄化粧をほどこした様に見えた。  
真珠の粒の様な水滴が産毛を光らせ、なだらかな肩を滑り落ちていく様は、あまりにも  
官能的で、鳴海の情欲を煽った。  
エレオノールは彼の隣ににじり寄り、その肩にコトンと頭を預ける。  
温められた彼女の体から立ち昇った芳しい香りが、彼の鼻孔をくすぐった。  
「街の灯りが綺麗・・・。それに山の空気も、とっても美味しいわ」  
「あっ? ああ、そうだな」  
エレオノールは穏やかで満ち足りた様子だったが、鳴海の方はといえば、まったくもって  
落ち着かない気分を味わっていた。  
艶かしく輝く肌も、髪の香りも、甘い吐息も、全てが彼を挑発する。  
今すぐにでも彼女を抱きたい。  
柔らかい肌を思う存分、貪りたい。  
そんな衝動に囚われたが、あまりにもがつがつしている様で見っともないと思い  
彼は辛うじて踏み止まった。  
エレオノールの方は、そんな鳴海の気も知らぬかの様に、ゆったりと湯に浸かっている。  
しばらくの間、2人は静かに寄り添い、外の景色を眺めていたが、やおらエレオノールが  
鳴海から体を離して立ち上がった。  
「ああ、熱い・・・。のぼせてしまったみたい」  
彼女は湯船の反対側に移動して、浴槽の縁に腰を掛け、鳴海に向かい合った。  
彼の目の前に、肉感的な体が惜しげも無く晒し出される。  
「お、おい! 外から見られちまうぞ」  
「平気よ。ここは3階だもの。下からは全然見えやしないわ」  
 
エレオノールはゆったりとした仕草で髪を掻き上げ、悠然と顔を仰のかせるが  
鳴海は気が気ではない。  
「風が冷たくて、気持ち良い・・・」  
彼女が身じろぎする度に、両足の間の濡れた繁みが誘う様に蠢く。  
もう限界だと、鳴海は思った。  
派手な水飛沫と共に立ち上がった鳴海は、彼女の二の腕を掴んで荒々しく引き寄せた。  
「あっ!」  
エレオノールはよろめく様に、彼の腕の中に倒れ込んだ。  
「まったく、お前は・・・。わざとやってんのかよ」  
すっかり勃ち上がった彼の物が、彼女の腹部に強く押し当てられる。  
「あ・・・、ナルミ。もうこんなに硬くなってる・・・」  
「お前の所為だぞ。どうなっても知らねぇからな」  
そう言って、鳴海は噛み付く様な激しさで、彼女の唇を塞いだ。  
「うっ・・・、ふぅ・・・」  
舌を強く絡め取られ、彼女は息苦しそうな声を漏らす。  
エレオノールの唇を貪りながら、鳴海は片手を彼女の腰に回し、もう片方の手で  
白い尻をまさぐった。  
「あっ、あんっ! ま、待って! こんな所では人に見られてしまうわ」  
「何言ってんだよ。下からじゃ見えねぇって言ったの、お前だろ?」  
「ね、ねぇったら。ナルミ。・・・あん!」  
最初は拒んで見せた彼女も、耳を弄られ、首筋に舌を這わされている内に、声に艶が  
混じり始めた。  
 
「はぁん・・・、く・・・ふぅ・・・」  
エレオノールは身を捩り、彼の体に縋り付く。  
鳴海は彼女の足の付け根に指を差し入れた。  
「・・・やんっ! あっ、あっ」  
柔らかな肉襞を掻き分け、潜り込んでいった指が彼女の中で蠢き、その動きに合わせて  
溢れ出した蜜が、ピチャピチャと淫らな音を立てる。  
足が震え出し、立ったままでの行為に耐えられなくなったエレオノールの膝が、ガクと  
崩れた。  
「おっと!」  
鳴海は咄嗟に彼女の体を受け止め、両腕に抱きかかえた。  
そして再び湯に体を沈め、胡坐をかいた上に彼女を後ろ向きで座らせた。  
エレオノールはぐったりとして、されるがままになっている。  
鳴海はうなじに口付けながら、彼女の張りのある形の良い乳房を揉みしだいた。  
肌理の細かいシルクの様な肌は、温泉の湯で更に滑らかさを増している。  
彼が指先で硬く尖った先端を擦り上げる度に、彼女はピクンと体を揺らす。  
「あ・・・、ナルミ・・・、ナルミ・・・」  
エレオノールは堪らなげに仰け反らせた頭を、鳴海の胸に強く押し付けてくる。  
背を大きく反らせた所為で、彼女の豊かな乳房は更に前へと迫り出されていた。  
その乳房を片手で弄びつつ、もう一方の手を彼女の広げられた足の間に這わせる。  
鳴海の手は焦らす様に、わざとゆっくりふとももの内側を撫で擦っている。  
「や・・・、ナ、ナルミ・・・お、お願い・・・早く・・・」  
一番触れて欲しい場所を触れてもらえず、エレオノールはもどかしそうに身を捩った。  
 
「い、意地悪しないで・・・ねぇ、ナルミ・・・」  
彼女は上擦った声で、必死に懇願する。  
それでようやく鳴海は焦らすのを止め、彼女の中心に手を持っていった。  
「うっ、くぅっ!」  
敏感な芽を摘まれて、エレオノールの体がビクンと跳ねた。  
硬く充血し切ったそれを、指に挟みコリコリと弄ぶ。  
「あっ、あっ、はぁっ、あぁ・・・」  
湯に温められ、ぬめりを帯びた花弁は柔らかく綻び、人造の硬い指を易々と受け入れた。  
差し入れられた2本の指を貪欲に飲み込み、奥へ奥へと誘い込んでいく。  
鳴海は一旦、奥まで到達させた指を引き抜き、そしてまた深く突き入れてやった。  
その動きの繰り返しに、エレオノールは我を忘れ、髪を振り乱しながら身悶え  
甘く切ない声を上げる。  
外の部屋に、声が聞こえてしまうかもしれない。  
そう考えるだけの余裕は、今の彼女には無いようだった。  
「あんっ! ナ、ナルミ・・・、あぁっ! もっとぉ・・・」  
跳ね上がる彼女の体を後ろから抱き締め、鳴海は手の動きを更に速めていった。  
2人の動きに合わせて風呂の湯が波打ち、水飛沫が上がる。  
「い、いいっ・・・、あ・・・あぁ─────!!」  
悲鳴のような声を上げながら、エレオノールは体をしならせ、上り詰めた。  
 
鳴海は力の抜けたエレオノールの体を、優しく受け止めてやる。  
「あ・・・、はぁ・・・、はぁ・・・」  
荒い息を付き、胸を上下させながら、彼女は首を回し、潤んだ瞳で彼の顔を見上げた。  
これだけでは足りない、もっと・・・もっと欲しいと、その瞳は訴えかけている。  
頬を紅潮させ、とろんと目を潤ませた表情は、普段の生真面目で隙が無い彼女からは  
想像もつかないほど妖艶だった。  
まだ鳴海の指を受け入れたままの花弁も、彼の物を待ち焦がれ、ひくひくと疼いている。  
彼もまた、これ以上持ちこたえる事が出来ない程に昂っていた。  
「待ってろ。今すぐにやるからな」  
鳴海は彼女を立ち上がらせ、体を前屈みにさせて浴槽の縁に両手を着かせ、尻を後ろに  
突き出させた。  
エレオノールはこの恥ずかしい姿勢にも逆らわず、従順に従う。  
先ほどの余韻でふらつく彼女の腰を、鳴海は両手でしっかりと掴んで支える。  
「来て・・・、ナルミ、早く・・・」  
腰を高く突き出し、エレオノールはこれからされる事への期待に上擦った声で彼を誘う。  
鳴海は昂りきった物を、熱い蜜を滴らせる彼女の花弁の中に、背後からゆっくりと  
沈めていった。  
「あ・・・、あ・・・ん」  
エレオノールの唇から、切ない吐息が零れ落ちる。  
 
鳴海はじっくりと確かめる様に、彼女の中に進入していった。  
「ああ・・・、もっと。もっと奥まで来て・・・」  
体の中心を押し広げられ、満たされていく感触に、エレオノールは歓喜の声を上げた。  
懸命に足に力を入れ、更に高々と腰を持ち上げ、彼を急き立てる。  
しっとりと熱い彼女の中は、彼を優しく包み込み、奥へ奥へと招き入れた。  
2人の体が完全に一つに繋がると、鳴海は動きを開始した。  
「・・・あうっ! くっ! はっ! ・・・はぁっ!」  
エレオノールの細く折れそうな腰を掴んで、強く激しく刺し貫く。  
彼の動きに合わせ、肉付きの良い白い双丘が上下に弾み、前に着かされた両手の間で  
豊満な乳房が重たげに揺れた。  
止めどなく溢れ出した愛液が、白いふとももを伝い落ちる。  
「あっ、あっ・・・、ナルミ・・・、うっ・・・あっ、はぁ・・・」  
「う・・・、く・・・、エレオノール・・・」  
時折、宴会の最中らしい他の客の賑やかな笑い声が、遠くから微かに聞こえてくるが  
旅館の敷地内は殆ど人気が無く、しんと静まり返っている。  
夜の静寂の中で、彼らの激しい息遣いだけが響き渡っていた。  
限界が近い事を知り、鳴海は更に動きを速めていく。  
エレオノールも我を忘れ、ひたすら腰を揺らめかせる。  
風呂の熱気と情欲で、熱く火照った2人の体から滴る汗が、湯の中に落ちていった。  
「はぁ・・・、はぁ・・・、い、いくぅ! ああぁ・・・」  
エレオノールが体を震わせ、オーガズムを迎えるのと同時に、鳴海は彼女の中に放った。  
 
鳴海は陶然としているエレオノールの体をバスタオルで手早く拭いてやり、部屋の中に  
運んでやった。  
並んで敷かれた布団の片方に下ろし、備え付けの浴衣を着せてやろうとしたところ  
彼女は鳴海の首に腕を回し、齧り付いてきた。  
「おいおい。ふざけんなよ、こら。服を着せらんねーだろ?」  
鳴海はエレオノールの腕を引き剥がそうとするが、彼女は更に強くしがみ付いてくる。  
「だめ・・・。もう一度・・・」  
彼女はそう言って、彼に唇を重ねた。  
「しょうがねーなぁ」  
鳴海は苦笑しながらも、彼女のしたい様にさせてやる。  
猫がじゃれつく様に、エレオノールは鳴海の上に伸し掛かり、引き締まった彼の肉体を  
紅い舌でちろちろと舐め始めた。  
ぺちゃぺちゃと音を立てながら、彼女はくすぐる様に舌を這わせていく。  
吹き掛けられる息と、滑らかな舌の感触の心地良さに、鳴海は思わず息を詰めた。  
エレオノールは、横たわった彼と上下を逆にした状態で、その足の間に顔を埋める。  
そして彼の物に手を添えて、そっと唇に含んだ。  
「くっ・・・」  
エレオノールは愛おしむ様に、鳴海の物を口に頬張り、舌を絡める。  
「う・・・、くぅ・・・ぁ・・・」  
彼女の舌使いに鳴海はしばらく陶酔していたが、こちらに向けられた彼女の下肢を  
掴んで引き寄せ、自分の顔の上に跨らせた。  
 
いわるゆシックスナインという体位だ。  
鳴海は自分の目の前で綺麗に咲き綻んだ薔薇の花を、指で左右に開き、唇を押し付けて  
その蜜を吸い上げた。  
「あっ、あん!!」  
彼の物を口にくわえたまま、エレオノールは弾かれた様にピクンと体を揺らす。  
鳴海は更に舌先で、剥き出しになった花芽を突付いてやる。  
「ふぁ・・・、あぁん・・・」  
背筋を駆け抜ける甘い戦慄におののきながらも、エレオノールは再び彼の物を夢中で  
愛撫し始めた。  
2人は情欲に煽られるまま、一心不乱に互いの性器を貪る。  
聞こえるのは湿った唾液の音と、時折こぼれる甘い喘ぎ。  
エレオノールはちゅぷちゅぷと淫らな音を立て、彼の物を唇で吸いしごきつつ  
白魚の様な指を巧みに蠢かせる。  
その刺激に堪え切れず、鳴海は上り詰めそうになった。  
「いいわ、ナルミ。そのままいって・・・」  
彼の様子を察したエレオノールは優しく促し、そして更に奥深く、彼の物を口に含んだ。  
「うっ!・・・くぅ・・・」  
鳴海はエレオノールの口の中に解き放つ。  
それを彼女は喉を鳴らしながら全て飲み込み、少し口からこぼれそうになった滴を  
ペロッと舌で舐め取った。  
 
それからも2人は、何度も何度も交わった。  
胡坐をかいて座った鳴海の膝の上に、先程とは反対に向かい合ってエレオノールが跨り  
彼を受け入れたり、寝転んで互いの体をまさぐり合ったりして、何度も求め合った。  
眠りに付いたのは空が白み始める頃で、目を覚ましたのはそろそろ部屋を空けなければ  
ならない時間だった。  
2人は慌てて身支度を整え、チェックアウトを済ませた。  
仲居さんには、寝た形跡の無い布団と、くしゃくしゃに乱れた布団を見られたわけだが  
接客のプロらしく、彼女達は素知らぬ顔でテキパキと部屋を片付けてくれた。  
「あ〜あ、朝飯食いっぱぐれちまったなぁ」  
「ふふ・・・。どこか、お店に入って食べましょ」  
「しっかし、お前ってスゲー元気だな。2週間は徹夜しても大丈夫なしろがねでも  
さすがにあれはキツイぜ」  
「だって、こんな機会はめったに無いんだもの。また一緒に温泉入りましょうね」  
「・・・・・・。もう当分の間はいいよ・・・」  
 
さて、こうして恋人だけの楽しい時間を過ごした2人であったが、本体と合流した後  
エレオノールはヴィルマに散々冷やかされ、鳴海はといえば3人組からの風当たりが  
更に強くなったのだった。  
 

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