「いたな、鳴海(ミンハイ)」  
砂埃の立ち込める乾いた土の上で練習をしていた鳴海の前に、少女が現れた。  
弱弱しさが抜けはじめた瞳が、釣りあがった目の彼女をそれでもこわごわ見上げる。  
「…お嬢さん?」  
「ミンハイ、ちょっと来なさい」  
「は?いきなりどうしたんスか…ってええっ!!」  
眉間に軽く拳を食らった後、流れるような動きで顎を蹴られた。  
鳴海は背中から見事に土に激突した。  
道場の一人娘がふん、と馬鹿にしたように彼を見下ろし、上げていた美脚をひゅん、と戻した。  
そして腰に手をあて、しっかりとした発声で大嫌いな弟弟子を詰る。  
「さっきの見たわよ、何、あの足は!?  
父さんに"もっと股を締めろ"って言われたのは聞いてなかったの。そう。  
それとも別の言い方で聞こえた?肘をあんなに上げろって聞こえたんだ?  
言われたこともできないならやめな!」  
「…っ、す、スミマセ」  
「分かったら早く来る!!」  
ミンシアは鳴海の謝罪を無視し、どかどかと離れの方へ歩いていった。  
敬愛する師父の、たった一人の娘とあれば、そして彼より数段強いとくれば、  
正直逆らうことなど無理である。  
ただでさえ外国人は加藤鳴海一人で、弟子達の間では末端(だと彼は思っている)だというのに。  
 
誰も居ない埃っぽい石造りの離れで、鳴海はミンシアと向き合っていた。  
初めて師父に紹介されてから2年近くが経っている。  
15歳になったミンシアの身体は、ほっそりしながらも以前より女性らしさを増していた。  
顔も、きつめとはいえ黙っていれば整った美人である。  
彼はもぞもぞと居心地の悪さを感じながらも、さすがにまだ11歳の少年であるだけに  
練習に戻りたい、と半分は色気の無いことを考えていた。  
「ミンシア…お嬢さん?あの、オレ…」  
「ちょっとそこに寝て。服脱いで」  
「練習に……えぇ!?」  
ミンシアは黙って彼を睨んだ。  
「他の弟子達じゃ父さんに報告されるでしょ!」  
「いや、オレだって場合によっては」  
「あんた弱いくせにいい度胸ね」  
「……で、でも嫌っス。オレ、もう練習に戻らなきゃっぐあ!」  
立ち上がりかけた鳴海の脚をミンシアが鋭く払った。  
まだ鍛え切れていない鳴海の脚は、容易に払われて身体が飛ぶ。  
「いい、ミンハイ。だれにも言っちゃダメよ。実は私、女優になるつもりなんだけど」  
「はぁ、そうスか………なんだってー!!」  
「声が大きい!」  
はたかれた。  
「ミンシア、手が出すぎ…」  
心の中で呟いて、逃げ腰体勢で鳴海はお嬢さんを見つめた。  
「女優っていったら、やっぱりいろいろ演じられなくちゃいけないでしょ。  
 リアルっていうのを追求した演技がしたいの。  
 それでちょっと試したいことがあるの。協力しなさい」  
身体を乗り出して顔を近づけられ、鳴海は思わず後退した。  
 
「だからほら、服を脱ぐ。どうせ着てるも着てないも同じようなもんでしょ」  
「同じじゃ…」  
うろたえている鳴海の上着をむりやりに剥ぎ、さらに下も押さえつけて脱がせる。  
15歳の少女と11歳の少年では、まだミンシアの方にぎりぎり力で勝てる余地があった。  
「結構鍛えられてきたわねー。まだまだだけど」  
「ミッミンシア…やめろよ!」  
新手のいじめか!  
と小学生の頃の悔しい思い出を走馬灯のように反芻しながら鳴海は心の中で叫んだ。  
しかしその怒りは、次のミンシアの行動で突然どこかに吹き飛んだ。  
「待ってなさい、私も脱ぐから。」  
「は…?」  
「いい?あんたは子供だから分からないかもしれないけど、  
ハリウッドの映画は必ずこういうシーンがあるんだから!  
やっぱ前もって勉強してからいくべきだと思うのよねー」  
するりとズボンを脚から抜き取って、ミンシアはあっさりと下着姿になる。  
幼い頃から続けた拳法により、その肢体に無駄な脂肪はまったくなかった。  
きゅっと締まり、それでも女性なら必ずつくべきところに存在する  
なだらかなふくらみはほんのりと柔らかい線を形作っている。  
更に下着を脱ぎ捨てる彼女に、鳴海はいつの間にか釘付けになっていた。  
「……」  
初めて見る母親以外の女性の裸体。  
いつの間にか、それと気付かず鳴海自身は熱を持ち硬くなり始めていた。  
「ミ、ミンシア…」  
鳴海は掠れた声で名を呼ぶと、寝かされていた上半身を起き上がらせて  
傍にあった彼女の腕をとった。  
筋肉がついていても、男よりはずっと柔らかい。  
急に触られて、ミンシアが驚き目を見張る。  
「な…何よ、ミンハイ」  
 
鳴海は無言のままミンシアの身体の隅々までを凝視した。  
二年前よりずっと発育した豊かで張りのある胸と、その先端で起つ桃色。  
柔らかな身体の線はその下から内側に向かい、  
腰の部分からまたまるく広がってかもしかのような足の先まで伝っていく。  
そして、脚と脚の間にうっすらと生えた幼い恥毛。  
―さらにその奥に、鳴海は惹き付けられた。  
「ちょっと、あんまり見るんじゃないわよ…ミンハ…」  
突然の鳴海の様子に戸惑った声を出すミンシアを無視し、  
彼は本能の赴くままにそこに手を伸ばした。  
「!?」  
ミンシアの身体がびくりと跳ねる。  
彼女は鳴海を知らない生き物を見るかのように見つめ、弱弱しく首を振った。  
「え、何、ミンハイ…?やだ、ちょっと…ふぁッ!」  
さわさわと撫でていた鳴海の手が、更に隙間の奥へ潜る。  
鳴海の手が動くたびもどかしく湧き上がる未知の感覚に、ミンシアは思わずきゅっと目を瞑った。  
意識が見えない部分に集中されて、ますますその感覚を強く味わうことになる。  
「や・や、何コレ…ああ、やっそこやあッ」  
 
鳴海は初めて触れる女の場所に、子供が始めて見たものに好奇心を持つがごとく、  
本能も手伝ってひたすらに興奮していた。  
しかも自分が何かするたび、ミンシアは大きく反応を返してくる。  
さっきまで威圧的だったミンシアが弱気で甘い、どこか蕩けるような声を上げて、  
腰や足をびくびくと痙攣させて、しかも触っている場所から不思議な水をじっとりと溢れさせる。  
匂いからも、色からもどうやら尿ではないようだ。  
掴んでいた腕の力を強めて、今度は逆にミンシアを床に押し倒し、仰向けに寝かせた。  
上から覆いかぶさって、先程ミンシアが激しく反応した小さな豆のような場所をもう一度なでてみる。  
―と、ミンシアが大きな嬌声を上げて逃げようと腰を捩った。  
しかも身体が返す反応も格段に大きい。  
鳴海はなぜか大して動いてもいないのに、息が弾んできていた。  
「…ミンシア…ここ、いいのか?」  
「あッ!さ、触らないで…よッ…ひぁッ!や、だめだったら、バ…あぁあああ!」  
鳴海は本能に任せて、そこを中心に強く撫で回した。  
ミンシアから溢れ出す蜜の量が、明らかに増えてくる。  
「やぁ、や、いいっ、ふああぁ!くるっ、やだぁっきちゃう」  
鳴海の手を押し返そうとしていた腕の力は抜け、ミンシアはわけもわからず  
腰だけでとにかく逃げようと身を捩ったがそれもかなわず急激に絶頂に押し上げられていった。  
「ああーーーーーーーー!!」  
しなやかな身体を思い切りそらし、びくびくと全身を跳ねさせながら  
ミンシアは初めての「イく」経験を体中で味わっていた。  
 
*****  
 
「…そういえば、ミンシア」  
ぽつりと言う幼なじみの弟弟子に、ミンシアは顔を向けた。  
おんぼろ車でサハラを目指し始めてから、一ヶ月になる。  
ルシールは食料を調達してくるよ、と暫く前にどこかにふらっと行っていた。  
この何もないアジアの道路の真ん中の、一体どこから調達してくるのか。  
「何よ。」  
「オレ、ゾナハ病にかかる前の記憶はずっとあったと思ってたのよ。  
けどよ…よく考えたら11歳くらいの頃の記憶が一寸抜けてたなァ、と思ってよ。  
なあ、あの頃オレ何してた?」  
ミンシアは硬直した。  
しかし流石に女優、すぐになんでもない表情を完璧に作り、ふん、と余裕で笑って見せた。  
「馬鹿ねえ、ミンハイ。このミンシア姐さんの眼中にあんたが入ってたとでも思ってるの?」  
「…はいはいそうかよ。でもまあ、それもそうなんだよなァ…」  
隣でうーんうーんと唸り始めた鳴海から目を逸らし、ミンシアはほっと溜息をついた。  
あの後正気に戻るか戻らないかの状態で起き上がるとすぐに呆然としていた鳴海を全力で殴り、  
力いっぱい蹴り飛ばし、とにかく彼女のもてるすべての力で叩きのめして半殺しにして  
更に記憶まで飛ばしたという事実を思い出されては困る。  
というかその前の事実の方がむしろ、思い出されては困るのだった。  
「別にあんたもともと記憶力なんてないでしょ。いいじゃないそれくらい」  
「うるせェな」  
鳴海が本当に覚えていないようだったので、ミンシアは満足げにぽんぽんと  
できの悪い弟の肩を叩いてあげた。  
 
 
終  

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