仲町サーカスを巻き込んだバスジャック事件が起きたあの日、
私はナルミに自分の「正体」を明かされ、彼が私を憎む理由を知った。
彼は私が自動人形の首領フランシーヌ人形だと思っている。
人間の体を手に入れる為に、フランシーヌ人形に心を乗っ取られた娘だと。
クローグ村最後の生き残りの「しろがね」フウという男に、そう教えられたと言う。
でも、私はエレオノール。他の誰かなんかじゃない。
もしも、幼い頃フランシーヌ人形の溶けた生命の水を飲んだ事が本当だったとしても、
私の心は私の物。
私にはフランシーヌ人形の記憶なんて無いのだから。
・・・だから私はゾナハ病の治療法を、ナルミに教えてあげる事はできない。
自動人形から世界を守る為に、彼がどれほど辛い戦いを続けてきたのか。
ゾナハ病で苦しむ人々を救えない自分を、どれほど責めているのか。
分かってしまっても、私には何もしてあげられない。
彼に憎まれる事よりも、彼の為に何もできない事が、私には何より辛い。
いっそ本当に、私の心がフランシーヌ人形のものだったなら、
彼の望みを叶えてあげられるのに。
例え、それが私の命と引き換えだったとしても。
それでもその日から、ナルミは特に私に何かしようともせず、
仲町サーカスのアルバイトとして、淡々と仕事をこなしている。
命を狙う者狙われる者という私達の異常な関係を皆に覚られないよう、
私もまた、努めて平静を装った。
それから約一月、何事も無かったかのように、平穏な日々が過ぎていった。
その日も公演が終了すると、私はナルミの姿を探した。
彼は公演の合間、片付け物をしたり、テントの影で暇潰しをしたりしている。
少しでも時間が空くと、すぐに私は彼のところに行ってしまう。
そして話し掛けては煩がられたり、怒られたりするのだけれど。
それでも彼の側にいたいという気持ちは押さえられないから、
邪魔だと思われても、つい近くに行ってしまう。
彼を探してテントの裏に行くと、リーゼさんとヴィルマが談笑していた。
「あ〜ら、しろがね。またあの兄さんの後を追っかけまわしてるのかい?」
「ヴィ、ヴィルマ」
「あんたってば、本当にあいつにイカレてるねぇ」
「そ、そ、そんな・・・」
私は思わず焦ってしまい、言葉が出てこない。
「しろがねサン、可愛いデス」
リーゼさんにまで言われて、頬がカーッと火照るのを感じた。
「真っ赤になっちゃって、まあ。ほ〜んと女ってのは男で変わるもんだわ」
「しろがねサンもですけど・・・、カトウサンも随分変わったような気がしマス」
「ナルミが? ・・・変わりましたか? リーゼさん」
私は意外に思ってリーゼさんに問い返した。
「ええ、最初はとても近寄りにくい感じがしたんデスけど、今はそんなことないデス。
それに時々、しろがねサンのことをジーッと見てるんデスけど・・・」
「ナルミが私を・・・?」
「カトウサン、前みたいにあまり怖い顔しまセンネ」
「ふ〜ん、この娘ったら。とろいと思ったら、見てるところはちゃんと見てるんだ」
「とろいは余計デスぅ〜、ヴィルマサン」
リーゼさんはプゥとふくれた。
言われてみれば、この頃ナルミとよく目が合うような気がする。
サーカスを見に来てくれた子供達に取り囲まれている時。
リーゼさん達と他愛の無いおしゃべりをしている時。
ふと顔を上げると彼の視線にぶつかる。
そんな時、彼の顔に浮かんでいるのは・・・困惑?
ナルミは迷っている?
私がフランシーヌ人形だという確信が揺らいでいる?
そう信じてもいいの? ナルミ。
ナルミは大道具置き場で、生方さんと一緒に道具の手入れの事で話をしていた。
「ああ、ここんとこだ。少しぐらついとる」
「補強しといた方がいいっスね。板打っときます」
生方さんはナルミにとても目を掛けていて、自分の知識を熱心に教え込もうとしている。
孫の涼子さんを助けられた事もあるけど、どんなに叱り飛ばしても厳しくしても
ノリさん達のように怖がらず、鍛え甲斐があって気に入ってるようだった。
ナルミもこういう仕事は嫌いじゃないらしく、結構楽しそうに見える。
もっとも「なんで俺はジーさんやバーさんに、いい様にこき使われるんだ」なんて、
ぼやいているのをこの前聞いてしまったけど。
少しずつだけど、ナルミがここに馴染んできているのが嬉しかった。
あまりにも凄惨な体験で受けた彼の心の傷が、簡単に癒せるとは思わないけれど。
それでも様々な人と触れ合う日々が、彼に安らぎをもたらしているのかもしれなかった。
本当に、ずっとこうしてナルミと暮らしていけたらいい。
そうすれば、彼もまた以前のような笑顔を取り戻してくれるかも・・・。
生方さんは体を伸ばして、辛そうに腰の辺りをトントンと叩いた。
「イテテ・・・、ちょいと腰が疼いてきやがった」
「いいっスよ。後は俺がやっときますんで休んできてください」
「そうかい? じゃあ後は頼んだぞ」
生方さんが行ってしまったのを確認すると、ナルミは私の方を振り向いた。
何か重大な事を秘めているような彼の真剣な表情に、私は少し不安になる。
「エレオノール」
「・・・はい?」
彼はポケットの中から小さな歯車のような物を差し出した。
「これは・・・」
「自動人形の部品だ。おそらくな」
私はそれを手にとって、繁々と眺めた。
確かにそれは「しろがね」として戦っていた頃見慣れた、破壊された自動人形の物だ。
「何故、こんな物を?」
「さっき、向こうの倉庫の近くで見つけた」
彼の言葉に、私は激しい衝撃を受けた。
仲町サーカスの近くにまで自動人形が・・・。
「自動人形を作れるのはフウ・クロード・ボワロー。そして造物主である白金・・・
フェイスレスだ。どうやらフェイスレスは、お前の周りを嗅ぎ回ってるらしいな。」
そう、これが現実。
あまりにも穏やかで満たされた日々が続いて、私は忘れかけていたのだった。
この世界を覆いつくそうとしている脅威を。
そして私が世界の運命を左右する鍵だということを。
「フェイスレスの野郎・・・。皆を騙しやがって。あいつは絶対に許せねぇ!」
ナルミの瞳が凶暴な光を帯びる。
それは壮絶な戦いを生き抜いてきた戦士の目だった。
仲町サーカスの人達や子供達の前では見せない、それが彼の本当の顔。
一介のアルバイトとして静かに暮らしているのは、見せ掛けに過ぎない。
全ての「しろがね」の命を背負い、彼の心は今でも戦場にあるのだ。
私は改めてそれを思い知らされたのだった。
その夜、皆が寝静まってから私とナルミはテントを抜け出し、倉庫へ向かった。
月明かりもあるけれど、高速道路の照明で倉庫の周辺は明るかった。
私達は立ち並ぶ倉庫の周りを探索し、粉々に破壊された自動人形の残骸を見つけた。
「自動人形は何かと戦ってやられたらしい。戦闘の跡がある」
倉庫の壁には無数の傷があり、地面には何かが爆発して焼け焦げた跡が残っていた。
「こんな間近で自動人形が戦っていたのに気付かなかったなんて・・・。」
上の高速道路は深夜でも車の往来が絶えず、その騒音で多少の物音は掻き消される。
気付かなかったのは、そのせいかもしれない。
「それよりも・・・誰がこいつを破壊したんだ。俺達以外の誰が自動人形を倒せる?」
「あのフウという人は? その人もフェイスレスを倒す為に動いているんでしょう?
自分でも自動人形を作る事が出来るなら、それで・・・」
「だったら俺に隠れて動く必要はないだろう。あいつを完全に信用するわけじゃないが
俺に黙ってちょっかいを掛けてくるとは思えねぇ。もっとも、あの覗き屋ジジイ。
蟲目の監視は付けてるだろうがな」
「それなら一体誰が何の為に・・・。私の知らない所で一体何が起きているの・・・」
真っ暗な闇の中からじわじわと、何かが忍び寄る気配がする。
じっと息を殺し身を潜め、私を捕えようと狙っている。
そんな感覚に襲われ、私は思わず叫び出したい衝動に駆られた。
「ナルミ・・・」
私は救いを求めるように彼の腕に縋り付き、顔を見上げる。
けれど、彼は静かに言い放った。
「本当にお前は『知らない』のか? エレオノール」
その冷ややかな声音に、私の心臓が凍りつく。
「ナ、ナルミ・・・、私を・・・疑っているの?」
「フェイスレス、フウ。この2人以外にも自動人形を作れる者がいる。
フランシーヌ人形・・・、お前だ」
「そんな・・・私は違う! ナルミ!」
「俺はこの自動人形はフェイスレスの手の者だと思った。だが・・・本当にそうなのか?
こいつがお前の手下じゃないと、どうして言える?」
「違う、違う・・・。私は自動人形なんか作れないわ。信じて・・・」
私は必死に彼に懇願した。
「お前を信用しろと言うのか? 自動人形のリーダーであるお前を」
ナルミは吐き捨てるように言った。
「私はエレオノールなんです! フランシーヌ人形に心を乗っ取られてはいません!」
「数ヶ月の間、俺はずっとお前を見てきた。確かにお前は人間の女そのものだったぜ。
ここの連中と家族のように接し、子供達を可愛がり、そして俺に・・・。
だがな、自動人形どもは人間の振りをし人間に混じって暮らしていた。
あいつらのリーダーであるお前なら、人間の振りをする事なんて雑作もないだろう!
お前が本当にフランシーヌ人形じゃないと証明できるのか!」
「御願い、私を信じて・・・。私はあなたに嘘をついたりなんかしない。
あなたを騙したりしてない。私は本当にあなたの事を・・・」
ナルミは私の両腕をつかみ、激しく揺さぶった。
「黙れ! フランシーヌ人形! どんなに上手く人間の振りをして見せたって、
俺は絶対に騙されねぇぞ!」
私は絶望感で胸が押し潰されそうだった。
どうすれば彼は私を信じてくれるのだろう?
私はあなたの敵なんかじゃないと。
あなたの為なら命さえ捧げるつもりなのだと。
どんなに訴えても、私の言葉は彼の心に届かないのだろうか?
「フランシーヌ人形。お前の為にどれだけの人が苦しんだと思ってるんだ!」
彼は容赦なく、どこまでも私を追い詰めようとする。
「ゾナハ病をばら撒いたのはお前だ!」
ああ、それは私じゃないわ。
「お前のせいで今も大勢の子供達が苦しんでいるんだ!」
助けてあげたくても、私はその方法を知らないの。
「お前を倒す為に、俺の盾になって皆死んでいったんだ! ロッケンフィールドさんも、
ダールもトーアもティンババティもドミートリィも・・・」
あなたがそんな辛い思いをして戦っていたなんて知らなかった。
彼の炎のような怒りに圧倒されて、私は金縛りにあったように動けない。
私は今、殺されるのかもしれない。彼の腕の、あるるかんの剣に切り裂かれて。
・・・それでもいいと思った。
この胸を切り開いて、本当の心を見せることが出来るのならそうしたい。
それでナルミの気が済むのなら、ここで彼の手に掛かって死んでもいい。
だけど突然、、彼の様子が一変した。
鳴海は苦しげに、今にも泣き出しそうに顔を歪めた。
「それなのに・・・、どうして・・・」
さっきまでの激情が嘘みたいに、まるで頼りない子供のように見える。
彼は両手で私を引き寄せ、その胸に強く抱きしめた。
そして悲痛な声を絞り出すようにして叫んだ。
「どうしてお前を憎む事が出来ねえんだぁぁぁ─────!!」
「ナ、ナルミ・・・?」
「ちくしょう・・・、なんで俺はお前なんかを・・・。皆の仇の・・・、
フランシーヌ人形の生まれ変わりのお前を・・・、俺は・・・」
呆然とする私を抱きすくめ、彼は呻くようにつぶやいた。
彼の苦しみが痛いほどに伝わってくる。
憎むべく相手として見ながらも、ナルミは私のことを・・・。
けれど、死んでいった仲間達とゾナハ病の子供達への思いがそれを許さないのだ。
彼は憎悪の言葉を口にすることで、私への気持ちを否定しようとしている。
それでも言葉とは裏腹に、彼の腕は更に強く私の体を掻き抱いた。
私もまた無我夢中で彼の体に縋り付く。
嬉しさのあまり全身が震え、心臓が止まりそうだった。
私はただひたすらに彼の名を呼び続けた。
「ナルミ・・・、ナルミ・・・、愛してる・・・」
「エレオノール・・・」
あれほど望んだ腕の中に、今私はいる。
死んでもいい・・・。
さっきと同じ、けれどもまったく逆の意味を持つ言葉を私は胸の中で繰り返した。
見上げると、彼の顔が間近にある。
熱を帯びた彼の瞳が私を見つめる。
やがてナルミの唇が下りてきて、私の唇と重なった。
私達は2人っきりになれる場所を求め、倉庫の中に忍び込んだ。
積み上げられた段ボール箱と共に、色々な物が雑然と置かれている。
それらを覆っているビニールシートの上に、ナルミは私の体を横たわらせた。
高い位置に取り付けられた窓から、月の光が静かに降り注いでいる。
その明かりに照らし出された互いの顔を見つめ合う。
がっしりとした顎のラインと肉厚な唇が厳つい印象を与えるけれど、思った以上に
彼は整った顔立ちをしていた。
高くすっきりとした鼻梁に切れ長の目。
そして眉は筆で刷いたように細く長い。
その男らしい精悍な顔が覆い被さってきて、私の唇を吸い上げる。
歯列を割って進入してきた彼の舌が、私の舌を絡め取る。
「・・・ん、ふぅ・・・」
私もおずおずと舌を動かし、彼に答えた。
彼は唇を合わせたまま、私の体に手を這わせていった。
服の上から胸のふくらみを包み込み、柔柔と揉みしだく。
スカートの裾をたくし上げ、ふとももをゆっくり撫で回す。
彼の手は、私の中に今まで知らなかった快感を生み出していった。
体の奥が甘く疼き、全身が熱く火照ってくる。
私はその感覚にうっとりと身を任せた。
ナルミは私の体を離し身を起こすと、私の衣服を脱がし始めた。
彼の手によって、私は身に着けている物を一枚ずつ剥がされていく。
ニット地のシャツが頭から引き抜かれ、スカートを下ろされる。
ホックを外されブラジャーの紐を肩からするりと落とされと、両の胸のふくらみが
零れ出す。
ショーツにも指が掛けられ、ふとももを滑らせながら、そっと引き下ろされた。
私は彼のなすがままに、一糸纏わぬ姿にされた。
春先とはいえ、夜の空気はまだ肌に冷たい。
私は思わず両手で体を隠した。
肌寒さのせいでなく、彼の視線に晒されるのが恥ずかしかったから。
しばらくの間、彼は恥ずかしげに目を伏せる私の姿を見つめていて、それから
自分も服を脱ぎ始めた。
マリオネットから移植した彼の人工の手足が、私の前にさらけ出される。
ナルミは四肢を失ったことを一切嘆いてはいなかった。
マリオネットの手足は仲間達との絆を示すもので、彼にとって誇るべきものだった。
それは彼の歩んで来た道の証しであり、私にはとても愛おしく感じられた。
私は両手を広げ、想いの丈を込めて彼の名を呼ぶ。
「ナルミ、愛しています・・・」
彼は逞しい胸板に私を抱き、私は彼の体の重みをしっかりと受け止めた。
ナルミは私の体の隅々まで愛してくれた。
彼の熱い舌が首筋をたどり、両の手が素肌を撫でる。
「・・・ん、・・・ん、・・・ぁあん・・・」
彼の吐息がかかるたびに、甘い戦慄が背中を駆け抜ける。
私は身をよじり、すすり泣くような声で喘いだ。
「あ・・・、はぁ・・・、あん・・・、」
自分がこんな甘えた声を出すなんて信じられない。
そんな端ない声を上げる自分を、彼がどう見てるのかと思うと居たたまれなくて
私は懸命に声を抑えようとした。
「なんだよ。我慢することねえだろ?」
「だ、だって・・・、恥ずかしい・・・」
「もっとお前の声、聞かせろよ・・・」
彼は私の乳房を掴んで、ゆっくりと円を描くように揉みしだく。
「・・・やっ!」
唇に胸の先端を捕らえられ、私の体はビクンと跳ねた。
彼の口が固く尖った乳首を吸い、舌先でつんつんと弄ってから転がす。
「や・・・、だ・・・めぇ・・・、そんな・・・、ナル・・・ミ・・・」
あまりの快感に耐え切れず、私は体を大きく仰け反らせて身悶えた。
彼はさらに手を下に滑らせていった。
お腹の上をたどり、両足の間に彼の手が忍び込む。
「・・・んっ!」
彼の指の感触に、私は思わずを身をすくめる。
今まで誰にも侵入を許した事の無い、自分ですら滅多に触れる事の無い場所。
そこを彼の手で触られている。
それを思うと、私の体の奥が妖しくうずいた。
彼は押し当てた指を、ゆっくりと上下に動かし始める。
「あ・・・、あっ、はぁ・・・、ん・・・」
彼の指の動きとともに、私のそこはくちゅくちゅと湿った音を立てた。
自分でも気が付かないうちに、そこはしっとりと濡れそぼっていた。
彼に触れられているところから熱い何かが溢れてきて、体中に広がっていく。
あまりにも甘美な感覚に、心も体もとろけてしまいそう。
そこを擦られるとこんなに気持ちがいいなんて、私は今まで知らなかった。
「あ・・・ん・・・、いい・・・、気持ちい・・・い、ナルミィ・・・」
私はもうじっとしていられず、髪を振り乱しながら必死で喘ぐ。
彼の指が私のもっとも敏感な場所を捕らえた。
「いやっ! ・・・ぁあん!」
私の背筋を電流のようなものが走る。
彼は親指と人差し指でそれを摘んで、こりこりと弄ぶ。
「・・・やっ! だ、だめぇ! そん・・・な・・・、い、いいっ! いいのぉ!
ああぁ・・・、もっ・・・とぉ」
私は我を忘れて叫んでいた。
「ナ、ナルミ・・・、ナルミィ! おねが・・・い、や、やめないで・・・、あん!
はぁっ! もっと! もっとして・・・、ああ・・・」
自分の意思に関係なく、彼の指を含んだそこはビクビクと蠢いている。
次から次へと蜜が溢れ出し、彼の指に絡みついて淫らな音を響かせる。
その音がいっそう私を煽り立て、激しく乱れさせた。
彼は手の動きをさらに速める。
私のそこを指で弄りながら、固く尖りきった乳首を唇に含んで攻め立てた。
「はぁん! あふん! く・・・ぅん! やぁ・・・、もう・・・許・・・して・・・、
あっ、あっ! いやぁ・・・、わ、私・・・、も、も・・・う・・・、許し・・・」
あまりに強すぎる刺激に、自分が苦痛を感じているのか快感を感じているのか、
もう分からなかった。
けれど彼は愛撫の手を休めようとはしてくれない。
「いやっ! いやぁ! 許してぇ! し、死んじゃう! お・・・ねがい、ナルミ!」
気が狂いそうな快楽に、私の頭から何もかも消え去っていた。
ただ彼と、彼に触れられている場所だけが、その時の私にとって存在する全てだった。
私の体はがくがくと震え、背中が大きく反り返る。
頭の中がはじけ飛んで、真っ白になった
「・・・あっ、あああぁ─────!!」
私は歓喜の声を上げながら高みへと登りつめた。
「・・・はぁ・・・、はぁ・・・、はぁ・・・」
私は肩で息をしながら、必死に口を動かし空気を求めた。
凄まじいほどの快楽に翻弄された後、次にやってきたのは心地良い気だるさ。
私は放心したように横たわり、夢見心地で甘美な余韻に浸った。
ナルミはまだ私のそこを愛おしみ、撫でてくれている。
さっきまでのような攻め立てる動きではなく、優しくいたわるように。
彼の指が周りの肉をめくりながら、熱くとろけてたっぷりと潤った私の中に入ってきて、
確かめるようにゆっくりと蠢き始める。
「・・・あ・・・ん・・・」
私の奥にはまだ、埋み火のように熱が残っていて、彼の動きに合わせて体が
びくんびくんと反応した。
「いいか・・・?」
心地良さに酔い痴れ、ぼーっとなっている私に彼が囁く。
ナルミは真剣な目で私を見下ろしている。
私は彼の意図を悟り、こくんとうなずいた。
彼は力を無くし投げ出された私の両足を左右に開き、私の上に体を重ねる。
私の熱く濡れたそこに硬い物が押し当てられた。
「は・・・あ・・・」
彼はゆっくりと私の中に入ってくる。
「・・・うっ! くぅ! い、痛・・・っ!」
私は思わず悲鳴を上げた。
それは指などとは比べ物にならない質量を持って私の中を押し広げ、突き進んでくる。
予想もしていなかった激痛に、私の喉の奥から呻き声が漏れる。
「うぅ・・・、くっ・・・、はぁ・・・」
戦いで傷付いたりすることには慣れていたけれど、それは今まで経験したのとは
まったく異質の痛みだった。
私は彼の体にすがり付き、その背中に爪を立てる。
体内をえぐられる、引き裂かれるような痛みを必死に耐えた。
「エレオノール・・・、大丈夫か? 続けてもいいのか?」
私の苦しげな様子を気遣い、彼が尋ねてくる。
彼に心配をかけたくなくて、私は懸命に首を振った。
「へ、平気・・・。これ・・・ぐらい・・・大・・・丈夫だから・・・、だって・・・
あ、あなたと・・・ひとつになるため・・・だもの・・・」
そう、これはナルミを受け入れる為に必要な痛み。
彼と全てを分かち合って生きていく為の儀式なのだから。
彼の為なら、どんな痛みにも耐えてみせる。
その誓いを証明するものなのだから。
「あ・・・、ああ・・・、ナルミ・・・、もっと深く・・・私の中に入ってきて・・・
私の・・・中に・・・あなたを・・・刻み付けて・・・」
私は痛みよりも強い想いで、ただひたすら彼とひとつになる事を願った。
彼は私の望むままに体を押し進め、奥まで深々と貫いた。
私の痛みが少しでも治まるまで待とうとしているかのように、彼はしばらく動きを止めた。
けれどやがて私の両脇に手をついて、徐々に体を動かし始めた。
「うっ、くぅ・・・、ナ・・・ルミ・・・」
彼の物に突き上げられるたびに、私の体は大きく揺さ振られる。
「ふっ・・・、ぁうん! ・・・はっ! あふっ! ・・・あっ、あっ!」
彼を迎え入れた私のそこは激しく擦り上げられて、濡れた音を立てる。
私の中にナルミがいる・・・。
その歓びが私に痛みを忘れさせた。
彼は圧倒的な存在感で私を満たす。
私の体の芯に再び火が着き、熱く燃え上がり始める。
「ナルミ・・・、ナルミ・・・、ああ・・・」
「エレオノール・・・、はっ・・・、くっ・・・」
彼は荒い息をつきながら、歓喜の入り混じった声で私の名を呼ぶ。
ああ・・・、いいの? ナルミ。
あなたも私を感じてくれているの?
彼に歓びを与えているという満足感が、私をさらに高ぶらせていく。
彼が愛しくて愛しくて、泣きたいほどに感じている。
ナルミ、あなたももっと私を感じて・・・。
「あ・・・、くぅっ! エレオノール!」
彼が体を震わせて、私の中に解き放ったのを感じた。
私は幸福感に包まれながら、満ち足りた思いでそれを受け止めた。
私達は並んで横たわり、倉庫の天井をぼんやりと眺めていた。
「俺は・・・罰を受けるな」
私に腕枕をしながら、彼はポツリとつぶやく。
「え・・・?」
「惚れちゃいけねえ女に惚れちまったんだ。あの世に行ったら皆に殴られるな」
彼は自嘲するようにフッと笑う。
「・・・その時は私も一緒。あなたひとりでなんか行かせないんだから」
私は甘えるように彼の胸に頬をすり寄せ、彼は私の髪を静かに撫でる。
「そうだな。俺はもう引き返せねえとこまで来ちまったんだ。こうなったらお前と一緒に
どこまでも行ってやるさ」
私達がこれからどこへ行くのか、どんな運命が待ち受けているのか分からない。
朝が来れば様々な現実が待ち構えている。
ゾナハ病の事、フランシーヌ人形の記憶の事、フェイスレスという男との戦いの事。
何もかもが闇の向こうで、道を切り開く術は見つからない。
それでも私達は共に進んで行くしかなかった。
私はもう決してナルミの腕を離さない。
ナルミの手をしっかりと握って、どこまでも一緒に歩いていく。
窓の外が白んできた。もうすぐ夜が明ける。
でももう少し・・・、もう少しだけ、こうしていたい。
少しでも長く彼の腕の中でまどろんでいたい。
私は彼の厚い胸にすがり、顔を埋めた。