ヴィルマは、赤い色のついた指先で阿紫花の細い顎を捉えた。
阿紫花はシニカルに笑って答える。
「姐さん。やめましょうや、こういうの」
「アラ。自信ないの?」
ヴィルマの人差指が、阿紫花の唇に触れる。
「イケナイことは足を洗いまして。最近は綺麗な生活してんですから、」
わざと情けなさそうな笑みを浮かべて、彼女の気を逸らそうとする。
「じゃあ、そのイケナイこと、しましょ」
言うなり、ヴィルマは阿紫花の唇を奪った。口を開かせ、彼女の赤い舌が歯茎をなぞる。
タップリ絡み合ってから、銀糸が引かれて、離れた。
ヴィルマの眼に欲情の色が走っていた。美人にこんな表情されて、惑わない男がいるだろうか。
「これで勘弁してくだせぇ、姐さん」
サラリと返答する阿紫花に、ヴィルマのこめかみがピクリとした。
「あんたって、」
次の瞬間、阿紫花の手が彼女の喉元にかかっていた。
指先に力が入っている。それ以上入れられると、-----マズい。些か感情に気を取られていた。油断ととられても仕方ない。
「こういうメにあいたかないでしょ。今日はこのへんで、」
「は。ナメられたものね、アタシも」
阿紫花の目が眇められた。流石に気分も害されてきた。
「こんなんで引き下がると思ったら、大間違いよ」
「そこまで言うんじゃ、こっちも引き下がれませんや。覚悟、できてるんでしょうな」
「覚悟するのは、そっちよ」
ヴィルマの強い流し目を、さらりと受け流して阿紫花は目で彼女を促した。目の先は寝室のドアだ。
「結構」
ふたりの姿がその向こうに消える。
さて。
イタイ目見るのは、どっちのことやら。
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ヴィルマの手が阿紫花のコートにかかった。
それをバサリと落とすと、そのまま彼の両頬を引き寄せる。
ついばむようなキスなどしない。
のっけから、舌を絡めあう。
阿紫花の左手は彼女の首を固定し、右手が服の下に入り込む。
その手に冷たいものが当たった。ついっと阿紫花は離れる。
「あン」
「姐さん。あんたぶっそうなモン持ってんじゃねーですか」
「商売道具よ。気にしないで。それより、」
阿紫花は再び唇を奪われる。
━━気にするなって言われても・・・・・
彼女のキスに応えながら、阿紫花は<商売道具>を探ってはポイポイと放り投げた。
とりあえず、今度こそヴィルマの素肌をなぞる。
吸い付くような、肌だった。
鍛えられ、女として磨き上げられた色香の肌。
━━こりゃ悲鳴あげさせられんのは、俺の方かな、
ヴィルマのキスは、阿紫花の喉に下がった。
よれたネクタイをスルリと解き、放ると、シャツを緩め、そのまま音を立てて、吸う。
それがピクンと止まった。
阿紫花がヴィルマの乳首を掴んだからだ。そのまま指の平で捏ねる。
彼女の薄く開いた唇から、吐息が洩れる。
人形遣いは指先のほんの僅かな動きでも、人形の表情を自在に操る。
黒賀の人形遣いの中でもトップクラスの腕前だった阿紫花にとって、
女を鳴らすような繊細な指遣いは朝飯前のことだった。
長い舌で耳を舐めると、言った。
「気持ち、いいですかい?」
======またそのうちに・・・・・・・