からくりサーカス  

可愛らしい…というか、毒々しいというか。  

手のひらにちょこんと乗っている深紅の小瓶をじっと見つめて、  
リーゼはぱちぱちと瞬きをした。  
少しだけ視線を上に移動させると、小瓶の持ち主がにやにやと笑っている。  
トラックの隙間から夜の風が吹いて、二人の女性の黒髪がほんのかすかに揺れた。  
リーゼはもう一度手の中の小瓶に目を落として、またすぐに顔を上げた。  
「ヴィルマさん、コレ…?」  
トラックの隅に引っ張ってこられて、突然こんな妙な小瓶を渡されただけでは、  
何がなんだか分からない。  
まあ、結構女の子らしいデザインの瓶なので、単純なプレゼントだと思えないこともないが…。  
「アノ…」  
「ストップ!」  
開きかけたリーゼの唇に、ヴィルマがぴたりと指を押し当てる。  
リーゼは、目を丸くして口をつぐんだ。  
紅が塗られた唇の両端が上がるのを見つめて、その大人っぽさに思わず息を呑む。  
少女の唇は薄いピンクで、ヴィルマのようには赤くない。  
ヴィルマはそのまま顔を近づけて、耳元で甘やかに声を落とした。  
「ねぇリーゼ…。あんた、あのボーヤが好きなんだろ?」  

「エ……!?」  
リーゼロッテの顔が首から耳までかあぁっと染まる。  
ヴィルマは口の奥で満足そうに笑って、少し顔の距離を離した。  
隠していたつもりの気持ちを突然指摘されてうつむいたリーゼの真っ赤な顔からは、  
熱い湯気がしゅうしゅうと立ち昇っている。  
あまりに分かりやすい反応に心底愉快な目になって、ヴィルマはぽんぽんと  
リーゼロッテの薄い肩を叩いた。  
「隠すことないじゃなーい。うんうん、可愛いねえ。」  
「イエ…そそそんな、私……ッ」  
小瓶を胸元で握り締めて、おろおろとリーゼは言葉を紡ごうとしたが、  
まともな言葉はひとつも出てこなかった。  

才賀勝は、リーゼロッテの初めての観客であり、世話になっている仲町サーカスの少年であり、  
大金を相続して狙われている才賀家の妾腹であり…そして、彼女の想い人である。  
ただ彼は年下でまだまだ子供な上に、恋愛事に関しては鈍感極まりないので、  
リーゼのあまりに分かりやすい想いにも当人だけはどうにも気付いていない。  
リーゼにとってはある意味安心なのだが、一面少しもどかしくもある。  

(ア、もしかしてヴィルマさんは…)  
そんな自分を見兼ねて何かアドバイスしてくれるのかもしれない―  
ふとそれに思い当たって、リーゼはおそるおそる顔を上げた。  
「そ、ソレデ…コレは?」  
大人の雰囲気滲み出るこの人なら、と期待を込めて手を握り締めたリーゼを  
ヴィルマは軽く手を上げて諫めた。  

「ま・だ。話には順番ってモノがあるんだよ。リーゼ、マサルのことが好きなんだろ?」  
「ああッ、!!こ、こここ声が大きいデスーッ!!」  
勢い良く辺りを見回しながら、リーゼは慌ててヴィルマの口を塞いだ。  
勝はどうやら外にいるようだ。  
なら大丈夫、聞こえていない。  
ほっと息をついて手を放すと、少し驚いていたヴィルマもまた、何かを試すような表情にじわりと戻った。  
「ああ、悪い悪い…で、どうなのさ。」  
「え」  
「ほらほら〜、誰も聞いてないんだしさ、言っちゃいなよォ。」  
「えええ、いえ、アノ私、あのッ」  
「ん?」  
にじり寄られるままに壁際まで追い詰められて、リーゼは真っ赤な顔で目を閉じた。  
「ほぅら、答えないとあたしも質問に答えたげないよ〜?どうなのどうなの?ほれほれ」  
「うう…。〜〜〜〜〜、」  

こくん。  

猛獣使いの少女は、長い長い沈黙の末に、小瓶を握り締めたままようやく小さく頷いた。  
「ほおぉ。よしよし」  
ヴィルマが、してやったりとばかりに指を鳴らして、ニタァとイイ笑顔を顔中に広げる。  
「そうかいそうかい、じゃあヴィルマお姉さんがとっておきを伝授してあ・げ・る…」  
耳元でひそひそと教授された大量のあんな情報やこんな情報に、リーゼロッテは  
興味を持ちながらも、同時に頭が爆発しそうな羞恥心に駆られた。  

 

*****  

 

「リーゼさん、ヴィルマさん!」  
元気な少年の声がトラックの中に響いたので、少女と女性が顔を上げた。  
いつものように屈託のない笑顔でトラックに上がりこむ勝の後ろからは、  
スーツケースを持ったしろがねが繊細な銀髪を揺らしてそっと滑り込んでくる。  
「ア…、マ、マサルさ…」  
ヴィルマの視線に気付き、リーゼは急に真っ赤になって勝からばっと目を逸らした。  
顔を見てしまうと先程までの会話が思い出されて、物凄く後ろめたいのだ。  
(ヴィルマさぁん、やっぱりダメですよぉ…)  
(こら!)  
ぼそぼそとヴィルマの袖を引っ張って囁くと、ヴィルマが眉を上げて囁き返す。  
(弱気になってどうするのさ!女は度胸だよっ)  
(えええ〜〜、デモ…)  
「リーゼさん、どうかした?」  
「あああ!!な、なななななんでもありまセン、なんでも、ね、なんでもないんデスヨ!」  
急に勝の顔が視界に飛び込み、リーゼは文字通り飛び上がって大げさに手を振った。  
隣で含み笑いをするヴィルマから離れて勝に駆け寄る。  
おろおろとトラック中を見回していると、しろがねと目が合った。  
(しろがねサン…ハッ!)  
リーゼは目を見開くと、パン!と両手を合わせて勝に向き直った。  
「エエト、そ、そう!マサルさん、人形繰りのレンシューはどうデシタか!?」  
怪しい挙動で慌てて誤魔化すリーゼを、勝は少しの間心配そうに見ていたが、  
彼女の真剣な顔をしばらく見上げ……不意に、ふわりと顔を和らげた。  
「ありがとう、リーゼさん。」  

(…ウワ…!)  

その顔に、リーゼは別の意味で頬を紅潮させた。  

時々勝が見せるこんな笑顔に、彼女は滅法弱い。  
勝はそれから弱り顔で苦笑して、照れ隠しに頭を掻いた。  
「うん…でもまだダメなんだ、ぼく。今日も糸ごちゃごちゃにしちゃったし」  
「そうなんデスカ。」  
目を丸くして、真剣に驚くリーゼに勝が小さく笑う。  
リーゼもそれにつられて、くすくすと肩を震わせた。  
「デモ、しろがねサンが仰ってまシタ。マサルさんはとっても覚えルのが早いッテ。」  
「えぇー、そうかなぁ?」  
勝がしろがねのいた方を振り返ると、しろがねがほんの僅かに顔を緩めて頷いた。  
リーゼから見ても、しろがねは本当に本当に、美人だ。  
「お坊ちゃまが毎日上達されていくのを見るのは、しろがねの喜びです。」  
ほんのりと夜の空気がトラックに吹き込んで、トラックの中が爽やかなムードに包まれる。  
リーゼは目を細めて、ヴィルマに聞いた事も半分忘れかけていた。  
と、リーゼの後ろでヴィルマがすっと立ち上がってしろがねを手招きした。  
「しろがね、ちょっとちょっと」  
「…?」  
しろがねも腰を上げると、トラックを出ようとするヴィルマの方へ数歩歩み寄る。  
「ヴィルマ、どうかしたのか?」  
ヴィルマは振り返るとしろがねが十分に近寄るのを待って、ぐいと腕を掴んだ。  
「ヴィルマ、一体!?」  
「飲みに行くから付き合いなさいな、ほら。あんたもたまには休んだ方がいいって。」  
「ちょっちょっと、いきなり何を…ヴィルマ!」  

抗議に身体を離そうとする白い腕をぐいぐいと引っ張って、ヴィルマは  
トラックの縁からしろがねを引き摺り下ろす。  
「ヴィルマ!」  
「あんたも気が利かないねー。ちょっとは二人きりにしてやりなさいな。」  
「それは…。しかし、やはりお坊ちゃまを置いていくのは、」  
「ヴィ、ヴィルマさん、しろがねサン!」  
二人としては声を落としたつもりなのだろうが、場所が近かったリーゼには丸聴こえである。  
焦って勝の様子を伺うリーゼに無関心に手を払って、ヴィルマはしろがねに顔を近づけると  
更に声を落として耳元で一言二言、囁いた。  
「!!」  
何故だかしろがねが、急に顔を赤らめて声を上げる。  
「だ、だから私は、そんなことは分からないと言って…!」  
「はいはい、惚気話はゆっくりワインでも飲みながら聞くからね〜〜」  
「ヴィルマ、でも」  
不思議なことに、しろがねは急に抵抗する余裕がなくなったようで、必死で弁解しながらも  
ヴィルマにずるずるとトラックの外まで引きずられていった。  
「それに…それに、彼は…」  
「あーもぉ、思い出だろうとなんだろうとたまには吐き出しちまいな!  
ほらほら、今夜は絶対返さないわよ〜!」  
「あの、だからそれは本当に…っ」  

「…?」  
「……」  
次第に遠くなっていく声を呆然と見送って、残されたリーゼと勝は成す術もなく座り込んでいた。  

 
 

*****  

 

リーゼは、二つ仲良く並んだマグカップを前に、ごくりと唾を飲んだ。  
お盆の上で湯気をくゆらすコーヒーの香りが夜に消えていく。  
…片方には、先程ヴィルマに貰った強力な眠り薬が溶けている。  

しろがねは、ヴィルマの「二人きりにしてあげなさいよ」を、  
本当に単純に、言葉の通りに取ったのだろう。  
リーゼがこれから何をしようとしているのかが分かったら、確実に  
彼女と勝を二人だけにしておくはずがないのだから…。  
それを思うと少しだけ罪悪感で心が痛む。  
でも、でも、やっぱりこんなチャンスは滅多にない。  
少しでも勝に近づけるものなら近づきたい、それは本当に切実な願いなのだ。  

(しろがねサン、ゴメンナサイッ!)  

リーゼは勢い良く立ち上がり、丸いお盆を持ち上げるとぱたぱたとその場を去った。  

 

「マサルさーん!コーヒーが入りマシタよー。」  
「うわあ、ありがとう!ごめんねリーゼさん、いつもやらせちゃって。」  
「い、いいんデス。私、これくらいしかマサルさん手伝うコトデキマセンから…」  
いつもと同じ言葉だが、今日のそれは、少しだけ嘘が混じっている。  
緊張と不安と罪悪感で、コーヒーを渡すリーゼの指先は震えていた。  
(アア、気付かれませんヨウニ―)  
「ありがとう。」  
何も知らない勝は、あっさり笑顔で受け取ってしまう。  
リーゼは思わずさっと手を引っ込めて、勝から顔を逸らした。  
心臓が痛いほど胸を殴りつけている。  
ドキドキして、苦しくて、死にそうだった。  
勝のカップには、勿論、ヴィルマに貰った瓶の中身が入っている。  
きっと勝は、何も知らずにそれを飲んでしまうだろう。  

(でも…ヤッパリ…)  

リーゼは顔を勝に向けないままで俯いた。  
こんな風に騙すようなことをして、それで自分だけが満足するなんて。  

ヴィルマに教えてもらったことがどうとかいうよりも、それをこんな正直でない  
やり方でやろうとすることに、何より気がひける。  
コーヒーを入れる前から何度も何度も自問自答していたのだが、  
改めてやっぱりやめようかという思いがどんどんと沸いて来た。  
あまりのいたたまれなさに、彼女は思わず勝の方を振り返った。  

「マサルさん、あの…!」  

リーゼは、続きを言う前に目を瞬いた。  
…同じくらいの高さにあった勝の頭が見えない。  
そろぅりと視線を下げていくと、飲みかけで転がったマグカップとこぼれたコーヒー、  
そして……寝息すら聞こえないほどに、ぐっすりと熟睡した少年が、見えた。  

 

布団を敷いて、どうにかこうにか引きずってきた勝をそっと横たわらせる。  
それからこぼれたコーヒーを拭いて、カップを片付けて、一通りの後始末を終えると、  
リーゼはぐっすり眠っている勝の傍に腰を下ろして、しばらくその寝顔を見つめていた。  
本当に寝ている。  
ちょっとやそっとでは目が覚めないだろう、本格的な熟睡っぷりだ。  
「ふふ。」  
後ろめたさがあるとはいえ、好きな少年の寝顔には、思わず彼女も頬が緩む。  
「…マサルさん。」  
小声で呼んで、そっと頬をつついてみる。  
ほっそりした人差し指で何度か頬をふにふにしてみたが、寝息しか返ってこない。  
寝返りも、僅かの身じろぎすらもない。  
「このままでも、いいかナ…ナンテ…」  
くすくすと笑って、リーゼは勝の寝顔を見つめながら膝に顔を埋めた。  
二人でいるだけでも幸せなのに、これ以上、変なことをする必要なんてないかもしれない。  
(あ、でも、折角だカラ、せめて隣で寝ようカナァ。)  
リーゼは膝から頭を上げて、その思いつきにうふふと一人で笑った。  
それはとてもいい思い付きだった。  
立ち上がって、自分の荷物からパジャマを取り出して勝の傍に持ってくる。  
寝ている勝の傍で着替えてみようというのは、本当にちょっとした冒険心だった。  
ヴィルマに教えてもらったことまでしなくても、それくらいの悪戯はしてみたい。  
抱えたパジャマを下に置くと、勝の寝顔をちらちらと見て高鳴る鼓動を抑える。  
深呼吸、深呼吸。  

(起きないですヨネ…起きないですヨネ、マサルさん…)  
起きないと分かっていても、やはり緊張する。  
心のどこかで起きてほしいと思っているのかもしれない。  
震えながらもなんとか下着を残して上着とスカートを脱ぐと、リーゼはほうっと息をついた。  
「エッ、ト…、」  
控えめなフリルの付いた白いブラに手を掛けて、そこでリーゼは固まってしまった。  

いくらなんでも好きな男の子の前でそこまでしては、しては…  

ちらりと勝の方を見て、胸に手を当てる。  
(アア、起きないデね、マサルさん!)  

思い切ってフロントホックを外そうとするが、手が震えて上手くいかない。  
紐が肩から滑り落ちて、薄くてなだらかな曲線が露になる。  
何度も失敗しているうちに、リーゼはいつしかぺたんと腰を落としていた。  
「―ん、もぅ!」  
あまりに上手くいかないので、リーゼロッテは膝に手をついて、一旦降参の意図を示した。  
隣に勝がいるというだけで、全てがいつもと違う。  
指がまともに動いてくれないのだ。  
「……」  
ちらりとまた勝を盗み見て、リーゼは息をついた。  

落ち着け、落ち着け。  

…しかし、勝が寝ていて、その隣で自分が下着姿で座り込んでいるという状況で  
落ち着けというのは、はっきりいって無理である。  
深呼吸をしようとすればするほど心臓がどくどくと音を立てて胸を打ち、  
リーゼの呼吸は浅くなった。  
いつの頃からか、勝の方に向かう彼女の視線は顔ではなく、だんだんと  
そのずっと下の方ばかりを彷徨いだしている。  
(マサルさん、マサルさん…)  
止めようと思うのに、先程聞いたヴィルマの言葉が次々と頭の中で鮮明に蘇り、  
リーゼの未成熟な頭と身体は、好奇心と未知の感覚に、次第に熱く脈打ち始めていた。  

リーゼは思い切って首を振ると、勝の方へ下着だけになった肢体を屈めた。  
そっと傍ににじり寄りながら、勝の半ズボンに熱い視線が注がれる。  
まだ少年のそれであるしなやかな両脚の付け根部分に不自然に寄る皺を、じっくりと眺める。  
ごくり、と唾を飲み込んで、リーゼはその部分におそるおそる手を伸ばした。  
「……ぁ、」  
思わぬ感触にすぐに指を離したが、一度触れてしまうと布越しにその感触が指に残り、  
名残惜しさで胸がいっぱいになる。  
リーゼはさらに身体を傾けて、手のひら全体で勝の股間を撫でてみた。  
(ナ、ナンダカ変な感触…。)  
面白くて、いろいろな方向から擦ったり、撫でたり、つついたりしてみる。  
(でも…コレが、マサルさんの)  
そう意識すると、心臓の音が外に聞こえそうほど大きくなってくる。  
リーゼは、熱いのは顔だけでないことに気付いていた。  
こうしていると、何かどこか、身体の芯まで熱くなってくる―  
そうするうちにだんだんと好奇心が自制心に勝り始め、  
リーゼの手の動きは積極さを増した。  
勝は時折苦しそうに眉をひそめ、また時折不連続な荒い寝息を立てるようになったが、  
目覚める様子だけは一向に見られない。  

リーゼは思い切って首を振ると、勝の方へ下着だけになった肢体を屈めた。  
そっと傍ににじり寄りながら、勝の半ズボンに熱い視線が注がれる。  
まだ少年のそれであるしなやかな両脚の付け根部分に不自然に寄る皺を、  
じっくりと眺める。  
ごくり、と唾を飲み込んで、リーゼはその部分におそるおそる手を伸ばした。  
「……ぁ、」  
思わぬ感触にすぐに指を離したが、一度触れてしまうと布越しにその感触が指に残り、  
名残惜しさで胸がいっぱいになる。  
リーゼはさらに身体を傾けて、手のひら全体で勝の股間を撫でてみた。  
(ナ、ナンダカ変な感触…。)  
面白くて、いろいろな方向から擦ったり、撫でたり、つついたりしてみる。  
(でも…コレが、マサルさんの)  
そう意識すると、心臓の音が外に聞こえそうほど大きくなってくる。  
リーゼは、熱いのは顔だけでないことに気付いていた。  
こうしていると、何かどこか、身体の芯まで熱くなってくる―  
そうするうちにだんだんと好奇心が自制心に勝り始め、  
リーゼの手の動きは積極さを増した。  
勝は時折苦しそうに眉をひそめ、また時折不連続な荒い寝息を立てるようになったが、  
目覚める様子だけは一向に見られない。  
しかし、身体がリーゼの与える柔らかな刺激に目に見える反応を返していた。  

(ア!大きくなってきタ。ヴィルマさんの言った通り…。)  
きつそうな半ズボンのボタンを外し、チャックを下ろすと、大人一歩手前のモノが  
パンツ越しに、いよいよはっきりとリーゼの目の前に出現する。  
ごくりと息を飲んで、彼女はパンツの端に手を掛けた。  
「……」  
現れたあまり大きくはないそれを、リーゼはまじまじと見つめた。  
父親のものをずっと昔に見たかもしれないが、そんなことは記憶の彼方なので、  
実質的に見るのは初めてだ。  
手を伸ばして、触れてみる。  
ぴくッと震えたので、リーゼもびくっとして手を引っ込めた。  
取り出してみたはいいものの、どうしていいか分からず眺めることしか出来ない。  
こうしている間に勝が起きないという保証はなく、リーゼは焦って記憶を掘り返した。  
(エ…エット、ヴィルマさんは確か、)  

「触って、みようカナ…」  
そっと握って、何度か上下にこすってみる。  
明らかに大きくなってくるその反応を確かめながら、リーゼは、勝の寝顔を盗み見た。  
とても、イケナイコトをしている気分だ。  
でもどこか、夜、誰もいないサーカスのテントに忍び込むような、昂揚した気分でもある。  
唾を飲み込んで、リーゼはヴィルマに言われた通り、  
幼いペニスの先端を包む皮を剥いてそっと顔を近づけた。  
「……」  
妙に照れてしまい、一旦は顔を遠ざける。  
誰もいないのは分かっていたが、思わずトラック内をきょろきょろと見渡して、  
耳を澄ます。  
トラックは海沿いに停めている。  
遠くから、打ちて寄せる海のざわめきが耳に届いた。  
しんとした夜を不意に意識して、リーゼは思わず勝を見下ろす。  
サーカスの人々もちゃんと他の車で寝ているのは知っているが、  
まるで本当にこの夜には二人しかいないようで、ときめきに顔が朱に染まる。  

「マサルさん…。」  
リーゼは、今度こそ心を決め、口元を先端に近づけた。  
先を舐めると、それはぴくんと跳ねた。  
その反応にますます胸を高鳴らせ、リーゼはもう一度先端を舌ですくうようにして舐める。  
恥垢と汗の混じった、鼻を突くような変なにおいがする。  
でも勝の一部だと思うと、それも嫌悪感だけでは終わらない。  
リーゼは、ヴィルマに教わったとおり、ゆっくりと幼いペニスを口に含んだ。  
「…ん、むぅ、ん…」  
生温かい粘膜に包まれて、勝の肉棒がむくむくと口の中で大きくなる。  
リーゼは、汗ばんだ肌を勝に押し付けるようにして屈みこみ、熱心にしゃぶり続けた。  
舌使いも口の動きも稚拙なものではあったが、吸うたび、  
舐めあげるたび反応を返す勝のペニスを味わいながら  
リーゼは切なさに身体がじんじんするのを感じていた。  
(マサルさん、私がこうスルの、気持ちいいんダ。)  
そう思うと何故か下半身が熱くなり、不思議な感覚が四肢にじわりと行き渡っていく。  
口元も、灼けつくように熱い。  
咥えているのが、誰でもなく勝のものだからだろう―  
「はむ…ちゅ、ふぁ」  
濡れ始めた勝の先端から一旦口を離して、ぺろりと舐める。  
また、さっきよりも躊躇なく口に含んでは、一生懸命吸い上げる。  
小さな口では愛撫しきれない下の部分を両手で握り、たどたどしい手つきで  
擦り出すと、口の中のモノがびくびくと脈を打って膨らんだ。  
動かすたびに手の中と口の中の熱がどんどん上がって、その熱にリーゼは  
ますます溺れていく。  

「マ…マハルは…!」  
感極まって名前を呼び、リーゼは腰をくねらせた。  
じゅぶじゅぷと涎と先走り汁が上下する口から滴り、  
それに感じた舌の口からは熱い水が溢れ出す。  
切なげに太股を擦り合わせながら、リーゼは今までよりいっそう強く  
勝を口で犯し始めた。  
(ああ―マサルさん、マサルさん、マサルさん!!)  
しなやかな黒髪が頬に張り付き、潤んだ瞳の横を透明な汗が伝う。  
ひたすらに舌を動かし、手を動かし、リーゼは勝のそれだけに集中して  
ただただ攻めを続ける。  
そしてその激しい口の動きに、勝のペニスは急激に膨らみをまし―限界を超えた。  

「ん!?ん、ふぁあ!?」  
勢い良く口内で弾けた白濁液に驚いて、リーゼが顔を離す。  
それでも勝の勢いは止まらず、どうしていいのか分からないまま  
リーゼは残りを全て浴びてしまった。  
「うぇ……苦イ…」  
口に発射された分を思わず飲み込んでしまい、リーゼは渋面を作った。  
それに、話に聞いたりはしていたけれども、思っていたよりずっと、  
ヘンなにおいがする。  
ぺろんと手についたのをなめてみたけれど、やっぱり変な味だった。  
舐めとった指先をまじまじと見ているとしかし、直前までの行為の  
卑猥さが意識されて息が弾む。  
すっかり出し切って萎えたモノを見つめ、勝が薬のせいで  
ちっとも起きていないことに安堵と僅かの落胆を覚える。  

…すごいことをしてしまった。  
ちょっと、なんというか、してはいけないことをしてしまったというか。  
「……」  
かあ、と顔を染めて、リーゼは傍に放り出されていたタオルを拾って、汚れた身体を拭き始めた。  
じっとりと濡れているショーツの辺りも、丁寧に…  
「ア!?」  
タオルがそこに触れると、火照りの収まらない体がびくんと跳ねた。  
(ヤダ、私…!)  
理性が止める間もなく、タオルをそこに押し付けて擦り始める。  
濡れて張り付いていたショーツがぐちゅぐちゅと音を立て、また蜜が溢れ始めた。  

収まりきらない蜜がこぼれて、タオルに染みていく。  
先程の痴態を思い出しながら、リーゼは一心不乱に手を動かし続けた。  
寝ている勝の剥き出しになったままのペニスを見つめると、いっそう快感が強くなる。  
(私、マサルさんにあんなことシテ、その傍でまたこんなコトしてル…!!)  
声を抑えようと、顔を勝の寝ている布団の上に押し付ける。  
リーゼの腕はその間もタオルでショーツ越しに刺激を与え続け、  
その奥はもどかしい愛撫にひくひくと反応していた。  
「ん!んん、あう!」  
じれったくなり、タオルを捨てて下着の中に手を差し入れる。  
すっかり濡れそぼっている秘裂に指を差し入れ、掻きだし、  
大きくなってきた肉芽をこねくりまわす。  
もともと感じていた体が昇り詰めるには、そう時間はかからなかった。  
(ああ、も…ダメェ…!!)  
リーゼは大好きな少年の傍で、愛液を溢れさせ、身体を激しく震わせて達した。  

 
 

今度こそ身体を拭いて、勝に元通り服を着させる。  
ミネラルウォーターで別のタオルを濡らしてもう一度身体を拭いて下着を取替え、  
ちゃんとパジャマを身に着ける。  
一通りどうにか後始末をすると、リーゼは勝の隣に腰掛けた。  
「マサルさん…大好きデスよ。」  
微笑んで頬に手を当てて、そっと屈む。  
頬に小さなキスをすると、リーゼは満足げに立ち上がって  
服を洗いにトラックの外へ去っていった。  

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