お返しだと、ホワイトデーにナルミがくれたのは、可愛いリボンの付いた一袋のキャンディ。
そしてブランドの口紅がひとつ。
どんな顔して売り場に行ったのかしら?
女性客ばかりの中で、さぞかし居心地の悪い思いをしたに違いない。
「ふふ・・・。」
真っ赤になりながら、店員さんに話しかけるナルミの姿を想像すると
思わず笑ってしまった。
以前は声を出して笑うどころか、努力しなければ笑顔を作ることさえ出来なかったのに。
ナルミと一緒にいるようになってからは、私は笑ってばかりいる。
お坊ちゃまも、「しろがねがいつも楽しそうで、僕は嬉しいんだ。」と言ってくれる。
ケースから出してみた口紅は、淡いパールピンク。
「綺麗な色・・・。」
鏡に向かい、そっと唇にひいてみると、艶やかに輝いて見える。
こんな色を付けたのは、生まれて初めてだった。
メイク道具なら持っているけど、その中にはこんな可愛い色は無い。
ステージのためのドーラン、真っ赤な口紅、青や紫のアイシャドウ。
全て派手で毒々しい色ばかり。
それにステージでお客様の前に出る時以外に、お化粧をした事など一度も無かった。
仕事の為でなく、たった一人の男性に見てほしいと思ったことも・・・。
口紅をつけたままナルミの前に行くと、彼は照れくさそうにポツリと、
「・・・似合うぜ。」と言ってくれた。
その言葉が嬉しくて、私はまた自然に笑顔を浮かべていた。