「はい、ナルミ。」
はにかみながら、あいつは小さな包みを差し出した。
綺麗な包装紙を剥がして開けてみると、ハート型のチョコレートが入っていた。
そういえば今日はバレンタインだったっけ。
昨日、リーゼと2人でいそいそと出掛けていったのは、これを買う為だったのか。
照れくさそうに俺が礼を言うと、エレオノールもポッと頬を赤らめた。
「本当は手作りの方がいいって聞いたから、チョコレートケーキを焼いてあげたかったけど
でも、ここにはオーブンレンジが無いから。」
そうだよなぁ。旅から旅へのトラック生活で、仲町サーカスにはアウトドア用コンロしかない。
その気になればフルコースだってできる、こいつの腕もろくにふるえない状態だ。
「お前の料理の腕前って大したもんだけど、ケーキも作れるのかよ?」
「ええ、ルシール先生に習ったから。」
「ルシールに?」
エレオノールは珍しくキュベロンでの事を語り出した。
修行時代に、家事の一切を仕込んでくれたのはルシールだったそうだ。
「いずれ、ここを出て1人で生きていかなければならないのだから
何でも自分で出来なくてはいけないって。」
「そうか、お前の料理はルシールの味だったのか・・・。」
「人形繰りの練習は、とても厳しくて怖かったけど。
でもお料理を教えてくれる時の先生は嫌いじゃなかった・・・。」
そう言って俯いたエレオノールの表情が、あまりにも寂しそうだったんで
俺は思わず引き寄せて、肩を抱きしめてやった。
「なぁ、俺コロッケ食いたいな。今度作ってくれよ、ルシール直伝のやつ。」
「ええ、まかせて。とっても美味しいのよ、ナルミ。」
俺の腕の中で、エレオノールはにっこりと微笑んだ。