目の前に愛する男がいる。だがエレオノールの心は絶望に凍り付いていた。
カトウナルミ。彼は死んだはずだった。
しかし生きていて、今こうして彼女の前に立っている。
喜び、その胸に飛び込もうとしたエレオノールを抱きとめるどころか
左の腕から伸びるブレードを彼女ののど元に突きつけ、こう言い放ったのだ。
「探したぜ、フランシーヌ人形!」
彼の漆黒の髪と瞳が半分銀色に変わり、四肢が人形のパーツという変わり果てた姿になり
自分と同じ「しろがね」となっていたことより何より
その言葉がエレオノールを打ちのめした。
「ナルミ、何故・・・」
何故、自分を敵の首魁の名で呼ぶのか、いやそれより自分のことを
「お前は人形じゃない」と言ってくれた彼が、その口で人形と呼んだ。
絶望のあまり、エレオノールの頬を涙が伝う。
「フランシーヌ、なんでお前が俺の記憶の中に残っていたのか知りたかった。
だが、お前のために大勢の仲間が死んで、今もゾナハ病で苦しんでる人たちがいる。
許すわけにはいかない!」
「違う・・・違う!私はフランシーヌじゃない!人形じゃない!」
優しかった瞳が、怒りと憎悪をこめて自分を見ている。
何故?何故こんなことに?
あれほど恋焦がれた男が、自分を敵として刃を突きつけている。
エレオノールは必死に哀願した。
「ナルミ、あなたは私を抱きしめてくれた。おれの女だって言ったのに。どうして・・・」
「なっ、おれの女?」
エレオノールの予想外の言葉に、鳴海の腕の力が少しゆるんだ。
押さえつけられていた状態から、エレオノールはするりと抜け出る。
そして鳴海の前に向き直ると洋服のボタンをはずし始めた。
「な、何するつもりだ!」
エレオノールの突拍子も無い行動を、鳴海は呆気に取られて見ていることしかできなかった。
彼女は下着をも全て脱ぎ去ると白い裸身を鳴海の前にさらした。
「私はフランシーヌ人形じゃない。・・・たしかめて、ナルミ。」
初めはまだ、冷静に対応するつもりだった。
記憶の中の女。自動人形のリーダー、フランシーヌ人形。
それがどう結びつくのか。記憶の中の女はフランシーヌなのか?
サハラで出会った阿紫花という男が、才賀という姓の家もフランシーヌに似た女も知っていると言い
どうこうすることになった。
日本に着き、単独行動をとっていた鳴海は偶然にも女と出会った。
その瞬間、死んでいったしろがね達の姿が浮かび、冷静さを失ってしまったのだ。
名前も自分との関係も問いかけることを忘れ、女の腕を押さえつけ、聖ジョルジュの剣を突きつけていた。
「探したぜ、フランシーヌ人形!」
女は驚愕に目を見開き必死に懇願したが、何故か反撃しようとするそぶりは見せなかった。
そして鳴海の思いもよらぬ行動にでたのだ。
女は着ていたものを全て脱ぎ捨て、鳴海の前に生まれたままの姿を晒したのだ。
呆気にとられ鳴海は立ち尽くした。頭に上った血が冷えるのを感じた。
「私はフランシーヌ人形じゃない。たしかめて、ナルミ。」
女は訴えるような瞳で静かに言った。
しみひとつ無いぬけるような白い肌。なだらかな肩。ふくよかな胸。
キュッと引き締まったウエスト。まろやかな腰からふとももにかけてのライン。
均整のとれた体は成熟した女のそれではなく、瑞々しい若さに溢れている。
どんな名工でも、これほどの美を生み出すことは不可能に思えた。
だが鳴海はまだ疑いを捨てる事ができなかった。
自動人形の中には外見だけでは人間と見分けがつかない奴らもいるのだ。
ましてフランシーヌは天才錬金術師に生命の水を与えられた、特別な人形なのだ。
その迷いを察したのか、女は手をさし伸ばし鳴海の左腕、
ギイによってつけられたマリオネットの手を取った。
そしてその手を自分の頬に押し当てた。
(柔らかい・・・)
生命の水によって体の一部となり、触感を備えた人工の手に皮膚の弾力と体温の温かさが伝わる。
女は鳴海の手のひらに愛しげに頬ずりをした。
「お前は・・・人間なのか?」
たしかに感触は生きた人間のものである。
だがアプ・チャーのように触っても分からないほど、精巧にできた人形もいた。
この女もそうかもしれないのだ。 しかし・・・。
鳴海はいつしか自分から手のひらを、女の顔の上に滑らせていた。
頬から目元へ、柔らかな耳たぶへ、しなやかな銀の髪へ、
そして唇に下りていった。
女は目を閉じ、うっとりとした表情でされるがままになっている。
指先が艶やかな唇を、そっとたどった。
鳴海は憑かれたように肌の感触をたしかめた。
いや、たしかめるなどという目的などすでに消し飛んでいた。
この柔らかく白い肌の感触から手を放したくなかったのだ。
「エレオノール。」
女の唇が動き、指先に吐息がかかる。
「?」
「私の本当の名前。あなたにはその名で呼んでほしい。」
エレオノールは吸い込まれそうな銀の瞳で鳴海を見上げている。
「エレオノール・・・。」
たしかめるようにつぶやくと、鳴海は引き寄せられるように身をかがめ
彼女の唇に自分の唇を重ね合わせた。
もはやフランシーヌ人形のことも何もかも、頭の中から消えていた。
はじめはおずおずと触れ合わせるだけだった唇が激しく重ね合わされる。
歯列を割り、舌と舌を絡ませ、2人は我を忘れて互いの唇を求め合った。
「・・・ん、あ、あん・・・」
エレオノールの口から甘い吐息が漏れた。
やがて鳴海はエレオノールの唇を解放すると、両手で彼女の頬を挟み
顔中に口づけをふらせる。
頬、額、瞼の上。その存在を確かめるように優しく唇をたどらせる。
「あっ!」
耳元に熱い吐息を吹きかけられ、エレオノールの肩がピクンと揺れた。
敏感な耳たぶを舌で舐め上げられ、軽く甘噛みされる。
「う・・・ん、あぁ、ナルミ・・・」
両膝が震え、エレオノールは体から力が抜けていくのを感じた。
ナルミ、ナルミ・・・」
立っていられなくなり、エレオノールは助けを求めるように、鳴海の体にすがりついた。
鳴海は唇を離すと、崩れ落ちそうな彼女の体を両腕に抱え上げた。
そして適当な場所を見つけ、床にそっと彼女を下ろし、静かに横たわらせた。
鳴海は服を脱ぎ捨て、細い体を押し潰さぬよう、エレオノールの上にゆっくりと覆いかぶさった。
エレオノールは鳴海の筋肉の隆起した、たくましい胸板を見上げた。
マリオネットのパーツのつながった部分を見つめる瞳が、痛ましげに歪む。
エレオノールはそっとその部分に手を伸ばすと、いたわるように撫で擦った。
鳴海は黙ってその行為を受け入れていたが、やがて彼女の背に両腕を回し、しっかりと抱きしめた。
2人は再び口づけを交し合う。
鳴海は彼女の唇を離すと、次に白い喉元へ唇を落としていった。
エレオノールは大きく顎をそらせ、首筋への愛撫を受け止める。
「ナルミ・・・、あっ、あぁ・・・」
彼女の口から甘やかな吐息がこぼれる。
それに煽られ、鳴海は貪るように彼女の肌を求めた。
首筋から鎖骨のラインへ。肌理の細かい滑らかな肌に舌を這わせ、なだらかな肩に
優しく歯を立てる。
「ん、ふぅ・・・ん・・・」
輝くように白い肌を桜色に染め、与えられる快感にエレオノールは喘ぎ続けた。
鳴海の左手が彼女の右の乳房をつかみ、ゆっくりと揉みしだく。
「あ・・・、ああ・・・ん、ナルミ・・・」
鳴海は両胸の谷間に顔を埋め、激しく口付けた後、もう片方の乳房に唇を落とした。
「あんっ!!」
すでに硬くなり始めていた頂を口に捕えられ、エレオノールの体は電流が走ったように
跳ね上がった。
ピンク色の突起を傷つけないよう、鳴海は優しく歯を立て舌で転がし、吸い上げた。
「あっ、ああ、あん・・・、ふぅ・・・ん、ん」
エレオノールは身を捩じらせ、艶かしい声を上げる。
「い、いや・・・ナルミ、・・・あん!」
左の突起を舌で攻め立てられ、もう片方を指の腹で撫で上げられ、摘まれる。
自分自身の上げる声に羞恥を覚え、エレオノールは何とか声を抑えようとした。
彼女は自分の右手を口元に持っていき、人差し指に噛み付いた。
それに気付いた鳴海は、彼女の手首を掴んで引き剥がす。
「なんだよ、恥ずかしがることないだろ?もっとお前の声、聞かせろよ。」
もう片方の手首も掴み、鳴海は床に彼女の両手を押さえつけた。
そして唇と舌で、両胸の頂をさらになぶる。
「あ、ああ、・・・あん、ナルミ、・・・ナルミ!」
力強い腕に押さえつけられ、抗うこともできず、エレオノールは喘ぎ続けた。
乳房を弄っていた手が脇腹をたどり、太股を撫で、
ふくよかな双丘をやんわりと揉みしだく。
「あ、ふん・・・、あぁん・・・」
敏感な場所を触れられる度、エレオノールは鼻にかかった甘やかな声を漏らす。
柔らかな肌の感触を楽しんだ後、鳴海は両足の付け根、
銀色の茂みの中へ、手を伸ばした。
「やっ! いやっ・・・あんっ!」
誰にも触れさせたことのない場所を指で弄られ、エレオノールは思わず身を竦めた。
反射的に膝を閉じ、逃れようとする。
だが鳴海は彼女の膝頭を掴むと、容易く両足を押し広げさせた。
太股を大きく開かされ、その中心が曝け出される。
そこはすでに熱い蜜を溢れさせ、濡れそぼっていた。
「いや・・・ナルミ、見ないで・・・」
紅潮した顔を両手で覆い隠し、エレオノールは弱々しく懇願した。
もともとエレオノールは他人に裸を見られることに無頓着だった。
人の視線など意に介することもなく、
男達が自分に抱く劣情も理解する事ができなかった。
その美しさを賞賛されても、ショーケースの中のアンティーク・ドールに対するものと
同じだとしか思わなかった。
だが鳴海との出会いが彼女の中にそれまで知らなかった感情を芽生えさせた。
偶然フロ場で鉢合わせ、裸を見られた時、エレオノールは思わず体を隠した。
その時、生まれて初めて「男」という性を意識し、
自分が「女」という性であることに気付いたのだ。
サーカスの演目でコンビを組んだ男達に体を触れられても
何の感覚も覚えなかったが、
鳴海に肩を優しく抱かれただけで、心臓の鼓動が早鐘のように打った。
そして今、鳴海の視線に晒されることで、
エレオノールは体の奥が熱くなるのを感じていた。
熱く潤った柔らかい襞を掻き分け、鳴海は左手の人差し指を差し入れたいった。
溢れ出した蜜が指に絡みつき、動きに合わせて湿った音を立てる。
「あ・・・あっ・・・あん。」
体の奥で蠢く指の感触に溺れ、エレオノールは声を上げる。
艶かしいその声が、鳴海の動きをさらに大胆にした。
中指も差し込み、一緒に掻きまわし、親指で入り口の敏感な突起を弄ってやる。
「あぁ、あふっ、・・・ぅん。」
中と外を同時に攻め立てられ、快感のあまりエレオノールの体が
ビクンビクンと痙攣を繰り返す。
自分の意思とは関係なく、触れられている場所が蠢き、
鳴海の指をさらに奥まで飲み込もうとする。
腰の奥から熱い波が押し寄せ、背筋を駆け抜けた。
エレオノールは足の指を突っ張らせ、大きく背中をのけぞらせた。
「あっ、あっ、あぁ〜〜〜。」
エレオノールは胸を弾ませ、酸素を求める魚のように唇をパクパクと動かしている。
熱く熱を持ち、とろけそうな肉の襞の中から、鳴海はそっと指を引き抜いた。
「んっ!」
エレオノールの口から、思わず名残惜しげな甘えた声が漏れる。
ぐったりとなった彼女の様子をしばらくうかがっていた鳴海は、再びその上に覆いかぶさった。
力なく投げ出された両足の間に体を差し入れ、硬くなった自分のものを中心にあてがった。
放心したように横たわっていたエレオノールは、その動きに気付き
潤んだ瞳を鳴海に向ける。
「いいか?」
その問い掛けの意味を悟って、エレオノールははにかみながらコクンと頷いた。
指の愛撫で十分潤っている入り口に、鳴海は自分のものを含ませた。
柔らかい肉の襞が優しくまとわりつき、彼を押し包む。
だが、まだ男を知らないその場所は、容易に侵入を許そうとはしなかった。
処女の未熟な体は、男の侵略を拒み、押し返そうとする。
それでも鳴海は体を進め、彼女の中に突き入れていった。
「くっ、くぅ・・・。」
エレオノールの顔が苦痛に歪む。
「大丈夫か?」
「え、ええ、平気・・・。」
脂汗を流し、痛みに顔を歪ませながらも、エレオノールはそう答えた。
彼女の苦痛を慮って、鳴海は動きを一旦止めた。
「や、やめないで。来て、ナルミ。」
エレオノールは鳴海の背に回していた腕に力を込め、ギュッと縋り付いた。
「けどよ、お前、辛いんだろ?」
「いいの、もっとあなたを感じさせて。あなたが今ここにいるのが夢じゃないって
信じさせて。」
彼女の瞳から、堰を切ったように涙が溢れ出した。
そして鳴海の胸に顔をすりつけ、しゃくりあげる。
「もうどこにも行かないで! 私を置いてどこにも行かないで!!」
エレオノールの悲痛な叫びが、鳴海の胸に突き刺さる。
彼女がどれほど自分を愛しているのか、初めて気付いたのだ。
そして失われた記憶の中で、自分が彼女をどう思っていたのかを。
愛おしさが込み上げ、鳴海は彼女を抱く腕にさらに力を込めた。
2人の吐息だけが暗闇の中に響いている。
鳴海は衝動のままに、彼女の中でひたすら動き続けた。
背中に回したエレオノールの指が、鳴海の肌に爪を立てる。
「あっ・・・、ああ、ナルミ、ナルミィ・・・。」
その口から漏れる甘い声が、彼女が感じているのがもはや苦痛ばかりでないと
教えていた。
しろがねとしての回復力のせいか、愛する男をその身に受け入れている歓喜のためか、
引き裂かれるような痛みも今は薄れ、内壁を擦り上げる男の存在感が
彼女の中で痺れるような歓びを生み出していた。
「あぁん・・・、ふぅん、ナルミ・・・、ナルミ・・・。」
エレオノールは髪を振り乱し、夢中で彼の名を呼び続ける。
自分を求める女の声に突き動かされ、鳴海はさらに動きを速めた。
滝のように流れる汗が、彼女の体に滴り落ちる。
やがてエレオノールは全身をがくがくと震わせると、背中をのけぞらせ
一際高く悲鳴を上げた。
「ナ・・ルミ・・・、あっ、あ〜〜〜〜〜!!」
鳴海を包み込んだ肉の壁が激しく収縮し、彼のものを締め付ける。
「くっ、う・・・。」
堪えきれず、鳴海は彼女の中に熱を解放した。
激情の去った後、2人は静かに寄り添って、横たわっていた。
エレオノールの白い太股に、一筋の赤い線が流れ、床に散っていた。
人間である証。鮮やかな血の赤。
彼女はうっとりとした表情を浮かべ、鳴海の胸に頭をもたれ掛からせている。
鳴海は手を伸ばし、そっと彼女の髪を優しくすいてやる。
それが気持ちいいのか、エレオノールはいつしか静かな寝息を立てていた。
鳴海に何もかも委ねきった、安らかな寝顔だった。
彼女の肩に腕を回し、しっかりと抱き寄せる。
そういえば、と鳴海は思った。
暗闇の中、彼女の肩を抱き、互いのぬくもりを感じていた事があったような気がする。
あれはいつの事だったのだろう。
考えているうちに鳴海もまた、眠りの中に引き込まれていった。