『神無月の巫女 〜陽と月の輪廻〜』  
 
 
「千歌音ちゃん、どうしたの? それに、ここは・・・?」  
姫宮家の奥、古い木で出来た大扉の向こうに、小さな、古びた社があった。  
その奥に、これも古びた石造りの祭壇があり、その前に千歌音は一人で立っていた。  
巫女の着る紅白の裃を身に纏い、鞘に収められた懐刀サイズの神刀を手にしていた。  
メイドの乙羽の案内でここに連れられてきた姫子も同じ衣装を身に纏っている。  
艶やかな黒髪でクールな面持ちの千歌音と、輝くようなライトブラウンの髪と暖かな  
よく動く表情の姫子。月明かりに照らされ、対照的な二人のコントラストは神々しい  
までに美しい。  
 
「ここは…祭壇よ」  
「千歌音ちゃん?」  
「古い古い古い…神話の時代からある祭壇。月の社と現世を結ぶ祭壇……」  
「……? よくわからないけど……千歌音ちゃんがどうして巫女服を?」  
姫子が聞くと、千歌音はするりと巫女服の上を脱いだ。下着を着けていない千歌音の  
白い肌が夜目にも眩しく浮き上がる。  
「その…痣は?」  
姫子は千歌音の肌にドキッとしたが、それ以上に彼女の肩にある月の形をした痣が  
気になった。それは、自分の胸に浮き出た太陽のような形の痣と同質のものでは…?  
 
「そう…月の巫女は私…。陽の巫女である姫子と対になるのは私なの…」  
「ち…千歌音ちゃん! 本当に!?」  
姫子は千歌音に飛びつくように抱きついた。  
「どうして……どうしてもっと早く言ってくれなかったの? 私…二人一緒なら…」  
「姫子……」  
「千歌音ちゃんが月の巫女だなんて……こんな嬉しい事……」  
喜びの涙を流し、抱きつく姫子を千歌音は静かに見据えている。  
 
「そんなに嬉しかった、姫子?」  
「当たり前じゃない! だって私達は二人で…」  
「そう…二人で…ね。でも……」  
千歌音は姫子を抱きしめる……が、  
「え? ……はぅ!?」  
その刹那、千歌音の膝が姫子の股間に深々と突き刺さっていた。無論、千歌音が  
蹴り上げたのだ。姫子の大事な所を、思いっきり、容赦なく……。  
 
「あ……ううっ……くっ! ち、ちかねちゃ……な…ぜ……」  
股間を押さえ、膝をつく姫子。急所を蹴られた痛みに体の震えが止まらない……。  
「あなたが悪いのよ、姫子……」  
するり…と巫女服の袴が落ちると、千歌音は下半身裸になった。巫女服の上も  
はだけており、全裸に軽く羽織ってるだけの状態だ。その姿で苦痛に悶える姫子を  
見降ろしながら、手にした懐刀の鞘を舐める。  
 
「そ…それは? あっ!?」  
千歌音は動けない姫子の巫女服を掴むと、自分と同じようにはだけさせた。  
そして、袴の結び紐に手をかける。  
「や…やめて、千歌音ちゃん!」  
姫子は股間が痛かったが、必死に抵抗する。しかし、力が入らず、千歌音と  
同じように下半身は裸にされた。巫女服を着る時のしきたりどおり、下には  
何もつけていなかったのだ。  
 
「オロチを蘇らせる純潔の巫女は二人も要らないの……。これで姫子の純潔を  
奪ってあげる……姫子、私の事好きなんでしょ? だったら、私に姫子の  
大切なものを頂戴……」  
「う……うぐ!?」  
千歌音は姫子にキスをする。甘く濃厚なキスを、繰り返し何度も……。  
そして、懐刀の柄を姫子のそこにあてがった。  
「だ……だめ!!」  
バン! と姫子が千歌音を突き飛ばす。思いもよらず、千歌音は軽々と後方に  
飛ばされた。荒い息を弾ませながら姫子は千歌音を見つめる。  
 
「……そんなにあの男が大事なのね……?」  
千歌音が俯いたまま呟く。  
「大神ソウマ……あなたのファーストキスの相手なんでしょ?」  
「え…? あっ!」  
姫子は思わず口元を押さえた。千歌音はまさか…?  
「あの男に捧げたいの? この宿世の縁で結ばれている私よりも!?」  
ゆらり……と立ち上がる千歌音。さっき突き飛ばされた時に唇を切ったらしく、  
一筋の血が唇の端から流れ落ちた。  
「ち…ちがう! 大神君とは……そんなのじゃなくて……」  
姫子は赤くなりながら誤解を解こうとする。しかし、それは逆効果のようだった。  
「そう…。やっぱり大事なんだ。心の底から…」  
妖しげな光を湛えた目で、ゆっくりと千歌音が近づく。姫子は動くと股間が痛んだが、  
さすりながら千歌音から離れようとする。  
 
カラン……。  
 
「え…?」  
二人の間に放り出された懐刀。千歌音はどうしようと言うのだろう?  
「闘いましょう、姫子……陽の巫女と月の巫女の純潔を賭けて……」  
「そ、それってどういう……」  
「どちらかが、純潔を失うまでここを叩き合うの。拳や蹴りでね」  
とんでもない事を言いながらニコッと笑い、千歌音は自分の股間を撫でた。  
「そ、そんな……!」  
思わず口元を押さえる姫子。処女を賭けて闘う…しかし…。  
「勿論、拳や蹴りで打ち合ったぐらいじゃ、破れないかもしれないからね  
……最後は、勝った方があれで……」  
と、懐刀を見る。あれで貫くと言う事なのだろう……。  
恐ろしい事を口にしながら、妖しげに頬を染めて上気する千歌音を見て姫子は  
身震いする。それとなく、無防備な股間を片手で守りながら後じさっていたが、  
背中に鳥居が当たった。大扉も閉じられており、もう逃げ場はない……。  
 
「どうする、姫子? 私と闘う? それとも素直に純潔を捧げる……?」  
にじり寄る千歌音に姫子は「うう……」と呻いていたが、下がるのを止め、千歌音を  
迎え撃つように構えた。無論、形は素人だが。千歌音の瞳がわずかに曇る。  
「やっぱり、闘うのね……あの男のために」  
「ち、ちがうよ! 大神君は…関係ないよ!」  
「え?」  
「わ、私は……千歌音ちゃんのために闘うの。今の千歌音ちゃん、なんだか変だから  
……正気に戻ってもらうために、一生懸命抵抗するの!」  
姫子には千歌音の股間を攻撃する意志はなかった。何とか粘って千歌音が何かの  
思いに囚われているのを解放しようと考えたのだ。  
 
「私は正気よ……始めからね。姫子、あなたが攻撃しようとしても、私は全部  
防げてしまうわ……実力が全然違うのだから。だから、私はここを守らないようにする。  
そうすれば互角でしょ?」  
千歌音は自分の股間を撫で上げた。ここを無防備にすると宣言したのだ。あくまで  
股間を攻撃しあう展開にするつもりらしい。  
「う……」  
実力が全然違うと言われても姫子には返す言葉が無かった。全くその通りなのだから。  
 
「それにしてもおかしな子…。もし、姫子のいうとおり、私が何らかの理由でおかしく  
なっているとして、闘ってどうにかなると思ったの? せいぜい無駄な時間稼ぎに  
しかならないと思うけど?」  
千歌音はクスクスと可笑しそうに笑う。  
「そ、それでもいいの……。何万分の一の可能性かわからないけど、私が足掻いてる  
間に千歌音ちゃんが正気に戻る可能性も……あるかもしれないし……」  
姫子の声はどんどん小さくなる。自分で考えてもそんな勝算は殆どないのだろう。  
だけど、この子は自分のために……こんな時だが、千歌音の胸は熱くなる。  
 
「だったら姫子に最初のチャンスをあげる……。私は姫子が攻撃するまで抵抗しない  
わ。自由にしていいのよ」  
千歌音は巫女服の上を纏っただけの姿で、両手を広げた。帯紐は結んでいないので、  
姫子から見れば全裸と同じだ。黒く艶やかな髪と月明かりに照らされた白く美しい  
裸体のコントラストが神々しいほどに美しい……姫子は思わず陶然となる。  
「自由にって……あの、その……」  
何故かドギマギしてしまう姫子。その様子を見てクスッとと笑いながら千歌音は姫子を  
面白そうに見つめる。自分の心を覆う闇がほんの少しだが晴れるのを感じるのだ。  
もう二度と消せないと思っていたのに……。いや、消してはいけないのだ……。  
 
「だって、闘うのでしょ? 攻撃しなきゃ勝てないよ? ……それとも、姫子が  
勘違いしている事でも、する?」  
「え…? わ、私…勘違いなんてしてないよ……」  
姫子は恥ずかしそうに俯く。勘違いではない。だが、想像はした。それも仕方が無い  
だろう。お風呂でもない所で二人して裸同然の格好、それに「自由にしていいのよ」の  
言葉……。  
 
(お風呂……?)  
姫子は唐突に千歌音と風呂に入った時の事を思い出した。あの時は確か……。  
 
 
      *          *          *  
 
 
「ち、千歌音ちゃん! ダメだよ! そんな……ひゃああん!?」  
「こら……逃げちゃだめ、姫子。ゲームに負けた罰でしょ?」  
「そ、そんなのずるいよ! 数当てゲームでいきなり『ヤマタノオロチの指の数』って  
言われても、わかんないよぉ!」  
「クスクス……オロチなんだから蛇でしょ? 蛇に指なんかあるかしら?」  
「あ……そうか。…って、隙を突くなんてずるい!」  
姫子が納得した瞬間を狙い、千歌音は姫子の足をがっちりと掴んだ。そして、右足を  
股間にあてがう。  
 
「ひゃあん!? だ、だめだったらぁ〜〜!!」  
姫子は素っ頓狂な声を上げ、悶える。お風呂なのだから、当然裸だ。その状態で股間を  
足で触れられると、誰でも驚く。  
「可愛いわ、姫子……。その悲鳴も、恥ずかしがり方も……」  
「こ、こんなかっこうしてどうするの、千歌音ちゃん?」  
妖しげに微笑む千歌音とそれを見て慄く姫子。  
「姫子は『電気アンマ』って知らないの?」  
「『電気アンマ』?」  
「そうよ。女の子達の間だけで流行する遊び……されたことないの?」  
「う……うん……」  
そういった流行を知らないのを恥じるかのように俯く姫子に優しく微笑みかける千歌音。  
「私が教えてあげるよ、姫子。フフフ……姫子の初めての電気アンマの相手が私なんて  
…うれしいな」  
「え…? う、うん! そうだね」  
自分がされる側なのに思わず喜んでしまう姫子。「あっ!」と思わず口元を押さえたが  
もう遅い。  
 
「それは承知の言葉と受け取ってよいのね? じゃあ、気持ちよくしてあげる…」  
そう言うと千歌音は姫子の股間に宛がった踵に力をゆっくり入れていった。  
「ひゃああん!? だ、だめぇ〜〜!!」  
姫子の悲鳴が大浴場に響き渡るが、当然、誰も助けには来てくれなかった。  
 
ぶるぶるぶるぶる……。  
 
千歌音の電気アンマが姫子の裸の股間を直撃する。  
「あうう……だ、だめだよ。千歌音ちゃん!」  
姫子は懸命に千歌音の足に手をかけ、退けようとするが全く動かない。千歌音の力が  
強いと言うより、自分の力が入らないのだ。それもそのはず、姫子が力を入れようと  
すると……。  
 
「だめよ、姫子……えい♪」  
「ひゃうん…!? ず、ずるい〜〜!」  
千歌音は姫子が力を入れようとするともう片方の足の指で姫子のアヌスを突っつくのだ。  
それをされると腰から下の力が抜けてしまい、解けかけた電気アンマがまたがっちりと  
決まってしまう。メイドの乙羽を相手に練習を重ねた千歌音の得意技であった。  
 
「フフフ…姫子、いいの? このままじゃ永久に電気アンマから抜け出させないよ?」  
「ああん…くうぅ! …そ、そんなぁ〜! ち、千歌音ちゃんがやめてくれたらいいん  
だよぉ〜!」  
姫子が悶えながら抗議する。電気アンマに耐え切れないのか、自分の人差し指を噛み  
締め、懸命に耐える。目をトロンとさせ、頬を紅潮させて悶える姫子の姿を見て千歌音は  
自分の下腹部の辺りが更に熱くなる。  
 
「もっと、意地悪な事、してあげようかな?」  
「え?」  
「例えば、姫子……もし、私がこの状態で姫子の大事な所を蹴っ飛ばすって言ったら、  
どうする?」  
サディスティックに笑う千歌音の表情にどきりとする姫子。千歌音はもしかしたら本気  
なのか?  
「だ、ダメだよ……千歌音ちゃん。ここ、蹴られたら凄く痛いんだよ? だから……  
そんなことしちゃ、やだ……」  
「あら? 姫子はここを蹴られた事あるの?」  
千歌音の瞳がキラリと光る。興味津々の様子にちょっと驚く姫子。  
 
「そ、それはないけど……打ったことあるから……」  
「そうなの? ねぇ、どんな状況だったの? 打った時の気持ちは?」  
ワクワクして姫子に迫る千歌音に、姫子は戸惑いを覚えながらも、少しずつ話す。  
「う…うん……。あの、授業でソフトボールをやってて、私がピッチャーをやった時に  
その……打ち返されたボールがワンバウンドして真下からここに……ち、千歌音ちゃん。  
力が入りすぎだよぉ……」  
姫子が困った様な表情で千歌音のアンマしている足を戻そうとする。  
「あ、ゴメン。つい……。で、どうだったのその時の気持ち? 痛かった? 気持ち  
よかった?」  
ハッと我に返った千歌音は、少し冷静になって力を緩め、姫子に話す余裕を与えた。  
 
「そ、それは痛かったに決まってるよ! 気持ちよくなるはずないじゃない? みんなが  
見てて恥ずかしかったけど、アソコを押さえて飛び跳ねちゃった……。その後、ベンチで  
お休みしてようやく楽になったんだもん……」  
姫子の話をまるで一言一句たりとも逃すまいと耳を傾けていた千歌音だが、電気アンマを  
続けながら、何か異質な微笑を見せる。  
「そう……痛かったのね。フフ…女の子の急所だもの、当たり前だよね。……でも、姫子」  
「あうう……千歌音ちゃん、またアソコグリグリしすぎ……。な、なぁに?」  
「男の子の急所と違って、女の子の急所はね。痛いだけじゃないの。苦痛の急所であり、  
快感の急所でもあるのよ……。愛撫される時だけじゃなく、いじめられる時もね……」  
「そ、それはどういう……? あああ……うぅ!!」  
 
話している間も電気アンマは一度たりとも休みはなかった。姫子はもう限界に達しようと  
している。千歌音はアルカイックな微笑を見せ、囁くように呟いた。  
「今にわかるわ、姫子……。でも、今日は快感でイカセテあげる。このまま昇り詰めなさい」  
「千歌音ちゃん? 千歌音ちゃん…! ああああ〜〜!!」  
姫子はそのまま絶頂に達し、意識を失った。その姫子を優しく引き寄せ、千歌音は  
優しくキスをした。冷たく死を思わせる氷のような微笑で……。  
 
「これがオロチのキスよ……姫子。まだまだ許してあげないから……」  
姫子はこの夜の事を一生忘れないだろう。快楽地獄とも呼ぶべき、千歌音との一夜を…。  
 
      *          *          *  
 
 
「クスクス、どうしたの、姫子。ぼ〜〜っとしちゃって?」  
「え…? あっ!」  
千歌音が妖しげな表情で忍び笑いしている。その表情を見て姫子は不思議な感覚に陥る。  
今の千歌音は、なんとなく、お風呂で初めて電気アンマされた時の千歌音に少し似て  
いるのだ。  
 
「ヤマタノオロチ……か」  
「え?」  
「ねえ、姫子。伝説ではオロチを退治するには必ず剣…それも神の御力を宿した剣が  
使われるけど、それはオロチが剣を苦手としているからなの。何故だかわかる?」  
「何故って……?」  
突然そんな話を振られても…と姫子は困惑する。ただ、あの時の電気アンマのきっかけが  
オロチの話だった事には気がついた。今の千歌音とオロチの間に何か関係があるというのか?  
「オロチには剣を持つ手がないからよ…。剣を持つ資格が最初からないの…」  
少し悲しげに俯く千歌音。何かに思いをはせている様だが…。  
「千歌音ちゃん?」  
姫子の問いかけに顔を上げる千歌音。もう一度にこりと微笑んだ。そして……。  
 
どすっ……!  
 
「……!? はぁう…!」  
千歌音が瞬時に姫子との間合いを詰めた、かと思うと、そのまま懐に潜り込み、拳を  
股間に打ち込んだ。姫子の無防備な裸の股間に千歌音の拳がめり込んでいる。  
 
「は……うう……!?」  
またしても股間への攻撃を受け、姫子は膝をつく。  
「自由にしていいって言ってるのに…やるの? やらないの?」  
その姫子の髪を掴み、顔を上げさせる千歌音。冷静でいようとしても、姫子が大事な所を  
押さえて苦しんでいる様子を見ると、つい、サディスティックな笑みがこぼれる。  
 
「ここって、効くでしょ? 私たち巫女は普通の女の子よりそこへの攻撃が効くのは知ってた?」  
「……え?」  
「ここは全ての気を受け入れる源……だから、私たちのここの感度はとても高いの……。  
その副作用として快感や苦痛を普通の女の子の何倍も感じちゃう…。お風呂で証明したよね?」  
「あ……う……」  
 
千歌音もあの時の事を覚えていたのだ。あの時、千歌音は姫子が泣き叫ぶまで電気アンマを  
続けた。いや、泣き叫んでもやめなかった。姫子が何度も失神して、その度に覚まさせられ、  
6度目の失神の時に白目をむいているのに気づき、漸くやめたのだ。  
 
乙羽に手伝わせて、何とか姫子を寝室に寝かせたが、その日は姫子をいじめる気持ちを  
押さえるのに苦労した。特に急所攻撃をしてやりたい誘惑を抑えるのに懸命だった。  
失神している姫子の股間を殴って起こそうと考えた時、懸命に堪え、ついには、姫子の股間の  
代わりに自分の股間を思いっきり殴って欲望を鎮めようとした。  
ずん……、と急所を打った時の独特の感覚。無論、痛い。しかし、それだけでない……。  
悲鳴をかみ殺し、内股になってぎゅっと股間を押さえ、姫子の横に倒れて悶える。  
まるで自慰をするかのように手をうごめかせながら……。  
 
(姫子も私に電気アンマしてくれればいいのに……)  
陽の巫女と月の巫女は表裏一体。表があって裏があるからこそ調和が取れるのだ。  
あの時や今の様に千歌音一人がいじめる側になっていては、千歌音の中に解放されずに  
淀んで凝り固まった『黒い気』が千歌音をより傾倒した倒錯の世界に導いてしまう。  
 
この『黒い気』がオロチの正体なのでは? と千歌音は思っている。これを鎮めるのには、  
オロチが望む行為……処女を苦痛と快感に悶えさせるしかない。今は自分の体で代用して  
押さえているが、いつまでこんなごまかしで持つのか…?  
 
(電気アンマから急所攻撃に……その次は、何をしてしまうかわからないよ、姫子……)  
 
千歌音の倒錯した思いはますます募って行くばかり……。今日の暴挙は本当に大神ソウマの  
事が原因だろうか? 確かに、きっかけにはなったが、その実、今となってはその男の事など  
どうでも良くなっていた。姫子と自分、姫子と大神ソウマ。この二つが同じ位相で比べられる  
ものではないのを千歌音は感じつつある。  
 
(共通しているのは……オロチの事。大神ソウマはオロチを押さえ込むことに成功し、  
私はそれを出来なかった。いえ……)  
自分は本気で自らの中に巣食うオロチを封じようとしたのだろうか? むしろ、その戒めを  
解こうとして、その爆発力を得るためにエネルギーを溜め込んでいるのではないか?  
そんな惧れを感じた時……。  
 
「ち……千歌音ちゃん……」  
姫子は何とか立てるぐらいまで回復したようだ。内股になりながらも懸命に立とうとする。  
その苦悶の姿を見て千歌音は逆に下腹部が疼いてたまらない。  
(もっと姫子を苦しませたい……女の子に、それも、その苦悶を余すところなく味わえる  
陽の巫女に生まれた事を後悔させてあげたい……)  
 
「なぁに、姫子……。もう許して欲しいの?」  
言葉では平静を装う千歌音だが…。  
「………」  
「……?」  
千歌音が驚いたことに、姫子は首を振ったのだ。常人の何倍も感度の高い股間の急所を  
打たれる苦痛……千歌音でも簡単には堪えられないだろうが、姫子はそれを耐え切った。  
その上、まだ屈しないつもりらしい。  
 
「流石は陽の巫女、と言ったところかしら。簡単には敵には屈さない…」  
「そ、そうじゃないの」  
千歌音の言葉を遮って何かを言いたそうな姫子。なぜか頬を上気させ、息が荒い。  
その表情は苦痛に悶えている、と言うより、快感を堪えきれない感じであるのだ。  
 
「姫子…?」  
「千歌音ちゃん……私おかしいかも……凄く痛くて辛いのに……なぜか感じちゃってる……」  
はぁ……はぁ……と、荒い吐息をつきながら姫子が股間を押さえている。  
いや、ただ押さえてるだけではない。なぜか、指先が蠢いている。  
 
「姫子、その指先……」  
「え…? あっ!」  
指摘されて我に返った姫子が真っ赤になり、股間から手を退ける。千歌音は唖然として  
その様子を見ていた。姫子の下半身はその部分だけでなく、既に太股もびっしょりと  
濡れていた。汗……もあるだろうが、しかし……。  
「千歌音ちゃん……これって、お風呂で言ってた事なの? 私だけが……女の子だけが  
感じちゃうあれって」  
泣きそうになりながら千歌音に問いかける姫子。  
(男の子とは違って女の子の急所は苦痛だけではないの)  
千歌音は自分が言った言葉を思い出す。  
 
「姫子だけじゃないかも……」  
「え?」  
「なんでも……ないわ」  
千歌音は自分の体の異変を感じていた。姫子のあの様子……。自分も間違いなくああなって  
しまうのだろう。もし、姫子が自分の股間を狙ってきたら……。いや、万が一、偶然に  
そこを打ってしまったら……。ゾクゾクと背筋が寒くなるほどの何かが千歌音の体を走り  
抜けたその時……。  
 
「さっきの約束どおりにするよ」  
姫子がボソリと呟いた。  
「え?」  
「千歌音ちゃんを自由にするの。私の思い通りに……」  
「ひ、姫子?」  
「大丈夫……」  
顔を上げた姫子はニッコリと微笑んでいた。しかし、千歌音はその笑顔にゾクッとする。  
その微笑みはおよそ姫子には似つかわしくない微笑だった。気高く、美しく、そして残酷な  
微笑み……。それは強者の、いや、陵辱者の微笑だと言ってもよかった。  
ついさっきまでの姫子とは違う? ブラウンの柔らかい髪、小作りの可愛い顔立ち、  
大きな瞳……全て同じはずなのだが。  
 
この笑顔……記憶にある。どこで…? いつ…? 瞬時に千歌音は記憶を探ったが、  
俄かには答えは出てこなかった。そして……。  
「気持ち良くしてあげるから……ね!」  
 
ずがっ☆!  
 
「……!! はううっ…!?」  
 
千歌音が気がついた時、姫子の脚がスラリと伸び、千歌音の裸の股間を蹴っていた。  
しっかりと爪先を伸ばした綺麗な蹴り……。足の甲が真下から千歌音の股間を捉えている。  
他人に無防備な女の子の急所を蹴られる……。千歌音には初の体験だった。  
 
「あ……ぐぁ……!」  
千歌音はさっきの姫子と同様に口をパクパクさせ、蹴られた股間を押さえてその場に  
しゃがみ込んだ。止め処もなく汗が全身から噴出して滴り落ち、震えが止まらない。  
姫子はそんな千歌音を悠然と見下ろしていた。さっきまでの姫子とは違う?  
姿かたちは何も変わらない。だが、地味ながら健気に自分を慕っていた姫子とは違う、  
と千歌音は感じていた。今の姫子は、堂々として、残酷で、サディスティックで……  
そして、神々しいまでに美しい……。  
 
「自由にしていいんでしょ、千歌音ちゃん?」  
姫子が妖しげに瞳を輝かせて千歌音を見つめる。  
「え…? あ……その……はうっ!?」  
答えに戸惑ってると姫子が後ろに回り、背後から抱かれた状態で拳を叩きつけるようにして  
千歌音の股間を打った。  
二度続けての急所攻撃に一瞬気が遠くなりかけるが、思い切り髪を引っ張られて倒され、  
背中を打つ。  
 
「ぐっ……! うっ……!!」  
ゴホッ! ゴホッ! と息がつまり咳き込む千歌音。姫子はそんな千歌音を正面から  
突き飛ばし、尻餅をつかせた。「あうっ!」っとお尻を石畳で打ち、苦悶する千歌音。  
「う…うう……。ど、どうしてこんな……」  
「だって、自由にしていいって言ったの、千歌音ちゃんだよ?」  
姫子が千歌音の両足を掴んで開き、その間に座り込んだ。電気アンマの体勢だ。  
 
「あ…。そ、それは……!」  
思わず股間を両手で守る千歌音だが、  
「隠さないで。アソコを守っちゃダメだよ。これから千歌音ちゃんにはたっぷりと  
電気アンマしてあげるんだから」  
「そんな…!」  
「自由にしていいって言ったでしょ? 私たちの間の約束は絶対なんだよ?」  
「絶対……」  
そう言われて、千歌音は股間を守っていた手を外す。そう、自分達の約束は絶対なのだ。  
前世から…いや、そのもっと前から……。  
 
「いい子ね、千歌音ちゃん」  
ニッコリと微笑む姫子。姫子が千歌音の優位に立つなんて、乙羽やクラスメート、  
学生達が聞いたら大いに驚くだろう。しかし、この光景を見てそれに違和感を感じる  
人間はそんなにいないかもしれない。今の姫子は……明らかにいつもの姫子と違う。  
 
「さっきはココを蹴られてどうだった?」  
姫子が千歌音の股間を突っつきながら意地悪に笑う。  
「どうって……それは……痛かったわ。……女の子の急所だもん……」  
「痛かっただけ?」  
「え? ええ……」  
「どうして返事が小さいの?」  
「それは……!」  
思わず、千歌音は姫子から目を逸らした。内心を見透かされる気がしたのだ。  
 
「女の子の急所……ね」  
「?」  
「それって、苦痛だけの事なのかな?」  
姫子が千歌音に問いかける。  
「……」  
千歌音は俯いてしまった。何故だか、今の姫子には見抜かれている。苦痛、だけでは  
ないのだ。それは自分でもわかっていた。確かに蹴られた時は痛くてのた打ち回って  
しまった。しかし、その後、股間を押さえていた手が……。  
 
「動いてたよね? 思わず、オナニーをしちゃったの?」  
「……! ち、ちが…!」  
姫子にズバリと指摘され、言葉に詰まる。  
「お風呂で言ってたじゃない? 女の子の急所は苦痛だけじゃないって。愛撫の時も、  
いじめられる時もって……千歌音ちゃんは月の巫女だものね。普通の女の子なんか比較に  
ならないほど濡れて……」  
「や、やめて!」  
姫子の執拗な追及に、千歌音は思わず悲鳴をあげてしまう。  
 
「『やめて』? 千歌音ちゃん、姫宮家のご当主様がそんな可愛らしい悲鳴をあげて  
いいの?」  
「あ……」  
サディスティックに微笑む姫子の言葉に千歌音はうなだれる。なにもこんな時に姫宮の  
事を持ち出さなくても……。少し恨めしげに姫子を見る。  
 
「なぁに? その反抗的な態度は……。思いっきり蹴るよ?」  
「……!? だ、だめっ!」  
姫子の脅しにあっさりと屈してしまう。つい今しがた、同じところを蹴られて殴られた  
のだ。この電気アンマの体勢から力一杯蹴られたりしたら、どうなってしまうかわからない。  
「折角優しい電気アンマにしてあげようとしている私の心遣いがわからないの、  
千歌音ちゃん?」  
「ご、ごめんなさい……姫子。いえ、姫子様……」  
「え?」  
姫子は一瞬、きょとんとし、そして笑い出した。いつもの明るい笑顔で。  
「アハハ…! 千歌音ちゃん、姫宮のご当主様が他の人を様付けで呼ぶなんて、変だよ…  
アハハハハ!」  
姫子の笑い顔に屈辱で真っ赤になる千歌音。姫子の言うとおりだった。急所蹴りが怖い  
からといって、自ら他人に媚びるなんて……何という生き恥を晒してしまったのか……。  
 
「そんな事じゃ、これから先不安だよ、千歌音ちゃん? いいよ。私が矯正してあげる。  
電気アンマの罰でね」  
「ひ、姫子! それは……。ああああ〜〜!?」  
姫子の電気アンマが一気に加速する。グリグリと千歌音の秘裂を踏みにじり、振動を  
送り込む。  
「姫子……だめ……はぁあう……!」  
千歌音とは違い、初めて攻撃するはずなのに、姫子の電気アンマはかなり上手だった。  
相手が姫子だから感じ方が大きい、と言うのを差し置いても、技術はかなり高い。  
特に緩急のつけ方が絶妙なのだ。  
 
「じっくり、いじめてあげるね、千歌音ちゃん……。前世の時みたいに……」  
「ひ、姫子!?」  
姫子は前世の事を覚えてるのだろうか? あの時は確か……。  
「うん、覚えてるよ……」  
姫子が優しげな微笑で千歌音を見る。  
「あの時の千歌音ちゃんは……小さくて可愛らしかったね」  
「姫子……ああん……」  
姫子の言葉に下半身の力が抜けていく。  
千歌音も覚えていた。姫子と自分の前世。あの時は、姫子がお姫様で自分は奴隷だった。  
そして、その時の姫子は千歌音がうっとりする美しい女性だった。日の本を照らす、  
天照大神の様に……。その憧れの姫に、前世の千歌音は毎日の様に電気アンマをされていた。  
そして、それは千歌音自身の最大の楽しみであった。  
 
「はぁ……はぁ……はぁ……。姫子……もう……」  
 
「いいの。私もさっき千歌音ちゃんに打たれて、しちゃったから……」  
「姫子……?」  
また何か急速に流れが変わっていくのを千歌音は感じていた。姫子の瞳の妖しい光が  
段々と失せていき、代わりにいつもの慈悲あふれる暖かい眼差しが戻ってきたのだ。  
 
「姫子……」  
思わず千歌音がほっと安堵の息をつく。姫子はいつもの姫子に戻っていた。  
「千歌音ちゃん……」  
同じく姫子も安堵の息をついていた。千歌音がいつもの千歌音に戻っていたからだ。  
少し違うのは、いつもは千歌音がする電気アンマの体勢が、今は姫子がしている事  
ぐらいか。  
 
「姫子、今何があったか、貴女は覚えてる?」  
電気アンマをされる体勢のまま、千歌音が姫子に聞く。  
「……。うん……」  
姫子は俯いて頷いた。  
「千歌音ちゃんの大事な所を蹴り上げて、拳で打って、髪を引っ張って引き倒して、  
思いっきり突き飛ばしてお尻を打たせたの……」  
「……」  
どうやら鮮明に覚えているようだ。その間、何者かに憑依されて意識を乗っ取られて  
いた、と言うわけでは無さそうだ。  
 
「全部覚えてるし……それに、さっきの事は私がしたいと思った事なの……、千歌音  
ちゃんをいじめて苦しみと快感の狭間で悶えさせたい、そう思ったの」  
姫子が告白する。だが、今の姫子は自分がそう思った事に戸惑いを隠せないようだ。  
「千歌音ちゃん、私……変になっちゃったのかな? おかしいよ、絶対…こんなの…  
千歌音ちゃんをいじめたいだなんて!」  
姫子がとうとう泣き出した。二人だけがいる社の石畳を月明かりだけが照らしている。  
「変じゃないよ、姫子」  
「……?」  
「私も……そうされたかったから。姫子にそうしたくてここに呼び出したのに、  
さっきは私がそうされたいと思ったの」  
千歌音は優しく姫子を見つめる。  
「千歌音ちゃん……」  
姫子は千歌音に覆いかぶさるように抱きついた。二人は抱擁を交わし、どちらから  
ともなく、口づけを求め、お互いの体をむさぼりあった。  
 
 
      *          *          *  
 
 
「ち、千歌音ちゃん……恥ずかしいよう。乙羽さんを呼んだ方が……」  
姫子が胸と股間を隠しながら恥ずかしそうに言う。それを見て千歌音はクスッと  
いたずらっぽく微笑む。  
「だって、乙羽には人払いを頼んだんだもの。彼女自身にも来ないようにって言って  
あるし……だからこのままお風呂まで歩くしかないのよ」  
「だって、だって……そこまで裸なんて、誰かに見られないかな?」  
「見られる可能性はあるわね。それは仕方ないわ」  
「そんなぁ〜〜! うう……こんな事だったら、破れててもいいから巫女服着てくれば  
良かったよう……クシュン!」  
「今更そんな事言っても……さあ、早くお風呂に入らないと二人とも風邪引いちゃう  
よ?」  
「う…うん……」  
 
月明かりに照らされ、二人の美少女の白い裸体が輝いている。大きな屋敷の広くて暗い  
庭での光景は、第三者がいれば、その目にはまさに幻想的に映っただろう。二人の  
少女は互いに手を繋いで庭を駆け抜け、暗闇の中に消えていった。  
 
 
      *          *          *  
 
 
「はぁ〜〜〜、きもちいい〜〜!」  
「温まるわね」  
姫子と千歌音は冷え切った体のまま湯殿に直行した。既に裸なので脱衣所は無用だ。  
暫くの間、二人は湯の中に体を浸し、その身を任せていた。  
 
「ねぇ、千歌音ちゃん……」  
姫子が目を閉じてリラックスしている千歌音に話しかける。  
「なぁに?」  
「さっきの儀式だけど……どうするの?」  
「どうするのって?」  
「その……私たち二人のうちの一人の純潔を奪うって話…」  
「ああ、あれね……」  
千歌音はゆっくりと目を開き、姫子を見た。  
「あの話は、もう、無しにしましょう。なんか、そんな気がなくなっちゃった……」  
 
「本当!? よかったぁ〜〜!」  
姫子が手を合わせて喜ぶ。そして千歌音に抱きついた。  
「一時はどうなるかと思ったよぉ……。じゃあ、もう千歌音ちゃんとお互いの大事な所を  
叩きあったりしないでも、いいんだね?」  
「あら? それはするわよ」  
「……はいっ!?」  
しれっと言う千歌音に姫子の笑顔が固まる。  
「ど、どうして…?」  
ささっ……と姫子は千歌音から距離をとり、胸と股間を手で守る仕草をする。  
その姿を見て面白そうに微笑む千歌音。  
 
「だって、言ったじゃない。女の子の急所は痛いだけじゃないって」  
「う……ま、またそんな事言って! 蹴られた時大変だったんだからね!」  
姫子も今度は抗議する。社の時に比べ、千歌音から険が取れて、随分と話しやすくなった。  
「あら、姫子も体験したじゃない。痛くて辛いのに感じちゃった…そう言ったのは姫子よ?」  
「う゛……」  
その事は如実に覚えていた。ただ、姫子には現実感が全く無かった。あれは社の霊気が  
見せた幻想とも思えるのだ。もしかしたら淫夢とも……。  
 
「それは違うよ、姫子」  
「千歌音ちゃん?」  
「あれは幻でも淫らな夢でもないの。私たちに現実に起こった事……。姫子だって、  
まだその名残、残ってるでしょ?」  
千歌音は立ち上がり、姫子にその姿を晒した。  
「ほら、私のココ……腫れてるでしょ? 姫子がやったのよ」  
「ち、千歌音ちゃん……」  
千歌音は姫子の顔の前に自分の股間を近づける。恥ずかしさに姫子は真っ赤になった。  
 
「でも、姫子はさっき舌で手当てしてくれたよね? 一生懸命に。だから痛みはあまり  
感じないわ」  
千歌音の頬も赤く染まる。姫子は自分のした淫らな行為を述べられ、更に赤くなった。  
「それよりも……体の芯が何か…変かも。姫子とまたあんなことしたい、って思うの」  
千歌音は姫子の前に座り、その頬に手を触れる。姫子はドキッとしながらも千歌音の瞳を  
見つめ返した。  
 
「千歌音ちゃん、それは私もだよ……」  
「そうなの? 私の一方的な愛じゃなくて?」  
「違うよ」  
姫子は断言し、再び千歌音に抱きついた。  
「私も千歌音ちゃんの事が大好き。千歌音ちゃんとなら、エッチな事、沢山したい……」  
姫子は白い肌が上気してピンク色になっている。お風呂の効果だけでは無さそうだ。  
「姫子……」  
千歌音も優しく姫子を抱きしめ、その柔らかな唇にキスをした。社でしたばかりだと  
いうのに、何度でも求め合ってしまう二人……。  
 
「だ、だからその……こ、股間攻撃はやめようよ。あんなに痛い事をしなくても私たち、  
愛していけると思うし……それに……」  
甘い蜜のような蕩けるキスから落ち着くと、姫子が遠慮がちに提案しようとするが……、  
「急所狙いはやめないわ。電気アンマも股間打ちもね」  
きっぱりと千歌音が言い切る。まるで拒否を受け付けない、強い口調で。姫子も  
こればかりはたじたじとなる。  
「『それに……』? それに、どうかしたの、姫子?」  
「う……、だからぁ……」  
姫子は困った表情で千歌音を見上げる。千歌音の表情は笑っていた。なんとなく、  
姫子には千歌音が自分を困らせるために股間の責めあいを譲らないのかとも思ってしまう。  
 
「あの感じちゃう感覚が慣れないのね?」  
「う……。うん……」  
決して慣れたいわけではないのだが、千歌音の口調は有無を言わせない力がある。  
「フフフ…姫子だけがそうされるんじゃないよ。私も姫子と同じ目に遭うんだから。  
それに、股間を責められる割合は姫子より私の方が多いし……」  
「そんな事言っても……。え? それはどういう意味…?」  
姫子はぐずぐずと拒否しようとしたが、千歌音の最後の言葉が気になった。千歌音の  
ほうが責められる割合が多い?  
 
「それは……。私の中の『オロチ』を鎮めるためなの」  
「『オロチ』を?」  
その話はさっき少し聞いた。千歌音の中にはオロチと呼ばれる黒い気溜りがある事、  
そのオロチを解放しなければ千歌音の心は蝕まれていく事、オロチは千歌音の肉体を  
痛めつけ、性感を強烈に刺激する事によって収まっていく事。  
 
そして……。  
 
「オロチは決して私の中から消えてなくならない……これは前世……いえ、私の輪廻の  
始まりから決まっている宿命」  
千歌音の瞳が虚空を見つめ、瞬く。  
「千歌音ちゃん?」  
「姫子、陽の巫女と月の巫女は表裏一体……。だけど、その関係は決して対等ではないの」  
「え……?」  
「陽は自らが光を放つ強きもの。そして、月は陽の光を受けて初めて輝く儚きもの。  
月は自らの力だけではその存在すら誰にも知られない……」  
「……」  
姫子は千歌音の表情を見つめる。儚い……と、千歌音は自分の事を表現した。今まで  
なら、その言葉を似合わないと思っただろうが、今の千歌音は、その言葉が似合う  
……ように見える。  
 
「陽の力だけが私の中のオロチを鎮めてくれるのよ、姫子」  
千歌音はにっこりと姫子を見る。それを見て姫子の胸は熱くなった。  
 
(なんだろう、この感覚……)  
 
姫子の胸の奥……いや、更にその奥からこみ上げてくる感情。  
それは、千歌音を『愛おしい』と感じる奔流のようなものだった。今の自分だけでない、  
もっとずっと前からの幾重にも折り込まれた光陰を経て、積み重なった気持ち……。  
 
(そうだ、私は……『千歌音』を愛していた……)  
 
柔らかな、無音の世界の光に吸い込まれる感覚。姫子は気を失い、そして、  
再び目覚めた。  
 
 
      *          *          *  
 
 
姫子は自分の姿が光り輝く美女に変わった事を感じていた。そして、彼女の前には、  
儚げで透き通るような肌で美しい黒髪の少女がいた。姫子の方が大柄の美女で、少女は  
姫子より小さく、年下に見える。髪も肩までの長さだ。  
 
(『千歌音』……)  
(『姫様』……)  
 
二人は何の躊躇いもなしに、そう呼び合い、抱きしめあった。熱い接吻を交わす。  
そして……。  
 
(あの……いつものをしてください……)  
(電気アンマね? どんなのをして欲しい? 気持ちがいいのを? それとも……)  
(少しだけ……痛くされるのが……いいです)  
(いいよ。フフフ……千歌音は痛くされるのが好きね。マゾなのかしら?)  
(……! そんな事……。恥ずかしいです……)  
 
姫子は消え入りそうな千歌音を優しく押し倒すと、その細い足をVの字に広げて  
両脇に抱えた。そして、右足を千歌音の股間に乗せる。  
 
(あ……!)  
 
小さく悲鳴を上げる千歌音。その様子を見ながらクスッと姫子が笑う。  
 
(可愛いわ、千歌音……。最初に痛くされたい? 気持ちよくされたい?)  
(さ、最初は……気持ちよくしてください……)  
恥ずかしそうに千歌音が目を逸らしたとたん、姫子は千歌音の股間を軽く蹴飛ばした。  
 
(はうっ…!? ……う……ひ、姫…さま…?)  
(……)  
 
黙ってにやりと笑う姫子。軽く、と言っても女の子の急所を蹴飛ばしたのだ。ただで  
済むわけが無い。千歌音は足をVの字に開かれたまま股間を押さえて悶えた。  
 
(お願いする時は目を逸らさずにって言ったでしょ? 忘れたの?)  
(ゴホッ…! げほっ…! は……はい、すみません……)  
 
姫子の指摘に慌てて謝る千歌音。その涙を滲ませた瞳に姫子はサディスティックな興奮が  
高まり、ゾクゾクする。  
 
(千歌音、あなたは私が憎くてあなたをこうして虐めていると思っているでしょうね?)  
(い…いいえ、そんな事は……)  
(では、どうしてあなたはこんな目に遭ってるの? 私のせい?)  
(いいえ! 違います。私のせいです…。私の中のオロチのせい……)  
(オロチ……ね。千歌音は嘘つきね)  
 
再び千歌音の股間を踏みしめる姫子。グリグリと全く容赦が無い電気アンマだ。  
 
(ああああ〜〜!! ひ、姫様……! お慈悲を! どうして私が嘘などを…!?)  
(あなたがマゾなのはオロチのせいなんかじゃないわ。あなた自身のせい。あなたの  
心は邪悪で、マゾで、底抜けに淫乱なの。それをオロチのせいにするなんてずるくない?)  
(そ、そんな! ……嘘です! 誤解です! 私は……あううっ!)  
 
千歌音が言い訳するたびに姫子の電気アンマは陰湿になっていく。最初に一度  
蹴飛ばした後、姫子はリズムを一定させず、強弱様々な電気アンマパターンを  
繰り出していった。姫と婢の立場の差、そして力の差もあいまり、千歌音には  
抵抗する術が全く無かった。苦痛と快楽の狭間を彷徨い続けらされるのだ。  
 
(もう……堪忍してください。姫様……千歌音は……これ以上されたら死んで  
しまいます……)  
 
苦悶に体を震わせながらさめざめと泣く千歌音。電気アンマの中途半端な感覚を続け  
られながら逝かされない切なさ。陵辱者の姫子にはわからない感覚を彼女に教えて  
やりたかった。そうすればここまで無慈悲な責めは続けないだろう。  
 
(じゃあ、千歌音は認める? 『私は自分の淫らな心をオロチのせいにして姫様の  
責めを心待ちにする卑怯で淫乱な女です』って)  
(そんな! ……あうう!?)  
 
姫子の陰湿な虐めに千歌音は抵抗しようとしたが、またしても電気アンマを繰り返され、  
悶えてしまう。既に電気アンマは一時間近く続けられていた。普通の女の子でも  
これだけされれば失神の救いが訪れると思われるが、姫子が意図的にそうさせない様に  
リズムを変えて新しい刺激を与え続けるので、千歌音には気絶の救いすらない。  
涙は枯れ果て、力は尽きて、いたぶられるだけの状態なのだ。  
 
(しかも月の巫女なんだから余計に悲劇よね……ねぇ、認めるつもりは無いの?)  
(う…うう……ううう……)  
 
千歌音は泣き出した。辛くて悲しくて切なくて……。どうして私だけがこんな目に……。  
何度もそう思った。何故か自分はここから抜け出せないのだろう、と一人の時は  
いつも思っていた。しかし……。  
 
(どうしたの、千歌音? 私の顔を見つめて?)  
 
姫子の顔を見て、全ての疑問は氷解する。  
ああ、そうなのだ。自分を苛む相手は自分の宿世の縁で結ばれた相手……。  
今の自分にも過去の自分にも未来の自分にも……自分にとって自分の命よりも  
大切で美しい姫様……。  
姫様がだからこそ自分はこの悦楽地獄から抜け出せないのだ……。  
 
(姫様……)  
(なぁに、千歌音?)  
(認めます……。私は自分の淫らな心をオロチのせいにして姫様の責めを心待ちにする  
卑怯で淫乱な女です……。ですから、姫様、この哀れな婢にどうかお慈悲を……)  
 
千歌音は姫子を真っ直ぐに見た。姫子を愛し、姫子のためだけに生まれてきた自分。  
それを証明するように、円らな瞳で、目を逸らさずに姫子だけを見た。  
 
(わかったわ、千歌音。ごめんね、意地悪して……。千歌音はいい子だよ。私の  
大事な、月の巫女……切っても切れない私の半身……)  
 
姫子は優しい電気アンマを続けた。ぶるぶるぶる……。千歌音の股間に優しい気持ちが  
伝わり、全身に広がっていく。  
 
(姫様、姫様……はぁああああああああ〜〜!!)  
 
千歌音の意識は飛び、そして、ぐったりと意識を失った。  
姫子は自らも息を弾ませながら、その様子を見ていたが、やがてたまらなくなった様に  
千歌音の小さな胸にむしゃぶりついた。  
 
(千歌音……。私の可愛い千歌音……。愛してる。あなたがいないと私は……)  
 
 
      *          *          *  
 
(……こ……姫子……)  
自分を呼ぶ声が聞こえる。誰だろう、私を呼ぶのは……私は『千歌音』を責め疲れて  
眠たいのに……。  
 
「姫子、起きて。……湯当たりするわよ?」  
千歌音の声が聞こえ、姫子は跳ね起きた。  
 
「あ……千歌音……。いえ、千歌音ちゃん!?」  
「千歌音ちゃん、じゃないわ、まったく……。どうしたの、急に? 昏睡するように  
眠っちゃって……」  
呆れたような、心配するような目で姫子を見つめる千歌音。  
「あ……ええっと……その……」  
姫子は戸惑うように目をパチクリさせていたが、状況を把握すると、困惑したように  
周囲を見渡し、そして千歌音を、見つめた。  
 
「なぁに? 私がどうかした?」  
千歌音が不審そうに姫子を見る。熱があるのか? と言わんばかりに姫子の額に  
手を当てる。  
「だ、大丈夫だよ、千歌音ちゃん。ちょっと眠かっただけ」  
自分でも良くわかってないがとりあえず誤魔化すように笑う姫子。  
千歌音はじっと姫子の様子を見ていたが、取り敢えずは置いておくように話題を  
切り替えた。  
「そろそろ出ましょう。このままじゃ二人とも湯当たりしちゃうから」  
「うん……」  
姫子は戸惑いながら、千歌音を見つめた。そして、さっきの夢?に現れた千歌音と  
比べていた。  
 
(同じかもしれない……。見掛けは違っても千歌音ちゃんは千歌音ちゃんだった……)  
そして自分もそうだった。残酷で無慈悲でサディスティックな姫……あの美しい姫は  
紛う事なき自分であった。千歌音に手を引かれながら、姫子はその背の月の紋章を  
見つめていた。  
 
 
      *          *          *  
 
 
「わはぁ〜! ふかふかで大きなベッド! ……う〜〜ん、気持ちいい〜〜!!」  
姫子は裸のまま、千歌音のベッドにダイビングする。姫宮家の当主の寝所らしく、  
その広さは4〜5人が寝ても余裕がありそうなぐらい、広い。  
姫子は無邪気にベッドで泳ぐ真似をしている。それを微笑ましげに見ている千歌音。  
 
「千歌音ちゃん、いつもここに寝てるの? いいなぁ〜」  
「あら? 姫子にだって同じぐらいのベッドを用意したのに、断ったじゃない?」  
「う……。だって、あの部屋はベッドだけじゃなくて全部が広すぎて……落ち着か  
なかったんだもん……」  
姫子はうつ伏せに大の字になって千歌音を横目で見る。その表情が千歌音には  
悩ましい。  
 
「姫子はそうやって私を誑かそうとするのね?」  
「…え?」  
「いいわ、罰を与えてあげる。覚悟しなさい」  
「ち、千歌音ちゃん、な、何を一人で話を進めて……ひゃ!? きゃああん!」  
うつ伏せの姫子の足下に素早く千歌音も回りこむと、その大の字に広げられた足首を  
掴んで、電気アンマを掛ける。ぐりぐりぐりぐり……。  
 
「千歌音ちゃん! ずるい〜〜! 不意打ちだよぅ〜〜!!」  
「何言ってるの、悪いのは姫子なんだからね?」  
「ど、どうして私が……ひゃああん!?」  
姫子は背を海老の様に反らせて仰け反る。  
「今、私を誘惑したじゃない。悩ましげな瞳で」  
「そ、そんなぁ〜〜!? チラッと見ただけなのにぃ〜〜〜!! はうぅ!?」  
うつ伏せ状態なので性器は踵で、お尻を足先の方で責める格好になる。この状態では  
相手の足を掴んで抵抗する事も出来ず、自由にされ放題だ。  
 
「はぁ……はぁ……だめだよぉ、千歌音ちゃん……お風呂入ったばかりなのに…」  
「入ったばかりなのに、何なの?」  
「え゛…? そ、それは…」  
「まさか、またお風呂に入らなきゃいけない状態になったの……ここ?」  
「ひゃああん〜〜!! だ、だめだったらぁ〜〜!」  
千歌音は意地悪く、姫子の急所を執拗に責める。大好きな千歌音にこれをされると  
姫子はたまらない。シーツのその部分は既に濡れそぼっている……。  
 
「いやらしい姫子……。私の寝る所にこんなエッチな模様を描くなんて……」  
「そんな…!! ち、千歌音ちゃんがこんな事するから……あああ〜〜!!」  
「イきそうなのね? いいよ、姫子……イっちゃいなさい」  
「だめ……! だめだったらぁ……。あああああああ〜〜〜!!」  
何の抵抗が出来ようか。姫子はそのまま千歌音の思うままに昇天させられた……。  
 
 
      *          *          *  
 
 
「千歌音ちゃん! 酷いよ、いきなりなんて!」  
ぷんぷん、っと怒っているのは姫子。勿論本気ではない。千歌音も笑っている。  
だけど、自分が千歌音に夢中なのをいい事に、おもちゃにされるのは、決して  
イヤではないが、なんとなく、拗ねてみたくなる。更に腹立だしく思うのは……。  
 
「千歌音ちゃん、私にこういう事をしても私が本気で怒る事はないって確信してる  
でしょ?」  
ぷんすか膨れながら千歌音を見る姫子。  
「クスクス……さあ? どうかしらね……」  
思わせぶりに笑う千歌音。  
「それにエッチなんだから……。そうだ……」  
突然何かを思いついたように姫子が千歌音を見てにんまりとする。  
「なぁに、姫子?」  
楽しそうに千歌音が姫子を見つめかえす。  
 
(う……。この表情も……いい)  
と心の中で思いながら、首を振った。素敵な表情に負けて千歌音に主導権を握らせては  
いけない。  
「千歌音ちゃんって……実は、自分自身がすんごくエッチなんだよね? オロチの  
せいにしてるけど、ホントは違うんでしょ?」  
にやっと姫子が意地悪そうに笑う。しかし、千歌音はキョトンとしただけだ。  
「そうよ。それがどうかしたの?」  
「あ、あれれ?」  
 
首を傾げて困る姫子。前世では千歌音はこの言葉にショックを受けて姫子の思惑通りに  
なったのに、今は平然と済ましている。  
「あ、あの…千歌音ちゃん。私、千歌音ちゃんの事、すんごくエッチな子だって  
言ったんだよ?」  
「そうね。……認めるわ。私は淫らな女の子よ」  
「み、淫らって……。あの、だから、その……は、恥ずかしいでしょ? 自分の本質を  
見抜かれて……」  
「姫子になら見抜かれてもいいよ。どの道、自分で言うつもりだったし」  
姫子の追及にも笑顔で受け答えする千歌音。すぐに責めネタなどは尽きて、う〜〜ん……  
と、唸ってしまう姫子。  
 
「クスクスクス……」  
「千歌音ちゃん?」  
「アハハハハ! 姫子って面白い子ね。『現世の』姫子は特に……」  
「千歌音ちゃん! 知ってたの!?」  
とうとう笑い転げる千歌音の言葉を聞いて驚く姫子。千歌音は自分が見た映像を見た事が  
あるのだろうか?  
「ええ、知ってたわ」  
ひとしきり笑い転げると千歌音ははっきりと言った。  
「『姫様』、お慕い申しております……」  
冗談っぽく千歌音は姫子に忠誠を誓うようにその手にキスをした。  
 
「もう……人が悪いんだから……」  
姫子が再び拗ねる。  
「前世の千歌音ちゃんはあんなに可愛らしかったのに……」  
「……現世の私は、可愛気がない?」  
面白そうに千歌音が姫子を見る。  
「そ、そういう意味じゃなくて……その……」  
姫子が焦る。現世の姫子は全く自分のペースには持っていけない。  
「いいのよ、姫子。姫子だって、あの『姫様』とは随分違うんだしね」  
クスクスと忍び笑いをする千歌音。姫子は真っ赤になった。確かに前世とのギャップは  
姫子の方も相当大きい。  
 
「現世の私は現世の姫子が一番好きよ。……姫子は違うの?」  
優しさあふれる笑顔で千歌音は姫子に問いかけた。その表情を見て姫子はたまらなくなり、  
千歌音に抱きついた。  
「私も……千歌音ちゃんが好き。現世の私は現世の千歌音ちゃんが好きなの……」  
二人は熱い抱擁を交わし、蜜のように甘く蕩けるキスに耽った……。  
 
 
      *          *          *  
 
 
「前世と現世って、私たちの立場は入れ替わったのかな?」  
「どういう事?」  
「だって、前世の私はあんな……その、ゴージャスな美人だったのに、今の私は……」  
「そうね……。前世の私は冴えない女の子だったもんね」  
「そ、そんな事無いよ! とっても可愛かったよ、前世の千歌音ちゃんは」  
「現世の姫子だって、私は綺麗な子だって思うけど?」  
「そ…それは…。千歌音ちゃんの買いかぶりすぎだよ」  
真っ赤になる姫子だが、千歌音の表情は結構真顔だった。  
 
「そ、その……顔とか体つきだけじゃなく、その……お互いの立場とか。性格とか……。  
前世は私が主で、現世はその反対で……」  
「違うわ」  
きっぱりと千歌音は否定した。  
「千歌音ちゃん?」  
「前にも言ったけど、陽の巫女と月の巫女は表裏一体だけど対等ではないの。月の巫女は  
ただ、陽の巫女に寄り添いつき従うだけ……陽の巫女は一人でも生きていけるけど、  
月の巫女は陽の巫女に捨てられたら、生きていけない……オロチに食われるだけよ」  
「……で、でも……」  
真剣な表情で語り続ける千歌音を姫子は当惑して見つめる。私が千歌音ちゃんの主…?  
今の二人を見てそう感じるものは一人としていないだろう……、と思う。  
 
「だから姫子はもっと私を虐めてくれなきゃダメよ。でないと、私の魂はオロチに食われて  
しまう……かも?」  
悪戯っぽく笑うと、千歌音は姫子の前に座って足を開いた。  
「さぁ、姫子。私を虐めて……。姫子の電気アンマをたっぷりとして欲しいの」  
妖しげに頬を染めて姫子を見つめる。姫子はその瞳に吸い込まれるように動き、千歌音の  
両足首を掴んだ。  
 
「そうよ、姫子……私の大切な陽の巫女様……」  
千歌音は自分が知っていて姫子がまだ知らない前世の秘密に心を寄せていた。  
前世の姫子と千歌音の立場……姫子の夢の時こそ、あの立場であったが、あれより前、  
二人が始めてあった時はその立場は違っていたのだ。  
前世の姫子と前世の千歌音が会った時、姫の立場だったのは千歌音のほうだった。  
姫子は奴婢の生まれで、千歌音と始めてあって数年後、姫子の一族が反乱を起こし、  
千歌音の両親を殺して自分達が王の座に着いた。その時に姫子は千歌音を殺さず、自らの  
婢としたのだ。  
 
(それに比べれば今の立場など、何かのきっかけですぐに入れ替わる……)  
 
姫子の電気アンマに身を任せながら、千歌音はその思いに耽っていた。  
二人の輪廻転生は糾える縄ではなかった。時を同じくして生まれ、育ち、死に、また生まれる。  
何度も何度も繰り返しながら、永遠に……。  
 
 
 
(PART−1:おわり)  
 

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