セレナグゼナでガーヤ達一行と別れ、イザークとノリコは再び二人だけの旅を始めたのだった。  
互いの存在を受け入れ、共に運命に立ち向かうために。  
 
初めの何日かは追っ手を気にして緊張していたが、取り敢えず無事国境を越えることができた。  
一安心をした二人だが、それは新たな苦悩の始まりだった。  
 
 
「お客さん、新婚さんかい?……初々しくていいねぇ」  
宿に泊まるごとに言われるこの言葉に、何故か気まずくなり目を合わせられない。  
夫婦じゃないんですってむきになって否定することもないから笑って誤魔化してるけど、  
内心穏やかじゃなかった――まだ、キスしかしていないのだから。  
 
そんな事が何回か続き、とある宿場でのこと。  
夕食時にイザークがお酒を注文しようとしたらノリコが訊いた。  
「イザーク、いつもお酒飲んでるよね。美味しいの?」  
「おまえも飲んでみるか?」  
「えっ!……うん」  
一瞬、元の世界での法律を思い出し躊躇したけど、  
ここは別世界。好奇心が勝ってノリコは肯く。  
『そう言えば、お父さんたら酔っ払って直ぐ寝ちゃってたっけ。  
お酒、飲んだら今日はぐっすり眠れるかな』  
そんな事を考えているノリコだった。  
今までだってイザークと一緒に過ごしてきたのに、この所よく眠れない。  
いつでもどこでも熟睡が自慢?だっただけに戸惑っていたのだ。  
 
宿屋の主人が運んで来てくれたお酒は、赤くてとてもいい香りがした。  
恐る恐る口に含んでみる。  
ジュースとは違うけど口の中に香りが広がって何とも言えず美味しかった。  
「美味しい」  
初めてのアルコールを楽しむノリコをイザークは複雑な顔をして見つめている。  
食事が終わるころには、すっかり頬を染め上機嫌なノリコが出来上がっていた。  
椅子から立上ろうとすると少しふらつき、慌ててイザークが抱きとめた。  
「ありがとう…あれ?なんか変……」  
「少し飲みすぎたか?」  
「そうみたい。でも大丈夫」  
冷たいお水を飲むと、ノリコは少し落ち着いたようだ。  
イザークはノリコの腰に手を回し部屋へ戻る。  
その後ろ姿に他の宿泊客たちの冷やかしが飛び、更に顔を赤らめたノリコだった。  
 
部屋に戻り、ベットに腰を掛けたノリコをイザークは心配そうにのぞき込む。  
「気分はどうだ?」  
「本当にもう大丈夫」  
「……もう寝たほうがいい」  
頷くノリコを残しイザークは部屋を出る。  
着替える間、そうするのが日課になっていたので、  
ノリコはそそくさと寝間着に着替え、  
ベットに潜り込むとドアの向こうへ声を掛けた。  
「もういいよ」  
扉が開き、イザークが入ってくる。  
いつものことだけど目が合わせられない。  
 
とても大切だから余計にきっかけが見つけられず、  
余所余所しくなり、自分の中の感情を持て余して不機嫌になって  
…毎日疲れている二人だった。  
 
イザークはベットの脇に腰を下ろし  
「おやすみ」  
と、額にそっとキスをしノリコから離れようとした。  
いつもなら、そのまま朝まで気まずい時間が過ぎていくのだが、今日は違った。  
ノリコがイザークの袖を掴んでいたのだ。  
「……行かないで」  
そうイザークの耳には聞こえた。  
「……」  
ノリコの真意を探るように見つめる。  
酔いも後押しして、その目を逸らさずノリコは小さな声で呟く。  
「いいよ……」  
何がとは言わなくてもイザークには直ぐに伝わったようだ。  
戸惑いの表情でノリコの頬に手を伸ばし、  
そのまま長いような一瞬のような時間が流れる。  
「…ノリコ……」  
擦れた声で名を呼び、唇にキスを落とす。  
頬の手にノリコが手を添える。  
 
大きな目に見つめられイザークはもう一度ノリコの名を呼び  
今度は強く唇を押し付けた。  
髪を手で梳き上げ頭を包み込むと、今までの抑えていた思いが溢れ出る。  
激しい口付けに呼吸が苦しくなりノリコは喘ぐように唇を開く。  
僅かに開いた場所にイザークの舌が入り込む。  
舌が触れた途端、ノリコの体が緊張する。  
その些細な変化に気付きイザークは唇を離し、  
触れるか触れないかのキスを繰り返す。  
ゆっくりと右手が動き、耳朶を指先が撫で、そのまま首筋を伝う。  
ガラス細工を触るように指先に神経が集中しているようだ。  
寝間着の上から胸の膨らみをそっと包み込む。  
もう一度ノリコの体が強張るけれど、  
今度は上着の裾から手を滑り込ませて素肌に触れる。  
「……ノリコに触れたかった」  
耳元にそう囁くとノリコも恥ずかしそうに  
「私も……」  
と呟いた。  
 
 
そっとベットに座らせ服を脱がそうと手を掛けるが、  
ノリコは恥らって目をギュッと瞑っただけで抗うこと  
なく肌をさらした。  
イザークも手早く服を脱ぎ捨てノリコの横に座る。  
薄暗い部屋の中で浮かび上がる白い肌からイザークは目が離せない。  
「そんなに見ないで、恥ずかしいよぅ」  
視線を感じてノリコが恥らう。  
「……綺麗だ」  
その時イザークはノリコの肩口にある傷跡に気付き指先で触れる。  
白い森の怪物に襲われて怪我をしてところだった。  
「まだ痛むか?」  
ノリコは首を振り否定した。  
互いにそれは嘘だと判っているけど言葉にはしない。  
言葉すれば、また進めなくなってしまう――そう思っていた。  
 
そして二人は唇と唇を重ね、再びベットの上に倒れこむ。  
今度は舌を絡ませてもノリコは抗わず、稚拙な動きで答えた。  
イザークが肌に触れ、唇で愛撫する。  
耳朶に首筋に鎖骨に、そして乳房を包み込み、優しく力を加える。  
ゆっくり揉まれているとノリコは下腹部にムズムズとしてくるのを感じた。  
「あっ!」  
乳首を口に含まれるとノリコの口から声が漏れる。  
その声にイザークは己の欲求が高まるのを感じる。  
滅茶苦茶にしてしまいたくなる衝動を抑え、  
イザークは舌で乳首を舌で転がし舐め上げる。  
 
「…ぁ……っあ……はぁ…」  
声と共にノリコの足がモジモジと動き出す。  
それに気付きイザークは秘部に手を伸ばす。  
「あっ、いや……」  
「……触れたい」  
ノリコの抵抗が薄れる。  
 
足をゆっくり開かせ割れ目にそっと触れ撫でだした。  
クチュクチュ音がして、  
その音が自分の秘部から聞こえてくることにノリコは驚いた。  
イザークが湿った指で突起に触れるとビクンと大きくノリコの体が反応する。  
その突起を優しく指で撫で続けると、ノリコの喘ぎ声が絶え間なく聞こえてきた。  
「ぁ…ぁぁ……っぁ…あっ……ぁぁっ……はぁぁ……ん…」  
クチュクチュという音がいつしかグチュグチュと変わり、  
二人の肌もしっとりと湿ってきている。  
ノリコの疼きが高まり足に力が入り腰が浮き上がるけれど、  
初めての体験でその先へいくことができない。  
何かが足りないような疼きに耐えられなくなった頃。  
「…力を抜いて」  
そうイザークが言った。  
いきなり力を抜けと言われてもどうしていいのか解らない。  
疼きが体を支配して自分の意思とは無関係に彼方此方が反応しているのだから。  
イザークがノリコの足を抱え上げ、己の硬い分身を秘部に押し当てた。  
「ノリコ……」  
名前を呼ぶとノリコは頷く。  
 
分身が襞の中に押し入った途端  
「痛い!」  
と、ノリコが悲鳴を上げた。  
慌てて分身を抜き去ろうとするイザークの背中に手を回しノリコは、  
「動かないで……。少しだけ、このままでいて……そしたら…きっと、大丈夫だから……」  
と言うのだった。  
しかし、イザークを抱きしめる手が痛みの為か小刻みに震えている。  
愛しさが込み上げてイザークは体勢を変えないよう注意しながらノリコを抱き締めた。  
ぎゅっと閉じられた瞼から涙が零れるのに気づき、唇でそっと吸い取る。  
痛い思いをさせているのは解っているがイザークは止められないことも解っていた。  
「もう、大丈夫……」  
その想いが伝わったのかノリコが囁く。  
一瞬、躊躇したけれど激しく主張する分身に抗えなかった。  
もう一度ギュッとノリコを抱き締め、ノリコの手に指を絡めて動き出した。  
二人の息遣いが一際荒くなり、ノリコの喉から泣き声とも喘ぎ声とも取れる声が漏れ続ける。  
「…ぅっ…ぃ…ぁあっ……ぁっ……あぁ…ぃっ…ぁぁ……ぁあっ…」  
 
痛みだけだったものが、いつしか疼きへと変わり、  
それがまた別の感覚に変わっていくようにノリコには思えた。  
体がバラバラになりそうで怖くてイザークの手をギュッと握り締めると、  
イザークの動きがますます激しくなり  
「…うっ……」  
と、くぐもった声がしてイザークがノリコの上に覆い被さった。  
同時にノリコの体からも力が抜ける。  
 
しばらく、二人の荒い呼吸と鼓動だけが響いていたが、  
先に体を起こしたのはイザークだった。  
ぐったりと放心状態のノリコの額にキスをする。  
ノリコは薄っすらと瞼を開け恥ずかしいそうに微笑んだ。  
イザークも安心したように微笑み、再び唇を重ねた。  
 
その途端、  
「痛い!」とノリコが呻く。  
「大丈夫か?」  
慌てて体を離しイザークが尋ねると、ノリコは頷いた。  
イザークは腕枕をしてノリコの髪を優しく撫でる。  
「イザーク……好き…」  
初めての行為で疲労したのか気だるそうに目を閉じたままノリコが囁く。  
「好きだよ」  
イザークもそう応える。  
瞼にキスを落とすとノリコは眠りに落ちたようだった。  
その寝顔を見ながらイザークも目を閉じた。  
 
幾晩も眠れぬ夜を過ごした二人にようやく訪れた心地のよい眠りだった。  
 
 
次の日、日もかなり高くなってからノリコは目覚めた。  
スープのいい香りがしている。イザークが朝食を運んできてくれたようだ。  
目を開けるとイザークの顔があって、キスをされる。  
「…おはよう」  
まだ眠そうにノリコが言う。  
「おはよう。体はどうだ?」  
「えっ?」  
ノリコは体を起こそうとすると自分が裸体なのに気がつく。  
慌てて夜具に包まって起き上がったのだが、下腹部に違和感がある。  
その感覚に触発されて昨日の行為を思い出し赤面してしまう。  
「どうした?」  
「ううん、何でもない。少しだるいだけ」  
「出発は明日にしたから、今日はゆっくり寝ていろ」  
「うん」  
ノリコの脇にイザークが腰を落とす。  
 
「…ノリコ」  
名前を呼んで覆い被さってきた。  
「あっ……イザーク…朝だよ…宿の人たちに変に思われちゃう」  
「大丈夫だ、さっき釘を刺してきた」  
イザークはノリコをギュッと抱き締めた。  
「嫌か?」  
ノリコは、真っ赤な顔で俯いて小さく首を振り、  
そのままイザークに身を任せたのだった。  
二人の時間は、まだ始まったばかり…  
 
<終>  
 

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