「山伏ちゃんちに来るのも久しぶりだよー」  
 学校帰り、セーラー服姿の安部まりあは、鳥居くりこと共に、山伏実希代の住むアパー  
トの一室に寄っていた。  
「この前来たのは荷解きのときだったよねー。あ、今日はパパさんは?」  
「いつものように仕事中だよ」ちょっと拗ねたように山伏。「オーイ、鳥居、鍵かけたか?」  
(……鍵?ああ、女の子三人も無用心だからだねー)  
「かけてきたわよ……でも、山伏、本当にやるの?」  
「ハァ?いまさら何言ってんだよ」  
「私、あんまり乗り気じゃないし、まりあだって、ねぇ?」  
 突然自分の名前が出てきてまりあはきょとんとする。「え、一体、なんのことだよー?」  
「長い目で見ればまりあのためなんだしさ、鳥居だって何とかしないとダメだとは思って  
るんだろ」  
「まぁ……ね」  
(うう、話がさっぱり分からないよー)  
「だからといってこんな短絡的な方法っていうのも……」眉根を寄せて鳥居が考え込む。  
「ええい、いまさらんなふうに、うじうじ迷ったって仕方ないだろ!とりあえず、実行!!  
まりあ確保!」  
「え、え!?」  
 突然、後ろに回られた山伏から羽交い絞めにされるまりあ。  
「い、一体どういうことなんだよー??」  
「ふぅ」鳥居がため息をつくと、浮かない顔のまま、山伏にフルネルソンっぽく固められ  
ているまりあに近づく。  
「く、くりちゃん!?」  
「ごめんね、これも、まりあのためなの」  
 そういうと、セーラー服のスカーフに手をかけた。結び目が解かれ、赤い布切れがはら  
りと床に落ちていった。緩まった襟首から肩甲骨と白いブラが覗く。  
「わ、わわわ」顔を真っ赤にしてあわてるまりあ。「ど、どうして?」  
「まぁなんだ、ショック療法ってヤツだ」  
「山伏ちゃん……」  
「経験したことないから変に想像力が働いちまうんだ。だから、いっそのこと、もうそう  
いうことを実体験しちまえば、鼻血も出なくなるんじゃないかなーって」  
「そんな単純だよー……」  
 
 釈然としないまりあを他所に、鳥居はサイドジッパーに手をかける。半ばまでそれを引  
き上げると、セーラー服の上着をたくし上げた。透明感のある白い肌はかすかに汗ばみ、  
朱がさして、少女らしい曲線になまめかしさを付け加えている。  
 女の子同士、それに学校では着替え諸々で見せ合ったことのない相手ではないのだが、  
こんな風に強制的に脱がされるとなれば話は別で、まりあは頬を赤く染めて恥らう。身じ  
ろぎするものの、背後からの拘束は簡単に解けそうになかった。  
つー、  
 鳥居の指がわき腹にそって這う。  
「ひゃん?」突然の掻痒に似た触感に、まりあの口から情けない声が漏れる。  
 皮膚の薄い敏感な部分を、あやまたずなぞる人差し指。軌跡にしたがって、じんじんと  
ほの温かい感覚が残る。快感というには、微か過ぎる刺激だったが、この手のことに慣れ  
ていないまりあを戸惑わすには十分だった。  
(あれ……くりちゃんの指、なんか気持ちいいですよー……)  
「まりあ、綺麗……」陶酔したように呟いた鳥居が、背中に手を回してブラのホックを外す。  
歳にしては成長不足な双丘が現れた。先端のわざと桜色を避けるようにして、両の手のひ  
らを包み込むと、ふにふにとそのまま揉んでいく。  
「……ん、ムネ、だめだよぅ……」  
 口元に自分の手を当て、漏れる声を抑えるまりあ。目を伏せて、快楽を必死にこらえる  
表情を目にした鳥居の中には、むくむくといたずら心がわいてくる。  
「耐えてるまりあ……かわいい……」  
 とくん、とくん。している側、されている側、両方の心拍数が上がっていく。互いの鼓  
動が聞こえるほどの密着、けれど更なる密着を望むように、鳥居の顔がまりあに近づいて  
くる。  
「……んっ」  
 被せられる、唇。  
 固く閉じているまりあの唇をこじ開けるような、深い深い口づけ。呼吸を忘れたまりあ  
が棒立ちになる。押し付けると同時に、鳥居の指はまりあの乳首に触れる。敏感な先端を  
くりくりと弄られ、口をふさがれたまままりあが目を白黒させる。  
「……なんか、鳥居、エロすぎないか?」  
 他人事のように山伏の声。  
 
ちゅぷ。  
 長いキスが終わって二人の口が離される。とろんとした目のまりあ、体に力が入らない。  
背後から山伏に支えられてなかったら、おそらくぺたんと座り込んでしまっただろう。  
「はぅ……く、くりちゃん……もうやめてよー」  
「……ダメ」  
 密着したまま、今度は下半身に手を伸ばす。スカートのホックを外すと、重力にしたが  
って床へと落ちていく。  
「あうあう、くりちゃん、そっちは………」  
「……ダメ、なわけないよね」  
 つい、人差し指が下着に這わされる。秘部を覆っているその部分は、じゅわりと湿り気  
を帯びている。  
「こんなに、いっぱい濡らしてるのに」  
 下着越しに押すと、合わせからこぼれてきている愛液がショーツを濡らし、白い下着を  
透けさせ、かすかにその向こうの秘貝を覗かせていた。  
「あうー……」  
「こんなに期待しちゃって……えっちなまりあ」  
 ショーツをずらすと、中指をその部分に伸ばす――  
「だ、だめだよ……くりちゃん、そこは……」絶え絶えの声で、拒否の意をしめすまりあ。  
「……そんなこといっても……うっ」かわそうとした鳥居だったが、まりあの顔を見て動  
きが止まった。潤んだ瞳が懇願するようにこちらを見つめている。今にも涙があふれそう  
なその表情が、鳥居の胸を打つ。  
「な、鳥居、まりあも嫌がってるし、そろそろやめてやろう、な?」そんな様子に気づい  
た山伏が聞いてくる。けれど、  
「……ダメ」  
「え?」  
「ダメ」  
 毅然として言い切る鳥居、そして下着の奥にもぐりこまされる指。  
「はぅ!!」  
 侵入まではしない。クレヴァスの部分をなぞるように鳥居の指は蠢く。  
 未知の刺激に、まりあの顔が青ざめた。  
「いや……怖いよー……くりちゃん、止めてよ……」  
 
 そんなまりあの恐怖心を掻き立てるように、  
トン、トン、トン。  
 鳥居の指が入り口を軽く叩いた。まるで、ノックするように。  
「ひっ!」  
「これは、まりあのためなんだから……ねぇ、まりあ、今何されてるか説明してみて」  
「うぅ、言えないよ……恥ずかしくて」  
「そう」  
つぷん。中指が合わせをかき割って中へと侵入してくる。  
「だ、だめだよ!指入れちゃやだよー……」  
「そう。でも、まりあのためなんだよね……そうだ。今から私の言うことが鼻血出さずに  
言えたら、止めてあげる」  
「ホント?」  
「うん、もちろん」鳥居はまりあの耳の側に顔を近づけ、ひそっと小さく呟いた。  
 途端、まりあがさらに顔を真っ赤にする。  
「い、言えないよー……そんな恥ずかしいこと……」  
「そう。じゃあ」つぷん。さらに深く、中指が膣内に進攻しようとしてくる。  
「い、嫌っ、言うよ……言うから止めてよ、くりちゃん」  
まりあがかすかに息を呑む。「うう……この、いやらしい……いんらん……お…こに、じ  
ゅぷってゆびを……」  
「聞こえないわよ」  
 くぷぷぷ。今や中指は第一間接まで飲み込まれ、なおも奥へと進もうとしている。  
「はぅ、こ、このいやらしい……いんらんおま○こにゆびを入れて、それで……それで、  
じゅぷじゅぷってかきまわしてほしいんだよ……」  
「ふふふ、そんなこと言って……いやらしいのね、まりあ」  
「ち、ちが、くりちゃんに言わされて……」  
「でも、まりあがそこまでおねだりしたなら、叶えてあげないとね」  
「え?……止めてくれるって、んんん!!」  
 
 ぬぷぬぷぬぷ。浅い部分を出し入れされる指に、強制的に淫語を言わされていた羞恥と  
合わせて、望まざるとまりあは絶頂に押し上げられる。  
「ダメダメダメ……くぁ!!」  
 細く高い叫びとともに、ぐん、とまりあの背中が反った。ぴくん、ぴくんと微かに体を  
痙攣させて、絶頂の余韻を示している。  
「はぅ」  
 脱力したまりあの体が地面に下ろされる。  
「ははは……まぁ、その。良かったな。鼻血出ないで終わったし、な」上着を乱し、下は  
ショーツ一枚になりながら、足元で荒い息を整えているまりあを見て、想像以上の結果に、  
自身が提案したながらもちょいと引きつり気味の笑顔になりながら、山伏が鳥居に話しか  
ける。「……やりすぎた、気はするけど」  
「……まだ」  
「へ?」  
「まだこれから」独り言気味に呟いた鳥居が、自分からセーラー服のスカートに手をかける。  
「お、おい鳥居、そこまで……って、ええええええええ!!!」  
 すとん、落ちたスカートの下にあったものを見て、山伏が絶叫した。  
 それもそのはず……  
「ふふふ……」  
 ショーツを突き破らんばかりに自己主張しているのは、紛れも無く男性器。それも、反  
り返り、赤黒く、表面にはごつごつと血管の走る、凶暴に映るほどに立派なものだった。  
「お、オマ、それ……」いつの間に?いや、元からそうだった?いや、そんなはずは無い、  
プールや銭湯で嫌でも目に付くはずだ。  
「これ、ね」ショーツを下ろす、ぶるんと音がするぐらいに勢い良くペニスが現れる。  
「保健の黒野先生に,、この話したら、くれたの。ヌルヌル虫の亜種でね、こうやって寄生し  
て感覚器とつながるから、入れてる感覚も味わえるんだって……」  
 言いながら、いとおしそうに鳥居は擬似ペニスを撫でる。細い指先がグロテスクな肉棒  
を撫でるたび、びくんびくんと蠕動する。  
 
「ちなみに出して数時間すれば、自然と体から離れて後遺症もないそうよ……」  
「黒野先生……それ何に使う気だったんだ?」山伏の脳裏に、丸っこくってちっちゃいビ  
ジョンが浮かぶ。けど、頭を振ってそれを打ち消すと、「ってかなにその用意周到っぷり。  
さっきまで渋ってたのは何なのさ……」  
「さっきから、山伏、うるさい……」  
「そもそも、まりあが本気で嫌がったらやめようとか、言ってたのは鳥居のほうだったじ  
ゃんかよ」  
「……別に良いのよ?先に山伏のほうをヤっても……」  
 冗談、に思えない鳥居の真表情を見て、山伏が凍りつく。「あー、その、まー、まりあ!  
ガンバレ!!」  
(スマン!まりあ、アタシの初めては絶対パパにって決めてるから……)  
 ささっと部屋を後にする山伏、そして残された二人。  
「さてと」怒張を晒したまま、鳥居は寝転がるまりあに近づく。  
「い、嫌だよー……」目前にある凶悪な代物に、まりあの顔が青ざめる。「そんなの絶対、  
入らないよ、私、壊れちゃう……くりちゃん、ダメだよ……」  
 じわり、まりあの瞳から涙がこぼれる。  
「まりあ……」  
「このままじゃ私、くりちゃんのこと嫌いになっちゃうよ……」  
 迷い子猫のように潤ませた瞳を上目遣いで向けてくるまりあに、いくらか良心の呵責を  
覚えるのか、鳥居の動きが止まる。  
「ごめん、ごめんね……まりあ」  
「くりちゃん……」  
「まりあの気持ちも考えないで、私、勝手に……」  
「ううん、いいんだよ。そもそも私の鼻血治すためにやってくれたことなんだし」泣きな  
がら、笑顔。どこまでもけなげなまりあのそんな様子。でも、それが鳥居の心に火をつけ  
てしまう。  
 
「あっ、ダメ、もう限界……」  
 がば、突然うつぶせにまるまったまりあの足をつかむと、腰に引き付けてくる鳥居。  
「ちょ、くりちゃんダメ!!」  
「無理……耐えられない。まりあの泣き顔、可愛すぎて……」  
「ホントにダメだよー!!私、シスターなんだから!!」  
 じたばたと体を揺すって抵抗を試みるまりあ。けれど、さっきの絶頂の余韻が残ってい  
るせいか、体はまともに動かない。されるがままに下着は脱がされ、愛液てらてらの秘部  
と蟲ペニスの先端は、どんどん近づいてくる。  
「ふふふ……まりあの初めて……私が貰ってあげるね」悲鳴も拒否の声も、その耳に届い  
ていないのか。恍惚の表情で、自分の世界に酔いしれる鳥居。  
ぐに。  
 寄生ペニスの先端が、クレヴァスのあわせに当てられる。  
「ひっ、無理、無理だよー、入らない!」  
 確かに、未開のまりあの部分には、いまや完全に勃起し、女の腕くらいの太さは優にあ  
るそれは大きすぎる。およそ入るとは思えない代物なのだが、  
メリ、  
「く……あ……」  
 鳥居は躊躇せずに、突き入れていく。めちめちと肉が限界まで引き伸ばされていく音が  
聞こえてくるようだった。文字通り、身を裂かれる痛みに、まりあは口をぱくぱくと、声  
にならない悲鳴を上げる。  
「ふふふ、狭くて、熱くて、締め付けられてこっちも痛いくらいよ……」  
ぐちちち。  
 幸か不幸か、まりあの濡れやすい体質のせいで、潤滑の愛液だけはたっぷりあったので、  
それらが狭すぎる膣内への挿入におけるつっかかりを、かなり軽減していた。おかげで、  
寄生ペニスのカリ首は入り口を過ぎて、奥へと飲み込まれていた。一番太い部分の通過は  
終わった、けれど、残酷な儀式はまだ終わらない。鳥居には感じられないくらいの微弱な  
突っかかり、けれど、破られたまりあはおぼろげながら感じ取ることが出来た。  
 
―――処女の証明が、凶暴な肉塊によって無残に散らされたということを。  
 
じわり、  
 結合部から、破瓜の血が零れてくる。  
「う、うう……ひどいよー、私、聖職者なのに……」  
 泣きじゃくるまりあにかまわず鳥居は腰を押し進める。めちめちと未開地は無理やりに  
押し広げられ、触手ペニスの形に広がっていく。  
 そして、最奥。  
「……凄い、まりあ。こんなおっきいものを、とうとう飲み込んじゃったよ」  
 あまりの大きさに、おなかにうっすらと入れられたものが押し上げた部分が、ふくらみ  
になって浮き上がってきているくらいに見える。  
 ぬととととー、愛液と破瓜の血でマーブル色になったペニスがゆっくり引き抜かれていく。  
「抉ら……れ、なか、もってかれちゃうみたい……だ、よー」  
 カリ首が引っかき、膣壁を引っかく。そして入り口はめくれて無残に膣内の肉を晒してい  
る。引き抜かれる、その寸前に。  
ぱつん。  
「はきゅっ!」  
 一気に再び奥まで押し入れられる。勢いをつけて最奥が叩かれる。勢いをつけてボルチ  
オに肉槍がぶつかってくる。激痛、だが、それだけではない。脳幹を突き抜けるエクスタ  
シーの衝撃。  
(おかしい、よ……私、こんなにムリヤリされて、嫌なのに……なのに……)  
 きつく閉じた唇から、漏れ聞こえる呻き、だけど、その中に微かに熱っぽいものが混じ  
っていることを、鳥居は敏感に察すと、注挿のスピードをたくみにゆっくりにする。角度  
を微妙に変えながら、より感じる場所を探っていく。じらすように、まりあの胸に生まれ  
た官能の炎を育てるように。愛液と破瓜の血とカウパーの混ざった液体が、泡だって結合  
からコポコポと垂れ落ちてくる。  
「あ、うー、あ……」  
 まりあは目をとろんとさせ、なすがままになっていた。半開きの口元からは唾液が垂れ、  
熱っぽい吐息が微かに、もれ聞こえてくる。  
 
「ふふふ、こんな人外チ○ポにもう適合しちゃうなんて……やっぱりまりあはエッチな子ね」  
「ちが、わたし……うう、主よ許したまえ、だよー……」  
「いいのよ、まりあ……一緒に、堕ちましょう?」  
「くりちゃん……」  
 どちらからともなく、二人は唇を重ねる。口腔で舌を絡めて、ねとねとと互いの唾液を  
交換し合う。  
「……ん、ちゅぷ、は」  
 ちゅぴ、長いディープキスの後、離した二人の唇には涎の銀糸が伸びている。  
「ほら、説明してごらん?まりあのそこがどうなってるか……正直に言わないと、動いて  
あげないわよ……」  
「う……突いて、るんだよ……くりちゃんのチ○ポが、ずんずんって……私のオ○ンコの  
……子供袋を、ぐちゃぐちゃってかき混ぜて……」  
「いいよ……まりあ、その調子……」  
 ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ………恍惚して隠語を口走るまりあの様子が、鳥居の腰の動き  
を早めていく。  
「あうう!!……凄っ、チンチンが……奥を、子宮の入り口を叩いてるよーっ、犯されて  
……乱暴にされて、お腹をオチ〇ポ一杯にされて、気持ちいんだよ……もっと、もっと動  
いて、めちゃくちゃに、膣穴ぐずぐずになっちゃうくらいにっ!」  
「出しちゃうわよ?このまま」  
「いいよ!いいよ……くりちゃんのスペルマ、私の膣内にぶちまけてっ……はうん!!」  
 ひときわ大きくまりあが背を反らす。そしてそれに従って、膣壁が鳥居のモノを締めあ  
げる。射精欲求の限界を超え、寄生ペニスが勢い良く白濁を吐き出す。  
どくんどくん。  
 人外らしく度を越えて大量のものが注ぎ込まれ、とたんに溢れて結合部からこぼれてきた。  
ぬぽ。  
 引き抜かれるペニス。ほんの少し前まで、ひそやかに閉じていた合わせは、無残なくら  
いにぽっかりと開き、肉色の穴からは、ピンク色の混合液がごぽりごぽりと流れ、床に溜  
まりを作っていた……  
 
 
――後日。  
「で、鼻血は結局どうなったんだ?」  
「そういえば、最近減ったような気がするよー」  
「……まぁ、結果オーライだな。あ、試しにとりあえずさ、ここ読んでみてみ?」  
 山伏が差し出したのは、世界史の教科書。  
「……?」  
 そのページには、一行だけ赤マジックでラインが引かれている。  
 
『インカ帝国の歴史   
西暦1200年ごろ   
初代皇帝 マンコ・カパック、クスコをインカの都にし、インカ王朝が始まる』  
 
「……」  
 黙読、そして赤面するまりあ。だけど鼻血は……出ない。  
「おお、スゲー!鼻血治ったじゃん!!」喜ぶ山伏。  
 けれど、当人はそれどころでもない様子で、  
「うう……山伏ちゃん、ごめん、トイレだよ……」だだだ、脱兎のごとく教室を後にするまりあ。  
「……?何だあれ?」残された山伏は不思議そうな顔。  
「椅子よ、椅子」  
「あ?鳥居、椅子が、どうしたって?」  
 言われるままに山伏は、今までまりあが座っていた椅子に視線を向ける。  
「なんか、湿ってないか?」  
「……上は治まったんだけどね。今度は下のほうから」椅子をびっしりと濡らしていたのは、  
無色透明、匂いもない液体。  
「ダダ漏れ、か……」  
「難儀な子ね……」  
 
 

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