「ねぇ〜パパ〜はやく〜。」  
今日は愛と俺とで散歩、ママつまりテンコは家で掃除中  
家の中が埃っぽくなるのでしばらくブラブラしてきてと言われ、現在にいたる。  
「愛!あんまり走るな!転ぶぞ。」  
俺もすっかり父親みたいになってきたようだ。  
俺の前ではしゃぐ愛、外に出ることが嬉しいのか家にいるときよりも元気がいい  
 
今の愛は小学校低学年くらい、身長もそのくらい  
唐突に成長する愛の姿には慣れてきたとは言わないが成長するペースも少し落ち着いてきた。  
 
愛は目に映るものが珍しいのか、周りをキョロキョロしながら歩いている。  
微笑ましい光景かもしれないが、見てるこっちにとっては危なっかしくてしょうがない。  
そんな俺を尻目に愛は歩道と道路との路側帯に上る。  
「あ、愛!危ないから降りなさい!」  
思わず大きな声で言ってしまう。  
愛は振り返って俺を見る。そして、しばらくして何か思いついたよう。  
「パパ!ちょっと、ちょっと!」  
そう言って愛は俺に向かって手を招く。  
いったい何なんだ・・・と思いながら愛の目の前に歩いていく。  
「愛ね!すごいことに気がついたんだよ。」  
「何に気がついたんだ?愛?」  
「えーとねぇ・・・」  
そう言って愛は笑顔を見せる。この笑顔がとてもかわいいと思うのは親馬鹿だろうか。  
「いったい何なんだ?」  
「それはねぇ―――」  
 
 
すると突然、愛は顔を近づけてきた。  
 
 
俺は何も出来ない。  
 
柔らかくて。温かい。  
 
艶のある黒髪が見える。それとほんのり香るシャンプーの匂い。  
 
唇に触れる、何か。  
 
俺の思考は一旦停止。何も考えることは出来ない。  
 
 
唇が離れる。少しだけ物寂しさを感じる。  
俺の思考がまた動き出す。目の前には愛、ちょっとだけ顔が赤いようだ。  
今、起きたことは現実なのか、虚妄なのか、だけど唇に残る感覚はリアルだった。  
 
愛はまた笑う、まるで俺の思っていることを肯定するように。  
愛は笑う、俺に向かって。現実だよ、嘘じゃないよ。  
 
 
「ここに立つとこうやってパパとキスが出来るんだよ。」  
 
 
そう言って愛は俺に飛びつく、状況を整理してない俺は愛を抱きしめたまま歩道に倒れこむ。  
あぁなんて空は青いんだ。  
目に映る空、そして愛。  
愛はそのまま俺の唇を塞ぐ、いったい何で塞がれたかは・・・・・・聞かないで欲しい。  
 
 
ただその日は親になるって言うのも大変なんだと思い知らされた日だった。  
 
 
 
 
 
おしまい。  
 

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