空には星がキラキラと美しく輝いていた―――  
 
 
「さまちん…、ねぇさまちん…」  
「お前、だからその呼び方は……」  
テンコの呼びかけに顔を向ける佐間太郎、しかしスグに「オウッ」と顔を引きつらせる。  
まあそれも当然であろう。だって半笑いに開かれたテンコの口からは、涎が垂れていたんだから。  
大量に、ええそりゃもう大量に。  
 
「あーびっくりした…。それにしても寝言かよ…」  
やれやれフゥ…と言った感じで佐間太郎が息を吐き出す。  
そして、ムニャムニャとまだ何事かを言っているテンコの髪を、そっと撫で上げる。  
 
「しょうがないな…」  
フッと優しい微笑みを浮かべるそんな佐間太郎の上半身は、何故か裸。  
それどころか、隣でグフフエヘヘと怪しく笑いながら涎をすするテンコもまた……キャッ  
 
時は夜、場所はテンコの部屋、そして一つのベッドに仲良く入る佐間太郎とテンコ。  
コレはもう、二人が裸族でも無い限りアレですね。  
 
二人が一つになった訳。  
それは、ちょいと前、ほんの数時間前にさかのぼる―――  
 
 
神山佐間太郎は、神様の息子である。  
 
しかし神様の息子といっても大して人間と違いがあるわけでなく、今は夕ご飯を食べている。  
別に食べなくても死にはしないのだが、お腹も空くしヤッパ何か食べたいし。  
と、そんな訳で夕ご飯を食べているのだが、どうにも食卓の様子がいつもと違って静かである。  
だってそれは、今ご飯を食べているのは、佐間太郎にテンコ、そして妹のメメ、それに―――それだけだから。  
 
いつも騒がしい母親の席には、「パパさんの所にいってきマース!」と書かれた紙がペタリと張られているし、  
美佐姉ちゃんの席も、チョロ美…いや、久美子さんの席もカラッポであるのだ。  
 
「三人だけだとヤッパ静かねー。オッ、このトンカツ美味しいジャン!でもスグルの肉じゃ無いからね!アハハのハ」  
そんな状況にとりあえず何か言ってみたテンコだが、二人はピクリとも反応せずに黙々と箸を動かし続ける。  
「チッ…シカトかよ」  
ムッとしたものの、仕方なくテンコもまた黙ってオカズを口に運ぶ。  
とその時  
『お兄ちゃん』  
メメが佐間太郎の頭に通信して来た。  
 
『なんだよ、メメ?』  
『今夜テンコを抱く時は、お兄ちゃんが優しくリードしてあげるんだよ』  
口に含んでいたトンカツが、綺麗な放物線を描いてメメのお皿の横に飛んで行く。  
『トンカツ、飛んできた…』  
『……姉ちゃんだろ』  
『うん、言っとけって』  
 
そう言う事か。どうも姉ちゃんのヤツ、久美子さんを強引に連れて出て行くと思ったら…  
余計なお節介焼くんじゃねえよ、と心でコブシを握る佐間太郎。しかしそんな彼の顔を  
「佐間太郎、どうしたの?」  
と、いかにも不審そうな目でテンコが覗き込む。  
「な、何でもねーよ」  
「モグモグモグ…」  
 
(ちょ…何?自分から聞いといてモグモグって無視ですか!?コイツ、さっきの仕返しだな!?)  
悔しそうにテンコを見る佐間太郎。そんな視線に、茶碗で隠した口元をテンコがニヤリ。  
 
「ごちそうさま」  
そんなどうでもいい二人を尻目に、メメが箸を置いて、パタパタと自分の部屋に戻っていった。  
 
 
「家の中、静かだね」  
ベッドの上でちょこんと体育座りをしながら、ポツリとテンコが呟く。  
「ん、ああ…そうだな」  
その呟きに、これまたポツリと佐間太郎が返事を返す。  
そう、佐間太郎は何故かテンコの部屋に居た。まあ何故かって言っても、暇だったんで自分から来たんだけど。  
 
「こうやって二人で居るのって、何かスッゴイ久しぶりって感じじゃない?」  
今度は楽しそうにハッキリと言って、テンコが佐間太郎へと視線を向ける。  
「そうかな?…そうかもな。最近色々と忙しかったし」  
「そうだよ。だって私達色々と頑張っちゃってたもんね。それに……」  
再びテンコが声のトーンを落とす。  
「それに、佐間太郎の部屋にはいつも久美子さんが居るし…」  
少し寂しそうに話すテンコ。  
見慣れているはずのその横顔が、どの女神(身内だけど)よりも美しく、そして愛しい。  
 
―――今夜テンコを抱く時は、お兄ちゃんが優しくリードしてあげるんだよ  
佐間太郎の頭に、先程のメメの言葉が不意に甦る。  
(だから抱かないし!大体リードって何だよ!?)  
 
『9回表、佐間太郎vsテンコ 4対3 佐間太郎リード中』………………ぜってー違う。  
 
訳の分からない一人ボケ突っ込み。そんな心の内など当然知るはずもなく  
「ねえ、佐間太郎さぁ…」  
と、テンコが無邪気に話しかけてくる。しかし  
「キャア!?」  
突然バランスを崩したのか、声を上げながら佐間太郎に倒れ掛かって来た。  
 
「おい、テンコ!?」  
倒れるテンコを、佐間太郎がしっかりと抱きとめる。  
「お前、普通ベッドから転げ落ちないぞ」  
と言いながら、そっと両手の力を緩める。  
「あ、待って!」  
佐間太郎の体に、テンコがスッと手を回す。  
「しばらくこのままで…」  
 
髪から漂うシャンプーの香り、意外にも華奢なカラダ、そして何よりも伝わってくる温もり。  
ああ、何かもう、どうしようもない位に可愛くて、その全てが欲しくなって……  
 
―――優しくリードしてあげるんだよ  
再び浮かんで来るあの言葉。  
『9回裏、佐間太郎vsテンコ 4対5x』………………俺の負けか。  
 
「…なあテンコ」  
「何…?」  
「俺達付き合ってるんだよな?」  
「えぇ!?何ソレ!?佐間太郎が言ってきたんジャン!付き合おうって…」  
「良かった…俺、おまえの事好きだ」  
「何イキナリ。私だって…」  
「だから」  
そして二人の唇が重なり合う。  
「…ダメ?」  
 
「……いいよ」  
 
これから何が起きるのか、テンコにもぼんやりと理解できる。  
でもその時、不思議と頭から湯気は出なかった。  
ただその代わりに、心臓がありえない速度で鼓動していて、それが苦しくも有り心地良くも有った。  
 
「……っ」  
「…ん」  
長いキスを交わし終え、二人がゆっくりと唇を離す。  
「さまちん…」  
「それ、ダメ」  
「ゴメン…」  
謝るテンコ。そんなテンコのパジャマに佐間太郎が手をかける。  
 
「本当にいいのか?」  
「…バカ。そんな事今更聞かないでよ…」  
「ゴメン…」  
今度は佐間太郎が謝る番。そしてテンコの身を包んでいた衣服をそっと取り除いていく。  
「……っ」  
思わずハッと息を飲む。  
窓から入ってくる明かりに照らされたテンコのカラダは、どんな表現も陳腐になるくらいに美しい。  
 
「あの、あんまり見つめられると恥ずかしいっチャ…」  
恥ずかしそうに佐間太郎から視線を逸らすテンコ。しかしその語尾は何故かラムちゃん言葉。  
「悪い。何かその、綺麗過ぎたから…」  
「バカ」  
そんな佐間太郎の言葉に、テンコが嬉しそうにそう答える。  
 
「あの…じゃあいくぞ?」  
「何度も聞くんじゃねー」  
「はい…」  
そして佐間太郎が優しく、まるで触れたら崩れてしまう芸術品でも触るように優しく、テンコを愛撫していく。  
「ん…んんっ」  
ピクリとカラダを震わせるテンコ。  
その口から甘い吐息が漏れるのに、時間はそうかからなかった。  
 
 
一体どれ程経ったのか?  
長いようで短く、短いようで長い、ただされるがままに声を上げていた甘い時間。  
しかし、それは唐突に終わりを迎えた。…いや、次のもっと大切な時間が始まったのである。  
 
 
「…佐間太郎?」  
ピタリと止んだ甘美な刺激に、不安そうにテンコが佐間太郎へと視線を向ける。  
だがスグに何かを察したのか、コクリと小さく頷く。  
「おいで、佐間太郎…」  
その言葉を合図に、佐間太郎が己自身をテンコの可憐な場所にそっとあてがう。  
そしてゆっくりと腰を沈めて行く。  
 
「い、痛いよ、佐間タロー…」  
思わず身を硬くするテンコ。佐間太郎がビクリと腰を引きかける。  
が、そんな佐間太郎にテンコが静かに首を振り、佐間太郎も再び己をテンコに突き入れる。  
真っ白なシーツに赤い花が咲いて行く。  
 
「でも何か嬉しい…」  
薄らと瞳に涙を湛えてニッコリと微笑むテンコに、佐間太郎の胸がキュンと締め付けられる。  
「佐間太郎は神様で、私は天使。だからこんなの絶対にありえないと思ってた」  
「バッカ、そんなの関係あるかよ。俺は俺、テンコはテンコ。神様とか天使とか、そんなの関係ないって」  
「…ありがとう」  
お礼を言って、テンコが佐間太郎をギュウと強く抱きしめる。  
 
「サマタロー…」  
「テンコ…」  
 
そこから先は二人の世界。  
やがて、佐間太郎がテンコの中に己の思いの全てを注ぎ込む。  
そしてテンコもまた、それを優しく受け止める。  
 
窓の外では、星がキラキラと美しく輝いていた―――  
 
 
「さまちん…ムニャムニャムニャ」  
「しょうがないな…」  
フッと優しい微笑みを浮かべて、佐間太郎がテンコの髪を優しく撫で上げる。  
(ベッドから落ちる、か……親父?―――じゃないよな、ずっと通じないし)  
「ね、佐間太郎?」  
「オワッ!?な、なんだよ、お前起きてたのかよ…!?」  
驚く佐間太郎に「今起きたトコ」と可愛く答えて、テンコがツンと頬を突付く。  
「佐間太郎、だいすき」  
「俺だって―――」  
 
モチロン好きだよ、愛してる、もう離さなぜベイベー ―――そこまで行かないけど、そんな台詞が次々に頭に浮かんでは消えて行く。  
 
「俺だって、何?早く、早くふぅん!続きぷりーず!」  
目をキラキラと輝かせながら催促するテンコ。  
やべ、何かムカつく…と思いながらも、佐間太郎が続けるべき言葉を慎重に決定する。そして  
「俺だって―――」  
が、その時!!  
ああ、彼は見てしまったのです。シーツの隙間から見えた可憐な二つの膨らみを…。  
 
(おおう!?見えてる見えてるよ!てか、さっきも見たんだけど、あれはアレでこれはコレで…。ウム、絶景かな)  
神様の息子とは言え、そこは思春期の男の子。息子のムスコがどうにも元気になって行って、こりゃどうもスイマセン…  
 
「どうしたの、佐間太郎?」  
「あ…いや、おま…うひょー」  
「佐間太郎ってば?」  
一体どうしたの?と、首を傾げるテンコ。そして、佐間太郎の視線を辿って行く。すると―――  
 
ピュ――――――ッッッッ!!  
 
今まで見たことの無いような大量の蒸気。これはまずいですヨ。  
 
「ギャ―――ッッッッ!?佐間太郎のエッチィィィィィ!!」  
 
はいご臨終。  
そして夜が明けた。  
 
 
「ただいまー」  
ドアが開くなり、その声と共にスポポンと服が廊下へと飛んで行く。  
そしていつもの様に下着姿でズカズカと家に上がって来る美佐。その後ろから、グッタリとした久美子がヨロヨロと入ってくる。  
―――ドサッ…  
今、倒れた。  
 
『どう?上手くやったの?』  
そんな久美子を抱えながら、美佐がヒョッコリと顔を覗かせた佐間太郎にメッセージを送る。  
『う、うるせーな!!関係ないだろ!?』  
『あーら、その態度…。サマタローちゃんもやるじゃない』  
『いーから早く久美子さんを連れてってやれよ!』  
『それもそうね、バイバーイ』  
 
「ったく、何がバイバーイだよ。下着姿で歩きやがって、裸族かっつーの…」  
ハァとため息を吐く佐間太郎。しかしそれも束の間、黒い影が恐るべき速さで彼に飛び掛って来る。  
「いやーん、佐間太郎ちゃーん!ママさん寂しかったわぁ!佐間太郎ちゃんも寂しかったでしょ!?  
ホラ、ママのオ・ッ・パ・イ。いくらでも吸って良いのよ!?ホラッホラッ!!」  
「ムグッムググッ…」  
グイグイと佐間太郎にハハのチチを押し付ける母。次第に佐間太郎の意識が遠のいて―――  
 
「イヤァー!?佐間太郎ちゃんが白目剥きかけてるぅっ!誰、誰がやったの…  
まさかチョロ美?チョロ美なのね!?おのれ、チョロ美ィィィィ!!」  
「……って自分でやったんだろーが!」  
何とか最後の一歩手前で戻ってきた佐間太郎が、ゲホゲホと咳き込みながらママさんを突き放す。  
 
「大体、俺は吸わないから!」  
「ゲフンッ、佐間太郎ちゃんひどい!昨日まではあんなに喜んでママさんのオッパイ吸ってたのにぃ!」  
「吸ってねーっつーの!!」  
「そんなっ、ママさん悲しいっ!こうなったら朝ご飯までフテ寝する!」  
クネクネとワザとらしく体をくねらせながら去って行く母親。ちなみに後ろから見ると、お尻丸見え。  
「アハハ、ママさんも相変わらずね!てかあの格好、裸族じゃん」  
いつの間にか隣に来ていたテンコが、その様子を見て楽しそうに声を上げる。  
 
「相変わらずも何も、居なかったの夜だけじゃねえかよ…」  
「あれ?そうだっけ?まぁいいや、ウヒヒヒヒ!」  
「テンコ、その笑いなんだよ?ちょっとキモイぞ…」  
奇妙に笑うテンコと少し引き気味の佐間太郎。台所へと二人が仲良く戻って行く。  
 
 
いつもと変わらない家族、そしていつもと変わらない二人。  
ちょっと変わった夜が終わって、いつもと変わらない朝がまたやって来た。  
あ、だけど、一つだけ変わったモノがあったっけ。それはね―――  
 
「あ、そうだ!」  
テンコが佐間太郎に振り返る。  
「ねえ佐間太郎!」  
「あ?なんだよテンコ…!?」  
 
―――ちゅっ♪  
 
「ダイスキ!」  
 
二人の交わすキスの味。  
それが少し変わったのでした。  
 
 
〜オシマイ  
 

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