五月蝿い目覚ましの音で俺は目を覚ます。  
普段なら目覚ましのかわりにテンコか久美子さんが起こしに来るのだが、今日はなぜか目覚ましがセットしてあった。  
暫くボーっとしていたが、ふと気付く。  
 
・・・  
 
 
・・・なぜ?  
 
なぜこんな息苦しいんだ?それに凄い圧迫感を感じる。  
寝起きでボーっとしている頭を起こし、目を開けて周りを見る。  
 
 
・・・何か違う。  
ここはいつもの俺の部屋ではない。  
 
 
暫くすると頭が動き出したようで、ここが両親の寝室であることがわかった。  
しかし両親がいない。何故だろう?  
 
・・・それにしても息苦しい。  
その原因を探るべく、視線を元に戻したところで俺は“トンデモナイ”光景を目の当たりにする。  
 
なんと俺の目の前数ミリのところにテンコの顔がどアップで映っている。  
こんなのに気付かないとは、いままで相当寝ぼけていたんだろう。  
テンコもさっきの目覚ましで起きたようで、まだ状況を理解していないテンコのいつもとは違う顔が映っている。  
 
しかし何だ、この息苦しさは。  
 
そう思っているとふと、自分の唇になにか温もりを感じるのに気付いた。  
 
見るとそこにはテンコの唇があった。  
 
 
ああ、キスか。  
 
俺とテンコは今、キスをしているのか。  
 
 
・・・  
 
 
・・・?  
 
 
・・・!!!???  
 
 
俺とテンコは同時に事を理解し、いきなりの事に驚いて互いに退けぞろうとする・・・・・・が、出来なかった。  
俺とテンコは何故か互いを縄で縛られていた。  
手で解こうとするも、手には指のない手袋がはめられ、手首のところで縛られている。  
よくみると体も胸と腰と膝の三箇所を縄で縛り付けられている。  
頭も縛られている。耳の辺りに縄があるのが分かる。  
 
それだけならこれほど驚かないが(それでも相当驚くだろうが)、なんと俺とテンコは丁度向かい合う感じに縛られている・・・・・・その・・・唇を押し付けあうようになっているのだ・・・つまり・・・・・・強制的にキスをしているような格好なのだ。  
 
俺とテンコは神様候補と天使という特殊な存在な為、口を塞がれて息が出来なくても死ぬことはない(要は呼吸はしなくても大丈夫)し、普通物理的な痛みを感じることはない。だから体中を縛られても痛くはないし、健康に支障もない。  
しかし唇を塞がれていては当然ながらきちんとしゃべることが出来なくなる。  
 
「むおぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?(うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?)」  
 
「くぃぁっっ!!(きゃっっ!!)」  
 
「ふぁんふぁよふぉれふぁ!?(なんだよこれは!?)」  
 
「むぁ・・・むぁにしうぇんぬぉよ!(な・・・何してんのよ!)」  
 
 
・・・と第三者が見たらまず?がでるであろう会話を続けているうちに俺はあることを思いつく。  
 
 
(そうだ・・・心の声を使えばいいんだ!!)  
 
((おーい、テンコー))  
 
おお。よく伝わる。さすがだな。  
テンコもそれに気づき、心の声を使って返事をする。  
 
((何よ佐間太郎))  
 
テンコの声はちょっと怒ってるような驚いてるような喜んでるようなちょっといつもと違う返事をしてきた。まあ理由は言わなくても分かるだろう。  
 
((あ・・・その・・・これどうにかなんないのか?))  
((・・・わ・・わからないわよそんなこと!!))  
((まぁそうだろうけど・・・どうしたらいいと思う?))  
ちょっと間が空く。そしてテンコは今までの話の流れを無視するかのごとく突然こんなことを言ってくる。  
((・・・ねえ佐間太郎))  
((ん?何だ?))  
((私達って・・・・・・その・・・))  
((その?))  
((その・・・恋人だよね?))  
・・・!これはもしかするともしかしてしまう展開か!?もしかするのか!?  
俺は今、凄い動揺している。テンコからこんな風に切り出してくるとは思わなかったからだ。幸い今は音声のみでやり取りしているので動揺に気づかれることはない。・・・表情から読み取られたら終わりだけど。  
・・・と動揺がばれてないことを願いながら平静を装い、答える。  
((・・・うん。そうだけど?))  
このように言っているが、心臓は今までにないくらいにバクバクしている。  
((それで・・・私と佐間太郎は・・・体中・・・縄で縛られてて・・・・・・その・・・キスもしてるんだよね?))  
!!!!ココまでこられると俺も流石に動揺を隠せなくなる。  
 
((あ・・・あぁ。そ・・・そうだけどもどうかしたか?))  
 
するとテンコはニヤッとして  
 
((佐間太郎、いやらしいこと考えてるんでしょ?))  
 
と言う。ヤバイ。でも  
「はい。そうです。スイマセン。」とは流石に言えず、  
 
((い、いやそんなことないぞ!うん!!ないぞ!!))  
 
と返してみる。すると  
 
((じゃあなんでそんなに動揺してるのよ。どうせ考えてたんでしょ!いやらしいこと!!))  
 
といいながらただでさえくっついている体をさらに密着させてくる。この攻撃には耐えられず、  
 
((スマン))  
 
一言謝る。  
 
会話はそこで途切れ、  
 
((・・・とりあえず、ちょっとでいいから体を離してくれない?その・・・発狂しそうで))  
 
いくら神様の息子と言えどもその前に一男子高校生だ。発狂しない保証はない。  
テンコから返ってきた返事は案の定と言うかまぁ当たり前の反応で、  
 
((は…発狂!?な、何考えてるのよこのエロ太郎!!))  
 
そういうと同時にテンコから大量の湯気がふきだす。今まで気づかなかったが、もう何度も湯気を大量噴射しているようで部屋は湯気のおかげで湿度が上がり、とてもじめじめしている。・・・この感じがなんともいやらしいな。  
 
またテンコが話し始める(心の声だけど)。  
((・・・・・・でも・・・))  
 
((え?))  
 
((・・・よく考えたら、発狂しても大丈夫じゃん!))  
 
((・・・は?何言ってんのテンコ!?))  
 
((え?いや、恋人だからとかじゃなくてさ・・・・いや、それもあるけど))  
 
((あるのかよ!))  
 
と、ココで突っ込みを入れてみる。  
 
((もうっ!!話は最後まで聞く!))  
 
((はい・・・))  
 
((で、え〜っと・・・そうそう、もし仮に佐間太郎が発狂しちゃったとしても私たちは今互いを縄で縛られていて身動きが取れません。だから大丈夫なんです。))  
 
((分かった。分かったから離れてくれ。))  
 
((嫌です。発狂するまで離しません。佐間太郎はちゃーんと発狂するのです))  
 
((なんでだよ!!))  
 
((なんででもいいでしょ!!・・・取り合えす、発狂したらパパさんにいって、縄を解いてもらって、発狂された佐間太郎に襲われて・・・))  
 
((なんだそれ!ってかその前に何この急展開!!なんで俺が襲うんだ!!))  
 
((エエー!!佐間太郎ってば私の恋人でしょー!!いいじゃない恋人なんだしそれぐらい!))  
 
((いや関係ないし襲わないよ!))  
 
((ガーン!))  
 
((だからガーンじゃない!))  
 
((じゃあ襲ってくれる?))  
 
((何お願いしてんだよ!だから襲わないって!!))  
 
((なんで?))  
 
((いやなんでって聞かれても・・・))  
 
((嫌?))  
 
そういってテンコは悲しそうな目で見つめてくる。くそっ、かわいいじゃねぇか。  
理性がどんどんなくなっていくのが目に見えて分かる。  
 
((い・・・嫌じゃないけど・・・))  
 
((じゃあ、お 願 い ★))  
 
バーン。やられた。  
 
((・・・・・・仕方ねえな))  
 
とりあえず誰か呼ぼう。  
 
((おーい、親父ー))  
((・・・))  
((おーい、お袋ー))  
((・・・))  
おっかしいな。何で返事がないんだ?  
と、ここでテンコが何かを思い出したようだ。  
((あ、ごめん佐間太郎、パパさんとママさんは昨日の夜から旅行行くんだってさ))  
((そういうことははじめに言えよ!!))  
因みに親父もお袋も二人きりで旅行のときは心の声を遮断する。  
なんでも二人だけの時間を邪魔されたくないからだとか・・・全く何時までやってんだろうねぇ、あの二人は。  
じゃあ今家にいるのは・・・久美子さんとメメと姉ちゃんか。  
((久美子さーん))  
((はい!何ですか!))  
((悪いんだけど、今お袋の部屋いけない?))  
((あっ、スイマセン、今買い物の途中なんで))  
((あ、そうだゴメン。そういえば野菜が足りないんだった))  
ここでテンコが急に口を出す。全く、そういうことはさきに言えよな。今日2回目だぞ。  
((わっ、っテンコさん!そういえばテンコさん、一緒に来る予定だったのにどうしたんですか?部屋にもいなかったし・・・))  
((ああ、ゴメンゴメン、ちょっとハプニングと言うか事故があって・・・))  
((あ、久美子さん別にゆっくり買い物してていいから。別にそれほど急ぎの用でもないし))  
 
―――久美子推理モード―――  
なんだろう・・・神山君あの様子だと家にいそうだし・・・何かママさんの部屋であったのかな?ん?  
そういえばテンコさんも一緒にいそうな雰囲気だったな・・・あっ!!もしかして神山君ママさんの部屋でテンコさんに何かされていたり・・・  
あっ!わざわざ心の声を声だけで送ってくるなんてもしかしていやらしい事でもしてるのかしら・・・・・・神山君が・・・・・・・・・  
い、いや、違うわ!そ、そうよ!二人は縛られてるんだわ!強盗か何かに襲われて!!あれ?だったら何で強盗って言わなかったのかしら・・・  
もしかして相手は悪魔!?あり得るわ!!・・・でもそれにしてはのんびりしてた気がするわ・・・まあいいわ!急ぎましょう!!あの二人が何されてるかわからないし・・・  
―――久美子(暴走)推理モード終わり―――  
 
ところ変わって神山家のママさんの部屋。(今は何故か佐間太郎とテンコが縄で縛られてるけど)  
(親父もお袋も久美子さんも外出中か・・・メメは・・・そういえば昨日夜更かししてたしな・・・多分まだ寝てるだろうな・・・仕方ない。また弱みを握られるだろうけど姉ちゃん呼ぶか。なんとしてもこの状態で放棄はやだし。)  
 
((おーい、姉ちゃーん))  
((何ー?さまちんー))  
((いい加減その呼び方やめろよ・・・))  
((まあいいじゃん!んでなに?))  
((とりあえずお袋の部屋に来てくれない?))  
((なんでー面倒くさいー))  
((そういわずにお願い!))  
((・・・仕方ないなあかわいい弟のためだもんな!ハハハッ!!))  
((・・・あ、ありがとう姉ちゃん))  
 
暫くして・・・  
 
「おーい来てやったぞ佐間太郎」  
 
((あ、ありがと姉ちゃん))  
((何で心の声なんか使うの?話せばいいじゃん。))  
((それが今話せないんだよ))  
((・・・・・・フフーン、分かったよさまちん。今何してるか。若いモンはいいねえ。それで相手は誰・・・いや、聞くまでもないか!テンコちゃん?いるんでしょ?そこに))  
((み、美佐さん!?何で分かるんですか!?))  
((やっぱりねえ〜。二人とも朝からアツアツだねぇ〜))  
((なっ!!・・・もういいや。とりあえず早くしてくれよ))  
((分かった分かった・・・・・・あ、ちょっと待っててすぐ戻るから))  
((おい姉ちゃん!))  
 
全く何する気だよ・・・  
 
1分後・・・  
 
「おっまたせぇ〜さまちん」  
((どうしたんだ?))  
「へっへ〜ん、こんなこともあろうかと参考書持ってきました〜ついでに保健体育の重要な実技なのでメメにも来てもらいました〜」  
((!!!何いらないことしてんだよおねえちゃん!なあメメ?))  
「・・・・・・何おにいちゃん」  
((いやだったら戻っていいんだぞ?ほら、まだ朝早いし))  
「・・・・早いって、もう10時だけど」  
((うそっ!!・・・っていいから、まだメメには早いから戻りなさい!))  
「・・・・・・でもおねえちゃんが重要だって・・・」  
((いいから、いいから))  
「・・・・・見てく・・・」  
((・・・そうですか))  
「じゃあいくよ〜!愛の世界へLet’s Go!!」  
 
ガチャッ!  
 
そこには全身を縄で縛られた俺とテンコ。当然まだ唇も触れたままだ。ああ恥ずかしい。  
 
「!!」  
「う〜ん、ちょっとメメには刺激が強いかもね〜」  
((そんなこといってないで早く縄ほどいてくれよ!こっちだって恥ずかしいんだから!))  
「まあまあさまちんそんなこと言わずにちょっと待ってよ〜」  
 
そういうと姉ちゃんはとんでもないことをしだした。  
 
なんと何故か部屋にあったインスタントカメラで俺とテンコの様子を何枚も写  
し始めたのだ!!  
 
((((!!!!))))  
俺とテンコがびっくりしていると姉ちゃんは写すのを一旦やめ、  
「ん?どうしたのさまちん」  
なんて聞いてきた。わかってるくせに。  
 
((な、何やってんだよ姉ちゃん!))  
((な、何やってんですか美佐さん!))  
 
それを聞いて姉ちゃんはにやっと笑い、  
「ふ〜ん、そういうことね〜」  
 
といって僕たちを縛っている縄を解き始めた。  
ただ解いている間ずっとニヤニヤしているのが気になる。  
 
暫くして、縄は完全に解けた。  
 
俺は姉ちゃんに礼を言おうと思い、口をあけようとした。  
 
 
しかし!!  
 
 
おかしい。体が動かない。  
動かそうと思っても全く動かない。  
まるで仏像になったようだ。  
 
・・・・・・まずここは心の声でそのことを伝えてみよう。  
 
((・・・姉ちゃん))  
 
すると姉ちゃんはにやっと笑い、  
「あれ?どうしたのさまちん?」  
と今にも噴出しそうになっている。  
もしや・・・・・・  
 
((・・・あのさ、縄解けたのに体動かないんだけど))  
と、「のに」の部分をわざと強調して言う。(心の声だけど)  
それを聞くと姉ちゃんは  
「えっ!!それは大変じゃん!どうする?」  
といかにもわざとらしく言った。ってかどうするって俺に聞くな。  
ここでこぞ事件の真相がすべて分かった。親父は全く何考えてんだか。  
((親父の仕業だろ。で、どうせそれに姉ちゃんとメメとお袋も関係してるんだろ))  
 
「あ、ばれた?」  
姉ちゃんはいたずらが好きな餓鬼のような目つきで俺とテンコを見て言う。  
((「ばれた?」じゃないよ!どうせ親父とお袋も旅行とかテンコに言っておいて 
実は家にいるんだろ?))  
 
ガチャリ。  
 
急にドアの開く音がしてそこから親父とお袋が出てくる。  
「いや〜、ばれちゃったか〜」  
「あと少しでうまく行くとこだったのに〜」  
・・・聞いて呆れた。いったいこれのどこがうまくいっていたんだろうか。  
((あのな〜。いい加減子供みたいなことやめろよ))  
((パパさん、ママさん、それに美佐さんやメメちゃんまで!何やってんですか!))  
わっ!!それまで黙ったいたテンコがいきなり口を挟んできたので驚いた。  
((・・・テンコ、何で今まで黙ってたんだ?))  
((黙ってたも何も、佐間太郎と美佐さんでずっとしゃべってたから話せなかっ  
たんじゃない))  
いつもなら入ってくるのに、と思ったがこれを言うと後で何されるか分からな  
いのでとりあえずここは謝っておく。  
((あ・・・そうだったな、ゴメンゴメン))  
 
・・・  
 
あ、危ない。本題を忘れるところだった。  
気付くとメメはもう既に部屋を出ており、姉ちゃんが丁度部屋を出ようとしてる  
ところだった。  
((あ、姉ちゃん待てよ!))  
「あ、そういえばこの件、久美子さんも知ってるから」  
そう一言言うと俺の口止めも聞かずに部屋から出て行った。  
 
 
“「あ、そういえばこの件、久美子さんも知ってるから」”  
 
 
 
“「この件、久美子さんも知ってるから」”  
 
 
 
・・・・・・え?なんだって?  
久美子さんも知っている?  
ああ、あの人まで神山家の毒波に侵されてしまったのか。  
精神を著しくおかしくするあの毒波に。  
 
 
 
・・・・って何現実逃避してるんだ俺は。  
なに?久美子さんも知っているんだって?  
これって・・・・  
次の言葉が頭に浮かぶ前に、横で湯気が大量に出る音がする。  
あ、テンコも分かったみたいだな。  
 
((ねえ佐間太郎、これって・・・))  
((ああ、そうだ))  
((手長猿の手は、そこそこ長いと思いきや、実際は結構長いと・・・・・・))  
((その通りだ。実際は、結構長い・・・・・・))  
((驚くべきラテンアメリカということなのね))  
((驚くべきラテンアメリカということなのだ))  
例によって3度目の現実逃避なのである。  
しかもラテンアメリカの何に驚くというのか。  
ラテンアメリカは二人に対して何も驚くようなことはしていないのに。  
((・・・で、それはいいとして、何で久美子さんが知ってるのよ!))  
((知るか!何で俺が知ってるんだ!!横にいるだろう))  
((あ、ホントだ))  
そう。横にはその原因を知っていてこの事件を起こした元の人物がいるのであ  
る。親父だけど。  
((で、親父。何で久美子さんまで?))  
「いや〜、佐間太郎とテンコが付き合ってから結構日がたってるし、パパさん  
としてはそろそろ既成事実の一つや二つを作ってやろうかな〜と思って。で、  
ついでにそのことを久美子さんにも知らせておいたほうがいいかな〜って。」  
続けてお袋が言った。  
「ママさん、佐間太郎ちゃんを取られるのは悲しいけど相手がテンコちゃんだっ  
たら仕方ないしね〜。了解したってわけ!」  
 
・・・今、親父何気とんでもないこと言ったよな。  
既成・・・・・・・・事・・・・・・実・・・・だよな?  
((・・・なんとなく分かったけど、何で・・・既成・・・・・・事実!?))  
つつけてテンコも反対・・・するかと思ったら、既成事実という第一級のピンクフレー  
ズに反応したのか、俯いて湯気を峠を登っているの機関車の如く出しながら暫  
く考えた後に顔を上げ、溢れんばかりの笑顔で  
((既・・・成・・・・・・事実だよね?私と・・・佐間太郎・・・だよね?))  
うわ。なんか物凄く嫌な予感。  
((やったー!!佐間太郎、既成事実だって!!遂に既成事実が作れるよ!!本当の恋  
人になれるんだよ!うっひょー!!))  
・・・やっぱり。  
((あのなあ、既成事実って・・・・・・その・・・つまり・・・))  
((その?つまり?))  
((あ・・・え〜っと・・・・・・H・・・するって・・・事だぞ?))  
((いいじゃない!佐間太郎と!!H!!二人だけの夜よ!!まだ朝だけども!!))  
((よくない!!大体なんで今しなきゃいけないんだよ!!))  
するとテンコは急に悲しそうな口調で  
((ぇ・・・・・・い・・・・・・や?・・・・・・私と・・・H・・・するの・・・嫌なの?))  
当然、作り演技だ。しかも3流の。  
しかし流石に演技だとはいえ悲しそうなテンコは見てられない。なので  
((いや・・・・そんなことはない・・・・よ?・・・・その・・・した・・・い・・・よ))  
すると今度は先ほどの笑顔+α(うれしさがこみ上げ度)+β(恥すかしさ)(当者比)で、  
((うっひょー!!佐間太郎、いいって!!私と!!H!!!したいって!!自分から!!))  
といって大喜びだ。  
 
この様子を見ていた親父とお袋は微笑しながら、  
「いや〜、相変わらず二人とも本当に仲良いいな〜!!ラブラブ街道まっしぐらじ  
ゃないか!!よし!!パパさん、ガンバって軌跡使っちゃうぞ!初めての夜はレモン味だ  
ぞ!!」  
「佐間太郎ちゃん、テンコちゃん、もしわかんないことがあったらなんでも聞  
いてね!!ママはいつでも受付中だからね!!」  
 
なんか話がとんでもない方向にいっている気がする。これは・・・なかなかヤバイ  
気がする。理性が最大級の危険信号を、その他のすべてが最大級のピンク信号を  
出しまくっている。しかも初めての夜がレモン味って・・・進一といってること微妙  
に違うし。  
・・・えー、コホン!!まずは・・・とりあえず奇跡を起こさせないようにしないと。軌跡  
を使われたら何が起こるかわからん!!  
((親父!!お袋!!別に俺は・・・))  
といいかけたときには既に遅し。お袋は部屋から出ていて、親父はドアの隙間  
から  
「ちちんぷいぷいのぷい!はい、これで準備完了!!ドアを閉めたら何が起こっ  
たかわかるから、じゃ〜ね〜!!!」  
 
といって部屋を出て行った。  
 
軌跡を使われた・・・ドアが閉まったとき、いったい何が起こるんだろう。どうせ  
親父のことだし、とんでもないことだろうけど。  
 
ガチャン。  
 
ドアが閉まるとともに部屋の照明が消え、真っ暗になる。  
 
5秒ほどすると、急に体が妙な開放感に包まれる。  
 
そしてまた10秒ほどすると部屋の照明が付いた。  
それと同時に体が自由に動けるようになる。  
 
 
 
最初のほうはまぶしくて真っ白だったのが、だんだん慣れてきて回りの風景が  
見えてくる。  
 
 
 
 
―――――――!!!!  
 
そこで俺は予想をはるかに超えるとんでもないものを見た。  
 
なんと、目の前には裸のテンコ。  
俺はと思って見ると当然のように俺も裸。  
部屋には布団があるだけで、衣服代わりになるようなものはほかには何もない。  
ドアには鍵などなかったはずなのに何故か外側から閉める鍵が付いており、内  
側からは空けられない。  
 
・・・・・・どうしよう。  
 
助けを求めるようにしてテンコのほうをさりげなく向くと、テンコが裸だった  
ことを忘れていた俺はその大胆な姿にまたしても大ダメージを受ける。  
 
真っ白な素肌をさらけ出し、頭から湯気をぼんぼん出しながら布団で懸命に体  
を隠して真っ赤になって俯いてる姿を見て、俺の理性集団はその数を急激に減  
らすこととなる――――  
 

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