はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ  
 
「ふぅ。」  
ここまで来れば大丈夫・・・大丈夫だよね。  
ま、まさかこんな所までこないよね。  
ここまで来れば見つからないはず・・・  
たぶん・・・私がさいごの・・・ひとり、愛ちゃんは私の目の前で連れてかれた。  
このまま私はどうなっちゃうんだろ。落ち着いて、冷静になろう。  
私はテンコ、佐間太郎のお目付け役のてん、し・・・  
佐間太郎!そうだ。佐間太郎はどうなったの!?お願い!佐間太郎、無事でいて!  
 
私は佐間太郎の無事を祈っていると、ふと誰かがいるような気がした。  
いや、絶対にいる。布の擦り切れる音、荒い呼吸。  
今、この空間にだれかがいる。  
私は恐る恐るだれかがいるであろう辺りに周りに注意を払いつつ近づいていく  
「テンコか・・・?」  
突然、自分にかけられた声  
「え!?その声ってまさか、佐間太郎!良かった!!佐間太郎が無事で、私しんぱ、ぐぅ。」  
佐間太郎の手が私の口を塞ぐ  
「テンコ!静かにしろ。そんな大声だしたら奴等に見つかっちまう。」  
「ごめん・・・」  
「いや、俺こそ。そんなことより、テンコが無事でよかった。」  
「あれ?佐間太郎もひとりなの?他に無事な人は?」  
「俺以外は皆奴等に連れてかれた。進一は俺をかば、って・・・」  
そう言って佐間太郎は声を殺しながら泣いていた。  
「耳に・・・耳に残って、るんだ。最後に進一が、俺に向か、って言っ・・・たこと。進一の最後の、声が・・・」  
佐間太郎は大粒の涙を流していた。  
考えてみれば、佐間太郎は生まれた時から全てのモノを与えられて生きてきた。  
そして今日始めて自分の大切なモノを失うことを知ったのだから、私より悲しみは大きいだろう。  
そんな佐間太郎を見ていたら、私は気がつくと佐間太郎を抱きしめていた。  
「え?テンコ・・・」  
「あっ!ごめん。」  
「いや、いいんだ。しばらくこのままでいて欲しい。」  
「・・・うん。」  
そうやって何分たったのだろう。いつの間にか私達は抱きしめあっていた。  
 
「テンコ・・・キスして、いいか?」  
「え?そn」  
佐間太郎は私の答えを聞く前にキスをしてきた。  
チュ・・・クチュ、チュル・・・チュ、チュル  
脳内に卑猥な音が走り抜ける。  
五感の全てが佐間太郎の存在だけを感じている。  
「「・・・ぷはっ。はぁ、はぁ、はぁ」」  
二人の息遣いだけが辺りに響く  
「佐間太郎・・・」  
「テンコ・・・。まずい、テンコ、奴等が近づいて来てる。」  
「え?そんな・・・」  
「ここは俺がなんとかするから、お前は逃げろ!」  
「駄目!佐間太郎も逃げよう?」  
「このまま逃げても二人とも捕まるだけだ。せめて、お前だけでも・・・」  
そう言って佐間太郎は部屋を飛び出した。  
部屋を飛び出す佐間太郎に向かって叫んだ。  
「駄目、行かないで佐間太郎!お願い、佐間太郎・・・」  
 
 
 
「佐間太郎!」  
目の前に見えるのは天井、そしてエアコンの音  
「夢?」  
そうか、私は夢を見ていたんだ。夢でよかった。佐間太郎が無事でいるのだから  
安心していると、私はこの部屋の異変に気がついた。  
「この部屋、私の部屋じゃない。」  
周りを見渡すと左にベットがあり、エアコンが直っている?  
「これも夢なの?」  
少しずつ頭が冴えていき、暗闇にも目が慣れてきた。  
「すーすー」  
近くで寝息が聞こえる  
「寝息?」  
そうして目に映るのは佐間太郎の寝顔  
そしてテンコの記憶が紡がれる  
「そうだった。」  
私、今日佐間太郎の部屋に泊まったんだ。  
ベットに眠ってって、ベットから落ちてこうなったんだ。  
 
ボフッ。頭からでた大量の湯気が空中に消える。  
「夢のことを思い出したら、恥ずかしくなってきた。」  
顔が真っ赤に染まるテンコ  
「ねぇ、佐間太郎。今夜はこうして一緒に眠って良いよね。」  
テンコが佐間太郎の寝顔を見る  
「実はね、佐間太郎。私ね。佐間太郎に嘘をついてたんだ。  
ホントはね、美佐さんは泊まっても良いって言ってくれたんだ。  
でもね・・・・・・」  
「すーすー」  
「やっぱり・・・いいや、ありがとう佐間太郎。泊めてくれて。」  
「・・・すー・・・すー」  
「・・・佐間太郎、大きくなったよね。前までは私のほうが背が高かったのに、ちょっと悔しいかな。  
あのさぁ、このまま佐間太郎が立派な神様になったら私は佐間太郎にとって必要になるの?  
私は親の顔も知らないし、天国がどんな所だったかも知らない。  
私にとって佐間太郎のお目付け役が私の持っている唯一の繋がりなんだよ。」  
「・・・すーすー」  
「だから・・・もう少しだけ佐間太郎の傍に居てもいいよね。  
もう少しだけあなたの天使になっていいよね。」  
「・・・てん・・・・・・こ・・・」  
「え!?さ、佐間太郎起きてた?」  
「・・・・・・すーすー」  
「寝言か、いったいどんな夢見てるんだろ・・・」  
幸せそうな寝顔、楽しい夢でも見ているのかなぁ  
「・・・おやすみ。佐間太郎。」  
 
 
 
佐間太郎は私を家族だと言ってくれた。  
けど私はただの神様候補のお目付け役、それ以上でも以下でもない。  
私はいつか佐間太郎の前から去るときが来る。  
けどそれまでは佐間太郎との繋がりを大切にしたい。  
神様候補のお目付け役、それが唯一私が佐間太郎の傍にいることが出来る条件だから・・・  
 
大好きだよ。佐間太郎。  
 
 
 

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