「ルルちゃん。可愛かったね……」  
「ああ。」  
しばしの沈黙。  
「あっ!そういえば、どうすれば赤ちゃんは出来るの?  
 あの時は、はぐらかされたから今教えてよ!」  
「ブハッ!いやっ……それはだな……」  
ルルがいなっくなったばっかだってのに……  
テンコが佐間太郎の顔を覗く。  
佐間太郎は思った。何でこいつはこんなに純情なのだろう。  
「なに?知らないの?」  
「知ってます。でも言えません。」  
「あ゛ーっ!このテンコちゃんに隠し事するのね!  
 きーーーーっ!!!」  
夜だってのに、この家はいつもうるさい。とお隣さんが思っていたり…いなかったり…  
 
「テンコとりあえず黙ってくれ!そしたら教えるかも知れない。」  
「………」  
見事としか言いようがない黙りっぷりだ。  
これは言うしかないな……佐間太郎は確認する。  
「今から言うことは事実です。」  
コクン。  
「あと、俺のことを殴ったりしないな?」  
……コクン。  
「今遅くなかったか?」  
ブンブン。  
「じゃあ、言うぞ。ぇ…ちをするんだ。」  
テンコは両手を上にあげ、何を言ってるのかわかりませんよ!みたいなジェスチャーをしている。  
「…(深く深呼吸)エッチをするんだ。」  
ボフッ。バタン。  
「あっ…気絶した。」  
倒れたテンコの上を彼女が発した湯気が天井を目指しのぼっていく。  
「はぁ…」  
 
 
佐間太郎の大胆発言に思わずぶっ倒れたテンコは、ソファの上で目を覚ました。  
「んにゃ?」  
状況が把握できず、思わず自問自答。  
すいませんテンコさん、なぜ私はこんなところで寝ているのですか?  
あのね、テンコさん。それは佐間太郎改めエロ太郎の爆弾発言のせいです。  
ああ、そうなんですか。教えてくれてどうもありがとうございます。  
いえいえ、とんでもない。では。  
ぼふっ  
こうして佐間太郎とのやりとりを思い出して、また頭から湯気を放出。  
顔はトマトも裸足で逃げ出すほど真っ赤だ。  
「…………えっち………かぁ………」  
もじもじしながら何となく呟く。  
えっちをすると子供が生まれる。  
その理屈は理解した。  
でも何やらまだもやもやする。  
相変わらず子供は欲しい。欲しいのだ。  
何たってぷにぷにしてるのだ。きゃわいいのだ。欲しいに決まっている。  
そして産むなら佐間太郎の子供が欲しい。だって佐間太郎のこと好きだし。言わないけど。  
しかし、だからといってすぐ、佐間太郎とえっちしようという気にはならない。  
なるべく早く好きな人と結ばれて、子供を作りたいというのは、人類普遍の法則ではなかったか?  
「なんで?」  
 
今度は口に出して自問自答。  
実は裏で佐間太郎が嫌いとか、そういうんではない。  
高校生だからとか、そんなことは違う気がする。  
だとしたら残る理由は……。  
「…ママさんの攻撃が怖い?」  
ピンときた。  
…これだ!これしかない!  
彼女はなんたって迫ってくるのだ。しかも姿勢はあらぶる鷹のポーズなのだ。  
しかもコタツと同化したり、特殊能力も無限大。恐ろしい。  
ならばどうする。  
「………………」  
いかにすればママさんに秘密で、佐間太郎と子作りに励めるのか。  
「むむむ……」  
テンコの頭の中で、テンコ会議が始まった。  
説明しよう、テンコ会議とはテンコが頭の中で深く考えることである。  
夕飯の献立を決めるときなどによく使われるぞ!憶えておこう!  
「………ケケッ」  
そんなこんなで、どうやら名案が浮かんだようだ。  
しかしこの笑い方はいかがなものか。もうちょっと選択肢は無かったのだろうか。  
佐間太郎が見たら、子作りどころかUターンじゃないのか。  
「ケーッケッケッケ!」  
そんなこちらの心配をよそに、テンコの奇声はご近所中に響き渡っていた。  
もうちょっと、世間体とか考えようね、テンコさん。  
 
 
「パパさん!」  
「は、ハイ!なんでしょうかテンコさん!」  
いきなり書斎に飛び込んできたテンコに、パパさんは驚きのあまり丁寧語で答えてしまった。  
よく見るとテンコはわき腹に、紫色の顔をした佐間太郎の首をガッチリ抱えている。ご丁寧に  
泡まで吹いていて、明らかにヤバイ状態だ。  
テンコの顔に視線を戻すと、目が血走っているくせに半笑い、しかも断続的に湯気がプシュプシュ  
漏れているという、こっちも別の意味でヤバイ状態だった。  
「パパさん!」  
「ひぃ!」  
そんなヤバイ状態のテンコの顔が、ずいっと近寄ってくる。  
未知の恐怖に、パパさんも思わず女子高生みたいに悲鳴を上げてしまった。  
だってしょうがないじゃない。怖いものは怖いんだもの。  
何がテンコをこうさせたのだろうか。お小遣いとかアップして欲しかったんだろうか。  
その末の反逆だろうか。非行少女の誕生なのだろうか。それならもうちょっと順序を踏んでくれてもいいじゃない。  
ちっとくらい弁解させてくれてもいいじゃない。  
そしてやっぱり、自分はここで佐間太郎よろしく殺られるのだろうか。紫色の顔で泡ぶくぶくなんだろうか。  
それは嫌だ。苦しいのとか、痛いのは嫌だ。世の中そういう趣味の人もいるけれど、自分はそうではないのだ。  
時々チア服なんて着ちゃうけど、そういった人とは断じて違うのだ。  
「あ、あの、できるだけ優しく」  
おそらくそういう趣味の無いパパさんが、おびえながらテンコに可愛くお願いしようとしたその瞬間、  
「私と佐間太郎は今から修行の旅に出ます!ちっと箱根あたりの温泉まで!だから邪魔しないように!」  
明らかにイっているテンコが、これまでにないハイテンションでまくし立て始めた。どうやら自分を殺りに来たのではないらしい。  
「ハイ!わ、わかりました!邪魔しません!」  
テンコの鼻息に押されて、パパさん、返事に加えて復唱までやってしまった。  
 
そもそも本当に神様なんだろうか。このおっさん。威厳とか無いし。  
「それと、ママさんは私が言っても邪魔してくるだろうから、パパさん、何とかごまかしといてください!」  
「え、それはちょっとむ」  
パパさんは、なけなしの威厳をかけて、精一杯の反抗を試みてみる。  
「な・ん・と・か・し・と・い・て・く・だ・さ・い・ね!」  
が、目が血走っているテンコの前では、やっぱり無意味だった。  
「ハイ…」  
「声が小さい!」  
「ハイ!何とかします!だからぶたないで!ぶたないで!」  
こうして、そこはかとなく体育会系の匂いをさせながら、テンコは箱根あたりの温泉宿に  
佐間太郎を連れ出すことに成功したのだった…。  
 
ちなみにパパさんがテンコの圧力に屈した直後。  
「よ〜し!十一人くらい作ってサッカーチーム作っちゃうぞ〜!」  
(ぶくぶくぶく……)  
意気込むテンコのわき腹で、佐間太郎はあっちの世界に旅立ちかけていた…。  
 

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