「今日できるのはこんなところか…」
水霊術を使ったアポロに対して女神たちの呼びかけ。
体調こそ取り戻したものの結局得るところは少なく、
三日という刻限だけが迫りつつある。
「エルシィはみんなを送って行ってくれ」
「わかりました〜」
エルシィがミネルバを抱えて部屋を出ていく。
女神とはいえ見た目幼女には辛かったのだろう、
姉たちへの挨拶もそこそこに眠り眼で連れてかれていった。
(ボクもそろそろ眠りたいんだが…)
ウルカヌスが言う。
「一人ずつ家に帰すとなると結構時間がかかるであろうな」
今日の用事が終わったとはいえ、
女神たちの火種が取り除かれたわけではないのだ。
「まぁよいではありませんか。
桂木殿にはもっと結の素晴らしさを知ってもらわねば!」
ここぞとばかりにマルスが身を寄せてくる。
(ノーブラだったよな…)
ただでさえ薄着の寝巻だというのにこちらに抱きついてくるからたまらない。
心地よい圧力と体温。
腕を掴んで押し付けられているやわらかいものは多分…。
「これ、月夜の持ってないもので勝負するでない」
ウルカヌスも間をおかず抱きついてきた。
「人間はこうゆうふうにされるのが好きなのだろう?」
膝の上にちょこんと座り胸に顔を埋めてくる。
確かに月夜の小さな体でなければできないことだ。
顔をしっかり隠してしまったのは…本人自身は恥ずかしいのだろうか。
「二人ともいい加減にしてください!」
大きくはないがしっかりとした声で叱責するのはもちろんディアナ。
顔を真っ赤にして睨む相手はなぜか桂馬。
(待てよ…この反応は多分)
いやそれどころではないのだ。
ほんの数分前と状況は同じ。
(もう時間もないっていうのに…ん?)
女神の力を高めるには愛が必要だ。
(だったらあるじゃないか…手っ取り早い方法が!)
「おい、ウルカヌス」
「? なんじゃ?」
赤くなった頬は隠せないままに顔を上げるウルカヌス。
そこにすかさず、
「――!?」
キス。
空いているほうの手で頭を押さえて強引に引き寄せる。
技術も何も無いが無理やり舌を突っ込んで相手の舌と絡める。
突然のことでなされるがままのウルカヌス。
見ているまま言葉を失っているマルスとディアナ。
そう長い時間ではなかったが唇を離す。
ウルカヌスは半ば舌を突き出したまま荒い息を吐く。
みんなに聞こえるように言う。
「お前らの力が足りないっていうならこれしかない」
視線を向けられたマルスとディアナが身をすくませた。
「全員まとめて抱いてやる。
今夜は家には帰さないからな」
桂馬と女神たちの長い夜が始まる。
――というわけでもなく。
「ふざけるな!」
桂馬を押しのけようとするウルカヌス。
しかし悲しいかな月夜の非力さではじゃれてきているようにしか思えない。
あっさり桂馬に両腕を掴まれて防がれる。
「お主が愛を与えるのは月夜であって女神たちではない!」
だがまぁそう簡単に話が進むわけもない。
話が進まないならそれなりに動くだけだ。
「マルスはどうだ?」
「へ? いや、私はその…」
顔を赤らめ目をそらしたのはそう悪い反応ではない。
だがあまり芳しい返事でもない。
時に大胆な態度をとるかと思えば変なところで純情なものだ。
じゃあ最後の一人。
「ディアナも…ボクなんか相手じゃ嫌か?」
これは少し意地の悪い質問。
「そんなことはありません!
…あ、いえ、これはそういうことでは、なく」
顔を真っ赤にして俯く。
(何とも分かりやすいやつだよなぁ)
(む、ディアナの態度にはもっと早く気付いておくべきであった…)
ディアナはおそらく桂木が好きなのだろう。
マルスもこのまま押されれば流されてしまうだろう。
(私が拒むのは簡単だが…しかし)
この場で拒むということは――今日この場で月夜だけが抱かれないということだ。
確かに理不尽なことではあるが月夜の不利益だけは避けねばならない。
「ま、まずは宿主たちの相手をするべきであろう…。
体を借りているだけの私たちが決めていい問題ではない」
「じゃあ今すぐ月夜を起こしてくれるか?」
(できるわけがない!)
桂木が月夜を抱く――それ自体はなんらおかしなことではない。
本当は結婚していることが望ましいがこの年頃の愛し合う男女なら…まぁ仕方ないだろう。
そうではない、そうではなく…。
(月夜にこんな場所を見せられるものか…)
一つの部屋にいる男一人と女三人。
その女のうち二人は月夜が愛する男に抱かれようとしている。
月夜の受けるショックはどれほどだろうか。
こんな状況を認められるわけがない。
「待て。桂木。月夜と契った後なら私など好きにしていいから!
せめて、今夜はこれで…」
人間相手になどありえないであろう妥協だがそれ以上に今のこの空気はまずい。
口約束でもなんでもとにかくこの場を切り抜けなくては――という思いも空しく。
「今はとにかく時間が惜しいんだよ」
桂木は強引に顔を引き寄せ…。
さっきとは違い長く優しいキス。
何百倍も長い時間を生きていながらこういうことではなされるがままだ。
同時にスカートの方にも手が伸ばされ性器へ直接の愛撫が始まる。
形ばかりは防ごうとするが両腕に力は入らない。
引き抜かれる舌を無意識のうちに追ってしまう…。
「マルスも準備してくれ」
ずっと隣にいながら急に呼びかけられて驚くマルス。
手を掴まれたと思ったらそれは下の方へ伸びてゆき…。
(う…硬い)
ズボンの上からでもはっきり感じられるその硬さ。
知識としてそういうものだということくらい知ってはいたが…。
「胸が自慢なんだろ?」
(胸…?)
そう、確かに結の胸は大きいし…それは先ほど見せたとおりだ。
姉様の宿主は勿論だしおそらくディアナの宿主にも負けはしないが…。
「あの…それで、どうすれば?」
ここにいる姉妹の誰も恋愛経験などないのだ。
いきなり胸がどうこうと言われても困る。
「ん? じゃあとりあえず脱がしてくれ」
それならば簡単なことだ、幸い桂馬殿は寝巻で脱がしやすい。
少し気恥ずかしさもあるが腰のあたりに手をかけて引いていき――
(!?)
下着が露出したあたりで思わず手が止まる。
下着の形を変えながらあまりに強く存在を主張するモノ。
ズボンの上から触っただけで分かった気になっていたがこれはあまりに…。
「桂木様、続きは私がよろしいでしょうか?」
桂馬の指示を待てずにディアナは動く。
ここでの乱入は少しマナー違反な気もするが――、
そんなことよりも桂馬の…男性器を譲りたくはないのだ。
「待て、ディア…! いや…やはり任せる」
反射的に抗議しかけるマルスだが、結局いきなりなど荷が重かったのだ。
桂馬の前から半ば押しのけられる形だが仕方がない。
「脱がしますよ?」
躊躇なく…とはいかないが思い切って桂馬の下着をおろすディアナ。
桂馬の男性器が露わとなる。
(…あんなものが本当に入るのか?)
桂木殿がああ言った以上「抱く」とは当然そういう意味で…。
男女とはそういうものだそうが実物を目にしてみると心が揺らぐ。
想像していた時はその…もっとずっと小さいもののはずだったのに…。
(それにこの匂い…)
下着を下ろす――たったそれだけのことで部屋中に立ち込めた雄の匂い。
結が残念がっていたが桂木殿は今日欠席だった。
風邪ということは一日中布団の中だし、風呂にも入れないわけで…。
不思議と嫌な臭いでは無いのだがやはり抵抗が――、
「ディアナ!?」
(いつからこんな男性を好きになってしまったんでしょうか…)
今まで何度も想像し、時には天理には内緒に一人で致してしまったこともあった。
内緒にしていたはずなのに見透かされた気持ちとさっきの言葉。
目の前に桂馬の男性器を見せられて我慢などできるはずがなかった。
硬く屹立したそれを咥える。
「う…っ」
その時ばかりはウル姉様を攻めたてていた桂馬の動きも止まった。
だがそれすらも関係ないのだ。
ただ自分の快楽を求めて心行くままに味わう。
出っ張った部分についていた滓を舐めたり咽そうになるほど奥まで咥えこんだり…。
貞淑の女神などとは何の話であろうか淫乱そのものの姿で――、
「ディアナ、ストップ」
桂馬に制止された。
ふと、咥えたまま桂馬の顔を見てみる。
必死にいつもの表情を保とうとするが叶わない可愛い顔。
(これは…もっと攻めたくなりますね)
ふつふつと湧く感情に続けようとするのだが、
「エルシィに残りは送らなくていいって連絡してくれ」
…確かにやりすぎたのは分かるが明らかに遠ざけられている。
(これからだというのに…ひどい人です)
名残惜しさはあるが口を引き抜き立ち上がる。
「(ちゃんと満足させてくれるまで許しませんからね)」
普段はとても言わないことを気分に任せたまま小声で耳打ちして立ち去る。
失敗したかもしれない桂馬だった。