【月夜エンド】  
 
「ん……ん…っ!」  
 深淵な満月が照らす舞島学園校舎屋上の一角で、  
「けい、まぁっ!むぐぅ…!?」  
 ふたりの男女のシルエットが重なった。  
 聡明そうな眼鏡の男子――桂木桂馬は、相対する小柄な少女、九条月夜の求めに無言で応える。  
 長い長い接吻の後、唾液の糸が制服に垂れる。  
「……え?」  
 惚けたような顔で月夜は目を見開いた。  
 全く躊躇することなく、桂馬はわずかに膨らんだ胸に手を伸ばす。  
 本能のままに、下腹部や秘所、お尻を、まるで人形を可愛がるかのように。  
 体温が急激に上昇していくのが判る。  
「ちょ…けいま!?」  
「ダメ?」  
「う……」  
 澄み切った瞳で聞き返されて何も言えず、月夜は俯くしかできなった。  
(こんなの、なにかおかしいのですね…)  
 
 事の発端は一昨日。  
 ヴィンテージと女神関連の騒動を六人の姉妹を揃えて愛を増幅し駆け魂を封印、見事解決に導いた桂馬はこれまでの女性関係を清算することになった。  
 当たり前といえば当たり前だが、多くの女性たちは納得せず、特に結には色々な意味で説得に苦労した。  
 本当の意味で桂馬を諦めさせるには、誰か一人を仮にでも選ぶしかない。  
 エルシィにそう言われ、渋々考えていた桂馬はふと振り返ったとき、月夜と目が合う。  
 ずっと記憶を保持していた彼女としては、傷ついて、恋して、また傷ついて、散々感情を振り回されて、今度こそもう桂馬と関わるつもりはなかった。  
 しかしウルカヌスも天界に還ってしまい、今の月夜にはもう喋らなくなったルナしかいなかった。  
 とぼとぼ道を歩いて歩いて、行く当てもないまま彷徨って、気づいたら桂木宅カフェグランパにたどり着いたのだ。  
「…………」  
「…………」  
 十秒ほど、お互い目が離せなかった。  
 桂馬は何かに動かされるように、月夜に向かって歩み出す。  
「泣かせてばかりでごめん……。でも大丈夫。約束は、守るよ」  
 放っておいてはいけない。  
 ゲーム感性とはまた別の、生々しいリアルな感性が桂馬の脳内を刺激する。  
 ウルカヌスと別れるときも出なかった涙が、太陽の光を反射しながら月夜の頬を伝って流れた。  
 
 それからというもの――  
 
 人目が付かない場所に月夜を連れ出す桂馬。  
 駆け魂狩りでもやらなかった舌を絡ませたディープキスを何度も何度も。  
 その翌日にはこうして本番に至るというわけである。  
 
 シチュエーションが大事だ勢い(ノリ)が大事だと、桂馬の語る理論は相変わらずチンプンカンプンな月夜だったが、これだけは言える。  
「あの…けいま!」  
「なんだ?」  
「なにか違わないですか…?」  
「なにか、とは?」  
「その……こういうことするにはもっとステップがあって、まだデートだってほとんどしてないのに」  
「問題ない。問題があったとしても問題としない。すべてボクに任せておけ」  
「ひっ!?ちょっと今日のけいま、怖いのですね……」  
 
 桂馬は女の子の服を慣れた手つきで一枚一枚剥いていく。どこで得た知識なのか動作に一切の無駄がない。  
 フリルのブラウス一枚になったところで、  
「くちゅん!」  
 冷たい風が直接肌を刺し、月夜は震えた。  
「そうか、これは計算に入れてなかった」  
 と、素早く自分の上着を縫いだ桂馬はそれを月夜に纏わせ、校舎内に向かって疾走した。  
 ぽかーんと取り残される月夜。  
 2分後、戻ってきた桂馬は普段中庭で使っているテント一式を抱えて、コマ送りのようにテキパキとそれを組み立てる。  
 手招きされてテント内に招かれた月夜は入った瞬間桂馬に押し倒され、マウントポジションを取られてしまう。  
 遮光型のテントは月の光を通さなくなったが、代わりに天井から吊らされた白熱電球が白い肌を薄く照らす。  
「む、ムードが台無しなのですね!」  
「仕方ないだろう。おまえに風邪を引かれても困る」  
「でも、だからって……んぐぅッ!?」  
 言いかけた唇は塞がれた。  
 息をするのも忘れるほど貪り合って、紅潮した頬の月夜の目はすでに焦点が定まっていなかった。  
「相変わらず押しに弱いな」  
 残りの下着を剥ぎ取って、月夜を生まれたままの姿にする桂馬。  
 もうふたりを遮るものは何もない。  
 月夜の背中に右手を回してロックし、左手はゆっくりゆっくりと繊細に秘所に愛撫する。  
 零れる声は時折唇で塞ぎ、酸欠を起こしそうな荒々しい呼吸を繰り返し、ようやく紡いだ言葉は、  
「ま、待ってけいま!」  
「待たない」  
 一言で斬って捨てられた。  
「あ…!!?ひあ、ん、みゅうッ」  
 徐々に愛撫は激しくなり、ついには指を入れられた。  
「…………ッ!!!」  
 固まったように硬直し動けなくなる。  
 それにも構わず桂馬は指を出し入れしてこちらの反応を楽しんでいた。  
「ずるいの、ですね……」  
 呟いた月夜。  
 今度は彼女から、再び貪るようなキスをする。  
 面食らった桂馬は指の動きを止め、その隙に月夜が桂馬を押し返し、上下が逆になって彼女は勝ち誇ったように言う。  
「押しに弱いのは、けいまも同じではないですか?」  
 ボタンが飛ぼうとお構いなしに服を乱暴に引っ張り桂馬の素肌をはだけさせる。  
 突起した乳首を吸いながら、ズボン越しに突起した一物を撫でた。  
「どう、けいま。私だってやればこのくらい」  
「……甘い」  
「へ?」  
 先ほどよりもやや息は乱れているものの、桂馬は冷静さを失ってはいなかった。  
 
「次はどうするんだ?」  
「う……」  
 悔しいが、性知識においてほぼ皆無な月夜に返す言葉はない。勢いだけだった。  
「下調べは大事だぞ。ゲームでも、リアルでも」  
 ズボンとトランクスを脱ぎ捨て、月夜と同じく素っ裸になる。  
 月夜が初めて目にした男性のソレは、六十度ぐらいの角度で反り返っていて、はっきり言ってグロテクスだった。  
「さあ月夜。咥えてくれないか……」  
「……」  
 咥えるしか選択肢がない月夜はぎこちなく口に含ませる。  
「うッ!?」  
「ふあっ!!」  
 びくんと震え、月夜の口内で暴れた。いよいよ本格的な営みになってきて、いよいよ桂馬の経験不足が表に出始める。  
「い、痛かったのですか?けいま」  
 心配そうに見つめる月夜。  
 首を横に振って否定する桂馬は、安心させるためにふかふかの金髪を撫でた。  
「な、なんでもない。気持ちよかっただけで……続けてくれ」  
 無言で頷く月夜は強弱をつけながら、ストロークする。  
 桂馬の顔の反応を見るうちにどうすれば気持ちよくなるか、なんとなくだか判ってきた。  
(ああ、こんなに卑しい行為を……美しくないのですね。でも)  
 心の中で思う。  
(桂馬だったら悪くない。嫌じゃないのですね)  
 好きな人のために精一杯奉仕することで、月夜の心は満たされていく。  
 心だけでなく、身体も。下半身から熱を持って。  
「そろそろ、いいよ……」  
 右手で制して、月夜の口から一物が離れる。いつ発射してもおかしくないぐらいさらに隆起したソレはもはや理性ではどうにもならない。  
 もうするべきことはもう一つしかない。とろとろに溶けそうな彼女の小さな花弁にあてがい、徐々に力を入れて進めていく。  
「ひゃあ!!?けいま…!けいまあッ……!!」  
「いくよ」  
「い゛ッ!?いやああアアアアァァァっ!!!!」  
 深々と突き刺し月夜が嬌声を上げて悶える。穴と棒の繋ぎ目から真っ赤な血滴り落ちる。  
「ひ、ひどいのですね。けいま」  
「ごめん…」  
 未経験者にとって加減などできるはずもない。それでも月夜を必要以上に痛がらせてしまったことは後悔した。  
「でもいいのですね、けいまなら」  
「優しくするよ」  
「うん、信じてる」  
 そこからはひたすら身体で愛を紡ぐ。  
 月夜ははじめてとは思えないぐらい感度がよくて、桂馬も予習した知識と本能を総動員して月夜に応えた。  
 はじめ胸を弄っていた桂馬だったが、月夜の希望で手を繋ぐことになる。結果より一体感が増して、腰の動きも激しくなった。  
「けいま、けいまッ!!」  
「月夜!!」  
 お互いの名を叫びながら、腰を打ち付ける。迷うことはない。悲しむことはない。本能のままに、お互いを求め合って、  
 最高潮に高まった愛液が月夜の股間から溢れ、桂馬は己が欲望をーー  
「う゛ッ!!」  
 吐き出した。  
 
「熱っ!? ああ、けいまのが、出てる……!!」  
 
 意識が飛びそうになる感覚を抑え、ふたりは同時にイった。  
「あ……ああ」  
「んんっ……」  
 最後の一滴まで絞り尽くし、繋がったまま桂馬が覆い被さる。幸せのまどろみに溶けそうになりながらも、月夜は眠気を必死でこらえる。気持ちいいけど、眠ってしまうなんてもったいない。  
 もう少しこのままーー  
 
 外にはルナの置かれた椅子と天体望遠鏡。もうひとつ、空席の椅子が用意されていた。  
 これからはふたりで月を見るのだ。  
 
 これはひとつの可能性の結末。  
 

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