「どうしたのよ桂木……こんなとこで何か用?」
舞島学園高校のグラウンドの夜の海に、少女の声が波紋を起こす。
高原歩美は右手で松葉杖を扱いながら、ゆっくりと歩いてくる。舞島学園高校の制服に身を包んだ彼女の左足首では、痛々しく巻かれた包帯が夜の仄かな明かりにぼんやりと浮かんでいる。
そんな少女と相対するのは、眼鏡をかけた痩身の少年――桂木桂馬だ。
桂馬はひょんなことで悪魔を名乗る可憐な少女、エルシィと半ば強制的に契約をさせられた。その内容とは、駆け魂なる不可解極まりないものの蒐集を手伝えということだった。
もちろん桂馬としては、ギャルゲーに割く時間が減ることは目に見えていたので断るつもりだったのだが……。
無意識に、桂馬の手が首を囲む輪っかに触れる。この首輪は契約の証で、駆け魂を捕まえきるまでは外れないらしい。その上首がもげるなど、桂馬にとっては不幸なことしか起こさない、まさに悪魔の首輪だ。
そんなこんなで、桂馬は駆け魂狩りにしぶしぶ協力したのだが――。
「しばらく私運動場には用ないよ!!」
歩美が右手に提げていたバスケットを高く掲げる。
「しかも呼び出しの手紙が乗っかってたこれ!! これイヤミ!?」
バスケットは果物の詰め合わせで、みずみずしそうな果実の上に『御見舞』と書かれた紙が置かれている。
「こんなもんもらって喜ぶ訳ないでしょ!!」
歩美は声を荒げて桂馬に応える。暖簾に腕押し柳に風で、桂馬は飄々とそれを受け流していた。
あまつさえ、
「それ食べて元気出して、明日の大会出てもらおうと思って」
のんきに口走るほどだ。
歩美は咄嗟に、持っていたバスケットから取り出した果物を桂馬に向かって投げつけた。
「うお!!」
「この足を見て言え!! 大会なんか出られると思うの!?」
リンゴやミカンが、桂馬に一直線に向かってゆく。桂馬はリンゴを手でキャッチし、
「思う。だって……ケガなんてしてないから」
「な……」
ミカンを振り被った歩美に、桂馬がきっぱりとした口調で告げた。ぴくん、と彼女の肩が揺れたのを桂馬は見逃さなかった。
「ハードルでこけたくらいでケガなんかしないよ」
二人は運動場を走るトラックを隔てて、対岸の人と会話をするように静謐な空間を揺るがせる。
「走ったこともないくせに!! スピードを考えてよ!!」
「たしかに……全力で走って転倒したら危険だよ。でも……あの時は全力で走ってなかった」
ふたたび、歩美の全身が強張った。
「な……なんで…………わかるのよ。そ……そんなの……」
おどおどと目を泳がせている歩美に、桂馬は当たり前のように自分の左側頭部を指差した。
「髪、くくってなかった」
「!」
歩美は弾かれたように、自らの黒髪のショートカットを手で押さえた。それはいつも、髪をくくっている場所だった。
「本気出す時はいつもくくってたよね」
射抜くような、しかしどこか相手を慮っているような視線で歩美を見る。
「もしかして……最初からコケるつもりだった?」
左足を浮かせていた歩美は松葉杖を放して、しっかりとケガをしている足で地面を踏んだ。
「これでよかったのよ。先輩たちもこれで大会に出られる――」
胸に大振りのバスケットを抱えて歩美がぽつぽつと、蝋燭に灯をともすように声を漏らしてゆく。
「先輩たちの言うとおりだよ。先生の前でたまたま走れちゃって選手になっちゃってさ……ずっと練習してたんだけど、タイム全然出ないし……私なんか…………私なんか出ない方がいいんだよ」
歩美が悄然と肩を落とすと、漏れ出る声に涙が交じり始めた。
「どうして走れなくなっちゃうのさ……こんなに練習してんのに」彼女の目尻で涙の球が膨らんでいく。「もういいの……ビリになったりしたら…………おしまいだもん」
日の落ちた運動場では風が吹き抜ける音、葉ずれの音しか聞こえなかった。静寂にとっぷりと浸かったグラウンドは、さしずめ風波のたつ夜の海だ。
しばらく二人は凝然として、身じろぎひとつしなかった。口火を切ったのは、桂馬。
「一生懸命走ったら、それでいいじゃないか」
ふっと顔を笑顔に緩めながら桂馬が眼鏡を外す。
「順位なら、君はとっくに一番とってるよ。ボクのなかで」
夜の闇に輝く月を思わせるたたずまいだ、と歩美はほんのりと顔を紅潮させながら思ったのもつかの間、
「バ、バカー!!」
バスケットに残る果物を全部投げつける勢いで、桂馬に向かって声と果実を投擲する。
「な、何キモいこと言ってんのよ!! 大体あんたが変な応援するから……」
投げつけるための果実に手を置き、歩美はバスケットの底で眠っていたものに目を奪われた。果物の山が崩れると、歩美が陸上部で使っているシューズが顔を出したのだ。
呆気にとられた歩美は、心の中で微笑みを湛える自分がいるのを感じた。果物の中にシューズって非常識だ、ちゃんと洗ったのだろうか。そんな暖かな感慨が、風となって彼女の中を吹き抜けていった。
硬い果実で打ったのか、桂馬は後頭部を抱えて前かがみになっていた。
まったく、これだから現実はクソゲーだと言われるんだ。実際、果物を投げつける女性が存在していたとは露とも思わなかった。大体、この痛みだってリアルのクソっぷりを表しているようなものじゃないか。
ゲームの世界に比べて、こっちの世界は嫌いだ――
瞬間、じっとりと熱いほどの何かが、桂馬の左手を包み込んだ。
卒然と振り向くと、うつむきがちの歩美が桂馬の手を握っていた。彼女の左手には、陸上用のシューズが一足、きちんと提げられている。
「来てくれる?」
視線はあくまでも地面を刺していて、顔を赤らめながら歩美は語を継いでいく。
「明日も……応援に来てくれる?」
「う……うん」
現実の女なんてと思っていた桂馬でさえ、歩美のその立ち振る舞いには心が乱れた。それをかわいらしい、と思う自分さえいて、ボっと自分の顔が赤くなっていくのを感じる。
「……ありがと」
歩美がゆっくりと顔を上げると、熱い視線が二人の間でぶつかった。
その目が何を語るのか、その目が何を見通しているのか、そんなこと考える暇もなく。
桂馬の唇に、歩美の唇が押し付けられた。背伸びして下から伸びてきた歩美を避ける余裕なんてなく、二人は唇を起点に繋がっていた。
惜しむように離れていった唇の感触に、桂馬の心臓は早鐘を打っていた。
エルシィは口づけ程度でいいと言ってはいたが…………これは想像以上に心を持っていかれる。現実の女に恋心を抱いたなんて冗談でも思いたくはないが、湿った唇の感触や狭まったことでやってくる女の子の香りに、桂馬はどうしようもなく本能を刺激されていた。
口づけはした。心のスキマも埋めた。
さあ、どうなる……!
桂馬は顔一つの距離もないところにいる歩美をじっと見つめた。彼女はすっかりのぼせたような状態で、しかしそれだけだった。
(お、おかしい…………何も、起こらないだと)
てっきり口づけをすることで何らかのアクションがあるかと思ったのだが、ルートを間違えてしまったのか?
いつもの桂馬なら卓越した処理能力でスパスパと見当をつけていくのだが、いまの彼はキスによる後遺症なのか頭がほとんど働いていなかった。
歩美はまだ桂馬の手を握っていて、じっとりと汗ばんでいるのを感じる。ぎゅっと、一瞬強く握られると、歩美が決意したような表情で桂馬に言った。
「か、桂木……その、こっち来て」
桂馬の返事を待たずに、歩美が足早に彼を引っ張っていく。
「お、おい――」
驚嘆な声を出すも、桂馬の声に歩美は応えない。やがて二人がやってきたのは、体育倉庫だった。歩美は慣れた手つきで扉を開けると、ためらうことなく桂馬を引き入れた。
扉が閉まると、中は薄らとした月明かりに照らされる。外よりは暗いけれど、今日は空が晴れていて月影がよく降りてくるため、不便ではない暗さだった。
体育倉庫は埃っぽくて、土の匂いがした。あたりにはハードルや白線を引く道具など、陸上に使う器具が所狭しと並べられていた。
「高原……?」
歩美は桂馬に背を向けたままじっとしている。
「ここは……陸上部用の体育倉庫なの」
こちらを向かず、歩美は握る手に力を込めると、くるりとこちらに向き直った。歩美がにこりと微笑むと、桂馬の手を引きながら後ろ向きに歩きだした。
行きつく先は……二人とも分かっていた。がくん、と二人がくずおれていく。二人を受け止めたのは、マットの低反発さだった。
引き倒された桂馬は、自分の腕の下で顔を真っ赤にしている歩美を見つめることしかできなかった。
握っていた手が離れていくと、歩美は両腕で桂馬を下から抱いた。
「私……桂木のこと、好きになっちゃったみたい」
「す、好き――!?」
歩美は熱っぽい視線で桂馬を見上げてくる。その瞳はゆらゆらと湖面のように揺れていて、つい見とれてしまった。
「何だか、私、変になってるみたい。桂木なんかに……キ、キスしちゃうし…………」
熱い息の塊が桂馬の鼻先をくすぐる。互いの息遣いがはっきりと分かるし、心臓の鼓動の音さえも聞こえてきそうだった。
桂馬はマットに両肘をつく姿勢で、胸から下は歩美の身体と密着してしまっている。歩美の脚と脚の間に身体が落ちていて、たしかな体温や震えが伝わってくる。
「桂木がいいなら――」歩美が桂馬の腕を掴むと、それを彼女の胸へと持っていった。「――いい、よ?」
「……!」
ゲームで見てきたはずの光景が、さっきから目まぐるしいほどに桂馬の脳裏に記憶されていく。こんな場面は何度も攻略して乗り切ってきたのに、現実にこうなった時にどうしてよいのか分からなかった。
それよりも、駆け魂とやらはどうなったのだろう。口づけで何のアクションもなかった。あの悪魔は恋愛をしろと言っていた……。
(まさか……いや、そんなバカな。たしかに恋愛の行きつく先は…………だが)
どくどくと心臓が跳ね上がっていく。唇と唇が触れそうな近さで、歩美が切なげな瞳で桂馬の瞳を覗き込んでくる。その目は訴えかけていて、望んでいるようで、全てを物語っていた。
ごくり、と桂馬は唾を飲み込んだ。すると、歩美がぐいっと彼を引き寄せて強く唇を押し付けてきた。
今度はさっきのそっとした優しいものではなく、熱情にあふれていた。
唇をつけたまま、歩美が口を開いて唇を甘く食んでいく。暖かな息とぬるっとした感触に、ぞぞぞっと背中を何かが走るのを桂馬は感じた。
思わず桂馬が口を開けると、熱いものが彼の口腔へ歯を掻き分けて侵入してきた。歩美の舌が、桂馬の舌を淫らに絡め取っていく。互いから漏れる熱い息が、さらに二人を熱っぽくする。
「ん、ふぅ……んちゅ、あむ」
貪るように歩美の舌が、唇が、桂馬のそれらを刺激していく。閉じることのできない口から唾液があふれて、歩美がそれを舐め取っていく。
激しい口づけが終わると、二人の間で糸が引いた。
「はあ、はあ、はあ…………桂木ぃ」
うるうると揺れる瞳で歩美が見上げてきながら、桂馬の手を強く彼女の胸に押し付ける。制服の上からでも分かる弾力に、どうしようもなく神経が集中してしまう。
「……触っても、いいよ。桂木の、したいように、して」
桂馬の両足を挟むように、歩美が太ももを閉じようとする。しかしその間に桂馬の身体があるため、どうしても脚を開いた格好になってしまう。
駆け魂を出すには……少女の欲求が満たされなければならないのだろうか。だとするならば、それはつまるところ、そういうことになる。しかし……許されるのか?
口づけならば減るものではないと思っていた。だがこれは明らかに、常識から外れている。そもそも常軌を逸した存在に踊らされているのだから仕方がないものだが…………。
息を荒くする歩美を下に、桂馬はどうすればいいのか悩んでいた。
「桂木」歩美がか細い声音で、顔をどんどん赤らめていく。「私と……して」
切なそうな表情で言葉を紡ぐ歩美に、桂馬の頭がまっさらになっていく。気がつくと、彼の手が胸を揉んでいた。
「っ……ぁ」
指を跳ね返してくる弾力に、男というものは抗えるのだろうか。桂馬が歩美の胸を揉むと、彼女が反応を返してくる。それだけで、桂馬は自分が昂ってしまうのを感じる。
桂馬は腰を上げて歩美に跨り、両手で彼女の胸に触れていく。衣擦れの音と、歩美から漏れる痛切な声だけが体育倉庫に響いていた。
「ん、ふぅっ……っぁ…………か、桂木…………直接、触っても、いいんだよ?」
歩美が眉尻を下げると、桂馬の腕を掴んで制服の下に入れた。
滑らかな肌の感触に、思わず桂馬は呻いてしまった。上質な布地を思わせる肌触りは男を狂わせてしまうには十分な魅力を放っていた。
桂馬は制服を捲り上げ、月光にあらわになった歩美の上半身に目を見張った。シンプルな白いブラジャーが、まるで光を発しているかのように桂馬にはまぶしく映った。
歩美の胸は女性を感じるふくよかさを持っていて、男としてはそこにロマンを感じずにはいられない。
「あ……待って、ブラ外すから」
桂馬が触れようとする前に、歩美は腰を浮かせて手を入れて、素早くブラジャーのホックを外した。戒めの解かれた下着は張りを失くし、自由になった胸が一瞬だけぷるんと揺れた。
歩美がさっと胸を両手で隠す。「か、桂木も…………ぬ、脱いでよ」蚊の鳴くような小さな声で彼女が呟く。「私だけじゃ……は、恥ずかしいよぉ」
「あ……ご、ごめん」
桂馬があわててブレザーを脱ぐと、歩美がくすっと笑みを漏らして、
「動揺しすぎだよ…………頼りないなあ」
手をスッと伸ばして桂馬のシャツのボタンを一つずつ外してゆく。晒された桂馬の身体は男子にしては細く、筋肉の浮き上がりなどもあまり見られない。けれど、歩美はそれに見とれていた。
「男の子なのに、細いなあ」
歩美の手が桂馬の身体を撫でていく。胸部から腹部、わき腹――くすぐったく、桂馬は身を捩る。
「高原ほどじゃない」
桂馬はそっと歩美のブラジャーに手をかけ、「いい?」と訊いた。歩美は腕で顔を隠しながらコクコクと頷いた。
ブラジャーを押し上げると、形のいい乳房が覗いた。ほんのり桜色の乳首が、ぷっくりと立っている。桂馬は喉を鳴らして、直に歩美の柔肌に触れた。
「……んっ」
ぴくん、と歩美が身を強張らせた。
桂馬は彼女の胸を包み込むように揉んだ。親指と他の指がくっついてしまうんじゃないかというくらい、深く指が胸に呑まれた。女の子の胸って、こんなに柔らかいものなのか?
乳首に指で触れると、歩美は声を漏らして身体を震わせた。胸を寄せるようにして揉んだり、乳首を指で弾きいたり摘まんだりすると、びくびくと彼女が身体をくねらせて反応する。
自分の手で女の子が感応していることに、桂馬は少なからず快感を覚えていた。ゲーマーの性か、返ってくる反応をすべて見たいと、色々なやり方で胸を弄んだ。
身体を下げて歩美の脚の間に落ち着く。乳首に口づけると、彼女が桂馬の頭をがっしりと掴んでくる。
「……っぁ、いやっ、あっ…………!」
いや、は肯定の裏返しだ。恥ずかしさからくる本能のようなものだが、本音ではない。
乳首を舌で転がすと、勢いよく歩美が太ももを閉じようとした。その勢いの強さから、彼女が舌で反射的に感じていることを悟った。桂馬は一意専心に舌を動かした。
唇が、舌が歩美を刺激する音。
衣擦れの音。
マットがずれる音。
歩美の喘ぐ声音。
それらが綯い交ぜになって、一つのオーケストラのように音を奏でる。
桂馬が口を放すと、歩美がすでに肩で大きく息をしていた。片腕で目を隠し、空いた手では桂馬の手首を強く掴んでいる。身構えていたからか、いまの彼女は身体を緩めている。
「っはあはあはあ……っ、か、つらぎぃ…………」
恥ずかしさからくるのか、それとも泣いているのか、歩美の声は震えていて、しかし彼女は桂馬の手をある部位へと導いていく。
桂馬が見る前に、そこに手が触れた。歩美の恥部は下着越しでも分かるくらいに濡れそぼっていて、暖かさと冷たさが一挙に彼の手を駆け巡った。
「さ、触って……」
消え入りそうで、語尾がフェードアウトしている。それでも言わずにはおれないのか、歩美は下唇を必死に噛んで堪えている。
桂馬が指で濡れた部分をなぞると、
「ひぁッ!!」
歩美の腰が浮き、大きな声が彼女の口を衝いて出た。
桂馬はそれを呼び水に、歩美の股間を刺激していく。割れ目というものに初めて触れたが、そこに指をあてるとじんわりと布から液体が染み出てくるのが分かった。
歩美は桂馬の身体の下で、口元を押さえて声を漏らすまいと身体を強張らせて耐えている。そんな姿を見て、もっと色々な反応をさせたいと桂馬は思った。
桂馬の指がクリトリスに触れると、歩美の身体が弓なりに反りかえった。太ももを閉じようとするのだが、桂馬の身体が邪魔をしていて、たとえ嫌であっても股間をまさぐられてしまう。
「っはあ――っああっ…………んつっうぅ」
下着を横にずらして直に性器に触れる。手を濡らしていく液体が溢れ出てきて、ぴちゃぴちゃと淫靡な音を立て始める。
「――――ッッッ!?!?」
熱が伝わってくる。萌芽に爪を立てて弾くと、
「あぁあッアあっ!!」
歩美が猛り狂ったかのように身を悶えさせた。
桂馬は歩美の手をマットに押し付けるように握る。
「指…………入れる、よ」
割れ目に指を当て、ゆっくりと人差指を入れていく。狭い膣口は桂馬の指に合わせて広がって、すんなりと彼の指を呑み込んだ。
「うぁぁぁ…………桂木の、指…………は、入ってる」
押さえつけられてない方の手で、歩美は眉間を抑える。まるで頭痛がしているみたいだ。
指を抜けない程度に引いて、また突き入れると、
「ッ!!」
短い息が彼女の口から漏れた。
桂馬は要領を得たのか、指を抽出する。グジュグジュと淫乱な響き伴って、二人の身体が蠕動する。桂馬が指を折り曲げると、歩美は喚くような喘ぎ声を漏らして、彼は少しビックリしてしまった。
「ああ……声、出ちゃう…………出ちゃうよおぉ」
恥辱に顔を紅葉のように赤らめながら、歩美の声が尻すぼみになる。桂馬は指を出し入れしたり、中で折り曲げたりしながら彼女の反応を楽しんでいた。
頃合いを見て指を引き抜くと、粘性の高い液体が糸を引いて、それがまた妖艶で淫らに映った。歩美は案の定、いやあ、とかやだあ、とか言いながら頭を振っていた。
桂馬は歩美の息が整うのを待つ間、じっと彼女を眺めていた。
「……はあ、はあ…………桂木………………どうした、の?」
「え?」
「好きに、していいよ…………」
歩美は薄らと開けた瞳で桂馬の身体を眺め、
「……バ、バカ…………何で、そんな風にしてるのよ」
桂馬は歩美の視線の先に何があるかを察知し、肝がきゅっとなった。
「……ッ!」
「もう………………。……お、大きい、ね。私で…………興奮してくれたん、だ?」
桂馬は濡れてない方の指で頬を掻くと、「そりゃ……まあ」とそっぽを向いた。歩美はそんな桂馬の仕草を見て、幸せそうに泣き笑いのような笑みをこぼした。
「桂木……立って」
「……え?」
「いいから。スタンダップ」
桂馬は言われるがままに、その場で立ち上がる。歩美は胸に手を当てて息を整えながら、膝立ちになった。
「お、おい!?」
歩美は桂馬のズボンのベルトに手をかけると、器用な手つきでバックルからベルトを抜いて緩めた。押さえつけていたものがなくなったからか、ズボンはするっと足元に落ちた。
「わ、私ばっかり恥ずかしいの、ずるい……」
残ったトランクスはテントを張っていて、頂点は先走りで布の色を濃くしていた。歩美はトランクスに手をかけると、一つ唾を呑み込んでゆっくりと下げていった。
下着という桎梏から解放された桂馬のペニスは、勢い良く反りかえって彼の下腹部に当たった。
「わわッ……!!」
元気が良すぎたからか、歩美がぺたんと尻もちをついてしまった。桂馬としては立ったまま性器を晒している状況に、得も言われぬ気恥ずかしさを感じていた。
歩美の目は桂馬の屹立したモノに釘づけだった。意を決したかのように膝立ちになると、おずおずと桂馬の棒に触れた。
「……へえ、こんな風に、なってるんだ…………ふうん…………」
握ったり、摘まんだり、指で撫でたりと、歩美はしげしげとペニスを観察している。
「保健の教科書とかで見たことあるだろ……」
「こ、こんな風になってるのは見たことないわよ!!」
歩美は陰嚢を揉んだり、突いたりする。そうやって刺激されると、どうしてもペニスは脈打ってしまい、
「う、動いた……」
彼女の興味を引いた。
「わ、な、何か出てきた……」ペニスの鈴口から、先走りがぷくりと玉を膨らませた。「な、何これ……?」彼女が訊ねてくるが、桂馬はそっぽを向いて応えない。
歩美はじっと先っぽと睨めっこし、それに人差指で触れた。「ひゃっ、ネバってなる」クリックするみたいに、糸を引くのを眺める歩美に、桂馬はそっちを見ることができないでいた。
歩美はしばらくペニスを観察したあと、俯いて服を脱ぎ始めた。
「高原!?」
上着もブラジャーもスカートも脱ぐと、彼女はショーツ一枚の姿になってへたり込んでいた。
「……また少し、大きくなったね」
歩美は桂馬のモノを一瞥すると、マットに寝そべった。彼女の裸体は月光に照らされて、ギリシアの彫刻のように映っていた。光を跳ね返す白い肌に、運動で引き締まった体つきが絶妙のプロポーションを誇っている。
歩美が身体を丸めると、ゆっくりとショーツに指をかけて脚から引き抜いていった。方脚が上げられると、もう方脚が上げられて、あっという間に一糸まとわぬ高原歩美が眼下に見下ろせた。
歩美は胸と股間を手で隠すと、膝を曲げて脚を広げた。
「桂木…………来て?」
互いに、心臓の鼓動は今までに感じたことないくらいに激しくなっていた。
桂馬は足元に落ちたズボンとトランクスから足を抜くと、歩美の身体に覆いかぶさるように屈んだ。両手を掴んでマットに押し付けると、彼女が目をきつく瞑った。
桂馬は自らのモノに手を添えて、歩美の膣に宛がった。
「……高原、いくよ」
「う、ん…………いい、よ」
亀頭が、ゆっくりと歩美の膣を押し広げて中に入っていく。彼女の口はきつく、じっくりとほぐしながら押し進む必要があった。
「ッ……あぁ」
少し入れては抜き、また入れては抜きを繰り返していると、じわじわと彼女の奥に桂馬のペニスが潜り込んでいく。半分ほど入ると、恐ろしいくらいの暖かさに腰が震えた。
「ん、はあ……桂木、のっ…………おっきい」
また抜いて入れると、より深く入っていく感覚がある。どうこうしているうちに、ある一線を越えてずぶりと全部が彼女の中に入った。
「――ッうぁああ」
ひくひくと膣が痙攣して、桂馬のペニスを締め付けてくる。リズミカルに刺激され、入れているだけでも果ててしまいそうな心地よさだった。
「ぜ、全部、入った……?」
「うん……入った」
「桂木ぃ……」
歩美は両腕で桂馬を抱きしめ、彼の鎖骨に顔を埋めた。桂馬は彼女の頭を撫でながら、ゆっくりと腰を動かした。
「っああっあっあ――」
ぬるりと彼女の膣が、愛液がペニスに絡みついてくる。ペニス全体を等しく刺激される感覚に、桂馬は思わず息を漏らす。
次第にコツを掴んだ桂馬は、一定の速さで腰を彼女に打ちつけていった。
「あっあぅっあああっ…………あ、脚広げて、こ、こんなことして…………恥ずかしくて、死んじゃいそうだよおぉ」
頭を抱えながら、歩美は快感に顔を歪めている。さきほどから彼女の身体の痙攣が止まっていなく、太ももがきついくらいに桂馬を圧迫してくる。
桂馬は正常位で歩美を見下ろしながら責め立てていく。
二人とも一心不乱に快楽を求めて身体を動かしていた。互いの息が空中で交じりあい、全てを共有しているような幻想にとらわれた。息遣い、鼓動、あらゆるものが繋がっている。
歩美が何か掴むものを探すように手を動かしているが、マットは掴めずに空気を握るばかりだった。桂馬が手を差し出すと、歩美がぎゅっと握り返してきた。
桂馬は腰を打ちつけるように身体を動かして、彼女の膣口を貪るように押し広げる。
「アっあッあ――い、イやッ、な、何か、何か来るッ――――」
不安げな眼差しで歩美が桂馬を見上げる。桂馬は「大丈夫、怖くないから」と宥めながら、彼女をそれに導いていく。
「うあっああっんっああああ、か、桂木ッ――桂木は、気持ち、いい?」
「う、ん……そろそろ、イっちゃい、そうだ」
腰の動きを速め、互いに高まりあっていく。
歩美が脚を桂馬の腰にまわし、がっしりとクロスさせた。
「た、高原――これじゃ、腰が抜けない…………!」
「っああっうあっあああッ!!」
桂馬の忠告に、しかし歩美は取り合わない。いや、取り合えないのか。
「だ、めだ高原――ッ、このままじゃ、中にッ……」
「い、いいっよっ――ぁっああっ、ンんっ、な、中に、中に、出してッ」
歩美の脚に力が込められると、いよいよ桂馬に振りほどけなくなってくる。さすが陸上部の脚だ、と妙に達観している自分がいた。
果てたい欲求に抗えないのか、腰は無意識にも早く、もっと奥へと言わんばかりに勢いを増す。
「あっッあアッ――」
「ううっ、も、もう――出るッ」
桂馬は歩美の、歩美は桂馬の手をぎゅっと握りながら、ひときわ強く腰を打ちつけた。
「アッぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ――――――――ッ!!!!!!!!!!」
大きく桂馬のペニスが脈打つと、勢いよく欲望が吐き出されていった。歩美の中はきついくらいに彼のモノを締め付けて、放さないというように収縮していた。
歩美は中に出されて、喚くような喘ぎ声を上げた。最終的には声にならない声を喉から吐き出していて、きつく瞑った目尻からは薄らと涙が出ていた。
二度、三度とペニスが痙攣すると、やがてぐったりとした。最後の一滴まで歩美に搾り取られると、桂馬はゆっくりとペニスを引き抜いた。
ペニスには薄らと血が付いていたが、何度にもわたる抽出のせいで目立つほどではなかった。
歩美は脚を広げたままびくびくと身体を痙攣させていた。どろり、と彼女の膣から桂馬の吐き出した白濁が漏れ出てきて、どこか淫靡であった。
桂馬はぺったりと座り込んで、歩美が起き上がってくるのを待った。彼女はときおり、太ももを閉じたり開いたりを反射的に繰り返していたが、やがてむっくりと上半身を起こし、こちらと目を合わせた。
「……はあ、はあ…………桂木………………こっち、来て」
桂馬は言われたとおりに歩美へいざり寄ると、彼女はとび跳ねるように彼の唇を塞いだ。
それは一瞬のようにも、何十分のようにも感じられた。
唇が離れると、眼前には高原歩美の満面の笑みがあった。
「ありがと、桂木」
桂馬は歩美の笑顔から顔をそらして、ぽりぽりと頬を掻くしかなかった。
二人は着衣の乱れを直し、息を整えてから体育倉庫を後にした。
学校の前で別れると、どこにいたのか、エルシィがひょっこりと顔を出した。脇に大きなビンのようなものを抱えている。
「それが駆け魂か?」
「はい、神様。今さっき、ひゅるひゅる上がったところを拘留しました」
エルシィは何も知らなさそうな朗らかな調子で桂馬に対応している。
桂馬は今日起こったことをエルシィには言えず、さてこれからどうなるのだろうか、と考えていた。
この後、歩美は大会に出場し、ぶっちぎりで優勝した。
「すごいー歩美!!」
「ふっふっふ、どうだ!!」
翌日の教室で、歩美が彼女の載った新聞を片手にハイテンションな様子を見せていた。
「見て桂木、新聞載っちゃったよ!!」
昨日のことなど何事もなかったかのように、歩美が桂馬の肩を叩きながら自慢してきた。
「あ、あれ? なんで私、あんたなんかに話しかけてるんだろ……」
歩美は我に返ると、そそくさと桂馬の肩から手を引いた。
彼女は攻略中――駆け魂を追いだそうとした間の記憶を失っていた。その方が好都合、と思えるほど桂馬には楽観的にはとらえられなかった。悪くすれば他人の人生を左右しかねない事態だ。
「高原……」だが、桂馬は昨夜のことを全て覚えている。それを忘れないということが、自分にできる最低限の贖罪なのだ、と彼は自らに言い聞かせた。「おめでとう」
いつもの癖でボソリとした口調になってしまったが、桂馬の称賛の言葉に、
「え? あ? ど、どうも……」
歩美は顔をゆであがらせた。
現実はクソゲーだ、リアルなんて放っておけばいい――。今でもそう思ってはいる、けれど。
……そういえば、あいつはどうしたんだろう。
昨日から続く、桂馬の価値観を根本から揺るがしかねない事態に招いた張本人たる例の悪魔は。
何でも、手続きがどうとかいって去って行ったが、「オイ、オタメガ!! なんだあれ!! どこに隠してたあんなの!」男子生徒からゲシゲシと攻撃を食らったことで我に返った。
視線を教壇へ移すと、あの悪魔が桂馬の妹を名乗って、舞島学園高校のデザイン制服に身を包んで立っていた。
おいおいおい、こりゃどういう無理やり設定だ……と桂馬は心の中で肩をがっくりと落とした。
/To Be Continued