「もう私は女として生きるわ!!」  
「うるさい!! 女らしさなど強さに必要ないんだ!!」  
いま、桂木桂馬が潜む草陰を挟んで、二人の女子が拳を交えている。  
一人は舞島学園高校女子空手部の主将であり、古式武術・春日流羅新活殺術の伝承者たる春日楠だ。そして信じがたいことに、相対しているもう一人もまた、春日楠その人だ。  
「『男』の主将と『女』の主将が闘ってます!! 止めましょーよ――神様!!」  
桂馬と同じく身を潜めている悪魔・エルシィが葉っぱ越しに彼女らを指差す。  
「冗談だろっ」  
半ば本気に否定する桂馬だった。それもそのはずで、向こう側でやり合っている春日楠たち≠ヘ、人間業とは思えぬ速度で技を繰り出しているのだ。桂馬なんぞが割って入ったら、命がいくつあっても足りない。  
「銃撃戦の中に飛び込むようなもんだ。あのパンチに当たってみろ、死ぬぞ」  
「は……羽衣で戦闘服を作りました。これなら爆弾に当たっても大丈夫です。多分……」  
「いらん」  
エルシィの羽衣が雲のように膨らむと、鎧を象った。見た目は頑丈そうであったが、上っ面ばかりが強くても中身が桂馬ならなんにせよ同じことだ。  
「止める必要ない。決着をつけない限り、主将の心のスキマは埋まらない……」  
心のスキマ――それは誰しもが胸に抱えているものだ。自分ではなかなか気付かない、かと言って他の誰が気づいてやれるとも限らず多くの人が持て余している。その闇穴を棲家にし糧とするのが、地獄から抜け出してきた怨霊とも呼べる存在――駆け魂だ。  
駆け魂は心のスキマ由来の負のエネルギーを源に、子供として転生するために人間の女性に寄生する。  
ついこの間、桂馬は駆け魂についての見識を検めた。これまで駆け魂に取り憑かれた女性には変な娘が多いとはエルシィの言だが、桂馬はそれを駆け魂の特性によるものだと判じた。  
いわく、駆け魂は捲れた心のスキマを広げるがゆえに、行動が極端になってしまう。  
桂馬はここまでを振り返り、攻略してきた少女たちに得心がいった。行動の極端さもさることながら、スキマを埋めたいという想いの強さが、一つの行為に集約しているのではないか。  
つまるところ、垢にまみれた言葉を借りるならば、心も体もというあれだ。  
心を満たすのは恋愛でも、身体を満たすのは恋だけでは足りないのかもしれない。男女の行きつく先のたいがいは身体も結ばれることであるし、より深い関係になるのには欠かせないだろう。  
桂馬はちろちろと自分の中で燻ぶる蝋燭の火を、煩わしいとは思っていなかった。安寧を求めた結果を彼だけが憶えている。彼だけが忘れていない、忘れてはいけないと感じていた。  
前方では、二人で一人、一人で二人の少女がなおも拳を交えている。  
「いつも私の心で暴れてくれて!! 今日こそ黙らせてやる!!」  
本来の春日楠が、咆哮しながら桂馬にとっては必殺の左ストレートを繰り出す。対するわずかに色素の抜けた春日楠の分身は、軽々しくそれを躱すと、手をひねり上げて背後に回る。  
「うあ!!」  
左腕を捻り上げられた楠は、痛撃に顔を顰める。  
「武道なんてくそくらえ!! 今日から私が本当の楠よ!!」  
楠から分身したもう一人の彼女は強かった。本体の彼女よりも軟弱なものに心を動かされるくせに、我慢がないだけか強靭だった。  
「負ける訳にはいかない!! 私がしっかりしないと……春日流は潰れる!! 終わる!!」  
しかし楠は、強い眼光を湛えて歯を食いしばりながら叫ぶ。  
ずっと男でいるしかなかった。春日家には男の子が生まれず、楠は家督を継ぐために女であることを捨て、男でいることを選んだ。  
「あんな道場潰れちゃえ!」  
 
確固たる想念を破るように、もしかしたら楠の本心であるかもしれないことを口走りながら、もう一人の楠が彼女を突き飛ばした。  
公園の地面をごろごろと転がっていく楠を、  
「キャッ!!」  
草陰から出てきた桂馬ががっしりと受け止めた。  
「?」楠が恐る恐る目を開けて肩に載る手を見つめる。「!!」  
「苦戦してますね。主将ほどの方が……」  
「う……うるさい!!」楠は愕き、顔を赤らめたかと思うと桂馬の手を乱暴に振り払った。  
「勝つ方法、教えてあげましょうか?」  
桂馬の言葉に、楠は眉根を寄せて訊ねた。  
「なに!?」  
「しかも……瞬殺!!」  
二人は正座しながら言葉を交わす。  
「い……いらない!! 余計な口出しをするな!!」  
その間にも、桂馬の前に座る楠から分かれた分身が、つかつかと二人に歩み寄ってくる。  
「カンタンですよ。ホラ」  
桂馬はなんてことないように一つ言うと、そっと手を楠の左側頭部に当てた。彼が手を離すと、そこには一輪の花が髪飾りとして咲いていた。  
「な!? なんだ!?」  
楠は頬を紅潮させながら取り乱す。桂馬はそんな彼女を見て一つ笑みをこぼすと、  
「そもそも闘う必要があるんでしょうか? いっそ彼女を受け入れればいいんです!!」  
握り拳を作って、満面の笑みでとんでもないことを言いのけた。  
「女の子らしく、しかも強い!! かわいい武道家をめざしましょう!!」  
世の中では、○○すぎる●●というフレーズが流行っているし、と桂馬としてはナイスアイデアだったのだが、  
「か、か、簡単に言うなーっ!!」  
楠は喚きながら拳を桂馬の頭に振りおろした。ごつん、という鈍い音が響く。  
「お前は武道をなめてる!! チャラチャラして強くなれるか――――!!」  
すると、桂馬の後ろから微かに色合いの異なるもう一人の楠が顔をのぞかせて、彼の髪を掴みながら嘯く。  
「そうよ楠!! こんな奴の口車に乗るな。私は女の道を極める!! 道場で過ごす時間はない!!」  
二人して互いを無下にするような物言いを捲し立てた。  
「「何かを極めるってことは!! 何かをギセイにすることなの!!」」  
二人の春日楠が口を揃えて放った言葉に、桂馬は眼鏡のブリッジを押し上げて平然と応対する。  
「なんだ。両立できないのか。偉そうなこと言ってるけど、大したことないな」  
「なに……?」  
本物の楠の方が、地獄の底から響いてくるような低い声で言う。二人ともが鬼の形相で桂馬を睨みつけている。  
「よ……世の中にはかわいくて強いものもある!!」  
桂馬はたじろぎながらも、必死に声を張り上げて説得を試みる。  
「たとえば!?」  
「珍しい話じゃないですよ、ゲームでは」  
「ゲーム!?」  
ずい、と身体を乗り出して楠(本体)ががなる。  
「じゃ……じゃあ猫はどうです!!」桂馬は怒り心頭に発している楠を前に、肝を冷やした。「主将が好きな猫だって、ねずみを狩るハンターですよ!!」  
猫のこととなると途端に言葉を失くした楠は、隣に座るもう一人の自分を「ひ……人は違うよね!! なんか言って」と肘で突いた。  
「そうよ!! 人と一緒にするな!!」  
桂馬はその言葉を待ってましたと言わんばかりにすくっと立ち上がると、背後にあるジャングルジムの頂点を指差した。  
「人だって!! かわいくて強くなれる」  
ジャングルジムの天辺では、エルシィがさきほど羽衣で模した鎧を身につけて佇立していた。  
 
「神様――――っ行っきますよ――――」エルシィは桂馬に手を振りながら、ジャングルジムの上から飛び降りた。「つおりあ――」  
鎧武者姿の悪魔少女が地面に降り立つと、大きな音を立てて少女を始点にして地割れが起きた。桂馬の脚、二人の楠の間を割るように走っていく亀裂に、三人は一瞬凝然となったが、彼はすぐに振り向いてエルシィを追い払った。  
「バ……バカバカしい!!」色素の確かな楠が、裂けた地面を前にして声を荒げる。「こんなおふざけに付き合うことが、」  
「それこそ無駄だ!!」  
薄い色をした楠が、言葉を遮るように語を継いだ。さすがもとは一人の人間だ、コンビネーションは抜群だった。  
「ふざけてなんかいない……!!」髪を掴まれ襟を締め上げられてなお、桂馬は動じずに二人に声をかける。「何かをギセイにして、手に入れたものは……結局何かが欠けている」  
二人の楠は、桂馬の真剣で揺るぎない瞳に、眼鏡のレンズに映る彼女たちに睨まれていた。  
「もっと大きな強さを追うべきです!! 主将!!」  
桂馬の大きな声に、二人は思わず後退し、顔を強張らせてしまう。両者とも返す言葉が見つからずに、口を開きあぐねていた。  
「じゃあ……今日のデートも…………主将にとって無駄だったんでしょうか!?」  
「そんなの無駄……」  
「では、なかったよ……」照れざまに張った楠の声を、しかしもう一人の楠が遮った。「楽しかった」  
告げた言葉に、本当の楠が目を瞠り、弾かれたように視線を動かした。  
「ちょっ、ちょっと、お前何言ってんだ!! 裏切るな!!」  
「裏切ってないよ」隣でぎゃあぎゃあと喚き散らす楠に、薄い楠は口元に手を当てながら微笑んだ。「お前も楽しかったはずだよ。だって……同じ私なんだから……」  
言い返すことも手をあげることも出来ずに、楠は顔に紅葉を散らしているだけだ。  
そんな楠の佇まいをしげしげと観察した分身は、桂馬に歩み寄って低い肩に肘を載せた。  
「かわいくて強い武道家か、それ、いいな!!」桂馬が横目で彼女を窺った。「でも……不器用なんだ、私たちは」  
二人の楠が、少しの距離を開けて互いの視線を結ぶ。辺りはすでに夜の帳が下りていて、人っ子一人見当たらない。街灯の明かりと月明かりだけが三人の影をわずかに地面に投影している。  
「私は、あきらめるよ」夜闇の空気に溶け込んでいきそうなほど柔らかい声音で、分身が唇を動かしていく。「今日で満足した。ひとまずお前に譲るよ」  
フリルの多くついたドレスみたいな服に身を包んだ分身は、嫣然とした笑みをその顔に湛えている。  
「もし、お前が武道家として十分に強くなったら、女の私を呼んでくれ」  
真っ向から視線を受け止めた楠は、きりっと佇まいを正した。  
「…………ああ」  
フリルのついた女の子らしいワンピース姿の少女。かたや、その上に道着を羽織った少女らが、相対する。  
「最後に一つだけいいかな……」  
女の子らしい恰好をした楠が、もう一人に近づくと、ぼすっと煙草の煙が壁に当たったように霞んでいった。  
かと思うと、楠の手が勝手に桂馬の肩を掴んでいた。  
「え……」  
顔がひとりでに、桂馬に近づいていく。  
「な!? なんだ……身体が!!」  
話そうとすると、楠の奥深くから声が反響してくる。  
『思い出だよ……』  
「なっ何言って……うわ――うわ――うわ――」  
「いててて主将!!」  
今や桂馬と楠は、カップルのように熱い抱擁を交わしている。  
『桂木のこと……きらいか?』  
「ま、待て!! 待って!! 待って!!」  
自己暗示のように繰り返す楠の目の前には、桂馬の男とは思えないほど綺麗な顔がある。頬は上気していて、二人の呼吸が混ざり合って間に新しい空気が生まれる。  
楠は眉尻を下げて、揺れる瞳で桂馬を見つめた。  
二人が同時に瞼を強く下ろすと、熱い感触が唇を伝って全身を流れていった。その時ばかりは、夜の涼しさが熱帯夜のように感じられた。  
 
桂馬の唇から、ゆっくりと離れていく感覚。完全に距離が開くと、楠はぼっと顔をさらに赤めた。  
「何だかこっちまで熱くなってくるな」  
突如として入って来た声に、桂馬と楠ははっとして声のした方向を見やった。そこでは、さっき楠に入ったはずの分身が、もじもじとしながら立っていた。  
「おい!! 何でお前がそこにいるんだ!!」  
わなわなと肩を震わせながら、楠が声を張り上げた。  
「私が無理強いさせたキスなんて、価値がないだろ」  
したり顔で言う分身に、楠が訳が分からないといった様子で呆然となった。たちまち、楠があたふたと狼狽し始めたのが、桂馬には何だか新鮮に思えた。  
「じゃ……じゃあ、キスをしたのは……」  
「そ、お前の意思だよ。まあ私の意志でもあるんだが」  
ふふ、と手を口に当てて不敵に笑う分身に楠は手を振り上げたものの、しなしなと降ろした。すでに両者とも戦意は失っている。  
「うわ――うわ――うわ――――――!!」  
自らの行為の大胆さに気付いたのか、楠がその場でしゃがんで、顔を覆ってくぐもった声を漏らしている。その行動だけを見れば、桂馬からは楠が純然たる女の子に思える。  
いまではその行動の大胆さも、桂馬には駆け魂由来の特徴だということが分かっていて、少しだけ安堵している。人間、未知なるものと既知なるものに対する心持ちは、大いに隔たりがあるものだ。  
「ほら、何やってんだ。お前、桂木のこときらいじゃないんだろ?」  
「それは……そうだが…………」  
座り込む楠を宥めるようにする分身は、まるで双子の兄弟のような印象だ。そっくりそのままなのだから、事実双子と言っても通じてはしまうだろうが。  
「お前は私を消したいんだろう? それには、もっと軟弱なことをして、お前自身が慣れていく必要があるように思えるんだが」  
言うと、分身はちらりと桂馬を横目で見た。彼女は楠の手を引っ張り上げると、そのまま桂馬の胸を押して背後にあったベンチに座らせる。  
「しゅ……主将!?」  
桂馬を挟むようにして二人の楠がベンチに腰を下ろすと、分身が桂馬の太ももにそっと手を置いた。  
「カップルがこうしているのを見たことがあるんだ」  
ほらお前も、と言わんばかりに、分身が目線で楠を促す。楠は桂馬をちらちらと見ながら、おずおずお手を桂馬の太ももに置いた。  
二人の美少女から太ももを撫でられると、桂馬としては致し方なく反応してしまう。  
分身が桂馬と楠の顔を掴むと、再び口づけを強要した。二人は流されるように、互いの唇を押し付け合った。分身が楠の耳元で何かを囁くと、楠は目をしばたたかせながら顔をふるふると振った。  
しばらくじっと動きを止めていると、楠が目を強く瞑りながら、桂馬の唇を舐めた。  
「……ンッ!?」  
予期していなかった行動に、桂馬の口から声が漏れたが、もれなく楠の口の中で霧散した。あの主将がと思うと、にわかには信じ難かったが、視界の隅でうっすらと笑っている分身を見て得心する。  
分身の入れ知恵で、楠は普段の彼女からは考えられない、いわゆる軟弱≠ネ行為をしてくる。  
唇を割って入ってくる舌は熱く湿っていて、桂馬の舌先にちょこんと触れると、勢いよく絡みついてくる。ねっとりとした唾液の感触に、楠も思わず息を漏らす。  
 
二人がディープな口づけを交わしている間に、分身は桂馬のズボンのベルトを緩めてジッパーを下げていた。とても武道家の手とは思えない繊細な指先がズボンの中に侵入して、硬くなりつつある一物に触れた。  
楠の女の部分である分身は、慣れたとは言えないまでも、本人よりは女性について、ひいては男性について熟知しているのだろうか。  
分身が窓から一物を一所懸命に取りだしたのと、楠が彼女の行為を見咎めたのはほとんど同時だった。  
「お、お、お前!! なな、何やっているんだ!?」  
顔を真っ赤に紅潮させた楠が、驚愕に柳眉を逆立てている。どうしても視界に入ってくる桂馬のそれに、思わず彼の襟首を締め上げた。  
「桂木もだ!!」  
自分からキスを、あまつさえ舌を入れて来てなんと理不尽な、と桂馬は毒づきながらも、頬を掻くだけでやり過ごす。  
「さっき二人でソフトクリームを舐めてたけど……軟弱の頂点はあんなものじゃない」分身は艶美に笑むと、桂馬から取り出したモノに顔を近づけて一つ舐めた。  
楠は、分身の思いがけない行為に口を鯉のようにパクパクとさせている。ともすれば自分が男のモノを舐めているのを眺めているのに等しいのだから、それもひとしおだろう。  
「ほら、お前もやるんだ」  
「で、で、で、出来るか――――――ッ!!」  
肩を震い戦かせながら、楠がきっぱりと声をあげた。言葉を受けた分身は、増長したように欣然と桂馬のモノに舌を這わせる。  
「主将……!! うっ」  
「か、桂木……変な声出すな!」  
分身の行為で桂馬は顔を歪めている。それを見て、少し機嫌が悪くなった楠が、彼に八つ当たりをする。  
「我ながら……まだまだだな」  
分身が舌舐めずりをすると、さっきのように楠の中に溶け込んでいった。かと思うと、身体が勝手に動き出して、桂馬の脚の間に跪いた。  
「お、おい!! お前、何を!!」  
『決まってるだろ。桂木を悦ばせてやるんだ』  
「よ、悦ばせるって……ッ」  
もう一人の、しかし真実自分の言葉に、楠は狼狽して慌ててしまう。  
身体の主導権は向こうに握られていて、動かせるのは口くらいのものだった。顔が桂馬の股間で隆々と天を仰いでいるモノに近づくと、楠の頭の中で声が反響する。  
『ほら、さっきソフトクリーム舐めた要領だから』  
あくまでも口は楠自身の領分で、つまり自らの意思で舌を――。  
ちらっと桂馬を見上げると、彼はそそくさと顔を逸らした。照れていて、かわいいと感じる楠がいた。  
楠は桂馬の太ももに手を置くと、おずおずと舌を彼に触れさせた。なんともいえない暖かさが、舌を通して口に広がっていく。  
「そうだ、それでいい」  
いつの間にか本体から分離していたもう一人の楠は、彼女の横で手取り足取りレクチャーする。  
裏筋を這い上ってくる躊躇いがちな舌使いが、桂馬の腰を痺れさせる。  
分身は桂馬のモノに手を添えて、楠が舐めやすいように支えている。それだけにとどまらず、楠の舌を邪魔しないように器用に扱いてさえいる。  
二人にペニスを責められながら、桂馬は伸吟しながらも、なぜだか二人の行為を目に収めてしまう。女は耳でも感じると言うが、ならば男は目で感じる生き物なのかもしれない。  
楠は道着を脱いで、いまはフリルのついたワンピース姿だ。胸元から大きな胸が覗いていて、いっそう桂馬の男の部分が反応してしまう。  
二人はペニスを挟むように、両側から舐めている。いわゆるダブルフェラというやつで、なかなか現実では体験できないだろう。おまけに双子以上に似ている、というより同一人物からのだ。  
「ちゅぷ……桂木、どうだ?」  
「……ッ………………」  
分身は勝気に桂馬に質問を投げかけてくるのだが、当の楠は目を閉じて物言わぬ花のような出で立ちで、けれど舌だけは丹念に動かしている。  
「いい、です……主将」  
「そうか」  
分身は額面通りに受け取ったのか、満更でもなさそうに顔を綻ばせた。桂馬としても、気持ちがいいのは確かだった。  
楠の頭に手を当てると、分身は先端を口に宛がわせてそのまま楠の顔を桂馬の股間に埋めた。  
「――ンぶッ!?」  
 
咄嗟の出来ごとに慌てふためく楠だったが、口に一物が入っているので口論も空しい。分身は上気させた頬で、  
「まだまだ軟弱な行為はたくさんあるんだから」  
と楠の頭を上下に、ドリブルをするように動かした。  
「んっ、んっんうっ――ッ!!」  
楠の口の中は暖かく、ペニス全体に纏わりついてくる唾液や舌が何とも言えない快感をもたらしてくる。  
思いがけない行為だったからか、楠は半ば嫌がっているために、まるで楠の口腔を無理やり犯しているような幻想にとらわれてしまうのも、やむなしと言ったところだろう。  
「っう――ぷあぁッ!! げほっけほっ…………な、何するんだ!!」  
楠は激高し、傍らで彼女が吐き出したペニスに舌を這わせる分身を問いただす。  
「何って……ちゅぷ…………お前の言うところの軟弱≠ネ行為だが」  
分身はまともに取り合わずに、今度は手ずから口を開けて桂馬の一物を頬張る。手順をわきまえているのか、彼女の口は楠のそれよりも洗練された動きをする。  
すぼめられた唇が吸いつくようにペニスを包み込み、舌は丹念に裏筋をこそばゆく刺激してくる。そのまま顔が上下に動き、吸われる動きに合わせて唇もペニスを締め付ける。  
分身がペニスをゆっくりと口から離す。唾液が棒を伝ってズボンを汚さないようにする配慮だ。どこまでも行き届いた振る舞いを見せる分身に、楠は自分のことのように顔を赤らめている。  
「んちゅ…………何ぼーっと突っ立ってるんだ? 次は、お前が自分でやるんだ」  
「わ、私が!?」  
二人が桂馬の脚の間で口論を繰り広げる様は、彼からすれば落ち着かなかった。露出した性器を前にして、二人はなおも口を動かす。  
「そうだ。軟弱の頂点はこんなものではない」  
「それは……分かったが……」  
眉をひそめながら、楠は桂馬の一物を凝視する。血管が浮き出てときおり弾かれたように動く。先っぽからは何だかわからない液体が、街灯の明かりに光っていた。  
楠は口をもごもごさせて下唇をぎゅっと噛んだ。深呼吸して落ち着かせると、口をぷるぷると震わせながらも大きく開いた。そのまま、あむ、と桂馬のペニスを咥えこんだ。  
上目づかいに桂馬を見上げてくる楠は、眉尻を下げて不安げな表情で口をもごつかせている。その刺激さえ、桂馬には心地よく伝わってくる。  
顔を上下に揺すり始めた楠を尻目に、分身は彼女の背後に音もなく回り込む。  
「んッ!?」  
「いいから、お前はそのまま口でしてろ」  
分身はにべもない言い方をすると、桂馬の前で跪いた楠のワンピースの裾に手を入れた。楠が口を離そうとすると、彼女は手でそれを押し止めて、無理やり奥深くまで咥えさせた。  
「……ン……ごほぉッ!!」  
噎せる楠などお構いなしといった感じに、分身は彼女の下着越しに性器をさすった。  
「んんんッ!!」自分でも触れないところに刺激が与えられて、楠は呻き声を漏らす。「んっ――ンん!?」  
「ほう……もうこんなとは。お前、『女』の私より軟弱かもしれないな」  
若干せせら笑い気味に、分身が言うと、桂馬のモノをしゃぶっている楠はうっすらと目尻に涙を浮かべた。  
分身はそんな楠を挑発するように、手の動きを早めていく。割れ目を念入りに擦ると、じっとりとした湿り気が指の腹に落ちてくる。その上にある萌芽を指で押すと、  
「ンんんッ――――!?」  
「いてて、いて、しゅ、主将、痛いです!!」  
思わず桂馬のモノを噛んでしまった。慌てて口を離し、申し訳なさそうに楠が謝った。  
「す……すまない」  
悄然と肩を落とす楠は、もはや純度100パーセントの女の子だった。尻目遣いに分身を睨みつけるも、分身は先手を打つように指で彼女の敏感な部位を弄ぶ。  
「あっ……ひぁッ…………や、やめ、ろ…………」  
「口が休んでいるぞ? ん?」  
楠の制止を振りほどき、分身はふたたび彼女に桂馬のモノを咥えさせる。今度は無理やりではなく、促すという形でだったが、楠は従順に従った。  
分身は下着を太ももまで降ろすと、直に楠の女の部分に触れた。にちゃにちゃといういやらしい音を立てながら、意地悪そうな顔で楠を虐めかかる。お尻を撫で、性器を弄る分身は、まるでレズビアンのごとし。  
ようやく分身のOKが出ると、楠は桂馬のモノを口から吐き出し、大きく息を吸い込んだ。  
 
「はあ……はあ…………はあっ」  
「休んでいる暇はないぞ」  
分身が伝法な口調で言うと、彼女は楠のワンピースを肩から脱がしにかかった。  
「な……!? ちょ、ちょっと待て!!」  
楠の、フェラチオで顎が緩んでいるのか、心持ち呂律の回っていない言葉を無視し、分身は肩から肘、腕を袖から抜いていく。あっという間に、楠の上半身があらわになった。  
ふくよかな胸部が夜の明かりに照らし出されて、美しいことここに極まれりだった。不躾だが、今まで攻略した子のどれよりも大きい。うっかり見惚れていると、楠がはっと胸を手で隠した。  
「み、見るな!!」  
自らを掻き抱くように胸元を覆う楠の顔は、もうトマトのような赤さを持っていて、頭に血が上っているのではないかと少々不安になった。  
「隠すな」  
分身が強い力で楠の腕を剥がしにかかった。ぷるん、と豊満なバストが重力に従って揺れた。男のロマンと言われる所以を知った気がした。  
楠は俯いて歯をぎりぎりと鳴らしている。分身は取り合わずに彼女の胸を寄せて谷間を作った。深い谷が陰影となって現れると、ごくりと桂馬は唾を呑みこんでしまう。  
「これで、あれを挟むぞ」  
「はあ!?」  
次々と楠を襲う未知の行為に、声を荒げる。どうやら、分身の楠はあらゆる行為を主たる楠にやらせたいようだ。  
「いいからじっとしてろ」  
分身が啖呵を切ると、ぐいっと楠の身体を桂馬に密着させるようにベンチに落ち着けた。ちょうど胸が股間の目の前で、分身は双丘を左右逆に開いて、桂馬のペニスを間に入れた。  
ぐにゅっと胸を寄せつけると、ペニスが楠の胸に呑み込まれた。ペニスを包み込む柔らかな感覚に、桂馬は我慢できずに呻き声をあげてしまう。  
「うあ……!!」  
先走りが胸に垂れたのを皮切りに、分身が楠の胸を持って上下に揺する。  
「んっはあっ――……」  
胸の間を往復していく感覚に、楠も艶っぽい声を漏らしてしまう。胸の間で擦れる触感はいままで感じたことのないものだ。  
分身がその上に唾液を垂らすと、いっそう滑りが良くなって水のはじける音が三人を包み込むように響く。  
「ほら楠、何やってるの?」自分の仕事をなさいと、分身が楠の耳元で息のこもった囁きをかける。「自分で、自分のとこ、触るんだ」  
「じ……自分で……など」  
「軟弱じゃないか」  
分身は立てた膝で楠の背中を小突き、自慰行為を促す。苦々しい、泣きそうな顔を浮かべる楠は、逡巡しながらも分身の言う通りに、空いていた手をゆっくりと自分の股に持って行った。  
「そのまま、指を立てて――」  
吐息交じりの囁きが耳を撫でると、それだけでも敏感に楠は反応してしまう。振り払うように、分身のレクチャー通りに手ずから指を蠢かせる。ひっかくように動く指に、とろとろと粘っこい熱い液体が絡んでくる。  
「こ……こんなの、私じゃ…………ない」  
胸で一物を扱かされ、おまけに自らを高めているの姿は、分身が思うところの軟弱の頂点に近かった。だが、分身はまだそうは思っておらず、より軟弱の高みに導くために、先を見据えて石を置いていく。  
「舌伸ばして先を舐めるんだ」  
胸の間からのぞくペニスの先端に、楠は瞑目したまま舌先を触れさせる。液体が舌にこびりついたが、糸を引いて遠ざかっていく。  
指は留まることを知らずに動き続ける。まるで楠の意思の外に運動神経があるようだ。  
分身は胸での奉仕を終わらせると、彼女も桂馬のモノに舌を這わせ始めた。二人して交互に舌を上下に蠢かせながら、音を立ててペニスを責め立てる。  
分身も胸を露出させると、今度は二人の胸でペニスを挟んでくる。四つの膨らみの中心で溺れているペニスを、二人は激しく扱いてくる。ぶつかりあった彼女らの胸のふくらみがコケティッシュだった。  
楠はもはや逆らうことなく、分身に追従している。恥じらいがちに目を伏せたりする彼女は、男勝りの彼女にも負けず劣らずの魅力を放っていた。  
二人が行為を止めると、さすがに疲れたのかベンチに座った。しかし、分身は疲れを知らないのか、息をもつかせずに楠の身体を動かす。  
「……な、なにを」  
分身はベンチに座った楠の脚をM字に開脚させると、踵を縁に載せた。方脚をあげさせて下着を引き抜くと、分身は背もたれ側に移動して、後ろから彼女の性器を弄り回す。  
 
「……んっ……はあッ!?」  
「こんなに濡らして……『男』のお前が聞いてあきれるとは思わないか」  
「い……言うな…………見るな…………」  
楠は顔を赤らめ、目尻に涙を浮かべ、目を強く絞って頭をイヤイヤと振っている。必死に自分を否定しようとしている姿がそこにはあった。楠は漏れ出る声を少しでも抑えようと、両手で口を覆う。  
「お前は二人でソフトクリームを舐めることを軟弱の極みだと言っていたな」  
分身が背後で含み笑いを漏らしながら言い続ける。  
「桂木のモノを舐めたのも、胸で挟んだのも、自慰をしたのも、まあ軟弱だ。だが、まだ極みではない」そこでタメを作ると、分身は耳元で熱い吐息を吹きかけるように囁いた。  
桂馬からは聞こえなかったが、楠は分身の言葉を咀嚼し反芻すると、目を瞠って肩越しに分身を見上げた。泣きそうな表情で、とても真の男を纏っていた人だとは思えない。  
楠が分身と桂馬の間をラリーしていると分身が、  
「桂木、ちょっとこいつの前に立て」  
「え……はあ」  
桂馬はしずしずと立ち上がって、辺りを気にしながら楠の前に立ちはだかった。互いに性器を露出していて、人がいたら一発で猥褻物陳列罪で通報および逮捕されることは請け合いだ。  
楠は桂馬を前にして、目を伏せて必死に何かに耐えているような表情をし、ゆっくりと開けた目はうるうるとさざ波に揺れる湖面のような様相だった。  
「わ……私の……」楠の口がためらいがちに開き、訥々と言葉を漏らしていく。「私の…………お…………に」  
及び腰の楠は、下唇を噛んだり大きく息を吸い込んだり、苦しげにしながらも、敢然と言葉を紡ぎだしていく。  
「私の…………ここ……に、桂木の……を…………挿れて…………ください」  
この一言が、分身の考える至高の軟弱さを孕んだものだった。桂馬も、それには頷かざるを得なかった。後ろめたさから軟弱とは言い難いものの、分身がどういう思考で事ここにいたったのかは想像に難くない。  
おそらく、自ら快楽に耽っていくというのを軟弱ととらえたのだろう。  
桂馬は凝然となって身動きが取れなかったが、次いで発せられた分身の言葉に操り人形のように身を動かしていた。  
「桂木、どうした」  
「は……はい」  
決死の言葉を言い終えた楠は、すんすんと鼻を鳴らしながら濡れた目で桂馬を見つめていた。さすがの桂馬も照れたし、すごくかわいいと感じた。  
ペニスの先端を楠の膣に宛がうと、そこに籠った熱がチロリと棒を撫でていく。空気の膜を破るようにして推し進めると、ぬめっとした感触がペニスから身体に走り抜ける。  
少し触れさせてただけなのにこの高揚感とは、桂馬は憶えずに昂っていたらしい。  
ゆるゆるとペニスを深みに嵌めていくと、楠は収縮を繰り返しながらも口を開けて桂馬を迎え入れてくれる。予想以上のきつさで、半ばまで入れた時には楠は肩で息をしていた。  
「うっ……あっはあ…………」  
脚はぶるぶると震えていて、手はベンチの縁と背もたれを強く握っていた。  
桂馬は一旦腰を引くと、硬い土を掘り返すように何度か引いては突いてを繰り返していく。だんだんと奥まで入るようになると、ある地点を境に、ぐんと桂馬の身体が引っ張られるような錯覚に陥った。  
ペニスがするりと楠の中に入り込んだのだ。それを、まるで引きずり込まれたかのように錯視してしまったのだ。  
「っあああ――――…………」  
楠が塊のような吐息を長く吐くと、切なげに震えた声が口から漏れてくる。瞼はきつく下ろされていて、瞼の裏に何を見ているのかは桂馬にも分からない。  
桂馬が腰を落とすように打ち付け始めると、楠は声を荒げて普段ではあげないような嬌声を放っていく。  
「はあうっ――っぁああッ!! うっくううぅっ」  
分身は背後からベンチに身体を移動させると、楠の傍らに座って彼女の胸や性器を舌と手で愛撫していく。  
「んっふああっ――やっやめ…………!!」  
分身は楠の乳首を口に含むと、舌で転がして味わっていく。指は結合部近くにするりと入り込んで、ぷっくりと充血した萌芽を弄っている。  
ペニスによる刺激にクリトリスへの愛撫など、一人の人間だけでは味わえない快感に、楠は身も心も真っ白になっていくのを感じた。  
楠の膣は桂馬のペニスの形に拡縮を一定に保っている。彼女は桂馬のモノの形をダイレクトに感じていたし、深くまで杭を突き刺されるような衝撃に歯を噛み合せて耐えていた。  
 
気を緩めれば、何かが壊れてしまいそうだったからだ。なのに、それを打ち壊すような囁きが、半無意識状態の楠に届いてくる。  
「ほら、イっちゃえばいい」  
言われると、下半身が途端に熱を持ち始めて疼いていくのが分かった。疼きは波になったと思うと蛇になって、楠の身体中を舐めるように這いずり回って駆け抜けていく。  
全身を絡め捕る何かに、一種の解放感の兆しが差していた。  
桂馬が深く腰を落とすと、彼の体重の分だけより深く長くペニスが中を押し広げる。抽出に身体を自ら揺すり始めた楠を見て、分身は満足そうに笑むと桂馬にそっと視線を向けた。  
「桂木、もうイきそうって顔してるな」  
「しゅ……主将――だって」  
額に汗を浮かべながら、桂馬が応える。分身はたおやかに微笑むと、  
「出すんだったら、私が受け止める」  
楠は頭がスパークしていて、喘ぐばかりで言葉を認識していない。だから分身が、その分行動せねばならなかった。  
桂馬は首肯すると、腰のペースを速め強くした。  
「――〜〜〜ッ!!」  
楠が声にならない声を漏らして、指先からつま先までを痙攣させる。二人の結合部では水飛沫が飛び散って、桂馬のズボンは楠の潮でしとどに濡れていた。  
ラストスパートと言わんばかりに桂馬が抽出を早めると、楠は動きに合わせて息も絶え絶えに声を漏らす。  
「あっああアッ!! ンんんぁああっ!! うぅうう、うクうううっ――――…………ッ!!」  
「主将……ボク、も、もう――」  
桂馬がイキそうになると、分身が咄嗟に楠から桂馬を引き剥がした。すぐに果てそうに脈動するペニスを素早く手で扱き、分身は滑らかな舌使いで、膣内と遜色ない刺激を与えてくる。  
じゅぽじゅぽと音を立ててペニスを咥えこむ分身が、目でこのままイきなさいと訴えていた。桂馬は手ずから分身の頭を持って腰を振ると、  
「うあああッ!!」  
奥深くまで突っ込んで、欲望の塊を吐き散らした。  
「ンんンんンんんん――――――ッ!!」  
さしもの分身も、喉の奥で白濁を受け止めては噎せずにはいられなかった。したたかに咽喉を打つ液体が、生臭さと粘り気を伴って食堂に流れ落ちていく。  
喉の奥に張り付くような精液で、鼻からその男臭さが抜けていく。  
分身は手を休めることなく、搾り取るようにペニスを扱いている。舌も絶賛開店中で、射精中のペニスへの刺激ほど心地よいものもない。  
四度、五度とペニスが脈打つと、ようやく射精がおさまった。  
分身は唇をすぼめて、零さないように、根元からじっくりと吸い上げていった。ちゅぷっという音とともにペニスが口から出てくると、分身は口元を押さえて、にわかに顔をしかめた。  
桂馬を上目づかいに見上げると、目だけで笑って口をあーんと開けた。口の中には大量の精液が小さな湖のように貯められていた。分身はそのまま立ち上がると、楠の元へと顔を近づけた。  
「はあっはあっ…………?」  
悶絶し、虚ろな瞳で分身を見つめる楠は、分身が何をするのか見当もつかなかった。分身は同じく目を弓なりにして笑うと、楠に勢いよく口づけした。  
「……ッ!!」  
桂馬も驚いたが、それ以上に楠は面食らった様子だった。驚倒せんばかりに背を弓なりにして顔を外そうとするのだが、そんな楠に覆いかぶさる分身は熱いキスを御見舞している。  
「……ん、ちゅぷっ」  
「ンんッ!? んん!!」  
二人は桂馬の精液を口の中で転がしていた。ほとんどは分身が楠に流し込んでいたのだが、舌を絡め合い、互いに桂馬を味わっていた。  
分身が口を離すと、楠は目を白黒させていた。だがさきほどまで悶絶としていた楠の頭は、まだ事実を像として結んではいなかった。分身は呆れかえるも、くすくすと笑みをこぼしていた。  
「桂木、今日は良かったよ」  
露出した性器を仕舞い込んだ桂馬に、分身の方が流し目で言ってくる。  
「何だか満たされた気分だ」  
分身は言い残すと、楠の肩に手を当てて彼女の中に溶け込んでいった。  
ぐったりとベンチに背を預ける楠は、気息奄々に目を閉じている。口元からは少し、桂馬の精液が垂れていた。  
桂馬が楠の身なりを整えている間に、どこからかエルシィがやってきて、駆け魂の詰まったビンをこれ見よがしに掲げてくる。  
楠に毛布をかけてやると、桂馬はぼそりと「今日は疲れた……」と呟きを漏らした。  
辺りを見ると、ひび割れた地面があり、栞の時と同じくエルシィに直させるか、と桂馬は背後で小躍りする悪魔少女に心の中で合掌した。  
月明かりと街燈の明かりに照らされた楠は伸びていたが、そこにはたしかに『男』と『女』の一面を兼ね備えた一人の春日楠が座っていた。  
 
 
駆け魂センサーの反応でやってきた一人の少女が、上空からエルシィを見下ろしていた。  
少女はエルシィと同じ羽衣を肩にかけていて、頭にはドクロマークの駆け魂センサーをつけていた。  
特徴すべきは、身の丈以上もある大振りの鎌だろうか。怪獣の爪を連想させるそれを軽々しく抱えた少女は、ただ一言呟きを漏らした。  
「…………あれは………………エルシィ?」  
 
/To Be Continued  
 
 
 

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