「桂木はどこ――!?」  
瀟洒な洋館を思わせる建物に囲まれた庭園で、着飾った小柄な少女が何某の名を呼んだ。  
青山美生は青銀色のドレスを身に纏っている。肩紐がなかったのならば人魚と見紛うような美麗さで、彼女のほっそりとした身体のラインを浮かび上がらせている。  
(桂木のやつ、どーゆーつもり!? パーティーなんかに連れて来て!!)  
美生が頭を振ると、ツインテールとドレスと同色の髪を結っているリボンが揺れる。  
「今日の送迎の自転車がカボチャだった意味に気付くべきだった――――!!」  
桂木桂馬が美生の秘密を知ったのはついこの間のことだった。その秘密を守るために、協定を結んで送り迎えさせてあげていたのだ。それが今日、なぜかカボチャの自転車での送り迎えだったのだ。  
「ウチに来る招待状は全部無視してんのよ!! どーしてあいつが持ってるの!?」  
美生は周囲の建物を見回していく。中では今頃、豪華な食事とダンスパーティーが行われているだろう。けれど、それは彼女にはもはや関係のない事なのだ。そう思うと、じんと熱いものが込み上げて来そうになる。  
手持ち部沙汰にしていると、  
「美生様」  
彼女を呼ぶ声を耳が捉えた。  
「用意したドレスはいかがですか」  
月にかかっていた叢雲が、まるで彼の登場を歓迎するかのように散って行った。月光を道標にするように、光の中に桂木桂馬が確かな足取りで入ってきた。  
桂馬は白いスーツを着込んでいて、いつも着けている眼鏡も今夜は外している。雰囲気をがらりと変えた桂馬に美生は、  
(か……桂木? か……かわいい……庶民にも衣装ね)  
自分でも予期しなかった感想を持ち、一人で勝手にあたふたしてしまう。  
「じゃ、じゃなくって!! 誰がパーティーに連れて来いって言ったのよ!!」  
「いつも古アパートでは息が詰まるでしょう」  
桂馬はあわあわと取り乱す美生を余所に、あくまでも冷静だった。  
「たまには、本当の金持ちのイベントも必要と思いまして」  
月明かりに照らされる桂馬は、ついさっきまで目にしていた彼とはまるで別人のような風格を持っていた。紳士然とした態度は変わらないものの、その質がどこか上がっているような。  
「わ、私はそういうこと言ってんじゃないのよっ!」  
美生が声を荒げて、手で横の建物を指した。  
「大体ここはパーティー会場じゃない!! ここは裏庭よ、このすっとこ運転手!!」  
会場はあっち、と言わんばかりに指がつんつんと空気を突いている。  
対する桂馬はそれを知っていたかのような佇まいで、  
「いやーボク、踊りとか自信ないので、前もってお嬢様に教えてもらおうかと……」  
ずけずけと言い放つ始末である。  
これも桂馬の作戦であったが、美生には知る由もなかった。  
「踊り? お……お前、参加する気!? 冗談でしょ!?」  
美生が桂馬をバカにしたように笑う。  
「いいわ、お前ここで一人でパーティーやりなさいよ。客もボーイもシェフもいないけどね」  
しかし桂馬は美生のそんな態度を気にするそぶりも見せず、淡々とした口調で応対する。  
「メイドはいるみたいですよ?」  
桂馬が語尾を上げると、彼の背後からメイド服に身を包んだ悪魔――エルシィがトレイに飲み物を載せてやって来た。  
「お飲みものいかがですか――――」  
エルシィはメイドさんのイメージとは打って変わって、ぶっきら棒に飲みものを勧めた。  
「おい!! なんだこのチャラチャラした服はなんだ!? もっと地味なの作れよ!!」  
桂馬がエルシィを引っ張って美生から距離をとると、彼は悪魔少女に対して声を荒げた。桂馬はエルシィの持つ羽衣でメイド服を作って着ろとは言ったが、ドレスコードというものがあるだろうに。  
 
「いやがらせで――す」  
エルシィは悪魔らしいドロドロとした陰気を放っている。  
「うー私もドレスが着たいです」なんでメイドー。とエルシィが駄々をこねる。桂馬は「楽しもうとするなよ!!」と彼女を宥め賺そうとしていて、美生から見ればまるで夫婦漫才のようだ。  
(な、何? 桂木のやつ……し、知り合いなの!?)  
夫婦漫才と感じたのは美生なのに、彼女自身が自らの言葉に揺さぶられていた。  
「今夜が勝負だ!! 駆け魂を見逃すなよっ!!」  
桂馬とエルシィの顔が近付いたところで、美生は咄嗟に彼の腕を引っ張っていた。  
「桂木!! ダンス教えて欲しいんでしょ!!」  
美生はやけっぱちに桂馬にダンスを教えることにしたが、さきほど感じた気持ちが彼女にもよく分かってはいなかった。無意識に、引き込みたくなってしまったのだ。  
「庶民に与える時間なんてないんだから、一分で覚えなさい!!」  
熱をもった感情とは裏腹に、美生の口を衝いて出るのは命令風の氷の口調だ。  
「じゃ、はい、手握って」  
美生が桂馬の手を取ると、彼は身体を強張らせて心なしか顔を紅潮させている。  
「な……何よ!?」  
身構えられたことに、美生が目ざとく噛みつく。桂馬としては触れられることが苦手での条件反射だったが、  
「い……いや、別に……」  
と濁すことでどうにか傷にならずに済んだ。  
「て、て、手ぐらいでドーヨーしないでよ!! こ、こ、こんなのダンスじゃフ、フ、フ、フツーなんだから!!」  
「わ、わかったよ……」  
二人は慣れ合えない猫のようにギクシャクとしたやり取りをしている。  
月が見ている中で、二人は熱心にダンスレッスンを行っている。美生が手順を手取り足とり教えると、桂馬は素人とは思えない早さで一つ一つを確実に覚えていく。  
「結構飲み込みいいじゃない」  
まだまだダンスとは言えないものの、瑣末さが味となった二人のステップはなかなかに見物だった。  
「しかし、ダンスパーティーみたいな、まんがみたいな世界、本当にあるんだな……」  
桂馬が明かりのともった建物の一室を見上げながら、ぼそりと漏らした。  
「ふん、庶民的感情ね。本当の上の上の階級はこうなのよ」  
応えを返した美生は、得意げな表情で鼻を鳴らした。口元には挑戦的な笑みが描かれている。  
「縁のない世界だ……」洋館モノはやるけどね。  
「今、その気分を味わわせてやってるじゃない」  
ルンルンと弾むような笑顔で美生がステップを踏んでいく。すると、  
「これは青山さんのところの!!」  
二人の背後――洋館の裏口から上質なスーツを着込んだ男たちが嘲笑を浮かべながら歩いてきた。  
「美生さん!! こんなところで何を!?」  
「いらっしゃってるなら、中へどうぞ!!」  
見るからに卑下してくる男にも、美生は気丈な振る舞いを見せる。  
「べ……別に来たかったわけじゃ」  
「いやー青山社長は残念でした。今は借金暮しでアパート住まいとか……」  
「おい、失礼だろ、君。ハハハ」  
男たちの心ない言いように、美生は歯噛みして堪えるしかなかった。  
「誰だ、招待状送ったの」  
「ホントに来てるとはな――」  
「タダ飯狙いでしょう、クク」  
美生はぎりぎりと歯を合わせ、必死にこらえる。  
(ま……負けるもんか…………わ、私はパパの娘だ…………)  
俯いて悔しげに顔を歪めていると、美生の頭上から桂馬の声が降って来た。  
「……もうやめませんか。こんな世界にいて、どーなるんです? もうやめましょうよ……」  
「うるさい!! 私は本当に金持ちよ!! 金持なのよ!!」  
美生は桂馬を指差して続ける。  
「お前だって手伝うって言ったくせに!!」  
 
「もう十分ですよ。お父様も……もう満足されてますよ」  
 
美生の憤然とした態度とは違う、晏然といった語調で桂馬が語を紡いでいく。  
「死んだお父さんを忘れないために、お父さんの教えを守ってたんだよね。だから社長令嬢を演じ続け、お父さんの仏壇へお線香をあげなかった」  
桂馬が滑らかな、淀みない口調で豪語する。  
「でも、もう一人の人生を歩むべきだ!!」  
桂馬のはっきりとした言葉に、美生の脳裏で父のことが浮かび上がっていく。美生を抱き上げているパパ、卒業式に来てくれたパパ、そしてパパのお墓――  
「パパは……死なない!!」美生は拳を握り締める。「パパは私のココロで生きてる!! 私がパパの教えを守ってる限り!!」  
「でも昨日、君は笑ってた!!」  
桂馬は美生に近づいて、神妙な顔つきで説得を試みる。  
「いつも笑わない君が……昨日は特別楽しいことがあったのかい? 昨日の笑顔を、もっと見たいんだ!!」  
真剣な面持ちの桂馬の顔が眼前にある。美生は顔を上気させて、不意に彼の顔に拳を叩きこんだ。  
「お、お前はペテン師だ!! 私に協力するフリしてだましてたのね!!」  
彼女は痛めつけた拳をもう一方の手でさする。  
「お前が……お前が来てから…………パ……パパがどんどん小さくなっちゃうよう……」両手で頬を挟みながら、美生が虚ろな声を出す。「このままじゃ……パパが……パパが……本当に死んじゃう…………」  
「それでも!! ボクは君の心に住みたい!!」言葉尻を制するように桂馬が起き上がってくる。「ボクが嫌ならパーティーに参加すればいい!! どっちを選ぶんだ!! どっちなんだ!?」  
ずい、と桂馬が美生に身を寄せる。その表情は決して冗談を言っている風ではなく、彼は心の底から恥ずかしげもなく言っているのだ。  
静まった庭園にはダンスパーティーの会場から漏れてくる音楽しか音がなかった。いや、美生と桂馬の心臓の鼓動の音もたしかに、水面下でひっそりと高鳴っていた。  
美生は心の中で父を呼ぶ。桂馬の登場でどんどん薄れていってしまう父の面影が、にこりと微笑んだ気がした。  
二人の距離がゼロになると、桂馬が美生の腰を支え、手を引っ張った。それは甘美な夜会の始まりを告げる口づけであり、彼を受け入れたという確固たる証拠だった。  
 
桂木桂馬が青山美生の攻略に身を投じたのは、つい先日のことだった。彼は攻略に乗り気ではなかったが、そうしなければ自分の命が危ういということを知って仕方なく協力した。  
高原歩美はあれから、普段と何も変わらずに過ごしている。あんなことがあったのにも関わらず、歩美には一切の記憶がなくなっていた。  
桂馬はそれを心配していた。もちろん、責任というものを感じていないわけではなかったが、それ以上に、現実における倫理の問題として不安を抱えていた。  
駆け魂はキスだけでは飛び出さない――エルシィの当初の目論見は外れ、駆け魂の出るトリガーはついこの間判明した。  
つまるところ、女性として満たされること。  
キスは心の隙間を埋めるにはまだ足りず、彼女らは本当に揺るぎない関係を望んでいるのだろうか。  
セックスという行為は恋人以上の関係の証明ではあるし、身体も心もという言葉もあるほどだ。だが、人として許されるのか?  
桂馬は現実にうんざりしていた。ゲームでは何もかもが自由で、リアルのしがらみも感じずに済む。この現実において、リセットは許されざる現象だ。ゆえに、これは倫理的にどうなんだ?  
桂馬は今でも答えが出せないでいる。それでも、答えを出す前に駆け魂を出さなければ美生が危ないという。論より証拠。それが今の桂馬には求められているのかもしれない。  
過程より結果――駆け魂をまず出さないことには何も始まらないのだろうか。  
「ん……ちゅぷ」  
桂馬と美生の口づけはソフトなものからハードなものへと変わっていた。情熱的に互いを貪りあうさまは、本能によって突き進む獣を連想させる。  
二人の唇が離れても、熱のこもった視線は外れなかった。うっとりとした目つきをしている美生に、桂馬はぎこちない笑みでしか応対できない。  
「お嬢様……」  
「ちょ、ちょっとこっちに来なさいよ!!」  
我にかえったような怫然さに桂馬は呆気にとられながらも、手を引かれるままに木々が豊かに育っている場所まで移動する。ここは建物から影になっていて、月以外はだれも見ていないようなところだった。  
美生は木と対面してじっとしたまま動かない。桂馬は意地っ張りな彼女のことをこの数日で少なからず理解していた。彼は一瞬、迷うような素振りを見せつつも、彼女の肩をそっと抱いた。  
手に収まる肩は細く、痩せぎすだった。ともすればヒビが入ってしまうんじゃないかというくらいに、彼女は線が細く、身体が薄かった。  
桂馬は美生のうなじを撫で、ゆっくりと背中へと降ろしていく。  
「……ッ、ふ」  
ぴくん、と彼女が身を震わせた。桂馬は右手で背後を愉しませながら、左手でそっと彼女のなだらかな丘に触れた。草原を穏やかに吹き抜ける風のようなタッチで。  
「お……大きくなくて、悪かったわね!!」  
「誰もそんなこと言ってませんよ……」  
「う、うるさい!! だ……だって…………私、揉めるほど、ないから」  
美生の表情は桂馬にはうかがえない。けれど、駆け魂やそれにまつわる様々な感情を抜いても、今の彼女を可愛い、と彼は感じた。  
「いいえ、とても、可愛いですよ」  
彼は彼女の耳元で囁くと、胸元から手を入れ、直截に彼女の胸を撫でまわし始めた。  
「んぁッ……い、いきなりはやめて」  
言葉とは裏腹に、彼女は満更でもなさそうな艶ぽい声を漏らしている。桂馬は彼女の背中から腰、臀部へと手を自由に這わせる。彼女の身体の部位で、もっとも肉感に溢れているお尻を掴むと、一瞬、彼女の膝ががくんと下がった。  
「ここ、触ってもいいですか?」  
美生は耳元で聞こえる彼の声と、かかる熱い吐息にじくりと身体が熱くなってしまう。  
「そ、そんなこと……聞かないでよ」  
ぎゅっと下唇を噛みながら彼女は応える。  
桂馬はおもむろに、美生の耳を舌で舐めた。  
「うひゃあぁっ!?」  
予想以上の反応に虚を衝かれたが、彼は手を動かしながら舌も使い始めた。  
耳、うなじ、背中――彼の濡れた舌が彼女の身体を舐めていく。  
胸、鎖骨、腹部――彼の細い指が確かな軌跡を描いてそれらを通り過ぎていく。  
桂馬から与えられる刺激に、美生はすっかり身を任せてしまっていた。身体の奥底からずいずいと這いあがってくる熱っぽさに、ときおり痺れが身体を走っていく感覚に、次第に彼女は息を荒くしていった。  
「あっ――そ、そこダメッ!!」  
美生はされるがままで、強く握った拳が腰のあたりでぷるぷると震えている。彼女は彼にならば何をされても許せたが、身体は本能的に防衛しようとする。それがなんとももどかしかった。  
 
桂馬は高原歩美とは違った感慨を彼女に抱いていた。  
リアルの女なんて一様で、違いがあるなんてこうでもしなければ分からなかったかもしれない。歩美には歩美の、美生には美生の、彼女らにしかない魅力が確かに備わっている。  
この力の前に、男は抗うことなんてできるのだろうか。  
桂馬はお尻を撫でまわしていた手で彼女のドレスのスカートを掴むと、ほっそりとした脚があらわになるまで持ち上げた。  
「え、ちょ――お前、何してん」美生が行動を取る前に、彼は彼女のもっとも敏感な部分に手を伸ばしていた。「のッよ――――!?!?」  
彼女の脚の間に入れた手が、咄嗟に閉じられた太ももに挟まれる。これも防衛本能からくる脊髄反射だ。  
彼は指だけで、彼女の股間を刺激していく。  
「ん、ふあぁッ――お、お前、これ、ああ、頭が、壊れ…………ちゃいそうッ――――」  
美生は顎を上げたり下げたり、歯を食いしばったり吐息を吐き出したりしながら、様々な行動をとった。そのどれもが可愛らしくて、桂馬はついもっといじめてやろうと思ってしまう。  
「ッアああっ……んンッんっ!!」  
次第に彼女の下着が湿り気を帯びてくる。じんわりとした温かさが、彼女の恥部を伝って手にやってくる。  
「美生様のここ、すごく濡れていますよ」  
「そそ、そんなこと、ないっ!! ば、バカなこと言わないでッ――!!」  
美生は脚を広げて太ももを閉じようとする、奇妙な立ち方になっていた。脚を広げた方が踏ん張りは利くが、その分閉じるのも容易ではなくなる。内股気味に地面を踏む脚が、ぶるぶると動く。  
桂馬が執拗に彼女を責めていると、彼の股間を彼女が後ろ手に強く握った。  
「うっ――!!」  
「あ、あんただってこんなにしちゃってるじゃないの」  
いつもの気丈さを取り戻したのか、美生は冷めた笑みを漏らした。  
「発情してるわけ? こんなひらけた場所でなんて、信じらんない」  
彼女がにぎにぎと桂馬の屹立した一物を握ってくる。その指がもぞもぞと動くものだから、桂馬は妙な心地よさを覚えてしまう。  
「お、お嬢様こそ――」桂馬は下着を掻き分けてしとどに濡れた彼女に指を這わせる。「こんなに濡れているじゃないですか」  
「それはお前が、私をそうさせているからでしょ!? お前は何もされてないのに、発情してる!! 犬とおんなじよッ」  
二人は競い合うように互いの性器を刺激していった。彼女の手つきは単純で、揉むだけだったが桂馬には十分すぎる刺激だった。  
対する美生は、桂馬の指が与えてくる感覚に息も絶え絶えで、頭の中でバチバチとスパークしてるかのような状態だった。  
桂馬は彼女の膣をほぐし終えると、ゆっくりと指を潜り込ませていった。  
「えっ――あ!?」  
ぬるりと暖かい感触が指を包み込んだ。ざらざらとした感触と水の中に指を入れたような感覚に、指先から桂馬も興奮していた。  
後ろから膣を責めるのはなかなかに困難で、少し無様だった。桂馬は中指を折り曲げながら、強く自分の方へ引き寄せるという感じに性器をいじった。  
「ん、ちょ――あっ!? っッ!! ふぁああぁッ」  
美生は木に手をついて必死に身体を支えていた。膝はがくがくと揺れていて、ともすればしゃがみこんでしまいそうだった。  
桂馬は彼女の身体を持ち上げるように、手を上へ上へと押し上げた。そのたびに、彼女の口から淡い嬌声が漏れてくる。  
「あっアッあッ――――ダメダメダメエェッッ!! お、おかしくなっちゃうよぅ!!」  
美生が頭を振ると、ツインテールが遅れて鞭のようにしなる。彼女は木肌を引っ掻きながら、湧きあがってくる何かに必死に耐えていた。歯をかみしめて、脚で踏ん張っても、一瞬の刺激で全てが弛緩してしまう。  
桂馬がどんどん手の動きを激しくしてくると、美生の中で風船が膨れ上がっていくような感覚が湧きあがってきた。  
「あっ――ダメッ、も、もうやめ…………な、何か、来ちゃうッ」  
頭が真っ白になりそうだった。美生は言わなくてもいいことも口に出してしまうほどに、緩み切っていた。  
桂馬はヒートアップして、手の動きをさらに激しくする。びちゃびちゃと飛沫のはじける音も聞こえて来て、それがいっそう美生の羞恥心をあおって快楽を高めていった。  
 
「ダメええエェええっぇぇッ――――――!!!!」  
奥へ指を突き入れると、美生の身体がびくんとくの字に折れ曲がった。かと思うと、ぶるぶると全身をふるわせ始めた。  
 
「あああああああああああああああああああああああッッ………………!?!?!?」  
 
桂馬の手に液体が流れて来る。びくびくと身体を震わせながら、美生は何が起こったのかも分からずに目尻に涙を浮かべていた。  
普段、責めてばかりで責められなかった反動からか、美生は責められることに弱かった。受け入れがたい恥辱に身を染められた代償は、より大きな恥辱を味わうことだった。  
潮吹きがおさまると、桂馬はゆっくりと手を彼女の股から離した。彼の手は彼女の愛液に濡れて、月明かりにてらてらと光っていた。  
「はあっはあっはあっはあっ…………」  
美生は木に手をついて、笑う膝に鞭打ってなんとか立っているという、気息奄々の状態だった。頭が下がっていて、必然的にお尻を突き上げるような格好になっているが、彼女はそれどころではないようだ。  
桂馬は自らのスラックスのジッパーを下げると、隆々と天を向いた一物を外気に晒した。それを肩で息をしている美生に宛がうと、休む間もなくゆっくりと忍ばせていった。  
「ちょ――お前!? 何してん、の!!」  
美生はきっと肩越しにこちらを睨みつけていたが、その表情は嫌悪の表れではなく、これからやることへの不安だった。  
「大丈夫です。ボクにお任せを――」  
桂馬は美生の頬をそっと撫で、自らのモノを深く突き入れるために腰をじわじわと彼女に近づけていった。  
「うっ――――はあ…………」  
美生の膣は十分に滴っていて、まるで見えない糸に引っ張られるように桂馬は奥へと進んでいった。  
全てが入ると、美生は熱い吐息を漏らし、身体を震わせた。  
桂馬が腰を引いて打ちつけると、美生の身体が弓なりに反った。噛み殺した喘ぎ声が、夜闇に溶け込んでいく。  
月だけが見ている中で、二人は激しく交わっていた。  
美生は額をつけんばかりに木に手をついていて、桂馬は彼女の細い腰を掴んで大きく身体を振っている。彼女の髪がふぁさふぁさと揺れるたびに、二人は昂っていく。  
「っうああっ――は、発情してる犬なんかに…………」  
桂馬を貶めることで矜持を保とうとしているのか、彼女は罵詈雑言を彼に投げつける。  
「後でどうなるか、思い、知りなさいよッ――!! ッああンッぅうう、ひゃっぁ」  
彼女は涙目で桂馬を罵倒してくる。しかし、それが余計に彼の性欲を掻き立ててしまう。傲慢で高飛車なキャラクターは何人も見てきたが、それを手中に収めているというのは至高の快楽であった。  
桂馬は無我夢中で腰を打ちつける。ただ奥へ入れるために、今を生きているのかもしれない。  
現実が彼に与える快楽は、二次元が与えてくる感情のいずれよりも激しく、実感的だった。  
 
「や……っやめなさいよおぉッ」  
美生の言葉が尻すぼみになり、次第に喘ぎ声が漏れてくるようになった。それは甘い響きを伴っていて、まさに厭と頭を縦に振るという様相だった。  
青銀色のドレスが月光に輝き、美生の身体のラインを縁取っている。曲線美に長けた女性の体つきは、男を惑わせる色香としては申し分ない。  
「うぁっ、大きく……なって……る?」  
桂馬は限界が近づいていた。  
「美生様ッ――、もう、出そうですッ!!」  
桂馬が声を張ると、美生が身体をひねって手で彼を押しのけるようなしぐさを取った。  
「だ、ダメッ――!! 中はダメなのおぉッ……外に、外に出してッ!!」  
高原歩美を満たすためには中で出す以外の方法は考えられなかった。こういうところは、彼女らの考えに従う方がいいのかもしれない。  
桂馬は腰の動きを早めると、美生を突いて突いて突きまくった。美生はあられもなく乱れて、ひくひくと身体を痙攣させている。彼女は突かれて何度か絶頂を迎えているはずだった。  
「イ――イくッ…………!!」  
「んぁあああああっ!!」  
桂馬はペニスを引き抜くと、一物から白濁が勢いよくほとばしった。それは美生の尻から太ももを汚して、何度か精液が彼女を打った。  
吐き出された精液は尻から太ももへ、ふくらはぎへと垂れていった。すさまじい量で、彼女の脚はいまや精液まみれだった。  
「っはあ、はあ、はあ、はあ」  
美生はペニスを引き抜かれても、その余韻に浸っているように姿勢を変えなかった。桂馬が突いてもいないのに、彼女は身体を前後に揺すっている。まだ入れられていた感覚が抜けきっていないのだ。  
膣から垂れた愛液と、彼がかけた精液が途中で混ざり合って脚を濡らしていく。  
「…………お尻と脚が、何だか気持ち悪い………………」  
美生が身体をひねってこっちをジト目で見てくる。蔑んだような冷たい目だった。  
「……でも、何だかスッキリしたわ」  
顔を逸らしてから、美生がぽつりとそう漏らしたのを桂馬は聞き逃さなかった。  
彼はポケットからティッシュを取りだすと、垂れた液体を丹念にふき取っていった。  
「そ、そんなとこ拭かなくていいからッ!! バカ!! 変態!!」  
桂馬は彼女の膣も拭いていたのだ。  
二人は時にぶつかり、時に微笑みあいながら、月明かりの中でゆったりとした余韻に浸かっていた。  
 
 
こうして……二匹目の駆け魂も無事確保された。  
どうやら駆け魂は、行為の終わりと同時に彼女らから弾きだされるようだ。女性にとって、男性が自らの身体で果てるということこそが、満たされたということなのかも知れないが、一概には言えない。  
「神様のおかげで、もう二匹ー!!」  
「ボクは早くもギリギリだよ」  
主に精力的な面で、桂馬は疲弊していた。エルシィはそんなことお構いなしに、あくまでも朗らかだ。  
エルシィは昨日、二人の行為を見ていたのだろうか。それを確認するのは憚られたが、いずれは訊かねばならないことだと感じてもいた。口づけがスキマを埋めないことに、彼女は気付いているのかどうか。  
桂馬が行く末の不安に身をすくませていると、  
「ちょっと、そこの庶民!!」  
聞き覚えのある命令口調が聞こえてきた。  
「昼ごはんにオムそばパンを買いたいんだけど、このコインで足りるのか教えて」  
舞島学園高校の制服に身を包んだ、青山美生その人だった。彼女は掌をこちらに差し出して、訊ねてくる。  
「使ったことないから……どれがどれだかわからないのよ」  
彼女の――昨夜握っていた手には、315円分の硬貨が載っていた。桂馬はオムそばパンの値段を照合し、  
「オムそば2個は買えそうだぞ」  
「そう、ありがと」  
美生に応えたのだが、彼女はなんともない表情で言い捨てると、振り向きもせずに販売所へと歩いて行った。  
「小銭を認めてますよ」エルシィが呑気に美生をほめた。  
「性格はあんま変わってないな」  
桂馬は背中に視線を感じ振り向くと、美生がこちらをじーっと見つめていた。かと思うとさっと顔をそらして、駆けて行った。  
「あの娘の記憶がなくなって残念でしょ?」エルシィが桂馬をからかう。「かわいい娘でしたからねー」  
「別にっ」  
桂馬はぶっきら棒に、肯定とも否定ともつかない対応をした。いや、なぜかそうしてしまったというべきか。  
「ボクもお父さんも忘れた方がいい。これであの娘も自分自身の人生を歩けるさ」  
美生の、たしかに昨日触れていた背中を見つめながら、桂馬が穏やかな口調で言った。  
忘れた方がいい。けれど、ボクは忘れないことで責任を持とうと、決心した。記憶がなくなっても、たとえあの日の行為が悪魔の力でリセットされたとしても、行為に及んだことを忘れてはいけないと思った。  
「そうそう、次は私にも華やかな役くださいよ!!」  
エルシィが今日の陽気よりも陽気に振る舞う。  
「お前のキャラじゃスペック不足だな」  
そんな少女の態度に、桂馬は今日もひょうひょうとした態度を取るのだった。  
 
/To Be Continued  
 
 

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