桂木家、午後9時  
 
麻里は湯船に浸かりながら、思い悩んでいた。  
 
ここ暫く息子の様子がおかしいのだ。  
 
帰宅すれば家事を手伝い、食卓を囲みながらにこやかに語らい、夕食が美味しいと喜んでみたり、果ては喫茶店の仕事で疲れたでしょう、と、洗い物をしたり。  
 
最初は嬉しかったものだったが、片時も離さなかったゲーム機を持っている姿をここ数日見ていない。  
産まれたときからゲームをしていたようなあの子が、一体、どうしたのだろう?  
心配で心配で…  
 
コツコツと、浴室の曇りガラスを叩く音に、桂馬の声が続く。  
 
「お母様、お背中を流させてください」  
 
「ええ、いいわよー」  
 
つい喜びで反射的に答えてしまう。  
 
え…  
やだ、どうしましょう!?  
実の息子とはいえ、桂馬ももう高校生じゃない!  
 
その間にも、がらりと、浴室の扉が開く。  
 
麻里は、きゃっ!と、小さく悲鳴をあげてしまった  
 
ううん、いけないわ  
きっと桂馬はいい子になろうとしているのよ  
だから、息子をしっかりと受け入れてあげなくっちゃ!  
 
「ごめんなさいね、ママ、少しびっくりしちゃったの」  
 
「わた…ボクの方こそごめんなさい、お母様」  
 
眼鏡を外していたのと、湯煙に包まれていたのとで、桂馬の姿がぼんやりと浮かび、我が子ながらキレイね、と、思った。  
 
 
かっぽーん  
 
 
「おねがい、ね?」  
 
椅子に腰掛け、桂馬に背を向ける  
やだ、どうしてあたし、こんなにドキドキしているんだろう  
 
いくら可愛いとはいえ、息子よ、息子なのよ  
 
ましてや半分は最愛のあの人の…  
 
ほんとにずっとご無沙汰過ぎるわよ…  
 
…取材の数だけ女を作ってくるアイツより、いっそ桂馬の方が…  
 
そんなことを考えていると、彼女の背に柔らかい手とタオルの感触がした  
 
「ひゃん!」  
 
思わず、声を漏らしてしまった  
 
「お、お母様!?」  
 
ドギマギとした声で桂馬が尋ねた  
 
やだっ、あたしったら、はしたない声を  
桂馬に、息子に、知られたらいけないわ  
 
「な、なんでもないのよう、き、きにしないでね」  
ぎこちない声で答える  
 
「そ、そうですか」  
 
「そうよ、そうそう!」  
 
まさか息子に触れられて感じてしまったなんて、知られるわけにはいかない  
 
桂馬の手が、触れる度に、全身に快感が走る  
 
それを、母だから、息子だからと、必死に堪える  
 
喘ぎ声になりそうな息をのみ、悟られないように、悟られないようにと、小さく漏らす  
 
だが、桂馬の手が、彼女の肌の繊細な部分に、優しく触れる度に、愛撫に似たそれに、やがて耐えることも叶わなくなっていく  
 
湯船のせいだけではない身体の火照りを、息子には、桂馬だけには、知られてはいけない  
 
いつ果てるともしれない愛撫に、やがて、耐えきれなくなる頃、漸く、彼から終わりを告げられる。  
 
「お母様、気持ちよかったですか?」  
 
あたしがこんなになっちゃうなんて、やっぱり桂馬はあの人の息子なのね  
 
「もう、最高よ…」  
 
思わずはしたない台詞をつぶやいてしまった  
 
やだ、もう…  
このまま息子に抱かれてしまったら、って考えていた事が知れたら…  
 
「嬉しいです!お母様!わた…ボク、お母様に喜んでいただけて!」  
 
息子の純真な喜びの声に、淫猥な妄想は消え、恥じらいが残った  
 
「あ、ありがと」  
花も恥じらう少女の様で、精一杯、答えた  
 
 
そうして麻里は桂馬に背中を流してもらったあと、湯船に浸かりながら、  
こんなのもわるくないわねと、思わず微笑んだ  
 
それにしても本当に綺麗な我が子は、なぜ下半身だけではなく、全身にバスタオルを巻いていたのだろう  
 

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