気分が悪い・・・
ボクの、正確には結の心の隙間の駆け魂が、ボクつまり結の身体を苛んでいる。
駆け魂に憑かれるという事は、こういうことなのかと、身を持って知った。
でも、今のボクにワタシにできることは、ただ待つこと。それがヒロインの宿命なのだから。
くれよんの空の気持ちが、今ならわかる。
もはや身体を動かすのも辛くなった私は、布団のなかに伏せるのも辛い。
ただ、誰かがこの牢獄から救い出してくれるのを待つだけ、なのだ。
五位堂家の屋敷に警報が鳴る。警備の黒服のやつらが大声を上げるのが聞こえる。
まったく、無能な奴らだ。
ともあれ、いいぞ、ボク。
計画通りにストーリーを進めているじゃないか。
条件はクリアーだ。
ああ、早く、ボクを助けに来て。
がら、と、月明かりさす障子が強引に開けられた。
月を背に、美しい男性のシルエットがボクの部屋に現れた。
「助けに来ました」
彼は息を切らせながら、結はボクのために五位堂の屋敷に侵入してきたのだ。
本当に・・・本当だ・・・
うれしさから涙が頬を伝うのを避けて、
ボクは僕自身に「ようこそ、私の王子様」と、ボクを迎えた。
今のボクは五位堂結と入れ替わっている。
彼女は、母親のくびきから解き放たれ、そして、ボクがどうなろうと、護ってみせると言った。
そうして、ボクはボクに、その命に代えても、僕を護ると誓った。
だから、安心して、と。
ボクの美しく、純粋な瞳。どこまでも深い瞳。
ボクの身体は、ボクの部屋まで駆け上がってきたことを現すように、頬が紅潮している。
可愛いな、と、思った。
いとしいな、と、おもった。
そして、ボクはボクに満面の笑みで幸せになってほしいと伝えてきた。
その美しくも優しい笑顔にボクは惹きつけられた・
ありがとう、
そういって僕はボクにキスをした。
心が満たされる気がした。
ボクの唇が迫ってくる瞬間、ああ、ボクはこの人に満たされていくんだと思った。
瞬間、ボクと結が入れ替わり、予想だにしない規模の駆け魂が結の身体から逃げ出した。
その後、結の駆け魂は、ちょっとしたトラブルもあったが、何者かによって拘留された。
久しぶりにエルシィが無理をしたのが少しだけ心配だったが、多分大丈夫だろう。
唯一ボクが鏡の中のボクを見るのが困難になったことを除いて。
柔らかい唇と、優しくも男性的な体つきに暫く悩まされることになったのだ。